83話 舵取り 挿絵あり
「ささっ、エマさんはどうぞどうぞ!あっ、生卵は大丈夫ですか?欧米では食べないと聞きますが?」
「大丈夫ダ。確か溶いて付けて食べる料理だったナ。」
そう返したエマが器に卵を落とし豪快に掻き混ぜている。苦手ならそのまま食えばいいが、食えるならそれでもいい。食い方まで変に指導する事もないので、横で取り分けている兵藤に任せて俺達も適当に食べるとしよう。
「本部長の話、どこまで進んでるんですか?」
「詳しくは私も知らない部分が多いですね。各都道府県に置く事、本部長の基準は中位である事、それ以外は政府としてはガチンコ勝負で決めて元締めはギルドです。官民一体構造を出したのは私なので、いらないちゃちゃは入れられないように元締めとしましたよ。」
宮藤がビール片手に聞いてくるので答えるが、進捗は不明状態。まぁ、エマのお願いもあるし明日千代田に連絡するとしよう。しかし、専属のネゴシエーターと言う事だが普段は何をしているのだろう?元々公安の室長だしそっちの方を重点的に仕事してるのだろうか?百貨店で仕事したりネゴシエーターしたりと、フットワークが軽くないと務まらないだろうな。
「なんだかんだで終わりも見えだしましたね。早い組は30階層なので、残り5階層。順次卒業ですか?」
「悩み所なんですよね・・・。お代わりされても困るし、各方面からは今もですけど、派遣要請が結構来てますから。宮藤さん達はうちの職員と明言しているので、早々指名はないですが兵藤さん達は自衛隊の拠点作りの資材集めだったり教育。赤峰さんなんかは警察方面での教育・・・。」
「どこもかしこも人材不足ですね・・・。35階層を目標にするのを変えますか?奥に行った感じ30階層を越えれば、後はどうにかなると思いますけど。」
いなかった中位が出始めて強さを見て、橘の鑑定が犬に通用する事を考えると、目標階層の繰り下げもありと言えばありである。まぁ、至っていないメンバーを残して本部長としての、教育ノウハウを現場で養うというのも1つの訓練か。実際俺も手探りでここまで来たし、三人寄れば文殊の知恵。多くのケースを体験出来ればそれだけ本人の成長にもなる。
ん〜、教育の席だけ残してやっぱり外遊コースかな。民間の最高到達階層を見て変えるにしても、情報がなさ過ぎる。地元は20階層までサバイバーが潜ってたけど、それ以外何も知らされてないしな。しかし、その辺りをウロウロしているなら、そろそろ教育者以外からも中位が出始める?
奥に行けば至れると言うモノでもないが、進むなら相応の力が求められる。ここいらで誰か出ていれば目標設定を変える指標としても、いいかもしれないのだが・・・。何にせよ話し合ってからだな。本人の意向もあるだろうし。
「明日千代田さんに会おうかと思っています。話はそこからですね。参加メンバーも奥まで行って力を付けたい人もいれば、自分の組織に引っ張りだこの人もいますから。井口さんなんて鋳物師が出たものだから自衛隊のみならず政府関係でも連れ去られてますし・・・。」
法改正の効力は凄まじく、理解を求められるにしても複製出来る鋳物師は、休む暇なく物品の説明を聞かされまくっている。本人も回復薬漬けだー!と空元気に叫んでいた。昔のCMではないが24時間闘えますか?状態だな・・・。ストライキならまだしも、スィーパーの暴動とか考えたくないので、その辺りも釘刺しとこ。
回復薬様々で労働時間はうなぎ登りだが、仕事だけが生き甲斐でもないし、もう少し労働基準法を守ってもらおう。ゲート開通して激動の時代に突入しているのは分かるが、下手をすれば国内でスィーパーの権利を主張しての労働争議とか面倒だ。しかし、もしかするとうちのメンバーだけ使い回されてるとかないよな?最近は週休2日制でゲートをウロウロして、必要なら外遊してもらってるけど・・・。
「宮藤さんはちゃんと休んでますよね?」
