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街中ダンジョン  作者: フィノ


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79話 その夜 挿絵あり

 ホテルについてそれぞれの部屋に分かれる。エマは勘違いしているようだが、その件はそのまま勘違いさせたままでいいだろう。下手にあれが本物の中層の魔物その物だとバレるとあらぬ疑惑が持ち上がる。LINEで今回の件について、エマには勘違いさせたままにする旨を伝え、本人の前では余り話題に挙げないようにする事を伝える。


「スレイシス氏が人類初の不死を体現しましたね。いゃぁ、歴史的だ。」


「本当に不死なんですかね?ゲートの薬といえど、証拠がないので私は少し疑っていますよ。」


「まぁ、本人は不死を使って映画を撮るとかの構想もあるようなので、今後に期待ですね。では、次の日のニュースを・・・。」


 ビッグネームな富豪があの薬は買ったのか。人生楽しそうだが、アイツ等が素直な薬を作るとはどうしても思えないし、わざわざ分けるならそれ相応のリスクもあるだろう。まぁ、今はそんな事より自分達の事である。テレビを消して思考を再開する。


 勘違いしているにしろ、犬の姿は中々に刺激的だっただろう。エマが真実を知るにしてもまだ早い。彼女は駆け足するように育っているが、それでもまだ足りない部分があるし、こちらとしても助言しきれない部分もある。


 国にしろ環境にしろ、習った平均的な学力や興味の対象。人一人を理解するのは難しく、人種と国が違えばそれは宇宙人を理解しろと言っているようなモノ。しかし、思念制作群体か。イメージで伝え多数いようと結合し1つの生物のように行動するモノ。確かに、ゲートの職に就いて事を成すルールに乗っ取るなら、これほど強いものもないだろう。


 話した感じだけならば、彼等は多様性を容認する器はある。言語を理解して話した時の口調が、バラバラだったのもそれを示している。ふむ、彼等を1つの星に住む生物の総体として考えるなら、さしずめ彼等も大本は地球上と同じか。単純に言語がイメージに置き換わり、身体を抜け出して思念体となり、作る事にのみ尽力を注ぐそんな未来の姿・・・。しかし、多様性を認めるなら、離脱者はいなかったのだろうか?いくら思念体とはいえ、群体なら個の自由は・・・。


「ツカサ聞いていいですか?」


 部屋でシャワーを浴びた後、ルームサービスで頼んだウイスキーをチビチビ飲んでいると、思い詰めたような望田が口を開いた。遥は芽衣の所に行っていて遅くなると聞いている。彼女もアレを見て衝撃を受けているのだろう。モンスターと戦おうとも、元々は皆ただの人。恐れもすれば恐怖もある。それが命の危険があればなおさらの事。


「なんだい?バイトの事だとは思うけど。」


「まぁ、それです。ツカサは・・・、なんでアレに勝てたんですか?EXTRA職としての自信・・・、ですか?」


 グラスに氷を準備して対面の椅子に座り口を開く。彼女は日本酒派だったが、氷とグラスを準備したのなら、今日はウイスキーでいいのだろう。トクトクトクとグラスの半分までお酌で注いであげる。琥珀色の液体の中でカランと氷の音がなる。


「ないよ、そんなものは。そもそも、普通に生きていればモンスターなんて見ないし、ゲートがなければ空想の産物でしかない。」


 日常的にモンスターを狩る様な世界ならそれは、常識としてモンスターは狩るものと考えられる。しかし、この世界にモンスターは本来いない。肉食獣なんかはいるが、生憎ソレの脅威に怯えるような生活はしていないし、狩る事もない。もし見るなら、それは、動物園の檻の中で安全は確保されている。


「なら・・・、どうして倒せたんですか?優劣はないと言いますけど、私もエマさんと一緒でどうしても考えてしまうんです。S職はバイクだと言ってたけど、その成長速度で成長してもバイトには勝てないんじゃないかって・・・。」


 口を湿らせるようにウイスキーを舐め、望田が心の内を吐露する。彼女は強かろうと下位、少し無茶をさせすぎてしまったのだろう。いつも明るくノリがよく、なんだかんだで彼女だから知らず知らずのうちに甘えていたのかも知れない。


