#243 赤い眼鏡の2年生
「⋯⋯そういえば、來未ちゃんが来年入学してくるんだったよな?」
「そう言えばそうね」
そう僕は今思い出したことを言う。
「誰ですかそれは?」
「來未ちゃんってのは僕たちヴィアラッテアのVチューバー仲間の『あくみん』の中の人だよ」
「来年私達の高校に入学してくる予定なのよ」
そう留美さんも補足してくれた。
「おお! それではその方もVチューバーで、しかも私の後輩になるんですね!」
うん、たしかにピッタリな人選だった。
「まあまだ入学してないけど」
「⋯⋯それはまあ仕方ありません。 我慢します来年まで」
そうリネットも納得するのだった。
「でも来年までお預けかあ⋯⋯」
やっぱり不満と未練タラタラなリネットはワガママなのかもしれない。
「ふーん、来年にはあっ君にも後輩が出来るのかー」
「後輩といっても学生としてで、Vチューバーとしては先輩なんだけどな」
「ふーん、そっか」
シオンはなにか考えているようだが⋯⋯僕にはよくわからなかった。
こうしてリネットの秘密クラブはいったん保留という事になったのである。
そして次の日⋯⋯いつもと変わらないというか完全に変わってしまった学校生活が始まる。
うん⋯⋯今日もリネットは大人気で詰めかけるクラスの皆がやかましい。
なので僕は早々に脱出する。
(いかないで~! アリスケさ~ん!)
(すまぬ、リネットすまぬ)
というアイコンタクトをして僕は教室から逃げ出した。
ちなみに留美さんはバスケ部3人娘と一緒にお弁当を食べるようだった。
「さて今日はどこでお弁当を食べようかな?」
屋上、体育倉庫、1階の階段裏。
キープしてある場所は多い、そこをローテーションしながら僕は憩いの場を求めて旅に出たのだが⋯⋯。
「⋯⋯っち、ここも駄目か」
なんか今日に限ってどこも先客が居て僕のスペースが無かった。
このままだと最悪便所飯になってしまうがそれは避けたい。
「⋯⋯しかたない、隣の校舎に行ってみるか」
この学校には校舎が2棟あるのだ、そっちは2・3年生の校舎であんまりいかない場所なのだがこの際しかたない。
目指すはその校舎の階段裏だった。
⋯⋯しかしそこにも先客がいた。
くそ⋯⋯このままではどこにもお弁当を食べる場所が無い。
そう思っていた時だった。
「はあ⋯⋯今日も補習かあ⋯⋯」
『ごめんなさいアカメ。 アイが夏休みの日数計算を1日間違っていなければこんな事には⋯⋯』
⋯⋯は?
僕の7つの特殊能力のひとつ駄目絶対音感が発動した!
この声は⋯⋯まさか!?
「アカメさん!?」
「うげっ! ヤバ! ⋯⋯⋯⋯って、もしかして有介くん!?」
『その声は100%アリスですね』
そこに居たのは赤い縁の眼鏡をかけた地味な印象の女の子だった。
まったく誰だかわからないその見た目だが、その声は聞き間違えようもなかった。
「⋯⋯神崎アカメが何でここに?」
「しー! しー! ここではアカメと呼ばないで! 正体バレちゃうでしょ!」
『そうです! ここではアカメは仮の姿である赤星いのりさんなんです!』
そうアイの声がアカメの持ってるスマホからやかましく聞こえてくるのだった。
「いや神崎アカメが仮の姿なんだけど⋯⋯」
その目立たない普通の女子校生⋯⋯その正体はなんと僕と同じVチューバーの神崎アカメさんだったのだ。
「⋯⋯まさか、いのりさんがここの生徒だったなんて」
「私も驚いたよ」
『アイもです』
よく今日までニアミスしなかったな⋯⋯。
と思ったが僕たちがリアルで知り合ったのは夏休み中の事で、もしかしたら1学期中もどこかですれ違ってても気づかなかっただけかもしれない。
「僕と留美さんは同じクラスメートなんです。 あとリネットも⋯⋯」
「うんリネットちゃんは知ってる⋯⋯めっちゃテレビカメラ来ててビビった。 ⋯⋯そっか、まさか有介くんと留美ちゃんも同じ学校だったとは」
いのりさんの制服のリボンの色は留美さんやリネットとは違う色だった⋯⋯つまり。
「いのりさん⋯⋯いや、いのり先輩は2年生だったんですね」
「そうだよ、後輩君!」
『そうです! 敬いなさいアリス、いのり先輩を!』
