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街中ダンジョン  作者: フィノ


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閑話 胃痛とため息 28

盛大に遅刻です

 赤坂のとある高級料亭。古くからあるこの店は幾人もの政治家が愛し、時には密談を行う場として知られ、店側も政治家や政府関係者の客が来る度に情報が漏れないように配慮するという、既に暗黙の了解ともいえる関係が出来上がっており、この店でその筋の人間が飯を食う=密談という形式が出来上がっている。そんな店に今宵も4人。何処か浮かない顔の男達が集まり、旨い料理に舌鼓みを打ちながらひっそりと話し合う。


「旨い酒だ・・・、何も考えず吉報を貰った後の酒なら更に美味かっただろうな・・・。」


「言わないで欲しい黒岩さん。私もこの話は胃が痛くてたまらない。只でさえ強気に出れるとしても米国の要請を蹴ったばかりなんですから。その点、大井さんと君は気楽でいいな。」


「まぁ、領分ですな。自衛隊側は基本的に国内にはノータッチ。要請があれば付き合いますが、本質は国外を見ている。」


「私はネゴシエーターなので決まった話を元に、クロエと話すのみですので、彼女がボールを投げたならそれを拾って持ってくるのが仕事です。まさか、放映権を売るとは思いませんでしたけどね。それと、増田と呼んで下さい。千代田は次に引き継ぎ終わりましたので。」


 政府が行う本部長選出戦。3人での密談では内々のうちに、それこそ暗黒武道会よろしく、ひっそりと開催して決めてしまう手はずだったソレは元締めが大々的にやると言い出したせいで、なにかおかしな方向に転がろうとしている・・・。話は既にある程度ついていたのだ。密談で決まった話では民間からの本部長を出す気はなく、警察と自衛隊である程度牌を奪い合い、民間人には少なくない金や本人達の、望みを融通して茶番を演じてもらうと言う路線で。


 如何に元締めと言えど、会った事のない人物の技量は分からない。なら、初めからの出来レースで民間<公務員の構図を作ってしまえば本人も文句は言えない。そう思い、民間スィーパーの身辺調査を綿密に行った末に言われたのが放映権の話。松田の胃は既にこの話で穴が無数に開いている。なんなら、前にクロエに奢って欲しいなぁ〜と、言われて安請け合いで奢った額が片手で足りない額だった事も拍車をかける。


「増田さん、方向性を誘導できませんか?エマは仕方ないとしてカメラ持ち込み禁止で見物して貰う予定でした。しかし、放映権を売るとなると話が違う。しかも、オークションなんて言葉も出たんでしょう?」


「ええ、本人曰くギルドの運転資金集めだそうです。賭けもやると言っていたので、本気で資金集めをするつもりでしょう。交渉するにも理由が理由なのでいささか難しい。」


「設計図はなぁ・・・、うちに持ち込まれたものがそれなりにあるが、どれもこれもノーベル賞どころか人類の未来を形作るそれだろう・・・。うちと大井さん所で警護してるが、いっその事クロエの嬢ちゃんに引き取ってもらおうか・・・。」


「だな、外にあれば有ったで面倒を呼ぶし、警護に中位をあてるのも勿体ない。少なくとも、クロエさんなら持っててもどうにかしてくれるだろ?」


「それをすると、あの人は交渉する時に人質にするかも知れませんよ?悪い人ではないですが、必要とあらば文字通り切って捨てる人ですから。」


 顔を見合わせて4人でため息。誰も彼もが激動の時代に乗り遅れまいと動き、無茶も無理も飲み込みながら進む。そんな中でも、上に立つ者の胃は常に痛みながらも、誰かが吐いた言葉を飲み込みながら進む。


「それで、大々的にやるにしても元締めはギルド。ノウハウはないだろう?どうするつもりなんだあの人は?」


「その件については本人もノウハウがないので話し合いたいと。実際、会場にしろメンバーにしろほぼ政府の手配ですからね。やる気はあるみたいですが、何から手をつけたらいいか分からないのが現状でしょう。ただ、装置の方は完成しているので最悪武道館でも貸し切れば方が付きます。」


