103話 ある日の教室 挿絵あり
最近遅刻ばかりですいません
日々の訓練の参加者は結構減ってきている。と、言うのも席だけ残して外遊コースの人間が増えた為である。まぁ、優先するなら中位>各方面の協力要請、訓練>35階層と言う構図が出来つつある為だ。訓練終了についても俺自身中位に至れたら終了というもので良かったし、至れたら後は本人達でどうにか出来ると踏んでいる。実際、35階層までは全員到達しているので、最後の関門という部分では中位に至ると言う事のみが残されている。そんな日々の中で、一度卒業式をしないかと言う話が持ち上がっている。
季節的には真冬で桜のさの字も無いが、一つの区切りと言う面ではいいと思う。ただ、至れていないメンバーもいるので、その人間は便宜上留年な訳で、雑談の中でそうからかわれている。まぁ、留年生自体は今の所1人、夏目である。ただ、夏目自身も外遊でいない事もあるので実質卒業生みたいなもの。そのまま卒業でもいいかと思うが、変な心残りを残すのも嫌なので至るまでは面倒を見よう。
「それで、エマとカオリと遥はなんで机に齧り付いてるの?」
「至るプロセスを体系化しろと本国に言われてナ・・・。紙とペンを持ったガ、何から書けばいいか分からなイ。そこデ、2人に手伝って貰っているのだガ・・・、カオリはいいとして、遥も忙しいのにすまなイ。」
「大丈夫、インナーの量産は糸のサンプルと装飾師が集まってから始まるから。まさか、指導する側になるとは思わなかったけど・・・。」
「遥さん、知らん間に出世したってやつですよ。私も経験ありますから・・・。」
現在地は教場、他のメンバーは宮藤達3人+夏目で固まってゲートに入り、それ以外のメンバーは自身の概ね行きたい県に隣接するメンバーと連携を取る訓練をしたりしている。しかし、ここで1つ問題だと感じているのは、大会で出た本部長と行き先が被ったらどうしよう問題。
民間から本部長が出れば、多分地元を希望する人間が出てくる。そうなると、今の本部長確定者と赴任先が被らないとも限らない。全国津々浦々から集まって戦って本部長になったのに、極端な話、沖縄の人が空きがないからじゃあ北海道でお仕事ね?と、言う事まである訳で・・・。
まぁ、何はともあれ先ずは大会で選考して、その後宮藤達に教導してもらってからの話になるので、直ぐにぶち当たる問題ではないが、かならず来る問題でもある。任地不問も条件として出しておこうかな・・・、多分、大会出場者が本部長になるのは今の講習会メンバーが着任した後になるだろうしね。
大会はギルドが元締めなので今の講習会メンバーは全員運営側として動いてもらうのは当然として、それ以外にも遥にお声がかかった。民間でもボチボチ糸が出せるようになり、次のステップとして当然ながら加工に入る。つまり布にして服を作ったりする訳なのだが、思わぬ落とし穴が空いていた。
政府は当初から鍛冶師と装飾師を集めてせっせとドッグタグを作っていたわけだが、よくも悪くもそのイメージは金属加工に通じる。そして、今回のオーダーは糸を使っての服作り。完全に畑違いでイメージも中々掴めない状態。一枚布を作るのはある程度みんな出来たらしいが、服となると怪しくなる。
自身の着ている服をイメージして作ったはずなのに、背中側のないびんぼっちゃまスタイルになったり、デザイン性を求めようとしてダメージジーンズの様に穴だらけだったりと散々な出来栄えで、これは不味いとその道のプロ、詰まりは当初から魔法糸で服を作っていた遥に白羽の矢が立ち講師として呼ばれる事になった。まぁ、本人も元々ファッションデザイナーを目指していたし、夢がかなったかは別として遥のデザイン=これからゲートで着る服の主流となるだろう。
今はまだ官品扱いで政府も企業も手探りしているが、遥の生徒が巣立てばそれは広がっていく事間違いなし。ある意味最先端を走り出してしまっている。魔法糸は魔法職しか作れないが一般人も加工出来ない事も無い。ただ、最難関は糸の切断で前に調べた通りの強度に修復機能に成長機能。破れても自動修復するし、何度も破ければ強度も増していくらしい。
