閑話 エマの活動報告@4 30
病み上がり?で遅れました。
公文書・・・、いや、文書?文章?どうでもいい、言葉の羅列の目的は誰かに何かを伝える事だ。黙々と作ったレポートを許可を得て大使館持ち込み。職員に読んでもらって訂正や聞き取りをされる。軍事行動に対する報告書ならここまで頭を痛める事もないが、内容やその後の取り扱いがかなり、否、相当に国を左右しかねないので、書いた私も大使館職員のジャクソンもテレビ電話で話すアライル局長やウィルソンも頭を抱える。
まぁ、残ると言い出したのは私なのだ。粛々と報告してこの場から逃げ出したいが、流石に全て日本語で書いたのは不味かったか・・・。英訳する時に感覚的な違いが出るとして話し込んでいる。書いた私が言うのも何だが、やはり日本語は難解過ぎる。
画面越しのウィルソンは通信現場が大使館だと知ると、あからさまに落胆していたが早々クロエと話せるとは思わない方がいい。彼のベットしたラックは当たりを引きクロエと話す事が出来た。しかし、それに味をしめたのか通信のたびに妙に小綺麗なあいつとデスクが映るの何とも言い難い。そこまでクロエに入れ込んでいるのか?まぁ、彼女は綺麗で人を惹き付けるので仕方ないと言えば仕方ない。
「エマ少佐、この言葉とはワードの意味でいいんですか?それともロゴスですか?」
「あ〜、何が違う?」
「エマ、君は聖書を読まんのか?はじめに言葉ありは聖書に書いてある。しかし、本来はエン・アルケー・エーン・ホ・ロゴス。アルケーは万物の始原や宇宙の根源。そして、ロゴスだ。日本では言葉と訳されているが、本来の意味なら真実、真理、論理等々様々な意味がある。無論、言葉も含まれているが・・・。」
「少佐。この言葉をファーストが言った、と言う事に意味があるんです。彼女は日本人とされていますが、外見だけを言うなら日本人ではない。」
ウィルソンもジャクソンも煩い。始まりの一文で躓くとは思わなかったが、その躓いた一文で私が米国人であるかも怪しくなってきた。まさか、聖書を読めと言われるとは・・・。いや、しかし、クロエは日本人と本人からも聞いている。なら、そのステレオタイプな日本人でいいのではないか?
「わ、ワードでいいと思うぞ?うん、それでいいはずだ。」
2人の視線が痛い。しかし、日本人だから日本に住んでいるのであって、これが米国人ならアメリカに住むし、イギリス人ならイギリスに住む。そりゃあ、国を出る人もいるが英語が話せないから海外に行きたくないというのは、実に日本人的発想ではないか?多国籍国家の人間なら、その辺りは余り気にしないはずだ。
「少佐、本人がいない以上推測でモノを言ってはいけません。仮にこれがロゴスだった場合、内容がかなり変わってしまう。」
「それは分かる、分かるが日本人からロゴスという言葉は出るものなのか?」
「エマ、彼女は知的か馬鹿かどっちだ?」
「間違いなく知的で理性的だ。」
「少佐・・・、日本人という人種を甘く見すぎです。少佐が彼女を知的と断言するなら、ロゴスの可能性は捨てられない・・・。中二病と言うものをご存知ですか?」
聞き慣れない病だ。いや、アニメではそれでも恋がしたいと眼帯をした少女が奮闘するものがあった。あの少女の病の症状は遂に分からなかったが、包帯や眼帯が必要な病なのだろう。難解な言い回しをする時もあったが、内容的には恋愛モノで間違いなかったと記憶している。
「アニメで見た。どんなモノかは分からなかったが、外傷の出る病なのだろう?主人公と恋愛する作品だったと記憶している。作中完治したように見えたが、最終的に再発していたような・・・。」
「ウィルソンさん?少佐がポンコツ美女になったのはなんでですか?」
「日本はアニメと漫画の国だろ?なら、知っておけば役に立つ。本来の任務は中位に至り、その後本国に帰還して教導訓練の指揮を取る予定だった。」
ポンコツとはアニメで使われていたが残念とか、失敗しやすいとかだったか?まてまて、私は何も失敗していないし実績も出している。それなのに何故ポンコツと言われている?なにか大本を知らないところで間違った?
「えっ?えっ?」
「ほら、あざとさも出てきました。ファーストといるなら中二病に感染してるんじゃないですか?あの言い回しは発症を疑う。」
「いや、まさか!」
感染した?いや、その前にクロエが感染している?いやいや、その前だ。ロゴスと中二病は関係があるのだろうか?知的という話から中二病という病になったが・・・。
「回復薬で治らない病なのか?」
「ん〜、患うと長い病ですからね。恨むならファーストさんかウィルソンさんを恨んで下さい。いつもあの言い回しなのでしょう?」
その2人に共通点は無いはずだが?と、言うかウィルソンに感染させられたのか?感染というからにはウイルス性の病で、更に拡大する恐れがある?身体に異常は感じないが、患うと長いと言う事は毒性は高くなく慢性的なもの?
