#200 勲章授与式
「さて、そろそろ王様としてカッコいいところも皆さんに見せようかの?」
そう手で合図した王様、そして隊列をビシっと決める兵士たちである。
「ラズリアス⋯⋯例の物を」
「はい、陛下」
⋯⋯これが王族として振る舞う王様とラズリアス王子か。
さっきまでの残念な感じの親しみやすさは消えていた。
「ラズリアス殿下⋯⋯ジェラルド君に少し似ててカッコいい⋯⋯」
そうつぶやくのは漫画家のオシロン先生である。
たしかに銀髪王子のラズリアス殿下はオシロン先生の漫画の主人公によく似ていた。
⋯⋯まあ似てるのは外見だけで中身はぜんぜん違うが。
ラズリアス殿下はただのシスコンだが、漫画のジェラルド王子はオシロン先生の願望を投影した変態である。
そんなラズリアス王子様はなにやら乗せたお盆を持ってきた。
「皆の者、静粛に! ⋯⋯さてオシロン女史、前へ」
「え!? 私がですか!」
そう驚く今まで蚊帳の外だったオシロン先生である。
「イラストレーター・オシロンこと尾城龍華殿に、これを⋯⋯」
そういやそんな名前だったなオシロン先生の本名は⋯⋯。
そんなことを考えているとラズリアス王子が持っていたお盆に乗っていたメダルのような物を手に取って、王様がそれをオシロン先生に渡したのだった。
「あの⋯⋯これは?」
「『正十字姫釣鐘水仙勲章』だ。 リネットの絵師をしてくれた事への、ほんのささやかな礼じゃよ」
「こ⋯⋯こんなものを!?」
「本来ならもっとちゃんとお礼をしたかったんですけど、それだと私がブルーベルだという正体まで公開しないといけないので、このような非公式の場でのお礼になってしまい申し訳ありませんオシロンお母様」
そう説明するリネットだった。
「なに、リネットの正義の味方ごっこの協力者には全員配っとるようなささやかな勲章じゃ、気にせず受け取ってくれ」
「⋯⋯はい、ありがとうございます!」
そう言ってオシロン先生はその勲章を受け取ったのだった。
するといつのまにか周りに居た兵士たちがラッパのような楽器を構えていて一斉に祝福のファンファーレを吹く。
まるでゲームのワンシーンみたいな感動的な場面だった。
「⋯⋯まさか、こんなものを頂けるなんて」
「それを見せればこの城のだいたいのところは入れるように手配しておく。 存分にこの城を見学していってくれ」
「ほんとですか!?」
なんかさっきの勲章よりも喜ぶオシロン先生だった。
「あれってそんなにすごい勲章なんですか?」
「そうだな⋯⋯日本的に言えば警察からもらえる感謝状くらいの価値かな?」
そう僕の素朴な疑問を答えてくれるセバスチャンだった。
しかしそれでもオシロン先生は嬉しそうで。
「へへっ! ネットにアップして自慢できないのがちょっとだけ残念ね!」
「その申し訳ありません、オシロンお母様」
そう申し訳なさそうなリネットと、気にしないオシロン先生だった。
「まあリネットの天使的愛らしさを表現した絵師に対するささやかな気持ちだ、受け取れ」
そう偉そうに言うのはラズリアス王子である。
しかしそんなラズリアス王子をじ~と見つめるオシロン先生。
「あ⋯⋯やっぱり貴方ちょっとジェラルドに似てるかも?」
「ジェラルド? 誰だそれは?」
ジェラルドはたしかオシロン先生が今書いてる漫画の主人公だ、たしかに同じ『銀髪の王子様』なのでラズリアス王子とは似ているかもしれない。
「えっと私の漫画のキャラなんだけど⋯⋯ちょっとラズリアス王子様と似てて!」
「ほう、リネットだけでなく私もモデルにするのか? 感心な絵師だなお前は! はっはっはっ!」
⋯⋯はたしてその漫画がどんなものなのか知った後も笑えるのだろうか、この王子様は?