「武道館か、猪木対アリの試合を思い出すな。」


「いい試合だったかは別として、胸は高鳴ったな。」


「そんな事はどうでもいいです。新しく会場を建築しなくていい事のメリットが大きい。本部長舎を各都道府県に作るだけでも莫大な金が動いている・・・。1号はクロエさんの所ですが概ね要望通りに作ってますからね・・・、カフェテラスはいいとして、酒場はいるんですかね・・・?」


「ルイーダ酒場だろ。」


「ルイーダ酒場だな。」


「パーティー待合室の事を考えて、夜間のみ開く予定ですが、強く要望していたので必要なのかも知れません。」


「黒岩さん、大井さん、増田さんはいいとして、皆さんクロエさんに甘くないですか?もっとこう、駄目な事は駄目と・・・。」


「嬢ちゃんに言えるか大井さん?」


「無理だな黒岩さん。急に怒るようなタイプには見えないが、その分溜め込んで憂さ晴らしに来られても困る。それに、中位を出すのに手探りで始めて、これだけ成果を出したなら文句は言えんよ。それは松田さんも分かるでしょう?それに、中身は別として外見だけなら孫と変わらん。」


「私も同意見です。怒るタイプではないですが、一度腹に据え兼ねた際はゲートで35階層まで1人で赴いていましたから・・・。」


 4人で顔を見合わせる。思い出されるのは潜った先での圧倒的な暴力。空を飛び無言でも地形は変わり、言葉を紡げば更に破壊の爪痕は激しく広域を破壊し尽くしていく姿。いや、首から下げたカメラで撮影されたそれは本人さえ映らず、淡々とこの世の終わりの様な光景を映し出す。


 クロエから渡されるカメラ。それは、警察にしろ政府にしろ恐怖と困惑そして、奥への好奇心を刺激するものの代名詞。ただ、犬の動画では数人気分を悪くした。そんな事が出来る人物に面と向かって文句を言えるのは・・・、この場なら増田くらいだろう。しかし、それもある程度の信頼関係があるからである。


「はぁ~、どうしようもない事を話すのはやめましょう。参加者名簿は出ましたが、警察と自衛隊はいい人材がいましたか?」


「うちは特殊作戦群やら別班からぼちぼち引き抜いてきた。寧ろ、本部長が既に選り抜きのエリートだからなぁ。」


「うちも似たようなもんですね。寧ろ、民間の方がいい人材がいる。早めに唾つけたが、各都道府県から人が来るもんだから、誰がどうかまでは把握できん。政府は今回出さんのでしょ?」


「うちはギルドを掌握しているという立場を貰いたいので、どちらかと言えば運営側。現場はお二方に任せますよ。情報は上げてくださいね?」


「情報・・・、なら私から。公安を離れる前に処理したアガフォン。ですが、引き継ぎは完了しています。松田さんはご存知ですよね、相手は外務省の加納です。なにかの際は他の御二方も一応留意して下さい。」


「了解、抜いた情報はどの程度精査できてる?」


「うちの地下に居る彼から貰える分は貰った。あちらさんは不老の話を聞いて先に進めないもんだから、モンスターから精製出来ないかと考えたらしい。まぁ、それ以外もあるし、クロエさんの奥方の情報もかなり漏れてる。まぁ、本人が隠してないっていうのもあるからなぁ。」


「うちはそのまま睨みを効かせるだけだな。幸いタイソン並のストレートを放って防波堤は高いのがある。遺憾砲が効力を出してくれて助かる。」


「私は外務省と話して加納をそのままロシアに送り込みましょうかね・・・。モンスターの持ち出し方は分かったんですか?」


「いや、アガフォンはそれには関わってないらしい。引き続き調査だな。表沙汰にするにしては事が大きすぎるので、松田さんに任せて、うちは国内の守りを固める様動くとする。」


