#259 幕間:お墓参り
俺はこの山奥の寺の息子だ。
いずれは親父の後を継いでこの寺の住職になるだろう。
正直、華やかな都会暮らしに憧れが無いわけではないが⋯⋯この現代日本のインターネットの発展によってこんな田舎でも楽しめる娯楽はいくらでもあるからな。
むしろ今後はこういう田舎暮らしの方が勝ち組かもしれん⋯⋯。
そんな事を考えながら俺はいつもの日課の墓掃除をする。
そしてその中でひとつの墓にふと⋯⋯目が留まった。
霧島家の墓。
そう、その墓石には刻まれている。
この墓が俺にやたらと印象に残っているのはもう誰も墓参りをしなくなった忘れられた墓だという事だった。
あれは4年くらい前だったか?
この墓には最後に夫婦そろって事故死したという遺骨が納められた。
なんでも一家でこの故郷に帰省中にトラックとの正面衝突だったらしい。
1人だけ生き残ったという子供も病院で寝たきりだという⋯⋯。
「⋯⋯無情だ」
この世には神も仏も無いのだろうか?
こんな考えがよぎる俺ははたしてこの寺の跡取りでいいのだろうか?
「まだまだ修行が足りんな⋯⋯」
俺はいつも以上にこの墓石をピカピカに磨きあげたのだった。
そして戻ろうとしたその時だった。
寺に車が入ってきた。
⋯⋯墓参りだろうか?
そう思った通りその車からは数人の男女が降りてきて花を持っている。
その中の花束を抱えた白髪の少女に目が行った。
一瞬外国人かと思ったが顔立ちは日本人だった。
アルビノだろうか? しかしまだこの暑い日差しの中でも日傘などささない元気そうな少女だった。
俺はその一行とすれ違う際に手を合わせる。
「ありがとうございます」
その白い少女の声はとても透き通ってて印象的だった。
そしてなんとなくその一行を目で追うと⋯⋯驚いた!
その人たちが参る墓はなんとさっきまで俺が掃除していた霧島家の墓だったからだ。
俺は思わずそこへと歩みを進める⋯⋯。
「ご苦労様です。 経を読ませていただきましょうか?」
「おねがいします」
その白い少女が答えた。
他にも大人たちは大勢いたのにこの白い少女が自然と中心に立っていた。
⋯⋯まさかな。
しかし俺は雑念を捨ててお経をあげたのだった。
「お父さんお母さん。 今まで来なくてごめんね」
そう花を手向ける白い少女。
この時に俺はこの子が誰なのかはっきりとわかった!
あの生き残ったというこのご家族の子供なのだろう。
しかし親族はもう居ないと聞いていたのだが⋯⋯この人達は誰なんだ?
友人とその家族なのか? それとも⋯⋯引き取ってもらった先の一家なのだろうか?
俺には何もわからない。
だけど⋯⋯この少女が今は幸せそうだという事だけはなんとなく伝わってきた。
そしてお経が終わり⋯⋯。
みんなが手を合わせてお参りが住んだ後に少女が。
「あのお墓⋯⋯いつも綺麗にしててくれてありがとうございます」
「いえ⋯⋯これが私どもの仕事ですので」
報われた気がした。
この現代社会の中、もはや神も仏も信じてなかったのかもしれない。
寺を継ぐのだってなんとなく親の仕事を引き継ぐためだったり金になるからだったりだ。
でも⋯⋯それだけじゃない。
俺の信仰はまだ確かにここにある。
俺はこの時、本当の意味でこの寺を継ぐ決心をした。
こんな日がたまにあるのならこの仕事にも意味はある。
⋯⋯そう思っていたら。
「あの! これ! えっとよくわかんないんだけど4年分というか相場はよくわからないから適当に包んできたんですけど」
そう言ってその少女が差し出してきたのは⋯⋯おそらくお布施だろう。
だろうというのはなんかティッシュ箱でも包んでるのか? という大きさだったからだ。
普通は茶封筒くらいの大きさなんだけどなあ⋯⋯。
「お納めします」
俺はこの場で開封するというような見苦しい真似はしない。
⋯⋯しかし重!?
なんだこれ!?
なんかずっしりとした重量感! 羊羹でも入ってるのかこれ?
