88話 エマと進む道すがら
時間がなく短いです
外は大雨、ゲートの中は夕闇模様。そして俺はヘッドライトを頼りにキセルを咥えてバイクで爆走中。大井のくれたバイクの試運転も兼ねて、エマをタンデムシートに乗せ、跳ねる身体も何のその20階層を超えて30階層を目指している。目指しているのだが・・・。
「ほらほら、シューティングゲームよろしく狙い撃つ!」
「はっ!早イ!!今何キロだー!!!」
「500km/h!後200km/hはスペック上出ますよ!!」
ゴーグルだけして突っ走る。なびく髪はエマの邪魔になるので、肉壁スーツを改造したライダースーツの中に入れているが、そのエマが叫ぶばかりで中々攻撃しない。煙で姿勢制御もしてるし、振り落とされる事はない。しかし、武装?であるエマが攻撃しないので、モンスタートレインしながら走るのみ。背後からのバンバンビームが飛んでくるので、そろそろ数を減らしてもらいたいのだが・・・。
「設置地雷でもパイナップルでもいいので、そろそろ攻撃してくれませんかねぇ?新品のバイクをロストしたくない!」
「その前に私の命がロストすル!!スピードを落とせ!!」
「落としたらモンスターの群れに囲まれるじゃないですか!?イメージですイメージ。この程度の速度、足で走ってるのと変わりませんよ?」
ヘイヘイ!タンデムビビってる〜!実際、赤峰ならこの程度の速度だと自分で走った方が早い。本気で動かれると目で追えないので、結局魔法頼りの捕捉になる。まぁ、エマがここまで早く走れるイメージがあるかは知らないが、これから先アホほど早いモンスターがいないとも限らないので慣れてもらおう。それに、どんな状態でもイメージを崩さないのは大事で、仮にここでモンスターの群れに突っ込ませると、対処する暇なく死んでしまうだろう。
「無理だ!私が死ヌ!バイクは大破デ、お前だけ生き残ル!」
「否定はしませんが、死ぬ気なら手くらい動かせるでしょう?やりなさい、銃を構えて引き金引いて、ゴミ共を殲滅です。」
「そもそも、身体が固定されなイ!吹っ飛ばされル!!」
バイクの原理を知らないのだろうか?ジャイロ効果で立っているので、怖がって速度を落とすと不安定になり逆に危なくなる。まぁ、貰ったバイクはタイヤが太いので早々すぐにコケないだろうし、仮にコケるならジャンプシステムでジャンプした時くらい?まぁ、自力で飛べるので使う事はないシステムだが。
「分かりました。クイックターンするので、舌噛み千切らないでくださいよ?カウント2!」
「遠心力ー!!舌より先に私が吹っ飛ブーー!!!」
小回りのクイックターン。片足をついて回るが、身体が小さいのでガッツリと斜めになる。まぁ強化しているので倒れる事はないが、これは少しエマが可哀想になるな。四の五の言うよりモンスターを倒す方が先だが。そもそも、ターンしているのもエマが後ろを向きたくないというからしているのであって、適当に爆弾でも後ろに転がしてくれればそれで済むものを・・・。
「カウント0!ファイア!!」
「えぇい!!ビッグホール!押し潰せベアトラップ!!」
「おぉ!ハーメルンですか。ネズミの代わりにモンスターが潰れましたが。さて、飛ばしていきますよ、ドローンで警戒!」
再度Uターンして突き進む。慌てているとはいえ、罠は出ているからまだ余裕はあるのだろう。本当に余裕が無いなら、イメージは恐怖に塗りつぶされて出るものも出ないし、出来るイメージも自分が自信のあるモノか頼りにしているものになる。エマなら最初からベアトラップだろうが、先に落とし穴を出す辺りまだ行ける。
「無理だ!ドローンの速度では追い付けない!」
「高度を上げて俯瞰する、天空の目はすべてを見る。それ即ち人工衛星なり、あれも罠といえば罠でしょう?ドローンの高度を上げて視野を広げる。」