なので、なんで高いかよく分からなかった古着が、本当の意味で価値を持ち出してくる。つまり、年季の入った糸ほど強靭になり、使い込まれた服ほど頑丈になる。まぁ、実際は着たきり雀ではないので、何着かを着回す事になるのだろうが、そのうち師匠から譲り受けたインナーです!と胸張って言う人も出てくるだろう。サイズ問題は・・・、無理やり着ろ!と、言うのは冗談で腕のいい装飾師ならバラせるしリサイズもできる。ただ、足りない糸はほかから持ってきて結んで繋げば、運が良ければ延長できる。
元々がイメージの産物なので、糸に性格と言うか親和性があり、例えば絆や意志を繋ぐイメージならどうにか混じり合ってくれるが、絆をイメージした糸に虫をイメージして作った糸を結んでも繋がってはくれない。なので、出来るだけリサイズしてそのまま着て伸ばすか、早急に欲しいなら新しいのを買うのをオススメする。そのうち出産祝いにいい糸のインナーを送るとかの風習が出来るかも知れない。同じインナーを着せておけば、少なくとも伸びて身体のサイズにずっと合ったモノを着れるし、成長して走り回って破いても修復するので、いつまでも使えるし強度も増していく。
そんな事を考えている俺は、今遥作成のゴスロリを着ている。戦闘服用のドレスが完成して、それを着て昨日の夜から身体に馴染ませているのだが、この服を着ただけでエマは身構えて何をする気だと聞いてくるし、宮藤達も何処か覚悟を決めたように『中層に殴り込みですね。』と、言う始末。45階層まで降りはしたけど、まだ行かないからね?行きたいけど、大会あるから準備で忙しいからね?まぁ、魔女は昨日から着飾れてご機嫌である。
「また、難しいオーダーを受けましたね。」
しかし、米国も中々無茶な事を言う。体系化しろと言われて簡単に出来るものなら、俺は最初から本を渡して地元に引き籠もっている。まぁ、講習会も良い出会いは会ったし、人と接する事自体は好きなのでいいのだが、問題は家族と離れている事である。運動会を見に地元に一時帰宅した時は妻と息子とゆっくり出来た。しかし、遥は政府に講師の事を話されて帰れなかったのは残念だったが、まぁ大人になると言う事は家族から離れて過ごすと言う事も含まれる。父親の目のない一人の時間、お互い数日ゆっくり羽も伸ばせただろうし、俺も妻ともイチャイチャ出来てよかった。それに、妻がやっている救護所にも顔を出せた。
うん、顔出せたけど久々にもみくちゃにされたし、おばちゃんパワーに圧倒されてあちこち触られるわ、触ったら触ったで細すぎる、もっと食え!とお菓子やら何やらを山ほど貰った。貰って食べないのも悪いので、食べたらどんどん追加されるという、わんこ蕎麦状態で食べ続けて、何時しかフードファイターに・・・。
そんな時にでたのが、俺と妻との関係についての話題。俺の妻は莉菜である。莉菜の夫は俺である。間違いはないのだが、どう話したものと考えていたが、既にその辺りの話はカタが付いているらしい。と、言っても工藤さんくらいか俺=黒江 司と知っているのは。なので、俺はそのまま莉菜の夫で子持ちで、子供は実子という何だかよく分からない存在になっている。
そもそも女性同士で子供は出来ないはずだが、そこは伝家の宝刀複雑な家庭なんです。で、ゴリ押したらしい。まぁ、それで下手な詮索されずに夫婦としていれるなら、あまり問題ないないし、人1人の過去をわざわざ探るなんて酔狂を一般人がお金を掛けてまでしない。
仮にするなら・・・。地元の有名スィーパー蒼天のメンバーとか?誠に遺憾な事だが、救護所に行った際にリーダーの金髪青年、スカイブルー事、青山 空から目を付けられた。まぁ、付けられたというよりも求婚された。元々配信以降のファンで極度のナルシストらしく、確かに顔は悪くないが会ってそうそうに『結婚しましょう!美しい貴女と私が1つになれば、更に美しい子供が産まれ最強の美形家族ができます。これは、既に運命なんです!』と。聞きながら鳥肌が止まらず、横で聞いていた莉菜が俺を抱き締めて他のおばちゃん達が空を『またコイツか・・・。』みたいな目で見ていた事を思うと、日常茶飯時なのだろう。
妻がいると断りを入れたが、本人曰く諦めないらしい。面倒なので、本部長に取り敢えずなってみろと言うと招待状は来ていたらしく闘志を高めていた。なったら遠くへ送ろう。地元に居なければ頭痛の種にはならないのだから。まぁ、そんなおかしなやつだが、人柄自体は悪くないらしい。なんだかんだで、パーティーでうろつきながら他のスィーパーを助けたり、無償で稽古をつけたり新人を5階層まで連れて行ったりしているらしい。