「私は引き続きクロエと交渉ですね。今回奥方の拉致未遂の件が知られれば怒らないでしょうが、相手国には相当な重圧をかけるでしょう。それで下手に暴走されても困る。」


 ここでまた溜息。1人が国を相手取るという構図が滑稽であり、また、それがこれからの未来を示すモノだと4人共分かっている。そして、それが本人が永遠を宣言した為に長い長い胃痛を患う事となる事もまた、確定された未来だと悟る。


「はぁ〜、生きる時代間違えたな。年食って定年して日向ぼっこして過ごす未来図がなくなった。」


「まぁ、そう言うな。うちだって海外睨みながら訓練さえしていれば良い日常が消し飛んだんだからよ・・・はぁ〜。」


「それを言うなら、私だってここまで手探りの対応を求められるとは思って見なかったですよ・・・、ぼちぼち野党与党合戦して、新しい総理を付け替えながら国を回す予定だったんですから・・・。はぁ〜。」


「私は家族とそのまま過ごす未来が確定したのでボチボチですね。ただ、クロエが国へ戻れば追えと言われそうで嫌ですね・・・。はぁ〜。」


 4つのため息がこだまし、それぞれに酒を呷る。飲んでも現実からは逃れられない、逃れられないが飲まずにはやってられない時もまたある。立場があり、仕事があり、やる事がある。ならば、止まってもいられない。そして、眼の前に酒があるなら飲まないといけない!


「・・・、はぁ。いっその事クロエさんが小料理屋の若女将にでもならねぇかな・・・。見た目はすこぶるいいしなあ。」


「いいなぁ、着物で袖を抑えながら料理出してくれて、ちょっと覗く二の腕とかな。」


「私は割烹着着てほしいですね。小柄で儚げで一生懸命な若女将とか守ってあげたくなるでしょう?」


  挿絵(By みてみん)


「そう言えば、増田さんも大井さんも駐屯地祭りでは楽しんだとか?」


「ああ、着物で焼きそば焼いてたからお忍びで買いに行こうとしたら、デリバリーするから来るなと釘をさされた。まぁ、2人で焼きそば食うのも乙だったぞ。娘さん・・・、遥にバイクをありがとうと言われてジュースをお酌してもらったな。」


「私は家族と行って優待券でぬいぐるみを・・・、あのぬいぐるみ後で聞いたら、クロエの糸がふんだんに使われてると聞いて嫌な汗が止まりませんでした・・・。」


「おいおい!米国が喉から手が出るほど欲しがってるもん配ったのかよ!?傑作だなぁ!」


「美人コンテスト優勝したエマさんなんか糸よこせって言ってたからなぁ。」


「米国にインナーを送った時は相当に指定を付けましたからね。次は送らないとか、本人以外指輪に入れるなとか。」


「いゃあ、気分が良くなってきた!舐められてたうちらが少しは優位に立ててるからなぁ!」


「指輪なぁ、年食ったけど取り行くかなぁ。久々に現場に出たいしな。今なら橘連れてけば安全だろうし。」


「ならうちは兵藤か別班に依頼だな。あるとやっぱり便利だとは聞く。松田さんは取んのかね?」


「実はもう持ってます。入ったのは1回だけですけどね。」


「なに!職は!?」


「松田さんの職はいい。クロエさんにどんな服着せてポスター作るか話そう。」


「黒岩さん飲みすぎですよ。一応、大会のポスターや犯罪防止ポスターは作りたいと言っていましたね。」


「チャイナ!」


「着物!」


「魔法少女!」


 酒に飲まれた大人達が馬鹿な話をしながら、欲望を垂れ流す。しかし、大人とてハメを外す時は外すのだ。


「ネゴシエーター頼むぞ。交渉してコスプレ権を勝ち取ってくれ!」


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― 新着の感想 ―
[一言] 大会ポスターは魔法少女に一票!
[一言] やはり、AI作画は箸が持ててないんやなぁ・・・ あと、この小説が書籍化されたら担当絵師さんはAI作画と常に比較されそうで可哀そうやなぁって思った。
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