俺は内心の動揺を隠してその家族を寺へと招いたのだった。
本堂で親父がきちんとお経をあげて供養する。
その時の俺はあのお布施の中身が気になって雑念だらけだった。
そしてその後の住職である親父とその家族との会話を横で聞いているといろいろとわかって来る。
この白い少女が現在のあの事故から生き残ったという霧島紫音さんだという事だ。
髪の色に関しては事故のショックで白髪になったかららしい⋯⋯可哀そうに怖かったんだろうな。
だがそんな後遺症も感じさせない明るい笑顔だった紫音さんは。
そしてこのご家族は昔のご近所の家族だという。
きっと家族ぐるみの交流のあった一家なのだろう。
「今日は一緒に来てくれてありがとうあっ君」
「いいさこのくらい」
⋯⋯? 少年だよなあ? 学生服だし。
でも可愛い声の男の子だな。
そんな事を考えながら俺はそのご家族を見送るのだった。
「また来年も来ます。 その⋯⋯みんなと一緒に」
「良かったですね紫音さん。 よいめぐり逢いがあって」
「はい。 ⋯⋯その、私の家族⋯⋯⋯⋯ですので」
この4年間に一体どんな出来事があったのか部外者の俺にはわからん。
だけど紫音さんが今笑っている⋯⋯それでいいじゃないか。
そう思いを込めて俺は親父と一緒に紫音さんとそのご家族を見送ったのだった。
⋯⋯そして。
そのあと気になっていたお布施の中身を確認する。
うん⋯⋯われながら銭ゲバだとは思うがこれも親父の教えの寺の大事な仕事なのだ!
だから許してくれ神よ仏よ!
実は内心期待などまったくしてなかった。
なんかやたら重たいお布施だったけど中身はたいした事じゃないことはよくある事だと⋯⋯そう思っていたんだ。
⋯⋯そしたら!?
「うげ!? なんじゃこりゃ! 親父! 親父! 大変だ!」
その中身を見て住職の親父も顔色が変わる。
「⋯⋯1つ、2つ、3つ⋯⋯4つ? 400万円?」
たぶん4年分ということで400万なんだろうな⋯⋯って、そうじゃない!
「ヤクザかなんかなのか⋯⋯あの一家は?」
うん⋯⋯ここの檀家の中には限りなくそのスジに近い親分さんも居るからなあ⋯⋯。
そういうところだとこのくらいのお布施は珍しくもなんともない。
「札束をポンっとか⋯⋯。 少なくとも経済的には不自由して無さそうで、まあいいか」
うん⋯⋯きっと些末なことなんだろう⋯⋯⋯⋯たぶん。
大事なのはあの紫音さんが今でも幸福だというその事実だからだ。
そしてその日のお役目は終わった。
そんな出来事から半年くらいたった頃だった。
俺は寺を継ぐ決意をますます固め修行を続けていた。
しかし短いながらも自分の趣味の時間も大切に過ごしている。
俺も最近の若者らしくパソコンでVチューバーとか見ちゃうのが趣味だった。
『えーとですね。 ここでお知らせです!
なんと今回、吾輩の新作フィギアの発売が決定しました!』
「なんだと! ネーベルちゃんのフィギアの新作だとぉ!?」
これは買わねば⋯⋯。
これまでネーベルのフィギアは何種類も発売されている。
その最初からをコレクションしていることは俺のひそかな自慢だった。
そう俺の自室にはネーベルだけでなく様々なフィギアが所狭しと並んでいた。
最近買ったのはアリスとルーミアの夫婦像である。
いや公式では違うのだが発売までの経緯でファンたちがそう言ってるだけの設定だけどな。
そのフィギア達は俺の普段の仏像磨きのテクニックによっていつも塵ひとつ付いておらん!
とくにネーベルのフィギュアは凹凸が激しく油断しているとすぐに埃が積もるからな⋯⋯アリスと違って!
そしてネーベルの新作フィギアの映像が公開される。
⋯⋯めっちゃ出来がいい!
ヴァンパイアなのにシスター服姿で、これは霊験あらたかな物に違いない!
「定価は⋯⋯4万か。 まあ推しへのお布施に後悔などあるはずがない」
今の俺にはもう迷いは無かった。
俺の信仰はけして間違ってはいないとわかったのだから⋯⋯な。
この世は森羅万象すべてが巡り巡っている。
金も⋯⋯人の絆さえも。
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