「書類と法律系は3人で手分けして、クロエさんも手伝ってくれるのでそこまで大変ではないですね。気分転換はゲートで出来るし、多分休んでますよ?休みの時はメンバーと買い物とか行きますし。」
朗らかに言っているが、それってワーカーホリックなのでは?完全オフでゲートから離れる事は無いのだろうか?多分、買い物って次のゲート行き用の装備品とか食べ物だろうし。また、どこかで休暇を作って全体的にリフレッシュでもしてもらわないと・・・。いや、前の休暇の時も潜って刻印消し飛ばされてたよな・・・。一度地元に強制送還するとか?してもゲートはあるけど・・・。
「薬ばかり飲んで仕事せず、どこかでゲートから離れて下さいね?」
「そうは思うんですけど、イメージが浮かぶと試したくなってしまって・・・。まぁ、駐屯地の祭りでうちにも参加要請が来てるので、そこでまとめて休みますよ。焼きそば用のトーチ要員にでもなってね。」
手から火の玉を出しているが、焼きそばの屋台を出すのは確定なのだろうか?そもそも、要請自体初耳なのだが・・・。まぁ、装備品にしろ車両にしろ好き勝手使わせて貰ってるので、屋台を出すくらいは問題ないが。
「初耳なんですが、そんな要請ありました?出店出してくれって事ですか?」
「遥さんに伝えましたよ?屋台やるんで給仕とかたまに料理をしてもらいたいとか。日田焼きそばをメインに唐揚げととり天出す予定です。」
「まぁ、そのくらいなら大丈夫ですね。独り身の時は自炊してましたから。」
豚肉細く切って太いネギと混ぜて焼く。こっちに来て思うのだが、唐揚げにマヨネーズはイマイチ合わない。そこは好みなので何とも言えないが、やるなら前日から漬け込んだものがいいな。出す料理も全体的に作り置きが効くので、当日もそこまで忙しくないだろうし、規模は知らないが昔所属していた時はそこまで人も来ないし、目玉も装備品の展示とかヘリ飛ばすとか戦車の試乗体験とかだったので、当日はゆっくりできると思う。
「大井さんという人から給仕の依頼があったので、クロエさんはそこもお願いしますよ。まぁ給仕は女性メンバー全員への依頼ですが。」
「・・・、私服ですよね?」
「さぁ?衣類は清水さん達が、遥さんに依頼して用意するそうですよ。」
「絶対ろくな衣装じゃねぇな・・・。断る事は?」
変なもん着せられる。いや、遥に言えば大人しい衣装で済む?まて、その前に千代田を通していない依頼なら・・・、駄目だ。個人への要請でなく、講習会メンバーに対する依頼なので駐屯地を使わせて貰ってる+自衛隊メンバーがいるので個人で断れない。
「してくれたら防衛装備庁が開発した、新型バイクをくれるそうですよ?」
「新型バイク?」
「クリスタルリアクターで稼働する半永続稼働バイク。山岳地帯をものともせずに、最高速度は700km/h。基本的にスィーパーが使う前提のモンスターバイクですね。大きさはクロエさんの愛車とおなじくらいだとか。それを遥さんにもくれるそうです。」
買収だ!大井は悪い奴ではない。要求するなら代価をくれる。それが今回はバイクであり、遥と俺へのプレゼント。宮藤が指輪から資料を出して見せてくれるが、新型でゴツくて遥の好きそうなデザイン。俺の所に案件を持ってきても突っぱねられると分かったから、娘の所に持ってくるとは・・・。まぁ、休学してもらった恩もあるし、メンバーのサポートも頑張ってくれているのでやるとしよう。
「来週末でしたよね、お祭り。」
「ええ、それなので聞いていると思ったのですが・・・。」
「多分、言い忘れでしょう。きっと・・・、うん。・・・衣装に口を挟む前に作り上げて、当日はいどうぞ作戦とかでは・・・、ないと思いたいな。」
やるのはいいが、着るものはせめて心の準備くらいさせてほしい。そりゃあ、この身体になってから色々コスプレさせられたよ?だが、どれもこれも必要に迫られたからであって、普通の服でいいんだよ。迷彩服は流石に黒岩辺りが文句言いそうなので、普通にスーツとかでさ。
