閑話 エマの活動報告@2 23
短いです
こちらに来てから約1ヶ月。日々の訓練はゲート内で行われ、メニューも走ってからのモンスターハントが主のもの。ファーストが横についていてくれるので不思議と恐ろしい階層というイメージは払拭されてきた。事実、20階層も1人で散策できる。これは、明確な成果だろう。いない時はいない時で宮藤達講師陣が色々と教えてくれる。
一度模擬戦を申し込んでみたが、出たトラップを片っ端から燃やして溶かされたのには愕然とした。出したトラップは鉄製をイメージしていたが、宮藤曰く鉄なら溶けますよね?なら、壊せますよとの事。モンスターを砕くトラップが溶ける様は何とも言えないが、たしかに炎に当てられれば鉄は溶ける。
攻略するなら、それさえ跳ね除けるものを、或いは火に強いモノをイメージするしかないのだろう。活動データもバイト以外の部分は編集が完了したので送ったが、ウィルソンがまたブツブツと文句を垂れ流していた。ポスターまで経費で買って送ってやったのに贅沢なものだ。そのポスターでも何かあったらしいが、口をつぐみ何も話さないので、詳細は知らない。
しかし、ポスターの輸入拡大とは何だ?私は軍人であって個人の輸入雑貨屋ではないのだが?それよりも注目するなら装備品の靴だろう?モンスターを蹴っ飛ばしても壊れず、足場の悪いゲート内を歩き回っても疲れないのだから、有用性は確かだろう。ファースト本人は防具が欲しいと言っているが、私からすれば刻印と靴があれば事足りると思う。事実、遥の話ではファーストの戦闘服は配信で見たヒラヒラのゴシックロリータ服だと言うし・・・。
「それで、ポスターの輸入拡大とは何だ?不思議な効力を感じて送ったが、訓練資料であって無闇矢鱈と人を楽しませるものではない。」
「それは分かっている。分かっているが、欲しがる者が後を絶たない。購入元を調べたら靴と同じ店なのだろう?海外販売はしていないので、買い付けて送って欲しい。」
しかめっ面で心なしか痩せたウィルソンがポスターの話をする。当の本人は欲しくないのだろう、声にも拒否感を感じさせる。あのポスターに対してそこまで拒否感を抱くのもめずらしい。大体の人は、あのポスターを見ると足を止めて眺めているのに。頭痛の種の顔など見たくないということだろうか?
「生憎と仕事以外に興味はない。欲しいなら自分でこいと伝えろ。」
「・・・、私も同意する。今は日本へ行くのが難しくなっているのが救いだ。どの国も日本へ行く際は両国でかなりの制限と検査を受ける。まぁ、それはどの国に行くにしても同じか・・・、動画を見た。あの魔法のような物は何だ?魔法とは人にああやって渡せるものなのか?」
「私は魔法職で無いので分からない。そもそも、動画で見ただろう?半分催眠術師にかかったような状態で戦っていたのだぞ?ファーストも配信の時の様に喋り、どこまでも現実味のない現実を歩んだんだ・・・、あれも口酸っぱくなるほど言われていたイメージなのだろう、それに人を当て嵌めて記号のようにされたように思う。それよりも橘は見たか?」
空を飛びメカニカルなスーツを身にまとってモンスターを倒す警察官。鑑定師・・・、鑑定術師だというが、うちの鑑定師も至ればああなるのだろうか?いや、イメージが違えば別の何かになる?