「普通の事なんじゃないかな、そう思うのは。」


 訳の分からん状況に置かれて、少しは説明をされるが投げっぱなしのように自身で考える事を強いられる。助けを求めたいが、背中は押してもらえても、結局は自分でするしかない。自分でしか強さは得られない、しかし、答えを誰かに求めても答えは誰かの答えでしかない。


「えっ?でも・・・。」


「私は元はといえばモブのおっさん。漫画なんかで言えば背景か或いはそれにもならない様な平凡な人間だよ。今でこそこうして持ち上げられてるけどね。格闘技の経験もなければ、大学にも行ってないからそんなに頭もよくない。平々凡々、妻と子供2人に飼い猫のいるそんなどこにでもいる一般人、それが私だよ。」


 自分で言って思うが俺という人間は平凡だ。それは他人も認め、俺も認めている。しかし、特別でしか勝てないモノが現れたなら、それを打ち倒すのは結局平凡な者だ。突出しないかわりに、その他大勢と同じ様に考える事ができる。人は一人では生きられない、特に俺はそれが出来ない。


「なら、なんで勝てたんですか?」


「ん〜、勝てたというより、勝たなきゃならなかった。の方が正しいかな。身体の秘密の事もあったし、周りで死んだ人達の事もあった。でも、それは私にとって重大な事ではなかった。それよりも大事な事があったからね。」


 目に見えるものは少なく、守れるモノは更に少ない。生きていれば諦めるモノもあるし、取り逃がすモノもある。色々あるがそれでも、絶対に容認できない事柄はある。


「・・・、人類の存亡とか、交渉した責任ですか・・・。大きな使命と責任ですね・・・、私にはそんなもの背負う自信が・・・。」


「いや?責任は別として、人類の存亡はどうでも?そんなもの一人に背負わせるような世界は、遅かれ早かれ滅亡してるよ。人一人はちっぽけで、どんなに手を伸ばそうと全てをすくい上げる事も、掴み取ることもできない。もし、できるという人がいればそれは、きっと手の中の世界で生きてる人だね。」


 傲慢が悪い訳では無い。傲慢なのはそれになるだけの自負があり自身があるから。それを得る為に、本人はそれだけの努力を積み、挫折を味わいそれでも進んだ末に傲慢になったのだ。挫折のない傲慢は独りよがりであって、傲慢ではない。真に傲慢な者は折れず曲がらず自身を貫くものである。


 自身に自負に経験に挫折に、チャンスをモノにする行動力に、目的を見失わない心。悪と言われようが、誰かに罵られようが構わず歩む事の出来る心。そんな人を見たなら傲慢だが送られる言葉はきっと変わるだろう。


「・・・、なら、なんなんですかその大事な事って・・・。」


「ただいまを伝えに帰る事・・・。誰かがするであろう仕事の誰かとは、自分で有っても問題ない。でも、ただいまを伝えるのは誰かじゃなくて、必ず自分じゃないと。」


「そんな事の為に、勝ったんですか?」


「あぁ、勝ったね。大切な人達にただいまを言って安心してもらう。その為に勝った。だから、ちゃんとただいまを聞いて安心しただろ?」


 小さな約束でも約束は約束。大それた約束は重荷になるが些細な約束は適度に縛る()になる。だから、色々な人とあの時小さな約束をした。兵藤ともした。生きて帰る約束はそれくらいで十分だ。戦場に必ずはない、だからこその小さな約束を。


「それだけで・・・、それ程強くなれるものなんですか?」


「なれるんじゃない?私の宝物は決まってる。なら、それは死に物狂いで守るに値する。うん、ならたとえモンスターだろうと、どんな手段を使ってでも生きている限り倒すよ。」


「奥さん好きですもんね、ツカサは。」


 異な事をいう。なんだかイジケたような顔をしているが、望田とも約束した。それに、彼女には守ると約束したのだ。大切な人でなければそんな約束はしない。あぁ、前に執着の事を考えたが、大きな理由はこの約束か。無責任な人間ではないが、確かに執着に値する約束ではある。


「ん?カオリも宝物の1人だよ?ちゃんと約束を守ってただいまは伝えたじゃないか?」


「〜〜〜〜!!!!もうっ!もうっ!!・・・、抱きしめてもらっていいですか?怖いんで。」


「・・・、いいよ、泣くなら胸くらい貸そう。」


  挿絵(By みてみん)