部下の男たちの友情にハアハアしている変態だぞ。
「よかろう! 滞在中に我が肖像画を描く権利をお前にやろう!」
「ほんとですか!」
めっちゃ大興奮のオシロン先生である。
「だがありのまま、この美しい俺様を描けよ? リネットの時のようなしくじりは勘弁だからな!」
「⋯⋯? どういうことですか?」
「いやお前はリネットの胸をつつましく描きすぎるきらいがあるからな。 まったく私が気をきかせて修正させたから良かったものの⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯あ゙?」
「ん? んぎゃぴー!?」
ラズリアス王子が天高く舞い上がり⋯⋯落ちた!?
それはオシロン先生が放った右手のアッパーカットによるものだった。
「貴様の仕業かー!? クリエイター様の仕事に無断でケチ付けたバカ野郎は!」
「ラズリアス様!? 放すんだ! オシロン先生!」
「放せ! ハ・ナ・セ! セバスチャン! こいつもっと殴るんだ! 手を放せ!」
とんでもないことになってしまった⋯⋯。
僕たちが見ている前でオシロン先生が引き離されるまで5分ほどかかった。
そしてようやくオシロン先生も落ち着いたようで⋯⋯。
「ああごめんなさい私の大切な右手⋯⋯絵を描くためのあなたで暴力なんて。 でも悔いは無い! でももっと欲望のその先を描いていたかった⋯⋯」
「こ⋯⋯こいつ、いきなり俺に殴りかかってきて! なんで!? こいつ怖い!」
きっと父にも殴られた事のなさそうな銀髪王子様が狼狽えていた⋯⋯。
「お⋯⋯お前たち! この女をひっ捕らえろ!」
そう喚くラズリアス王子からはさっきまでの王子様的オーラは無かった。
なんというか予定外のパニックに弱いタイプなのだろうか?
そしてオシロン先生が兵士に囲まれた時だった。
「お止めなさい!」
「は⋯⋯母上!?」
落ち着いてそれでいて貫禄のある声でオシロン先生を庇ったのはリネットの母であるアンジェリカ王妃だった。
「落ち着きなさいラズリアス」
「しかし母上! この女が俺に暴力を!」
「⋯⋯狼狽えるな! 男の子でしょ!」
「ハイッ!」
その声にビシッと背筋を伸ばす王様と王子たちとリネットだった。
なんかこの王家の力関係が見えた気がしましたね⋯⋯。
「たかが女の細腕で一発殴られたくらいどうってことないでしょ? 傷は男の勲章でしょ?」
「⋯⋯はい、そうでしたね」
なんかシュンっとなるラズリアス王子。
「そうだぞラズリアス。 ⋯⋯ワシなんか母さんからいっぱい勲章をもらったもんね!」
「まだ欲しいの? ネフライト?」
「いえ⋯⋯もうたくさんです」
こっちもシュンとなる王様だった。
「それからラズリアス!」
「ハイなんでしょう!」
「オシロン先生の芸術的作品にあなた⋯⋯ケチつけて勝手に修正させたそうね?」
「あ⋯⋯いや⋯⋯それはリネットの為に⋯⋯」
「お黙りなさい!」
「はい、ごめんなさい!」
僕たちは王家の方々と面会すると思っていたのだが、なぜか近所のかーちゃんに怒られる友人を見てるみたいな気持ちになっていた。
そしてリネットはシレっと僕たちサイドに紛れ込んで関係ないフリをしていた。
あんがいちゃっかりしているお姫様だなリネットは。
あらかたお説教が終わりようやく僕たちは解放されることになった。
「おほほほほっ。 オシロン先生ご安心を! 先ほどの件は見ての通り完全無罪ですので、遠慮なくこの城の見学をしていってくださいね!」
「あ⋯⋯はい。 ありがとう」
オシロン先生も引いていた⋯⋯。
「あのところでオシロン先生⋯⋯サインを頂いてもよろしいでしょうか?」
「え? サイン?」
どうやらリネットのお母さんはオシロン先生のファンだったらしい。
「いいけど⋯⋯イラストは誰にする?」
「コウラン×カイエンでお願いしますね!」
ファンではなくて信者でしたか⋯⋯。
「お母様はオシロンお母様のファンだったのですか?」
「ええ! 恥ずかしながら⋯⋯おほほほほほっ!」
こうして一枚のサイン付きイラストで無罪になったオシロン先生だった。
「はー、ついに私も勲章持ちの上級作家様に仲間入りか⋯⋯にやり」
こうしてオシロン先生は日本から遠く離れたこの島で、そのよくわからん地位を確かなものにしたのであった。
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