113話 撮影会ナウ 挿絵あり
会談を終えて数日。日々大会の運営方針や賭けの仕方をメンバーと話し合っている。今回の出場者は有名ではあるがオッズと言うモノが付けづらい。そもそも初めての大会で且つ、誰がどう有利と言うのもまた分からない。そこに勝手にオッズを付ければ変な偏見が生まれそうだし、予測が外れて批判を貰うのもまた元締めであるギルド。そうなってくると、個人に決めてもらう他ないが、そこまでフラットな賭けと言うものは知らない。そもそもパチンコや競馬もしないので、知識としては持っているがいざそれをやれと言われても賭け方さえ知らない。
そんな中で上がったのがルーレットの赤黒方式。勝てば2倍とシンプルに分かりやすく払い戻しも混乱は少ない。正し還元率は90%として例えば1万円分の券を買って勝った場合の配当金は1万と9千円となる。流石に資金集めしているのに還元率を定めないとコチラが大損する可能性があるのだよ・・・。因みに、この還元率はパチンコ以上、オンラインカジノ未満らしい。まぁ、やらないので知らんけど。
他には物販で出せるようになったメンバーの糸を売ったり、モンスターの素材の販売も行う。寧ろ、モンスター素材販売は大々的に行う。これは今まで個人で売買する際に指標がなく分かりづらかった値段をギルド側である程度決めてしまおうと言う試みである。一応、松田から売買履歴は貰ったのでその中の中間額を設定してあるので、大きな問題はでないと思う。素材取り放題とは言わないが、中位が手分けして販売用素材を確保しにゲートを走り回っているので、大会までにはそれなりの数を揃える事が出来るだろう。
かく言う俺もその方面のイメージを膨らませて剥ぎ取り頑張ってるよ？隙間というか、継ぎ目っぽい所から無理やり煙流し込んで内部爆破とか、内部圧縮とか。まぁ、剥ぎ取り率は微妙だが0ではないので良しとする。良しとするが、それ以上に頭の痛い話が2点。これはギルド云々ではなく個人として・・・。
1点目がアニメ応援メッセージがコンビニで流れ出した事・・・。渡したボイスをどう使うかは企業に任せたが、まさかコンビニで流し出すとは思わなかった。タバコ買いに行ってまさか店内放送で自分の声を聞くとかね・・・。放送終了まで多分流しっぱなしなんだろうなぁ。その事で妻から爆笑されたが、やってしまったものは仕方ない。仕方ないが、はよ放送終われと秘めやかに思う。
そして、2点目が現状ナウ。胃が痛い。ないはずの胃に穴が空いたんじゃないか？いや、貫通して胃酸が流れ出てるんじゃないかと言うくらい痛い。知っている、幻肢痛である。着せ替え人形は了承したが、なら事前に衣装チェックしないとね？何ならその服を着ている写真取ろうね？着せたがった人に見せないといけないからね？枚数が溜まったら売ろうね・・・、えっ？衣装合わせをしている時に唐突に言われた一言、資金集めの為に売ろうね？逃げ出そうとした、中位が総掛かりで捕まえに来た・・・、諦めた。本気で逃げれば逃げられない事はない。しかし、どいつもこいつも上司から手渡されたと言う衣装を持って走ってきやがる。
しかしその上司から手渡された服、娘が夜なべして作った服なんだぜ・・・。奇しくも今年は服を贈るという話は、一着どころか数十着単位で女性の服から下着から送ってくる。と、言うわけで着せ替え人形になる結果となった。そして、今がその撮影会真っ最中。流石にきわどい服はないが、メイドにチャイナに割烹着に着ぐるみパジャマ。頭のおかしい奴はベビー服っぽいのまであった・・・。誰得だよ！腹が立ったので、どこから見ても視線が合う様に魔女にしてもらって、ほんのりと惹き付ける者を活用してやった。多分、扱い方としては間違っているが反省はしていない。
「お疲れ様ですコレどうぞ。この前の報酬の領収書です。」
「ありがとうございます。って、え！こんな額！？」
寒さで着膨れする中、加納から大使館で会談した際の報酬が記載された紙をもらったが、べらぼうに0が付いてらっしゃる。0を数えて2億ドル。ご丁寧にメッセージカードには。
『今回とても有意義な時間をありがとう。代価にしては少ない額だが許して欲しい。また君の愛らしい姿が見れる事を祈っている。』
と、記載されている。不死の薬よりも更に1億ドル高い日給ってどうなの？金銭感覚が崩壊しそうだが、何度0を数えても桁は変わらず領収書と言う事は既に振込済み。円換算で貰っていないので、当然米国ドルだし端金ではないと言われたがこんな額とは想定外。ギルド運営資金に回すのはいいとして、こんな額が来るならもう少しこう・・・、なにかサービスした方が良かったかな？
しかし、再度会談をするとすれば要らぬ腹を探られるし、そもそも政治家でも何でもない一般人・・・、そろそろ一般人？が付きそうだが芸能人ではないので、クラスチェンジするなら有名人とか？それはいいとして、流石にこの額は盛り過ぎだろう。返す気はないが、何かしらの返礼でもしないと済まされない額ではある。しかし、何を返せばいいやら・・・。
「難しい顔をしてますけどどうかしました？次の衣装は・・・。」
「カオリ〜、2億ドルの返礼って何がいいと思う？煮干しとか？」
「何で煮干しかは知りませんが、テンパってるのは分かりました。率直にエマに聞いたらどうです？大使館で会談した報酬なんでしょう？」