 恐怖もあれば恐れもある。ただ、それは何に対して感じるかで対処も変わる。身体は別として父親をやっているのだ。不安な子に胸を貸して、泣き止むまで優しく撫でるくらいは出来る。


 どれくらいそうしていただろう?望田は安心したのか寝てしまった。煙を使いベッドに起こさないように寝かせて、部屋を少し暗くして残った酒を楽しむ。氷は全て溶けてしまったのでウイスキーのストレート。多少は酔えるがすぐに巻き戻るので、酩酊感はほぼない。


「・・・、お父さん浮気じゃないよね?」


「うぉ!遥か。何の話だ?」


「いや、帰ったら望田さんと抱き合ってたんで、気不味くてそのまま時間を潰して帰ってきた娘ですが何か?」


 娘が変な疑いを持ったらしい・・・。やめてほしい、中身は冴えないモブのおっさんだぞ?今は美少女(仮)になってしまったが・・・。能力は別として取り合うほどの人物でもあるまいし、それに俺の1番は家族であり妻だ。


「変な疑いは捨てなさい。私は莉菜一筋、家族一筋。守るモノは増えるかもしれないけど、そこは変わらないよ。さて、遥はどうする?風呂がまだならシャワー浴びてもいいし、飲むならグラスはあるけど。」


「ん〜、娘なのでたまには抱き締めて貰ってから寝ます。してくれないと、お母さんに報告です。」


「変な脅しはいらないよ。ふむ、久々だが背が伸びたな。後、もう少し食え。痩せ過ぎだ。」


「それは、お父さんが縮んだからそう見えるだけ。ありがとう、お休みなさい。」


 縮んだから・・・、ね。まぁ、体格的には小中学生くらいなので仕方ないか。俺もこの一杯を飲んだら寝よう。そして、一杯飲んで寝た次の日、それぞれの準備を終えた頃にエマが来て駐屯地へ向けて出発する。


「ファースト、色々考えたが今は指示に従おウ。そこで相談なのだガ、撮影していた動画を本国に送れないだろうカ?」


 車に乗り込むとエマそんな事を言い出した。確かにいい資料ではある。しかし、これもまた俺の一存では決められないし、犬の部分は送りたくない。仮に送るなら森での戦闘までの部分だろう。あれなら、個人で許可を出してもいい。


「入ってから森での戦闘までならいいですよ。それ以降は編集があるので、後日千代田さんからという事になります。」


「うぅむ、犬は駄目カ。脅威として知らせたかったガ、許可が出ないなら従おウ。今日の訓練は何をすル?」


 今日の訓練か。やることは2つの罠の反復訓練と他の中位を見る事。米国には中位がいないらしいので、先ずは自身の出来る事を増やすのと、他のメンバーを見て自身の考えとの差異について考えてもらおう。そうすれば、少しは狩人という職に対しての理解が深められると思う。


「とりあえず、朝礼してゲート入って準備運動がてらに走ってからですね。そこから反復か見学兼意見交換です。何にせよ職と自身への理解を深めないといけない。」


「自分と向き合うカ・・・、貰った煙はどれくらい使えル?」


「えっ?エマさんなんか貰ったんですか?」


 運転していた望田が話に食いついてきた。遥はエマの横だがバックミラーで見ると、なんかよこせと顔に顔に書いてある。ん〜、渡して悪いものじゃないが、早々ポンポンあげたいものでもない。まぁ、遥については新しい素材として渡していいのだが・・・。


「魔法の素?を貰っタ?付けられた?ダ。中々凄いゾ。」


 エマがドヤ顔で話していて、貰ってない2人はジト目で俺を見てくる。いや、望田よ脇見運転はやめてくれ。事故りそうになったらどうにか出来るが、先ずは事故を起こさない事が大切だ。そんな視線を受けながら駐屯地で朝礼を済ませてゲートへ。


 20階層で適当に走りながらモンスターを狩って一息。エマからすれば目新しい光景で、そもそもメンバー全員と同時に潜るのはこれが初。神妙な顔でランニング開始したが、メンバーの方は軽く雑談しながら走り、モンスターを発見次第タコ殴りにしているので、見ている方はチグハグな印象を受ける。