僕は疑問に思ったことをそのまま聞いてみる。
「どうしていのり先輩はこの学校に?」
「自宅が近所だから」
『徒歩5分です』
「納得した」
「それに⋯⋯事務所にアイドルのレッスンや仕事に行くのを考えると、この学校以外の選択肢が無かったから頑張った」
「あー、留美さんも似たようなこと言ってたな」
僕たちのヴィアラッテアの事務所といのりさんの事務所のポラリスはすごく近所なのだ。
そのどちらに行くにも同じ駅から歩いて3分くらいという場所なのだった。
「僕はともかく留美さんとは一度も会わなかったんですか?」
「移動中はずっと台本読んでたからなあ⋯⋯」
『アイには喋ってもらわないとその人物をこのスマホからは感知できないので』
たしかに留美さんも電車の移動中は教科書とか読んでて無言だしな。
そう考えながら僕はお弁当を食べる。
「⋯⋯ねえ有介くん? そのから揚げと私のミートボール交換しない?」
「いいですよ」
「やったね!」
そう言っていのりさんは僕のお弁当箱からから揚げを箸で掴んで食べる。
そして自分の箸でミートボールをつまんで僕のお弁当箱に入れた。
⋯⋯え? これ僕が食べるの?
間接キス⋯⋯という甘酸っぱい言葉が浮かんだが、いのりさんはまったく気にしていない。
「うお!? 美味い! 冷めてるのに肉汁がジュワっと、もも肉やわらかい!」
⋯⋯ここで躊躇うとかえって傷が深くなりそうだと思い、僕は無心でそのミートボールという証拠を食べた。
これが甘酸っぱい青春の味か⋯⋯。
それはどこのスーパーにも売ってる量産品のレトルトのミートボールの味だった。
「これもしかして有介くんが自分で作ったの?」
「まあ⋯⋯」
「やっぱり料理上手なんだ! いやーオレンジママさんとのコラボ回数多いだけありますな~」
『アカメは名誉ある出禁ですからね』
なんだよ名誉ある出禁って⋯⋯。
しかしここでVチューバー・神崎アカメと出会えたことは偶然だけど運命かもしれん。
「あの⋯⋯いのりさんに頼みというかお話があるんですけど」
「待って! 駄目! 駄目だよ有介くん! このいのりさんが魅力的な女の子でも私はアイドルだから恋愛はNGなの!」
『そうです! アカメにはすでにこのアイという運命の相手がいますから!』
「いやそんなんじゃなくて⋯⋯。
⋯⋯そのリネットが放課後みんなでワチャワチャするだけのお楽しみサークルを作ったんだけど⋯⋯4人しかいなくて」
「4人? 誰?」
「リネットと僕と留美さんとシオン」
「え? シオンちゃんもこの学校の生徒なの!?」
「いやシオンは学生じゃないです。 ただ僕たち全員同じマンションに住んでるので」
「そうだったの!?」
『アイは知ってましたよ。 皆さんのIPアドレスが同じだったので』
「マジ? じゃあハッカーとかが調べたらバレるのか?」
『アイはコラボで皆さんのPCとアクセスしたから知りえたのであって普通のハッカーには気づかれないと思いますが⋯⋯心配ならアドレスの変更をしておいた方がいいかもしれませんね』
僕にはよくわからん話なので今度木下さんにでも相談してみよう。
でも今はリネットの話だな。
「それでですね、リネットのこだわりでサークル活動は5人でなきゃ嫌だと」
「ほうほう⋯⋯わかる。 メンバーが3人とか5人の奇数の方がフォーメーション綺麗だしセンターも目立つからね」
なんか別方向からの理解だが⋯⋯まあいいや。
「それでどうですか? いのり先輩も入りますか⋯⋯リネットの秘密クラブに?」
「それって全員Vチューバーのサークルってこと? うーん? アカメちゃんはそんなに暇じゃないけど⋯⋯まあ人数合わせくらいの参加ならいいよ!」
『アイも入ってあげても構いませんよ!』
これは思わぬ収穫だったな。
「じゃあ今日の帰りに一緒に行きましょうか、シオンの家に?」
「おっけ~!」
こうして僕は偶然の出会いでこの神崎アカメとアイをリネットの秘密クラブに連れていくのだった。
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