#236 専業Vチューバーの生活
私、霧島紫音は朝の7時に目が覚めた。
「⋯⋯べつにまだ寝ててもいいのに」
うん⋯⋯今日からあっ君たちは学校へ行ってる、だからもう朝早くから来ることはない。
「よくよく考えると私たち4人のたまり場になってたんだな、この部屋が⋯⋯」
私は一人暮らしだし、姫ちゃんの部屋には保安上行けなかったからなあ⋯⋯自然とそうなった。
こうして1人になるとこのマンションのこの部屋は私だけだと広すぎるような気がしたのだった。
「⋯⋯とりあえず朝ごはん食べよ」
いつもだったらあっ君が来て朝食を作ってくれてたんだけど、今日からはそうもいかない。
なので私は今まで通りに冷凍のピザを焼いて牛乳で流し込むように味気ない朝食を食べた。
牛乳を飲むのは健康のためというよりも、もうちょい身長が欲しいからだった。
もう胸は十分大きいしね。
おっとこんな事を言うと、るーちゃんに殺されるかもしれん⋯⋯。
るーちゃんは胸が小さいのを気にしてるからなあ。
るーちゃんとたいして違わない大きさの姫ちゃんはぜんぜん気にせずいつも胸を張って生きてるけど。
「テレビでも見るか」
なんとなく私は朝食を取りながらテレビを見るとそこには──。
『ご覧ください! 本日ここ青海高校にブルースフィア王国のお姫様、リネット殿下が入学されます!』
そうアナウンサーが言ってた。
「⋯⋯あ、ここあっ君の学校だ」
うーん、この近所がテレビで映ってるのはなんかレアだな。
そう思ってテレビを見続けていると学校の校門を黒いリムジンが通過した。
そして停車した車にカメラやフラッシュが浴びせられている。
そんな車から姫ちゃんが出てきた。
『こちらがリネット・ブルースフィア王女殿下のご尊顔です!』
興奮したアナウンサーの反応と、いつもと違うすまし顔のリネット姫様に私は⋯⋯。
「ぷ⋯⋯くくく。 姫ちゃんおもいっきりお姫様モードで頑張ってる⋯⋯」
たぶん姫ちゃんの事だから「私、お姫様だから!」とか思ってなんか変なスイッチが入っちゃたんだろうなきっと。
「いつまでもつかな、その仮面⋯⋯っぷ」
まあ3日持てば良い方だろうというのが私の予想だった。
そんな麗しきリネット姫様は優雅に微笑みを絶やさずカメラ目線で校舎へと入っていったのだった。
「うーん、なんかモデルさんのファッションショーみたいだね」
そう笑いながらテレビを見ているとそこにはよく知った顔が映っていた。
「あ⋯⋯あっ君だ!」
『すみません! 今日からブルースフィア王国のリネット姫が入学してくるそうですがどういうお気持ちでしょうか!』
『あ⋯⋯う⋯⋯!?』
だははははっ!
カメラとマイク向けられて焦って「あ」とか「う」しか言えなくなってるよ、あっ君が!
そう腹がよじれるくらい笑う私だった。
やべー、牛乳飲んでなくてよかったよ。
『すみません通してください! 遅刻するので! 通して!』
テレビを見ていると毅然とした態度と声のるーちゃんがあっ君の手を引っ張って校舎へと逃げるように入っていくのだった。
「⋯⋯るーちゃんはやっぱりかっこいいなあ。 それに比べてあっ君はさあ」
なんでだろう?