元々は軍事兵器の人工衛星、知らない間に情報を取られて場合によっては攻撃してくる。罠と言うものはそもそも設置しない事には始まらないし、設置したらしたで引っかかったかの判定をしないといけない。エマにやらせたゲームはステージを俯瞰して罠を張る。なら、自身を罠だと定義さえしてしまえば、その罠を見る者の目が必要となる。その目は自身の目であり、俯瞰してくれるドローンであり、高度を上げた人工衛星でもいい。まぁ、ここで人工衛星を出したのは、ドローンの高度が取りたかったからなのだが・・・。
「そんなものは出せない!」
「なら、攻撃型ドローンでもセントリーガンでもいいです。せめて何か出して牽制させるなり、ルート確保するなりしてください。じゃないと、エネルギー切れのほぼないバイクを、フルスロットルで走らせて探す事になりますよ?いいですよね700km/h。直線なら四国辺りまでは1時間ですよ?」
「う、運転を代わるという選択肢は!?」
「貴女の国にコレがあるなら代わりますが、無いなら諦めて成すべき事をしてください。」
防衛装備庁卸したてなのであるわけないし、あったらあったで技術流出待ったなし。数年も経てば、他の国も出土品の解析を進めて作るかもしれないが、現時点ではここでしか乗れない一点物。エマも風になるのを楽しめばいいのに。
「理不尽ダ・・・。ファーストが攻撃するのを見学するというのは?私が色々する事や、他のメンバーは見るがファーストが戦うのはみていない!」
「見ても面白いモノではないですよ?」
「そ、それでもダ!イメージの為に見学するのは悪いことではないだろウ?」
イメージの話を持ち出すなら仕方ない。煙を操作してキセルをプカリ。さっきの穴でトレインモンスターはほぼ倒してしまったが、空と前方にはまだモンスターがいる。さて、罠を使うエマに見せる魔法は何がいいかな?煙と罠って相性いいかな・・・、まぁ、このイメージならいいだろう。
モウモウと煙を上げて空のモンスター達を包み込み、一部の煙を残して引っ込めてバイクの周りの煙を濃くする。上はあれでいい、追ってくるが煙を上げている。さて、前方のモンスターは・・・、ビームからこちらを守るので面倒だ。そもそも、既に複合で魔法を使っているので、増やしてもいいが成立しているイメージに干渉させたくない。
「上を見てください。」
「上?」
「ええ、煙が上がったならそれは故障か導火線に火がついている。なら、当然爆発します。」
煙が上がったモンスターは漏れなく爆発して火が噴き上がり、飛べなくなってクリスタルとなり墜ちてくる。前方のモンスターはそのまま煙を纏ったバイクを虎に見立てて、煙の爪で切り裂いていく。切り裂いた線を具現化すれば当然そこにあったモンスターの装甲は押し出されて、もとからあったものを押し出す。
空間攻撃と言うものはゲートの退出失敗と同義である。アイツ等がわざわざ配慮してくれたのは、前にも考えた人と人が重なった場合の結果どうなるかと言う部分で、不意打ちならほぼダメージが通ってしまう。なので、明確に自身がそこにいることをイメージし、明確にこうやって防ぐと言う結果が求められる。
「!?火薬は?」
「さぁ?機械っぽいゴミが煙出してるんです。勝手に爆発しますよ、そんなモノ。それを言い出すと、トラップはどうやって出ているという矛盾が発生します。理解は必要ですが、問題は結果に至るイメージで、その過程は補強剤とでも思ってください。職と言うのは拡大したイメージを結果に繋げているようなモノなのですから。」
解釈は人の数だけある。それは職の説明が単語である分イメージの幅が広い為。Sは方向性が明確な分、できる結果が明確で効力も大きい。ただ、さっきエマが言った原理を聞かれると、自己の思考で完結させる必要がある。魔法職の場合、前半の3文でイメージを確定し、後半で結果を作っていく。なので、物理職より難しい。
「拡大したイメージ・・・、質問だがトラップの爆発を核レベルとした場合成功すると思うカ?」
「ゲートの内なら可能です。しかし、外でするなら覚悟が必要ですね。それができると言うのはある意味壊れた人ですから。まぁ、可能性を語るなら、確固としたイメージ出来るなら不可能は無いといったところですよ。」
