106話 話し合いと言うなの雑談 挿絵あり
遅刻です
見舞金は支払う方向で動き、少しでも残された人達の糧になってくれればいい。一矢報いると思っていたが、どこか心の中で見舞金が少ないのでは?と、考えていた部分が多少解消された。本当に見合った金額かどうかは分からないし、本人を帰せない以上金額の問題でもない。しかし、残された者も生きなければならない以上は少しでも足しになればいいと思う。
「さて、話を再開しましょう。衣装チェンジしながらの実況は・・・、まぁ、受け入れましょう。コチラとしても賭け事をするつもりでいるんで、ある程度の選手説明はする予定です。」
括りとしては競馬や競艇の様に、あくまで投票権を買う仕組みでするので賭博には当たらないはず。逆にこれで法に引っ掛かるなら、他のギャンブルも全部しょっぴいて貰わないと割に合わない。まぁ、何度も大会を開く気はないし、開きたいなら誰か他の人が勝手に開けばいい。今回はあくまで運転資金調達を行う為にやるのだから。
「公営ギャンブルの名目でその件は通しましょう。運転資金調達ならその名目で通せます。定期開催はお考えで?」
「いえ、あくまで本部長を選ぶのが目的なので今の所は、定期開催は考えてないですね。まぁ、後は所属するスィーパーとギルド始動後の資金の動きによるとしか・・・。そう言えば、ある程度の買い取り指標はありませんか?これまで政府や警察等が買い取った物品の名前と金額が分かれば指標にしやすい。」
ある程度指標があればいいが、0から価格設定をしていくのはかなり骨が折れる。一度その値段を出すと後から改定するのも大変だし、余り高い値段を付け過ぎてもお金がいくらあっても足りない。流石に商いの経験はないので、決めてくれと言われても困る。
「自衛隊側ではないな。一応、出た出土品のチェックは警察と共同で行っているが、殆どは鑑定の為に警視庁に送っていた。有用なモノは装備庁で弄くり回したりもしてる。」
「無い事もないが買い取り実績が欲しいなら政府側だな。実質金銭を払うのは政府なんで、うちではその品の危険性に重点を置いてランク分けしながら仕分けをしていた。法改正で特定ランクより下は売買可能になったんで最近は早く返せと煩い。」
「政府側としては保留案件が多数あります・・・。あからさまに危ないものは買上げとしていますが、武器にしろ薬にしろ様々なモノがありすぎてランク分けされてはいますが、本当に返品していいのかと言うのは悩みの種です。」
4人で顔を見合わせて溜息。これが誰かの作品ならその人に値段を付けてもらえばいいのだが、そうじゃないからややこしい。取り上げることはしたくないし、そんな事すれば入る人間が減る。本人に決めてもらうとボラれる可能性もあるし、安くし過ぎても売ってくれない。さてどうしたものか。
「政府としてはせっ・・・。」
「接収なんて馬鹿な事言わないでくださいよ?先に言いますが、官民一体の話をした時にそれはしない方針としています。」
松田の言葉を遮って口を開く。鵜飼の鵜じゃないんだから、首輪付けて取ってこいじゃないんだよ。儲けもないのに命は賭けないし、賭けて得た品を出たら取り上げるでは絶対に暴動が起こる。
「政府としてはまだ、危険を考えてその意見を推す人もいると理解して下さい。まぁ、かなりの少数派ではあります。」
「嫌な少数派ですね。多数派にならない事を祈ります。しかし、現状手詰まり感は否めませんね・・・。仮に秋葉原で出た品で1番ヤバい品に値を付けるとしたらどれくらいだと思いますか?」
松田は知っているだろう。ブラックホールエンジンの丁寧な丁寧な作成方法の設計図の事を。後の2人は微妙だな。黒岩は公安絡みで耳にしているかも知れないし、全く耳にしていないかもしれない。逆に大井は多分知らない。災害復興はするにしても、流出品の情報はあの時点では、そこまで広がっていなかったと思う。
「どんなモノか想像しか出来ないが、国家予算分とかか?国連が騒いで価格なんてつけようがない。」
「無理やり付けるなら国家予算分とかが妥当・・・、なのか?いや、そもそも作れないなら宝の持ち腐れ?」
2人が首を傾げて思案する。確かにまだ宝の持ち腐れではあるんだよな。詳細は知らないけど時間とやる気さえあれば多分作れる。既にスイス郊外には大型ハドロン衝突型加速機は設置してあるし、その実験でマイクロブラックホールの事には言及されている。だらかまだ宝の持ち腐れ。原理が同じか全く違うかどうかは知らないけど、パスカル先生も言うように人間は考える葦である。つまり、解答用紙があればそれから逆算して考える事も、無駄を省こうと考える事も何なら更に良いものを作る事も出来る。
だからこそ、内容のヤバい設計図の類いは面倒で松田と言うか、政府も先に行って祭壇で交渉して設計図を無くしてほしいのだ。まぁ、そこまでヤバくないものなら大丈夫だとは思う。斎藤に渡した設計図とか、千代田に任せた設計図とか。本当に要らないモノ程価値が出る。
「無理矢理にでも価格設定はした方がいいでしょう。設計図の持ち込みは出来る限り内密且つ秘密裏に処理しなければ、後々政府としてもギルドとしても痛くない腹を探られる羽目になりますね。」
「それは私も同意します。まぁ、救いがあるとすれば武器や薬と違い、あくまで設計図なのでゲート内では無用の長物と言う事でしょうか?精査にある程度時間を掛けても多分早々文句は出ないと思います。逆に、薬や武器は出来る限り早急に返品してあげたいですね。」
