#048 後悔と目指すもの
夢を見た。
ああ⋯⋯これはまた同じ夢だとわかるくらい、あの頃何度も見た夢だった。
県大会の決勝でラスト5秒、そして2点差の状況。
チームの期待を乗せたパスが私に届いた。
私はアウトサイドからそのシュートを撃った。
⋯⋯しかし外れて私のチームは負けたのだった。
チームのみんなは何も言わなかった。
私が居なければそもそも決勝までこれなかったのだから。
だから私がシュートを外して試合に負けたとしても何も言わないのだ。
私は負けたくなかったからみんなに酷い事も言ったりした。
しかしそれでもチームメイトは私の事を責めようとはしない。
それがみんなの優しさなのかただの無関心だったのか今でもわからない。
だだ思ったことは⋯⋯。
一人だけで登った表彰式で受け取った得点王のトロフィーはやけに重たかった。
その日の試合を最後にバスケット選手、芹沢留美は引退したのだ。
現役復帰から3日が経った。
その日も遅くまで練習して、くたくたになって家に帰った時の事だった。
「留美って今バスケやってんの?」
「ええ、まあ」
そう聞いてきたのはここの家主の真樹奈さんだった。
「それで今週は配信をお休みしてたんだ」
そう言ったのは当然のようにこの家の食卓に着く、この家の合鍵を持つ隣人の映子さんだ。
渡したのは家主の真樹奈さんだからしかたがない。
「留美さんはバスケ部に助っ人を頼まれたんだよ」
そう私に代わって説明してくれたのはこの家の万能家政夫こと、アリスケ君だ。
今日も彼の作った夕飯は美味しい⋯⋯。
私の疲れ切った体にしみこんでくる。
「週末の試合までなので、ご心配かけて申し訳ありません」
「まあ留美の好きにすればいいけど」
さすがにVチューバーをやりながらバスケは無理なので、今週はお休みを貰ったのだ。
「バスケかー『透也のバスケ』とかカッコいいよね!」
映子さんはこう見えてかなりの漫画通だった。
その『透也のバスケ』というのはふだんまったく目立たない主人公の透也君が、バスケで大活躍する親友を支える物語である。
ちょっと透也君とアリスケ君は似ているかもしれない、主に学校では。
「私は透也よりも『ゴゾラ・ダンク』の方が好きかな?」
私の言う『ゴゾラ・ダンク』とは、透也よりも古いバスケ漫画である。
通称ゴゾラと呼ばれる弱小高校の孤高のセンターが主人公で、新戦力として加わった期待のルーキーや、かつて部を辞めた親友がチームに復帰して、一丸となって全国制覇を目指す物語である。
「ああ、それで留美さんの背番号は『14』なんだ」
「⋯⋯そうよ」
バレてる⋯⋯、 その漫画の途中で部に戻ってくる親友の背番号が『14』なのだ。
そりゃ毎日洗濯してくれているアリスケ君が私の背番号を知ってて当然だ。
「なに? 留美あんた、漫画の真似してバスケやってんの?」
「ダメですか?」
「いや、動機は人それぞれだしいいんじゃないの? 私だって漫画読んでて格闘技のファンになったし」
この真樹奈さんの趣味は、相撲やボクシングやプロレスの鑑賞だという。
なんかしっくりくる趣味だと思った。
「いくら漫画の真似とはいっても、ホントに漫画みたいに3Pシュートバシバシ決める留美さんはカッコいいよ」
「⋯⋯ありがと、アリスケ君」
⋯⋯どうやら私の最近の練習風景をこっそり見ているらしい。
気づかなかった、恥ずかしい。
「それに中学での留美さんは『シャープシューター』呼ばれてたんだよ!」
「やめて⋯⋯アリスケ君⋯⋯」
なんだろう⋯⋯黒歴史を暴かれるようなこの恥ずかしさは⋯⋯。
「⋯⋯シャープシューターですって!? この私を差し置いて?」
「ねえさんのはシャープシューターだろ? プロレス技じゃん。 留美さんのはバスケだよ一緒にしないで」
「がーん、アリスケが酷い! 映子慰めて!」
「あー、よしよし⋯⋯うへへ⋯⋯」
ホントに仲良しだなこの二人は⋯⋯。
この二人はお隣さん同士なのにほとんど一緒に真樹奈さんの部屋を使って生活している。
あの完全防音の部屋の中で何が行われているのかは不明だった。