「サイボーグ橘か・・・、あの出で立ちを見るとな・・・。ヒーローにサイボーグ、魔法使いと世界は狂って行っている。私は不思議の国に迷い込んだアリスか?」
「お前のようなアリスがいるか!ハンプティダンプティか良くてチェシャー猫だ。」
アリスは少女でウィルソンは中年の男。ずんぐりむっくりがお似合いだろう。次点で性格の悪いチェシャー猫だろう。
「よしてくれ、この前ペンタゴンの屋上にバカのせいで駆け上がる羽目になった。まぁ、大切なモノは取り返せたが。」
「そうか、真っ逆さまに落ちて割れなくてよかったな。それで、進捗は?」
「ふん!その話はいい!アプローチの見直しはまぁ、進んでいる。少人数だが、効果が出て来て魔法の方も出始めた。一つ聞くが、ファーストと通信でもいいのでコンタクトは取れないか?生で動く姿を見たい。私はそろそろサキュバスじゃないかと疑っている。」
サキュバスか・・・、ないな。言い表すなら懐かない猫だろうか?サキュバスは人に寄ってくるが、ファーストは人を呼びこそすれ、擦り寄る事はない。多分、一線を引いた先にいる人にしか興味がないのだろう。
「一緒に風呂に入るが、尻尾は生えていない。アルビノだな。1番近しい表現をするとするなら、全くメラニン色素が無く、合併症のないアルビノ。色が抜け落ちたかのように白く、黒子1つない。手触りも香りもいいぞ?」
「・・・、色香に惑わされたか?」
「何故そうなる?訓練後のシャワーと一緒、日本人の風呂好きは知っているだろう?その関係で一緒に風呂に入る。」
毎度頭や背中を洗われている無抵抗なファーストだが、あれは諦めなのだろうか?一度は断ったが、興味が湧いて洗ってみたが、なる程あれは癖になるさわり心地だ。黒い下着と相まってそこだけモノクロの世界のように見える。
「・・・。そうか・・・、彼女は全身白いのか・・・。」
「変な妄想をしていないだろうな?」
「・・・、いや、それよりも魔法だ。あれは他の人間にも渡せるのか?」
露骨にウィルソンが話を変えるが、大丈夫だろうか?皮肉屋でどちらかといえば、コイツはファーストにいい印象を持っていなかったかの様に思っていたが。
「橘が貰っていたな。本人曰く一服の煙。いいお守りだったが、私の分はなくなってしまったよ。」
「なに!研究出来ないではないか!追加で貰う事は!?」
「分からん、気まぐれにくれたものだ。ただ、魔法職と言うからには魔術師も同じ様な事が出来るのではないか?」
イメージを投影し、補助してくれる煙。お守りの様なそれは、ある程度ファーストのイメージで内容が書き換える事の出来るの途方もない代物。それを顔色1つ変える事も、誇る事もなくやってのける様は確かに、頭を下げて金を積んででも弟子入りしたくなる。現に私もそれをしてもいいというほどの成果は得た。
「尻を叩く人間が増えた・・・。局長は時折ネットを見てはポスターと言うし、スコットは日本に行くと言い出すし・・・。君とファーストはいい、他のスィーパーはどうだ?」
他のスィーパー・・・、講習会メンバーは誰も彼も一曲二癖ある能力の使い方をするが・・・。脅威を考えるなら彼女が1番危ないのではないだろうか?
「妖怪と言うものを知っているか?」
「日本のデーモンか?まさか、ここに来て日本では妖怪までも徴用しているのか?」
「いや、あだ名で妖怪夏目と呼ばれている人物がいる。送った訓練風景にも出ている、ボブショートで黒いボディースーツを着た女性だ。」
「ふむ、確か資料が・・・、あった。彼女が妖怪?」
「撮影したデータを送る。私や周りの格好には言及するな。お祭りでファーストからの要請だ・・・。」
ミニスカメイド・・・。資料なら他の物を送りたかったが、あの時が一番分かりやすい。控室に戻りみんなが着替える中、夏目は仲のいいメンバーから茶化されていたが、声高らかに声を上げて皆の前で元の姿に戻ってみせた。撮影の許可を得て撮影したが、あれはなかなか衝撃的だった。
「ぶふっ・・・、これはまたロリータ少佐中々可愛らし・・・、おい、おいおい!彼女が妖怪か!この技術は危険すぎる!」
「肉壁だが、助言を受けてこれができるようになったらしい。うちの国でも肉壁は不人気だ、どうしても死兵を思わせる・・・。しかし、これだけの事が出来る職だ。他にもメンバーは独特な感性で動く者も多い。」
「そうか・・・、収穫が多い講習会だ、今後もその調子で頼む。」
「分かっている。中位も意識して、楽しんでくるさ。」