両方スィーパーの命に直結するから、早く返せるなら早いに越した事はない。慣れ親しんだ武器を使うもよし、とっかえひっかえ使うもよし。戦闘スタイルは人それぞれなので、早めに返して使えないならギルドに売ってもらえばいい。薬は言わずもがな。一応、量産はしているが出土品の方がまだ効果は上だし、若返りなんかは高額で取引されている。
「それなら、測定器を更に改良したらどうだ?今は確かデータ同期と写真も出る。その写真にランクを表記すれば薬は即時、武器は・・・、形状の違いもあるが早々時間はかからんだろう。」
「あの機械か。自衛隊組でセーフスペースをくまなく調査したから、セーフスペースに限って言えば素材は今の所全て判別がつくはずだ。36階層の方も中位にかなり歩き回ってもらったからだいぶ情報はある。」
2人の発言でマンパワーが炸裂している事が分かる。1人で全て対応しようとやっていれば、そのデータは得られなかっただろう。やってきた事が少しづつ実ってきている気がする。
「36階層の魚はそれなりに食べれるので、そのうち一般家庭の食卓に並ぶかも知れませんね。」
皆で食べて不評はなかったので多分大丈夫。馬よりは食べやすいしイケるはず!まぁ、高級食材と言うより珍味枠なのだが・・・。希少性はあるよ?現状行ける人間が限られてるし。
「食料自給率は味に目をつぶるしか無いと思ってたが、吉報だな。しかし、松田さん。これで更に鎖国状態になるんじゃないか?」
「そこまで酷い入国制限は設けていませんよ。ただ、身元を確実にする為に怪しい人間は鑑定師に鑑定してもらう事や、その際に入手した情報の安全は保証しないというものです。普通に観光するだけなら特に問題の無い政策ですね。これでも、初期に確保したスィーパー達と意見と札束ビンタを交えながら話したんですから。」
エマの場合来る事は分かっていたし、客人でしかも軍の高官。ヤバい情報もあるし、その辺りは政府間で話が付いていたのだろうが、橘がやらかして鑑定してしまっていたな。無理のない範囲でのお願い権は多分忘れていなければ残っているので、そのうち何かしらのお願いはされるかも知れない。まぁ、その橘は判定機のお陰でだいぶ缶詰から解放されたと喜んでいた。しかし、札束ビンタしながら話し合うってなんぞや?
「うちも橘にかなり支払って、他の面子にも不自由しない範囲でかなり融通してるけど、どこも似たようなもんか。」
「うちを見て混ぜようとするな。自衛隊側はホワイトに仕事をしとる。」
「自衛隊のホワイトって、有事対応なら残業代出ないのに24時間戦わなくちゃいけないやつじゃないですか、やだ~。」
演習の不眠不休は忘れないぞ?実践想定だからと仮眠少々後警戒とか山にこもってる間相当やらされた。しかも、周りや上官も同じだから文句も言えない。しかも、公務員だから残業代も出やしない。そんな中でも敬礼とかしながら動くんだぜ・・・。
「懐かしいでしょう?行軍に山籠り、今なら佐官クラスにするので戻ってきませんか?」
「もうギルマスなんで謹んでお断りします。あっ!レーションはギルドに回してくださいね?缶のたくあん、あれが廃盤になったのは今でも心残りです・・・。」
多分レーションの中ではあれが1番旨い。次点は鶏めしかゲテモノ扱いされるコンビーフベジタブル。冷えて油が浮いたビジュアルは酷いが、味自体はそこまで悪くなかった気がする。逆にウインナー缶は食感が気持ち悪くて駄目だった。
「仕方ないさ、今の若いのは缶切りのかの字も知らんやつがいるくらいだ。探せば在庫くらいはあるだろうから、見つかれば融通しちゃるよ。」
「それは有り難い。たまに無性に食べたくなる時があるんですよね、あれ。歯ごたえいいし、程よい辛味もあるし。」
「やれやれ、だいぶ話が脱線しだしましたね。今回の会談は一回お開きとして一度持ち帰り、再度ある程度の時期にでも問題点を話しあいましょう。」
「そうだな、警察側も何度も武道館を警備した事があるとは言え、スィーパーを想定しての配置は初めてだ。その辺りを持ち帰って詰めよう。」
「自衛隊側は警察との連携と引き続きゲート内施設の建造や調査がメインだな。ギルドからなにか要請があれば対応できる限りは対応する。」
「私は講習会メンバーとの話し合いですね。お祭り感覚でやるのか、もっと厳粛にやるのかで大会雰囲気が変わってきます。放映権については売る方向です。」
「政府側としては、今回の話を元にシュミレーションしてから各方面にリスポンスを返すものと思って下さい。仮面舞闘会・・・、どうなるでしょうね・・・。」
松田が遠い目をしている。そこまで嫌なら全員鑑定で要人と分かった瞬間からホテル缶詰観戦でもしてもらえばいいのに。まぁ、嫌でも来てしまったらおもてなしの心で対応するしか無いのかな?ぶぶ漬けを山程出してお帰り願いたいが・・・。
「さて、終わりましたし一息つきましょうか。今回も付き合ってもらいますよ?」
「いいですよ?財布が崩壊するまで飲食しましょうか?」
「細くてもよく食うし飲むのも分かってるよクロエさん。ほどほど、ほどほどで頼む。今回俺が出すんだよ・・・。」
「今回は黒岩さんの奢りと?自分の分は自分で出しますよ?」
「中身を知ってても、世間はそれを知らない。なら、年下の女に金を出させるおっさんなんて格好のスキャンダルネタだろ?」