魔法職の怖い所は物理職より難しい分、出来るイメージの制約が感覚的に緩めなのだ。それは宮藤と卓の違いを見ればわかる。イメージが違えば結果が代わるといういい例だ。なら、イメージで大規模爆発を起こそうとした時、確かに核はイメージ材料となるが、少し調べたら分かるのだ。自身が引き起こす結果の悲惨さと、外で使うことの無意味さに。
そもそも、外でもそんなものを使うと言う場合、何かしらの目的が必要なのだ。例えばどこかの国に何かしらの要求があるとか、普通?に戦争してるとか。まぁ、何にせよ大量殺人をするだけのイメージを持った上で使い、且つそのイメージに押し潰されないだけの精神力が必要だろう。逆にゲート内はモンスターしかいないので、余り考えずとも地形を変えるだけの火力を出してもいい。無論、稀にいる人には配慮するが・・・。
「モノを知ル、理解すル、納得してイメージして事を成ス。無知では務まらないナ・・・。」
「ええ。だから皆言うんですよ、職は難しいと。モノを知れば知るほど、否定のイメージもついて回りますからね。そろそろ速度に慣れたなら攻撃してください。移動速度は考慮しない、護衛のドローン戦闘機。米国ならあるでしょう?」
「・・・、あル。イメージしよう、セントリーガン搭載の感知トラップドローンを。別に回収する必要はないのだからナ。」
固まるまでは時間がかかるだろうが、固まってしまえば後は問題なく発動出来る。発動した後はイメージの攻撃性の問題であり、どれだけ押し付けて行けるかが重要になる。まぁ、その辺りは感覚的なものになってくるだろう。
実際攻撃型ドローンを見たことあるのだろうエマは、飛行機の様なドローンを作り出し、それがホバリングするように空で停止して、後続のモンスターを撃ち殺している。何なら並走してくれたら嬉しいが、罠からイメージを発展させたなら、自由に飛び回るのはもう少し時間がかかるようだ。代わりに、小型のものはどうにか付いてきているが、こちらはあまり攻撃力はないようだが・・・、少しイメージを付け加えるか。
「エマ、浮遊機雷は知っていますね?」
「当然ダ、海に浮かべて船をドカン。原則禁止されている代物ダ。それがどうしタ?」
「おかしいと思いませんか?浮遊と名がつくのに浮いていない。」
「?、海に浮かんでいるだろウ?浮遊機雷とは海に浮かぶ爆弾ダ。」
「そうですね、ならそこからは言葉遊びでイメージを発展させましょう。雲海、雲の海に機雷を浮かべましょう。大丈夫、浮遊しているのですから、それは浮いています。」
「いヤ、雲の海に機雷を浮かべル?」
「えぇ。海に機雷はあります、それは浮遊しています。接触ないし近寄れば反応して爆発します。なら、それはエマが作れば立派な罠として成立します。さぁ、要領は設置式のペンデュラム、それが爆発するだけです。あぁ、ドローンのイメージも付け加えましょう。浮遊しているなら、動かせるんです。不信感は捨てましょう。そもそも、今日のエマは否定ばかりです。」
「否定はするなト?」
「否定すれば出来る事も出来なくなる。頭で思う分にはまだいいですが、言葉にすれば更に自身に否定のイメージを重ねる。参加メンバーは誰も否定の言葉を吐かないでしょう?」
「確かニ・・・、弱気さえ否定して進む先カ・・・、英雄へと至る道だナ。」
「まぁ、行けばお宝はありますよ?風の噂では不死薬は1億ドルで売れるそうです。良かったですね、今いる階層に入る人は少ない。見つけさえすれば、人生勝ち組です。」
「いヤ。私は軍人であり、流れ着いた場所だが価値はあっタ。なら、私は私の道を歩厶。」
どうやら、エマの道は決まりつつあるらしい。最初はどうなるかと思ったが、歳を重ねている分、思い描く先も見つけやすいのかも知れないな。人生は短いが人は退屈する。しかし、道が決まれば暇はない、歩けるだけ歩かないともったいなくて仕方ないのだから。