「ウィルソン貴様私に何をした!?」
「アニメマラソンと日本語缶詰はさせたな。ラノベまで行かなかったのが心残りだ。多少は読ませたが、時間がな。」
「末期か重度ですね。ご愁傷様です。」
残念そうに2人共目を覆い首を振る。一体何だというのだ!?私は一体何に感染している?このままホテルに戻って大丈夫なのか?いや、感染拡大を危惧するなら大使館に駐留した方がいい?しかし、クロエと離れたくはないのだが・・・。
「な、なにか対策は!?どうすれば治る!?」
「まずはテストしましょうか。続く言葉をいって下さい。まずは、アムロ!」
「行きまーす。」
「ハレ晴レ。」
「ユカイ。」
「シスター。」
「プリンセス。」
「衝撃の。」
「ファーストブリット」
「ザザの。」
「仮面舞踏会。」
「お願い。」
「ティーチャー。」
「とんで。」
「ぶーりん。」
「最後です。邪王炎殺黒。」
「黒龍波。・・・、なんのテストなんだこれは?一般常識だろう?クロエも私の胃袋は宇宙ですと言っているし。服よりは食やアニメの話の方が話が合う時がある。」
訳の分からんテストだ。日本人なら全部簡単に答えられる質問ではないか。中二病とは日本人侵食度とかか?分からん、コレの何が病に通じるのだ?
「末期ですね。ライトなものからディープなのもまで質問しましたが、全問正解です。特に最初のアムロは難題でレイと答える事も出来ました。しかし、言葉のニュアンスで発進時のセリフとした所は高評価です。そして、ウィルソンさんいい作品をチョイスしていますね。」
「ファーストが20歳を過ぎているなら、その辺りを見ていたであろうと思考トレースの一環でチョイスした。多少古いものもあるが、大体80年代〜2000年代初頭までは網羅した。」
ドヤ顔のウィルソンと何故か満足そうなジャクソン。2人は元々知り合いなのだろうか?年は結構離れていると思うが・・・。いや、それよりも病だ。回復薬も効果がないとなると精神的なもの?確かに、恋知らぬ私がその・・・、彼女を好ましく思っている事は確かだ。その心の動きを病だと言われると悲しくなる。
「中二病とは精神病であると?」
「あ〜、頭の中でアニメのセリフがリフレインしたり、ふとした拍子にアニメのセリフが出たりする事は?」
「多々ある。寧ろ今は落ち着いたがその状態だ。」
メンバー外の自衛官もアニメの話をしていたし、コンビニに行けば所せましとアニメのコラボ商品や漫画雑誌が置いてある。なら、多分日本人はこれが普通なのだろう。
「中二病とは14歳頃に包帯巻きたくなったり眼帯したくなったり、他とは違うことをしたくなる病です。」
「待て待て!私はもうすぐ40だぞ!その歳はとうの昔に過ぎているし、包帯も眼帯もしたくない。そんなハシカみたいな病に罹った覚えもない。バカにしているのか?」
「エマ・・・、今の回答は早々できるものじゃない。それと、中二病は甘く見ない方がいい。仮にファーストがかかっているなら、公文書を書くのは更に難しくなる。最初に戻るがロゴスを知っているか否か。日本の英語教育は話すよりは文章作成や文法について学ぶ方に比重が置いてある。なら、聖書の原文を読んでその上で日本語で言葉と言い表した可能性がある。中二病とは、かかれば最後本人が興味を示したものに際限なく突き進む学者病の様なモノだ。」
「・・・、本人に確認を取らないと、それすらも判定できないと?」
「少佐、推論で話すと・・・。」
「2回目はいい!更に本人に内容を尋ねて英訳する他無いのだな・・・。」
「ええ、日本人の識字率と教育水準は高い。その上でこの国で知識を得ようと思えば、それこそ本にしてもネットにしてもあらゆるモノが揃う。つまり、ファースト氏が知的ならその知識量はコチラの予想をはるかに超えている可能性がある。」
嬉しい事実ではある。クロエと2人で面と向かって文章作成ならそれはそれで楽しそうだ。しかし、結局中二病とはなんなのだろう?後でスマホで調べるとしよう。スパスパタバコを吸うのでヤニ臭さはあるが、キセルだったか。あちらの方はいい香りもするので気にはならないし。
「本当はファースト氏本人を呼んでここであれこれ質問する方がいいのですが、来てはもらえませんよね?」
「それは・・・、本人次第だしそもそも、日本政府がそれを許すかどうか分からない。」
クロエ本人は外人が嫌いというよりは、言葉が通じない者が嫌いと言う方がしっくり来る。私とクロエの身長差は35cm程度あるが、それに対しての物怖じというものはない。ちゃんとモノは言うし、違うなら違うと言う。繊細そうで守ってあげたく成るような見た目とは裏腹に割と図太い。まぁ、彼女が大使館に行くと言えば誰も止めないような気はするが・・・。