「思うのだガ、彼らにとってこの階層とはどういう位置づけなのダ?」


「目標の足がかりですね。講習の最終目標が35階層と言うのはご存知でしょう?そこに行く為・・・、今は遊び場?まぁ、35階層へ行く前に卒業しそうな方もいますけどね。中位の方は既に本部長の椅子を得ていますし、放置でも勝手に潜って35階層までなら行けるでしょう。講習の大元は中位に至る事と言うのもありますし。」


「ふ厶、35階層の根拠は何だったんダ?」


「単純に私がピクニックで潜った場所です。その先は誰もまだ知りませんし、何があるかもどこからが中層かも分からない。」


「そうカ。新たなアームストロング船長はいつも、勇気の先に一歩を踏み出すのだナ。ファーストはどこまで潜りたいのダ?」


 どこまで潜りたいか?スタンピードの事を考えると、中層は確実として問題は祭壇だな。絶対にアイツ等下層の奥とかに置いてるに違いない。交渉権は貰ったが、来ればしてやるくらいのスタンスだろうし・・・。


「・・・、はぁ、底です。最下層の先の先、ゲートの一番下。そこに多分、色んな人が欲しがってるものがあります。なので、イヤイヤでもまぁ、ソコが目的地になるでしょうね・・・。」


 今ならどうにか出来るが、犬の大群とか相手にしたくないなぁ・・・。しかし、行かない事には、進まない事には何も始まらない。


『嬉しいわぁ、やる気はあったのね?』


『まぁ、祭壇の発見は俺としてもしておきたい。逆を言えば、それが中層にあるなら、俺はそこまででいい。底に用事はないしな。』


『そうねぇ、ないといいわねぇ。』


『含みのある言い方はよせ、行くなら道連れ・・・、お前は行きたがってたから願ったり叶ったりか・・・。』


「急に黙ってどうしタ?腹が減ったか食いしん坊?あれだけ食べたのにまだ足りないカ卑しん坊?」


 此奴は講師の事を舐めているのだろうか?先に対スィーパー訓練で泣かせてやろうか?いや、落ち着け。米兵の口が悪いのは常識だ。魔女が含みのある言い方をするのが悪い。しかしまぁ、突っ立ってても暇だろう。罠の訓練の相手をしてやろう。


「エマ、お腹が空きました。貴女を食べるので対処してください。出来ないと・・・、どうなるでしょうね?」


「は?」


 煙をプカリ。先手を貰うとして、後は鏡打ちでもするかな。エマの背後から、木槌の形をした煙を振り子のように振り下ろす。風圧を感じたのか、とっさに左横に飛ぶがそこにも罠は設置済み。トラバサミの様に巻き付く煙と、右から左に飛ぶ矢の煙。


「まテ!当たったらどうなル!?」


「さぁ?魔法なので豚とかネズミになるんじゃないですか?ほらほら、どんどん行きますよ?」


 エマは飛来した矢を手から出したトラバサミでカチンと挟みつつ、足に絡まった煙を蹴って壊す。そのまま走り出し、2度手を振るう。さて、罠は2個設置かな?どこに設置したかは見えないが、あの動作は設置合図。もう少し理解が進めば、動作もなくなるだろう。


 走ったエマを見る為に、身体を動かせば背後からペンデュラム。鏡打ちするつもりなので、同じ様にエマの背後からペンデュラムを降らせる。さて、次は何かな?受け止められるが、それでは訓練にならない。彼女が走るので反対に走り出すと、反応式のトラバサミがカチンと、食いつこうとするのでジャンプして躱すか。本来なら、踏んでテコの原理で食い付くものだが、能力で出しているので細部に拘らないとこんな事もできる。


 お返しにエマの走る先にトラバサミを煙で作るが余裕で躱される。そりゃ、見えてたら躱せるだろう、ドヤ顔しているのが若干ウザい。しかし、ここは訓練、冷静に冷静に。


「どうしタ?トラップはおしまいカ?」


「・・・、よそ見厳禁。」


 コッチを見ては話している先に見えない壁を設置すると、面白いようにブチ当たった。いや、大人気ないが仕方ない。天狗になられても困るのだよ。


「はい、今あった事を400字詰原稿用紙40枚に書いて明日提出する事。」


「NO〜!!」


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