「そうなんだけどね・・・、よし、素直に聞こう。」
流石にありがとうの一言ではこの額には見合わないだろう。しかし、2億ドルの品なんて出せる訳がない。そもそも、資金集めしているのに返礼品が倍以上かかっても仕方ない。ならば、何かしらのサプライズとかでお礼の気持ちを伝えた方が分かりやすい？エマはさっきまでレフ板を持っていたが、今は端の方で休憩している。男子禁制はいいのだが、女性陣がそのまま着せ替えるのはやめて欲しい。遥も見てないで助けろよ、そんな所は妻に似なくてよろしい。
「エマ、大使館での報酬なんだけど・・・。」
「厶、足りなかったカ？相応の額はあると思っていたガ。足りないなら催促しよウ。」
「逆です、逆。額が多すぎてびっくりしてるんです。」
「フむ、額としてはどちらかと言えば少ないかもしれないと報告を聞いていル。」
いや、そんなに貰うほど何もしてないし。何ならいい飯食わせてもらった。何だか申し訳ない気持ちしかないのだが・・・。
「そんなに価値のある話でしたか？あの程度の話ならエマでも出来るでしょう。内容的には講習会の話をなぞる様な形でしたし。」
「主観と客観という問題があル。私はあくまで生徒であり、クロエは教師。ならバ、最終的な審査はクロエがするしか無いだろウ。それニ、当初は0が1つ少なかっタ。」
「それが何でまた0が増えたんですか？まぁ、それでも大金ですけど。」
「魔法ダ。クロエの気まぐれでしか貰えないアレを土産として出されたなラ、相応の額を出さなければならなイ。内容は無害なものだガ、そこから学べるものもあル。」
「つまりは土産代ないし技術料であると？」
「そう捉えてもらって構わないイ。魔法に価額がつけられない以上、話し合った末にコレなら問題無いだろう額を提示したと聞いていル。」
画面越しにタバコふかして2億ドル。価値を聞かれても一服の煙の妥当な額など知らない。仕方ない、コチラで出せるのは次の会談を断らないくらいだろう。アライルは中々のタヌキだが、それを差し引いても会談していいくらいは貰ったしね。
「次、会談要請があれば応じましょう。これは今回の誠意に対する代価だと思って下さい。少なくとも、私は額に大いに満足しているとしたね。」
「分かっタ。定時報告でもそう伝えよウ。それト、この聖典は国外販売するのカ？」
「何を持って宗教とするかは別としますが、写真集は聖典ではありません。これはあくまで現地で売るもの。量産もしなければ通販する気もありません。」
「まテ！それでは暴動が起きて、プレミアが付けば一般人では買えない値段になるではないカ！」
「エマ・・・、貴女は何を目指してどこに行こうと言うのだね？」
「保存用、観賞用、布教・・・、は、しなくていいから実用用の3冊は確保する予定だガ？日本人はこうしてモノを大事にするのだろウ？」
物は大事にするがそれはそれは多分一般的な日本人ではない。今は推し活とかあるから一概には言えないが、少なくとも俺は1つあれば事足りる。前々から思っていたが、エマに日本語を・・・、日本人について教えた人物は何を思ってオタク知識を詰め込んだのだろう？確かに服や美容の話よりはそちらの話の方が取っつきやすくはあるが、些かオタク知識と日本人の知識を混同しているような・・・。
別に日本人全てがハイテクに強い訳でもなければ、同じアニメを見る訳でもない。オープンよりはクローズドした世界だからこそ楽しめる事もまたある訳で・・・。
「とりあえず講習会メンバーで欲しい人には渡しますが、間違っても見せびらかして回らないように。今回の写真も勢い余って少し魔法が入っているんですからね。」
「な二！どんな魔法だ？」
「簡単な視線誘導ですよ。モナ・リザは知っているでしょう？あれと同じ、どこから見ても目が合うような、そんな魔法です。」
「成る程・・・、ならバ、写真集を見れば何時でもクロエに見ていて貰えるト？」
なんというか、そんなに承認欲求が強いのだろうか？たまに見ていて欲しいと言われるが、この姿でも父性的なモノがあるのだろうか？まぁ、見守るくらいなら別にいいのだが。見ているからと、何か起こるのだろうか？
じ〜・・・。
「・・・、ありがとウ。」
「いや、見てるだけですけど？」
「不思議なものだガ、そノ、物凄く安心すル。こウ・・・、そウ！幼子が母親の眼差しを受けて安心するような感覚ダ。こっちを見てもらえた嬉しさがあリ、視線を外されるト、他の子を見ていて自分を見てもらえないと言う寂しさがあル・・・。」
父性ではなく母性かぁ・・・、少女にそれを求めるのも倒錯しているような気がするが、魔女がもしかすればそれに該当する？いや、賢者のも師として導く役割があるはずだから賢者の方？ん〜、賢者は悪ガキなので母性を求めるなら多分、魔女だろうけど・・・、該当するなら黒い聖母、マグダラのマリアか。俺は真っ白けっけになってしまったが、マグダラのマリアは黒い肌のマリア像やステンドグラスとして残っている・・・。そして、魔女だ。一時期黒い聖母は魔女として確かに認定を受けている・・・。
この仮説が正しいのなら、確かに彼女は鍋は掻き混ぜてくれないし、それよりもやることがあるだろう。しかし、職に自我ができたからと言ってそこまでの事を自身に重ねられるのか？疑問は湧くが多分、答えてはくれないだろう。