ま⋯⋯いいけど。
「週末の試合は応援に行くからね」
「うん⋯⋯」
⋯⋯ヤバい、嬉しい。
元々アリスケ君に見てもらうために復帰したバスケだけど⋯⋯。
凄い頑張れる気がしてきた。
「私の活躍を見てなさいよね」
「もちろん」
ああ⋯⋯私はなんて不純なんだろう。
せめて練習と試合だけは純粋に頑張ろう。
そう思って練習は続いた──。
「ぜえ⋯⋯ぜえ⋯⋯」
「大丈夫? 芹沢さん?」
「⋯⋯キツい」
しかしやはり私の体力の低下は深刻だった。
このままではフルタイムスタミナは持たないだろう。
「そりゃあれだけ動けばね⋯⋯」
キャプテンもあきれ顔だった。
私はなるべく早く、この部のメンバーの力を知りたかったから全員とマッチアップした。
その結果わかったのは毎日練習してきた彼女たちの地力はそこまで低くは無いという事だった。
私の能力はそれを上回るけど⋯⋯現状は後半までスタミナが持たないと判断した。
これは今週の試合までにどうにかなる問題ではない。
「芹沢さんの得点力は認めるけど、これは作戦が必要ね」
2年生の司令塔の梅沢さんがそう言った。
「⋯⋯つまり、ロースコア作戦ですね」
ようはゆっくり時間をたっぷりと使って試合を進める作戦だ。
その結果点数は取れない。
「その作戦なら芹沢さんの3Pもじわじわ効いてくるし、体力も最後まで持つんじゃないかしら?」
うん⋯⋯確かに戦術的には正しい判断だ。
しかし⋯⋯。
「⋯⋯私、ガンガン点を取らないと調子が出ないタイプだったんです、現役時代は」
そう⋯⋯これが中学時代に私がチームメイトから孤立した原因でもある。
私はとにかく点を取るのが好きだった。
そして点さえ取れれば気分がノってきてドンドンシュートの精度も上がる。
しかしその結果、私を含めてチーム全員が最後まで走り続けるスタミナを要求される結果となったのだ。
私の我儘でチーム全体に厳しいトレーニングを強要してしまったのだ。
その結果が地区大会準優勝で、私の得点王だったのだけど。
周りからは私の得点王の為にチームを犠牲にしたと思われているだろうな⋯⋯。
そして作戦会議になった。
今回私はアリスケ君にいいところを見せるのが目的だけど、バスケ部の目指す勝利とそう目的に差は無い⋯⋯と思う。
アリスケ君の前で出来るだけたくさんシュートを決めたい⋯⋯でも。
『留美さんってパス上手いよね! なんか周りが見えてるって感じでカッコいいし』
そんなアリスケ君の言葉を思い出した。
それは私が体育の授業で流しながらバスケをしていたのを見ていた感想なのだった。
シュートする私、パスする私⋯⋯どっちもカッコいい?
「⋯⋯私をオトリにするという作戦は?」
「どういう作戦?」
私は説明する。
「試合は4クォーターある。 第1クォーターは私が点を取る、そしてらマークも厳しくなると思う、その後の第2第3クォーターは私はパス主体で体力温存で行く⋯⋯というのは?」
「⋯⋯なるほど、その間はロースコアで行くわけね」
「はいそうです。 最後の第4クォーターは後先考えずに全開で行きます⋯⋯これでどうですか?」
私のような部外者がこんな作戦立てるなんて気を悪くしないかな?
「⋯⋯いいわね」
「それで行きましょう!」
キャプテンと司令塔の二人がこの作戦に賛同してくれた。
「私たちも異論は無いです」
1年生トリオも問題ないらしい。
「いいの? 私の都合なのに」
「そんなこと言ったらそもそも芹沢さんに助っ人頼んだの私だし」
そう桜田さんは言ってくれた。
たった5人だけの小さなバスケ部。
私は彼女たちの事が好きになって来た。
勝たせてあげたい⋯⋯そう真剣に思えてきた。
もちろんアリスケ君にカッコいいところを見せたいわけなんだけど⋯⋯。
そのくらいのワガママは許してくれそうだ。
試合まで残り3日。
その日々を私は精いっぱい彼女たちと一緒に練習するのだった。
そして試合当日がやって来た。
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