宮藤と話、料理とお酒を楽しんだ帰り。代行運転でホテルまで帰り着いてエマと別れて部屋へ。最後の方は兵藤と日本酒を飲んでいたが、明日エマは大丈夫だろうか?足取りも少しふらついていたが・・・。まぁ、それはいいとしてお酒を飲んで気持ち良くなっている遥よ。ちょっと面を貸してもらおうか。
「遥、宮藤さんから聞きました。多くは聞かないが、着るものはどうなってる?」
「・・・、そこからバレたかぁ。いやね、お母さんからも可愛い服着た写真の催促がありまして・・・。何時もブラウスにタイトスカートじゃお父さんの可愛さを知らしめられないと・・・。」
妻よ・・・、毎日テレビ電話もしてるんだから、いいだろう?2人で泊まった時はまぁ・・・、お互いに色々着てみたが・・・。女性物の服への理解が足りないと体操服とか・・・。うっ!頭が・・・。
「そんなもん知らしめんでいいよ・・・。はぁ、バイク貰うのは決定してる?」
「してる。カッコいいよね、あのバイク。時速700km/hとかギネスだよ、ギネス。早く乗りたいなぁ。お父さんのゴスロリにも映えそうだし。そうそう、お祭りの衣装はメイ・・・。」
どうやら遥は既に籠絡済みの様だ。売り渡されたのは俺の恥じらい。確かにあのバイクは格好良かった。大きいタイヤに黒いボディ。山岳地帯だろうと余裕で、走れそうなタフネスを備えつつ、全体的に流線型でまとめて近未来感がある。しかし、ポスターやチアのせいで、コスプレに抵抗が無いと思われているのだろうか?仕方ない、対外的に見て女性なので諦めよう。しかし、着る服の指定くらいは許されるよな?
「そんなもん着らんよ。せめて・・・、そう!和装!和装ならまだ着る!他のメンバーはミニスカメイドにでもしてやれ。遥は当然分かるよね?」
遥が手にしていた衣類デザイン用のスケッチブックが落ちてページがあらわになる。うわぁ、これ着せられる予定だったの?あっぶねぇ。知らなかったら当日渡されて強制的に着せられたと思うとゾッとする。
「シャワー上がりましたけど、ミニスカメイド?ツカサが着るんですか?犯罪を増長するのでやめて下さいね?着なくても似合うのは分かってますから。」
シャワーから上がって湯気を漂わせる望田が登場して、はいはいわかってますよといった感じて話しているが、多分望田も一枚噛んでいるのだろう?エマはまぁ、金髪碧眼なのでクラシックメイドスタイルでいいとして、他のメンバーは極刑である。
「違うカオリが、カオリ達がミニスカメイドだ!私は和装で出撃する。」
「ちょっ!年齢!年齢的考慮を要求します!」
「却下!年齢的考慮なら私はそんなもの着れない。中身云々を言うのはもうやめる。しかし、年齢を出すなら年齢を出した者に言い負かされる事を覚悟しなさい。私は戸籍上も年齢はイジってない。」
「がっ!外見的年齢は!」
「さて?何の事でしょう?エマ曰く私は美魔女らしいので、魔女よろしく若く見えるだけです。遥も当然着る事。」
遥が青い顔になり、望田が膝から崩れる。悪いが望田Pプロデュースでアイドルデビューはしてない一般人なのだよ。周りもみんなミニスカメイド服ならきっと何も怖くないさ。そんな話をした翌朝、メンバー全員にミニスカメイド服装備でのお祭り参加を言い渡し、阿鼻叫喚の中メンバーをゲートへ送り出す。エマは日本酒でグロッキーだったが、回復薬を飲ませたので大丈夫だろう。今日は宮藤に付いて貰って魔術師関連のお勉強である。
残った俺はと言うと千代田に連絡を入れて、都内某所の喫茶店へ。朝イチの電話だったがすぐに出て、トントン拍子に話し合いとなったが、今日の予定とか良かったのだろうか?千代田への謎が深まる。そんな事を考えながら、喫茶店の奥でアイスコーヒーを飲みながら一服。前は全面禁煙の店が多かったが、最近は分煙思考の店が増えたおかげで店内でも吸える。
「お待たせしました、話したい事とは?」