「本人の意志はそもそもどうなのだ?仲良くしているとは聞くが。」
「毎晩一緒に飲むし軽口も叩く。バイクでゲート内を走る事もあれば、風呂にも一緒に入る。至ったがゲート内外問わず一緒にいる事が多いな。・・・、夫婦か?」
「お前が結婚できるか!ファーストの夫は俺だ!」
「それに参戦できるなら私も!」
「あ〜、うん。君達。もう少し真面目に仕事したまえ。この通話は録音こそされていないが、国の未来を左右する重要なものだよ?」
アライル局長がたまらず苦言を呈す。しかし、皆目は真剣だ。俺の嫁、なるほどこういった感覚かあのスラングは。クロエは私の嫁。うんうん。いい響きではない。・・・、やめよう。彼女は既婚者だ。
「すまない局長。少し脱線したようだ。友人として話してみよう。私がいる場かつ、複数人でいいなら答えてくれるかもしれない。」
「それは素晴らしい、期待しているよ。なにせ友人という言葉を出すくらいだ。それ相応の関係があり、それ相応の信頼があり、そして期間延長を我々が骨を折って同盟国に頭を下げて申し出たんだ。当然、仕事はしてくれるね?日付の設定は任せるよ?」
情報局局長・・・、食えない人物だ。ほぼ面識はないが、軍関係で名が上がれば嫌な顔をされる人物。穏やかで口が上手く、しかし必要な情報は常にどこからともなくと収集する人物。今回のバカ話も私の一言を、友人という言葉を引き出す為だけに策を弄したと言われれば、非常に嫌だが術中にはまった感じがして嫌だ。しかし。
「確約はできません。友人なら断られる事も当然でしょう?そもそも彼女は外国人が苦手ではありませんか?」
「ふむ、一理あるね。だが、ウィルソンは邂逅したと聞いているよ?君がお願いした結果だと聞いているけど?」
「いえ、あくまで彼はラックをベットして勝ったんです。私はあくまで米国のおっさんが話したがってるとしかいっていませんし内容も雑談です。仕事とプライベートは別でしょう?」
「成る程、確かに別だ。なら、プライベートの彼女になら会って話が出来るのかな?」
気持ちは分からないでもないが、嫌に食い下がってくる。情報局局長ともあれば、話すだけでも多くの情報を誘導するなり搾り取るなり、通信越しの言葉だけでも出来ると言う自身があるのか・・・。伊達に局長は名乗っていないな。
「本物が見たいんだよ・・・、日本語を勉強して日本の掲示板をROMって眺めながら笑顔の画像や私服の画像は収集してるけど、うん。やっぱり本物だよね?」
「局長!?お気を確かに!」
「ウィルソン君、私は正気だよ。あくまで対象の私生活や行動範囲をリサーチしているのであって、ネットストーカーではないからね?」
画面越しにウィルソンが局長と叫んでいるが、うん?何か目的が変わってきているような・・・。ま、まぁ、情報を集めて精査して対象の動向を探るためと言われれば納得できるし、そもそもそれが仕事なのだから仕方ない・・・、のか?
「掛け合うだけ掛け合いましょう。ただ、場所や日時はクロエに任せるとして、何かしらの見返りは必要ではないですか?」
「やっぱり大使館には来てもらえませんか・・・。」
ジャクソンが落胆しているが、今このタイミングならそれ相応の額を払えば多分応じてくれる。しかし、その額は決して安い額ではない。なにせ、集めようとしているのは彼女の組織の運転資金。放映権を売ってまで金を集めようとしているのだから本気度もうかがえる。
「今この時期だけなら彼女はお金で動いてくれます。ただし、端金ではなくそれ相応の額ですが。」
「詳しく話を聞こう。」
「私が延長を持ち出した理由のスィーパーの本部長選出戦。コレの放映権を彼女は売る気でいます。それだけではなく、賭けも行う予定であるとしています。」
「なに!それは海外でも買えるのか!?」
「待ちたまえ、話には先があるのだろう?我々は放映権も欲しいが、私自身はその大元の理由が知りたい。」
「ええ、理由は本部稼働後の資金集め。言ってしまえば純粋な金儲けが目的の販売計画です。と、すれば。」
「相応の納得する額なら、ある程度の要請は受けてもらえる目があると。ふむ、金額の算出は我々がしよう。君はソレを彼女に伝えて納得して連れて来てもらえるね?」
優しげな顔で底冷えのする瞳が私を見る。その色は失敗は許さないとしている。しかし、それをやれば私への評価は間違いなく上がるだろう。そして、その評価が上がれば日本へ戻る口実もまた私の元へ回ってくる。
「臨時職員。その目は私にありますか?」
「帰国後、ある程度の教導終了した後なら。」
「分かりました、取引成立としましょう。では後日。」
「あぁ、色よい返事を待っているよ。エマ=ウィルソンまだ少佐。」