惜しい人材である。これで頭がまともで俺に執着しないならいい本部長になるのだろうに・・・。天は二物を与えずと言ったが差し引く事はないだろう・・・。まともにしていれば、甘いマスクで20階層辺りを進めるならお金にも困らない。ファンもいるらしいが、誠実ではあるらしいので悪い噂もないらしい。しかし、差し引かれたのはまともな性格である。
「クロエ、出だしを何としたらいいと思ウ?大使館へ持ち込み公文書になる予定なのだガ。」
「そんな大事な書類の書き出しとか知りませんよ。」
「しかしだナ。講師はクロエではないカ。やった事をそのまま文章に起こせば文句は言われないと思ウ。」
向かいの椅子に座って白紙のレポート用紙を見つめるが、体系化しろと合われても難しい。千差万別のイメージがある中でコレが正解!と言うものはないし、何なら悪人なら悪いイメージで悪い事をしているまである。よくよく言う正義の反対は別の正義と言うやつで、火と水の魔術師がいてどちらの属性が有利かなどゲームではないのだから決められない。そもそも、それもゲームと言うモノの中での決め事なので、現実でやるならそれこそ互いのイメージの潰し合いでしかない。
「ん〜、犯罪ダメ、絶対!とかでいいんじゃないですか?嫌なら、人は自由に死ぬ権利と逃げ出す道を有するとか?」
「落差!前半と後半の落差が酷い!」
「そんなに酷いかな?まぁ、犯罪の方はポスターいるなぁとは考えてたけど。」
犯罪率自体は横ばい状態で、増えもしないが減りもしない。スィーパーの犯罪と言う面では、聞いた話のみなら有りはする。メインで対応するのは警察だが、スィーパー絡みだとギルドに応援要請が来るので資料だけは貰っている。1番多いのは喧嘩。廃れたはずの決闘罪が復活して、何故か剣士と格闘家が殴り合ったりしているし、次点で多いのは職をゲートではなく外で試した為に起こった暴発。
いや、的あるんだからゲートでやれよゲートで。そして、力を急に得た人間がやらかしそうな頭の痛い窃盗なんかの犯罪は実は割と少ない。と、言うのも窃盗する理由である所の金銭的な困窮と言うモノがゲートに入って戦うだけで解決するからだ。なので、ホームレスだろうがなんだろうが、文字通り生きる為にゲートに入ってモンスター倒してトレジャーハントをしながら、生活しているし居心地が良ければセーフスペースに住み込んでトレジャーハントする。
簡単に言ってしまうと金銭絡みの犯罪率は、やるのが馬鹿らしくて減っているらしい。それには、盗みに入った先の店員がスィーパーなら文字通り返り討ちまであるので、命を掛けてまでやる価値もない。そんな中で逆に増えたのが怨恨・・・。ほんとか嘘か、イメージで戦うスィーパー。その中で恨みが実体化して誰かを襲うなんて言うオカルトが・・・、まことしやかに囁かれている。
ナイナイ・・・、うん、アルアル。無いと言いたいが、病院で俺は婆さんを見た手前、絶対をつける事は出来ないし、魔術師が絡むならありえてしまう。見方を変えるなら宮藤は死霊使いと定義してもおかしくないのだから・・・。そんな犯罪を橘率いる鑑定課が日夜解明して犯人を捕まえているらしい。検挙率も悪くないらしいのでいいのだが、当初の引きこもり生活が出来ないと神志那は嘆いているらしい。
「なら何がいい?カオリが否定するならなにかあるんだろウ。」
「いや、そもそも公文書って読んだ事ないし・・・。」
「否定はしていませんよ?ただ、落差の問題です。そうですね・・・、なにか資料はないんですか?」
「それが無いから困っていル。」
全員で首をひねるがいい言葉は思いつかない。なら、賢者の言葉を借りるか。日本語訳で初めに言葉があった。しかし、本文を読むならロゴス。それの意味は概念や理性、統一なんか。まぁ、大きく言うならすべての始まりではないだろうか?話さなければ隔たりはないが、隔たりがなければ形作れない。魔法に言葉は必要ないが、イメージと言う言葉よりも更に難解なものを使っている。なら。噛み砕いて米国向けの言葉ならこれでいいだろう。
「すべての始まりは、他者を認め隔てる言葉から始まる・・・。イメージは千差万別で多様性を認めなければ、スィーパーとして頭打ちするだろう。こんな感じでいいんじゃない?」
「言葉・・・、カ。本当にバベルを作りそうだナ。」
「ゲートが縦型ならそれに近いモノなんじゃないですか?言葉の通じない蛮族空間ですよ、あそこ。」