「まぁ、注文をどうぞ。色々話したいですが、まずはコレを。借りているカメラですが、エマが米国へ映像データを送信をしたいそうです。私の指定としては、中層のモンスター部分はカットを考えています。」
千代田が席について注文してから話し出す。送るならエマの成果だけとし、犬の部分を送るのは時期尚早だと思う。ガーディアンの動画だけでも割と色々反応があったようで、テレビでもネットでもモンスター持ち出しは厳禁と言う風潮が高まっている。それはいい事なのだが、今度は逆にあんなのがゲートの奥に行ったら襲ってくるのでは?と言う憶測が飛び交い出した。
実際奥に行けば行くほどヤバいのは確かなのだが、それで全く中に入らなくなっても困る。それを考えると、メンバー以外の人達から中位が出るくらいの時期が公開するにはベストだろう。恐怖だけが先行されても困る。しかし、そうなると35階層以降を潜って中層を明確にしないといけないな。
「前提としてですが、中層のモンスターが撮影されているのですか?」
「うちの飼い犬に秋葉原で倒した中層のモンスターの像を被せました。多少、ディティールは違いますが、概ね同じです。」
「分かりました、内容を精査してからデータが出来たら渡しましょう。」
カメラを手に取り、鞄にしまおうとする千代田の左手の手首を掴む。力は入れてないはずだが顔を顰めた。触られるのが嫌だったのだろうか?そんな事はなかったと思うのだが・・・。まぁ、それはいいとして、内容的には気をつけてもらわないと困る。
「映像では大丈夫だと思いますが、中々ショッキングです。見る際は一応、何人かで見てください。」
「1人で見ると危ないと?」
「ん〜、相対しない限りは大丈夫だと思いますが念の為です。それと、中層のモンスターにリンクしますが、民間の最高到達階層と中位が誕生したかはわかりますか?」
分かれば指標の1つに出来るが、到達階層は自己申告だしモンスター討伐ではなくトレジャーハントだと毛色が変わってくる。しかし、トレジャーハントでもモンスターとは出くわすので、一応の指標になる。まぁ、本当に知りたいのは中位の方なのだが・・・。
「最高は国内だと25階層とされています。行った人間達に聞き取りをした所、講習会メンバーの証言するモンスターとも符合しています。まぁ、騙りだと言われればそれまでですが、確度は高いでしょう。」
「なにか根拠があると?」
「階層移動アイテムというものをご存知ですか?」
知りはしないがイメージは出来る。多分、何階層分か上へ行けるのだろう。進むも戻るもゲートの中ではゲートを探さないといけない。階層措定は最初のゲートのみ。なら、移動アイテムはあると攻略には役立つだろう。
「知りません、それで攻略していると?」
「ええ、鑑定もしてありますが5階層分上へ行けるそうです。所有者のパーティーはそれを使い、内部探索とモンスター討伐をしているそうです。そして、本人達は退出アイテムがあるはずとし、それの発見を目標に探索しているそうです。」
・・・、2つ持ってるよ?しかし、アイツ等も退出アイテムじゃなくて上昇装置を作ったのか。確かに、奥に挑んで無理だと判断した時に、近くにゲートがなければ全滅の可能性がある。それなら、攻略出来た階層に任意で戻れるのは保険になる。鋳物師辺りが量産してくれないかな。5階層分なら短い階層を丸々スキップ出来る計算だし。
「量産は?出来ればかなり安全に潜れますよ?」
「今の所成功していません。解析するにしても鑑定師と鍛冶師、量産に鋳物師とそれ相応の職とイメージが求められる。それに、所有者もゲートに入る関係上、おいそれとは貸し出してくれません。」
何処の誰とは知らないが、移動アイテムは量産したいな。退出アイテムは橘が鑑定してくれたが、何度も使った井口でさえまったく理解出来ないと言うし。本人達は退出アイテムを探しているようだが、なんでわざわざそんなモノを探しているのだろう?