2人が手を繋いで歩いている姿をこうして眺めていたら⋯⋯胸が苦しくなってきた。
「あ⋯⋯あはは。 また育っちゃたのかな? あっ君のご飯おいしいからちょっと最近食べ過ぎだったかも!」
あはは⋯⋯。
私が黙るとこの部屋にはテレビの音だけが響いてるのだった。
「⋯⋯今日は始業式で午前中にはあっ君帰ってくるから、それまではレベリングでもしてようかな?」
こうして私は朝食が終わった後は1人でゲームのレベル上げを黙々と行うのだった。
ついに今週から遊べるようになったこのロールプレイング・アドベンチャーワールドというゲームでは強くなるのにもいくつかの方法がある。
1、普通にレベルを上げる事。
まあRPGの基本だね。
2、武器や防具を装備すること。
当たり前だけどこの装備品も店売りからプレイヤーのスキルで作成出来るものや、モンスターのレアドロップまでいろいろある。
3、特殊クエストをクリアすること。
クエストによってはなにかのスキルや魔法を習得できるものもある、そういう隠しクエストをどれだけ見つけてクリアするかだ。
「⋯⋯まあ廃人なら全部するんだけどね」
とはいってもクエスト系は動画の取れ高なシーンになるからあんまりソロのオフラインではしたくない。
となると今1人で出来るのはコツコツレベリングとレアドロップ狩りという事になる。
「さあ! 私のライトニングソードを寄こせ! キングトロルよ!」
こうして私はひたすらモンスターを狩り続けるのだった。
2時間後⋯⋯。
「全然でない⋯⋯」
この2時間でもうレベルは7くらい上がるほど狩り続けたのだが、ぜんぜんドロップしなかった。
「あっ君が居ればレアハンタースキルでもっと簡単に取れるのに⋯⋯」
私は脳筋アタッカーが好きで基本どんなゲームでも近接型のダメージディーラーをやりがちだ。
しかしあっ君はいろいろからめ手とか好きで工夫して戦うタイプが好きらしい。
あっ君にとっての私は単純なパワーで突破する頼れる相棒で。
私にとってのあっ君は猪突猛進だと苦戦する時に頼れる参謀といった感じだ。
いつからだろう?
私とあっ君は最高のコンビだと思うようになっていたのは。
⋯⋯それまでずっと1人で生きてきて戦っていたはずなのにね。
「⋯⋯⋯⋯飽きた」
レベル上げに飽きて私はゲームを止めた。
「テレビでも見るか⋯⋯」
またテレビを付けるとさっきのワイドショーがまだ続いていた。
「あ! もう学校終わったんだ!」
見ると生徒たちの下校シーンだった。
『ご覧ください! リネット王女様がこちらに歩いてきます!』
そう興奮気味にリポーターが話していた。
そして姫ちゃんに突撃取材するようだった。
『どうでしたかリネット王女殿下! 日本の学校の感想は!』
『はい、たいへん素晴らしい環境です。 それにクラスの方たちも皆さん良い人たちばかりでこれから楽しく通えそうです!』
『それは良かったですね!』
「⋯⋯あれはそろそろキレそうな姫ちゃんの顔だな」
なかなか凛々しい姫様スマイルだけど⋯⋯こめかみが一瞬ピクピクしていた。
ありゃそうとうキテイル⋯⋯。
「あんなに苦労してまで行きたいのかな学校なんかに⋯⋯」
そうだよ⋯⋯学校なんか退屈だよ。
こうやって自宅で充実した時間をいくらでも過ごせるじゃないか!
⋯⋯だから羨ましくなんかない。
ピロン♪
その時あっ君からラインが来た。
[アリスケ:起きてる? いま下校中、なにか買って帰ろうか?]
「あっ君だ! ⋯⋯えーと」
[紫音:テリヤキバーガーとコーラのセット ポテトはLで!]
[アリスケ:おけ! じゃあもうすぐ行くから]
「⋯⋯うん」
そうだよ。
あっ君はちゃんとこうやって私のところに帰ってきてくれるもん。
だから私はぜんぜんさびしくなんかない。
それからしばらくしてあっ君と留美ちゃんがやってきた。
「ただいま~シオン! バーガー買ってきたぞ」
「おかえりー! あっ君にるーちゃん! ⋯⋯あれ? 姫ちゃんは?」
「リネットはもうちょい時間がかかるんじゃないかな?」
「テレビのリポーターに神対応中だったしね」
「たいへんだねーお姫様は」
それに比べると私はお気楽自由な在宅Vチューバー様だ!
「先に食べてるか?」
「それだとリネット怒るんじゃない?」
よく見るとあっ君は姫ちゃんの分もバーガー買ってきていたようだ。
姫ちゃんもそういうジャンクフード好きだからね。
ドンッドンッドンッ!
びっくりした! 大きな音で玄関のドアをノックする人が来た!?
「あけてくださ~い! 私ですリネットです~」
「⋯⋯あんがい早かったな」
「そうね」
そしてあっ君がドアを開けて姫ちゃんがダッシュで入ってきた。
「あーん! アリスケさん!留美さん! 私どうしてこんなことに~!」
その姫ちゃんはさっきまでテレビに映っていた麗しの姫様の面影など皆無だった。
姫様の仮面が外れたいつものこまったちゃんな顔だ。
「⋯⋯姫ちゃんさあ⋯⋯何やらかしてきたの?」
あっ君に抱きついて、しくしく泣き続けるお姫様だった。
「⋯⋯じつはな」
こうしてあっ君が今日の姫ちゃんの初登校を私に教えてくれるのだった。
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