#221 幕間:アンジェリカ・ブルースフィア「世話の焼ける王子様」
私、アンジェリカはこのブルースフィア・ハイスクールに通っている生徒である。
父はこの国の騎士団の隊長、母は新聞記者という両親に育てられた。
そんな私はこのハイスクールに入学して1年たち、今では生徒会に入った。
しかしそんな私を悩ませる人が1人⋯⋯。
「生徒会長! こんな所でサボっていたんですか!」
「やあ副会長、いい天気だね」
この人はこのハイスクールの生徒会長にしてこの国の王子、ネフライト・ブルースフィア殿下だ。
このハイスクールの羨望を一身に集める王子様⋯⋯なんだけど。
生徒会副会長の私にとっては手のかかる子供みたいな人だった。
「副会長、ここに寝転がって一緒に空でも見ないか?」
「寝ぼけたこと言ってないで仕事してください」
そう言って私はこのバカ王子を中庭から生徒会室まで引きずっていくのが普段の業務だった。
はあ⋯⋯どうしてこうなったのか?
内申点が良ければ海外の大学にも推薦してもらいやすいからとか、そんな理由で生徒会に入ったのは間違いだったかもしれない。
そう憂鬱な気分になった。
私はこの国が嫌いというわけではない、むしろ大好きだと思う。
しかしこの国以外も見てみたいという願望が強く、将来は海外で働きたいと考えていた。
でもそんな私は今はこの生徒会の雑務に追われる日々である。
そして今日はいつもの定例会議だった。
「えー、今日の議題は間近に迫った3年生の卒業コンパの設営と、あの怪人マスター・ラピスターへの対策になります」
マスター・ラピスターとは、この国に古くから存在する怪人である。
私の子供の頃から出没している怪人なのでもういい歳したおっさんが正体のはずだ。
そんなマスター・ラピスターが今年も卒業コンパを荒らしに来るのは恒例行事のように予想された問題だった。
「べつにいいんじゃないですか?」
「ラピスター様! 今年はどんな趣向で楽しませてくれるのかしら!」
⋯⋯これである。
マスター・ラピスターは困った人物ではあるが若い人たち、とくに女性に人気があった。
毎年毎年人を驚かせるのが大好きな愉快犯で、とくに致命的に犯罪を犯すわけでもないのが人気の理由だった。
私の母はそんなマスター・ラピスターファンで新聞記者になったようなもので、父はそんなマスター・ラピスター後始末で残業になる日々である。
普段は仲の良い夫婦なのにこのマスター・ラピスターの時だけはケンカする両親に私は心を痛めながら生きてきたといってもよい。
つまり私はこのマスター・ラピスターを自分の手で捕まえたかった!
バンッと私はテーブルを叩いて皆を注目させる!
「いい! 皆さん! 今年こそマスター・ラピスターを捕獲します! いいですね!」
「「⋯⋯は~い」」
やる気のない後輩たちである。
「いやー、副会長は今年も気合入ってるねー」
「⋯⋯あなたもやる気になってください、会長」
この人もなんで自分の国の困った人を野放しにしてて平気なのか問い詰めたい気分だった。
そして迎えた卒業コンパの日である。
本日このハイスクールを卒業し巣立っていく先輩方を見送る大切な日。
テーブルには美味しそうな料理が並び、音楽が奏でられて皆がステップを踏む。
しかし裏方である私を始めとした生徒会メンバーにはそんなことは関係なしと言わんばかりに大忙しだった。
まったく⋯⋯このままマスター・ラピスターが出なければいいのに。
しかしそういう時に限って出てくるのが奴である。
パッと会場の照明が消えた。
そしてスポットライトが照らすのは怪しい紳士服の仮面の男である。
「きゃ~! マスター・ラピスター様よ!」
「ラピスター様! こっち向いて~!」
そう黄色い声援が会場に湧き上がる。
そして女子生徒たちに向かって優雅に手を振って応えるマスター・ラピスターだった。
⋯⋯いけ好かないが、悔しいが様になっている。
ちょっとだけファンである母の気持ちが理解できるのが悔しい⋯⋯。
「来たわ! マスター・ラピスターよ! 捕まえて!」
そう私の号令で動くのは生徒会の男子たちである。
⋯⋯女子は使いものにならないので!
「とうっ!」
マスター・ラピスターは宙を飛んで大きなシャンデリアをまるで空中ブランコのようにして会場を横断した。
そして舞い散る花びら⋯⋯それはこの国の国花であるブルーベルの花びらだった。
「卒業生の諸君にはこの花の花言葉を贈ろう。 それは『変わらぬ心』、今この時に抱いている未来への夢を忘れないようにしてほしい!」
まったくキザな奴め!
こうして私の大追跡が始まり⋯⋯そしてラピスターにはまんまと逃げられたのだった。
「⋯⋯あー疲れた」
まったく⋯⋯どうしてただの生徒会副会長の私がこんな目に⋯⋯。
ああ⋯⋯お腹すいた。
マスター・ラピスターに逃げられた私はボロボロの姿で会場に戻る。
どうやら卒業コンパ自体は無事に終わったようだった。
生徒たちもまばらになり吹奏楽部の人たちも楽器を仕舞い始めたところだった。
⋯⋯まあいいか。
こうやって無事にイベントが終わるのなら私が苦労してもそれでいい。
⋯⋯そう思った時だった。
「待ってくれ吹奏楽部の諸君!」
そう優雅に会場中に響く声を上げたのは⋯⋯会長だった。
「⋯⋯会長?」
そして会長はさらに言葉を続ける。
「あと一曲だけ、頼むよ」
その言葉に吹奏楽部も嫌な顔一つせずに再び楽器を構え始める。
そしてワルツが鳴り響く⋯⋯。
会長は静かに私に近づき。
「ラストナンバーをこの私と一緒に⋯⋯アンジェリカ」
その会長はまさに皆が思い描く完璧な王子様だった。
⋯⋯私の前だと普段はグータラなくせに、こういう時だけ本気を出す困った人だ。
「きゃ~! 会長と副会長が躍るわよ!」
「本当! 素敵!」
⋯⋯どうやら断れる雰囲気ではないようだ。
そして茶目っ気にウインクするこの会長⋯⋯確信犯だなこれは。
⋯⋯はあ。
「⋯⋯一曲だけですよ、会長」
「こんな時くらいはネフライトと呼んでくれよ、アンジェリカ」
「はいはい、ネフライト様!」
私は思いっきりファーストステップで会長の足を踏んでやった。
⋯⋯しかしまったく顔色を変えない会長だった。
「痛いじゃないかアンジェリカ」
「つま先じゃなくてヒールで踏めばよかったですか?」
「そうだな⋯⋯君になら踵で踏まれるのも悪くないな」
どこまで本気なのかこの人は⋯⋯。
「はいはい、さっさと踊りますわよネフライト様」
こうして私達のダンスがこのパーティーの最後を飾ったのだった。
そして躍り終わった私に会長は。
「来年もよろしく、副会長」
「来年までですからね、会長」
生徒会の任期はあと1年。
それが終わればもうこの人と関わることはもはや無いだろう。
それまでの辛抱だ。
⋯⋯そう、この時は本気で思っていた。
その半年後にドジを踏んだマスター・ラピスターが我が家のバルコニーに突っ込んできて、その正体を知ってしまうまでは⋯⋯。
それがこの人⋯⋯まるで子供みたいなネフライト・ブルースフィアの世話係をずっとする運命になろうとは、この時の私は知るよしもない。
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