「探している理由はわかりますか?分かるなら知りたい。」
「本人達が話さないので、我々としても無理には聞いていません。それと、海外は30階層まで行っているようです。本人達の話だけなので、確証はありませんが。」
本当かは分からないが、海外は先を目指しているようだ。エマの悲痛な感じからすると、それ相応の代償は払っているのだろう。しかし、そこまで行っているなら、民間中位は海外が先行かな?別に競っている訳では無いが、上が国力を考えた時、中位の存在は喉から手が出るほど欲しいだろう。
「了解しました。それとスィーパーと言うか、働く人の労働環境にはかなり配慮してください。回復薬漬けで24時間戦っていると暴動がおきますよ?うちのメンバーもかなり使い回されていますし。」
「激動の幕開けなので、政府も民間もワーカーホリックだらけですよ。薬さえ飲めば健康で寝ずに働けますから。国民性と言うモノもありますが、取り分け学者や研究に携わる者達は休みよりも、研究が面白くて仕方ないといった感じですね。逆に無理に休ませると怒りだします。」
千代田が首を竦めて返す。多分、これから先も二分化されて交わる事なく進むんだろうな・・・。何方かといえば俺は働きたくない方の人間だが、仕事=趣味だと今の世の中面白くて仕方ないのかもしれない。防衛装備庁だってクリスタルリアクターバイクなんて代物を早々に作り上げるくらいだし。これは・・・、口出ししない方がいいのかな?休む人は休み、仕事したい人は仕事する的な?
「まぁ、個人の価値観に口は出しませんが、本部長としては休めと明言しておきます。千代田さんもネゴシエーター以外なんの仕事してるか知りませんが、ちゃんと休んでくださいよ?百貨店も大変でしょう?」
「大丈夫ですよ、栄転して民間スィーパー会社の経理になりました。ダミーの幽霊企業なので、暇はあります。娘の授業参観にも行きましたし。」
強面だがいいパパはしているようだ。ダミー会社って何をしているのだろうか?結局の所は政府の使いっ走りと言う事に変わりはないだろうが、スィーパーの文字が入るならお互いに要請も出しやすいからいいのかな?
「分かりました、立ち位置は変わりませんよね?」
「ええ、千代田の室長が変わったので引継ぎが終わり次第、私の仕事はネゴシエーターほぼ一本になります。」
「なる程、なら来週末駐屯地でお祭りがあるんで来てください。焼きそばと唐揚げ奢りますよ。」
「ふむ、クロエの所は唐揚げが有名でしたね。ご相伴に預かりましょう。今回の話はそれだけですか?」
俺も終わりとしたいが、まだ一つ残っている。オフレコなので、後は本人達次第の話。話せば、政府も警察も自衛隊も喜びそうな話。
「オフレコですが、最後に設定階層の話です。現状を見ると中位も誕生し、他のメンバーも取っ掛かりは出来ている。なので、席だけ残して中位は卒業扱いでもいいかと思っています。昨日宮藤さんと話した感じでも、同じ様な印象でした。」
「それは・・・、どこも喜ぶ話ですが、いいのですか?」
喜ぶだろうな。どの組織もやりたい事は多い。警察ならスィーパー犯罪者への早急な対応力の下地作り、自衛隊なら内部調査と国外への牽制。政府は両方が育てば左団扇で寝ていられる。
「確認も何も無いので、本人達の意向次第です。どの道本部長になれば教育もしないといけないので。」
「その話は持ち帰って、関係各所と話しましょう。今の話を受けた感じだと、教育機関への出向がベターかも知れませんね。或いは、スィーパーを育ててもらってもいい。」
千代田はブツブツ言っているが、本人としても何かしらの構想があるようだ。本人もバリバリの武闘派なので、その当たりは何かあるのだろう。
「そう言えば、加納君は元気ですか?」
「加納さん?元気ですよ。夏場は氷で涼ませて貰いました。彼女がどうかしましまか?」
「いえ、前にチラリと資料を見たもので不意に名前が出ました。では、そろそろ。」
「ええ、お祭り来てくださいね。亜沙美ちゃんと奥さんも連れて。」
喫茶店を出て久々に1人で街中へ魔法を使っているのでバレることはない。どこぞの企業がハブを完成させたと聞いたが、最近スマホの通信がいいのもそのおかげだろうか?ついこの間まではロボット掃除機スゲーと思っていたが、色々すっ飛ばして車が空を飛びそうだ。現にくれるバイクはリアクター出力でジャンプするらしい。悪路走行を機動力でカバーする為にタイヤも特殊な物らしいし、そのうちゲート内がマッドマックス状態にならないか心配ではある。
何なら1人SFにかっ飛んでいって、メカニカルスーツで空飛んでるやつもいるし・・・。もしかして、あのスーツ作成時のノウハウが色々ばら撒かれている?まぁ、何をするにしても1人では限界もあるし、そのうちスポーツ選手宜しく企業広告スィーパーとかも出てくるんだろうな。
バラエティー豊かな人々を眺めながら街を散策していると、駐車場が減った代わりに、指輪から車を出す人が増えた。それはスィーパーっぽい人ならず、スーツ着たサラリーマン風の人まで。進んできた道だが、多分、今からゲート撤廃なんて事は出来ないだろうな。元々出来ないけど、仮に今もゲートのない日常だったなら、技術革新はなく歩みはもっと遅かっただろう。
そんな街中を歩いて周り、夕方にはホテルへ帰る。まだ誰も帰っていなかったので、適当にシャワーを浴びてからキセルで一服。そろそろルームサービスでも頼もうかと思っていると、部屋の扉が開きゲッソリした3人が入ってきた。そんなに今日はハードだったのだろうか?
「お帰り、なんか変なモンスターでも出た?」
「・・・、ファースト・・・。朝言ったミニスカメイドとは事実カ?命令には従うが、年齢的な考慮ヲ・・・。あのデザインは・・・。」
エマが死んだ目をしながら聞いてくる。エマの実年齢は40手前。外見はともかく、精神的な傷は深いようだ。なら、残りの二人は何をそんなにゲッソリしているのだろう?
「痩せなきゃ・・・。あのデザインはクロエの体型に合わせたデザインだから腰回りを引き締めなきゃ・・・。」
「私は若返りを!薬を探す旅に出る!」
「・・・、同行しよウ。」
「エマはクラシックスタイルでいいですよ?あのカソックみたいなやつでロングスカートの。」
「カソック?黒鍵?第7聖典・・・、違ウ。しかし、シスターだと思えば・・・。許されタ?」
許されたかは知らんが、まぁ、エマはとばっちりなので着ても着なくてもどちらでもいい。しかし、黙っていたメンバーには頑張って着れるようになってもらおう。




