#198 幕間:藍野乃愛「私が決めた進路」
私、藍野乃愛は9歳ですでにドイツの大学へ通っている。
周りは私の事を天才少女だというけど⋯⋯たんに親に恵まれただけの人間だと思う。
父は日本人の数学者で私が通う大学の教授。
母も父と同じ大学に勤める研究者だ。
私が入った大学はそういう親のコネが強い環境だった。
だからまあ何不自由ない環境で伸び伸びと好き勝手に勉強できてたんだけどね。
しかしながらこの先に何があるのか私にはまったくわからないのだった。
たしかに勉強はできるが将来にやりたい夢があるわけでもない、というのが私のコンプレックスである。
そこへいくとお姉ちゃん藍野水理は私が尊敬できる人間である。
AI工学者というおそらく時代の最先端の学問を切り開くトップランナーである!
まったく未知の分野を切り開く事がどれだけ大変か、私には真に理解できていないのだろう。
天才とか言われてても私なんて偉大な先人たちの足跡をなぞってただ丸暗記するだけの人間なのだから。
私は大学の休暇を使って姉に会いに行った、久しぶりの再会である。
⋯⋯なんとなく姉からは避けられているのがわかっていたから。
私が姉を尊敬するように、姉も私に対してコンプレックスを持っているのはなんとなく気づいている。
お互い無いものねだりなのだろう私達は。
日本に着くと姉はAIの研究者からなぜかアイドルのマネージャーにジョブチェンジしていた?
しかしその姉のプロデュースしているアイドルこそ姉が作り上げた最新AIだったのである!
その事実に私は打ちのめされた⋯⋯。
私たち技術者なんかどれだけがんばろうが世間からは見向きもされない。
この世の中、どれだけの人が自分が普段何気なく使っているスマホやパソコンを作り上げた技術者を見ているというのだろうか?
たとえ今の私がいくら天才少女だともてはやされていても、10年先、20年先に私の名前を知る人間がどれだけいるのだろうか?
一躍『ヴァーチャルアイドル・アイのクリエイター』として世間から注目され始めた姉に私は⋯⋯強い敗北感を感じたのだった。
そこで私は気がついてしまったのだ。
自分が姉よりも優れていると思っていた事を当たり前に考えていたという事に。
きっと私のそんな態度を普段から姉は感じ取っていたのだろう⋯⋯嫌われて当然だ。
でもただ愛される無知な妹にはもう戻れない。
それに何より私自身が姉に勝ちたいと願ってしまったのだから⋯⋯。
こうして私はようやく将来の事を見据える事にしたのだった。
その為にまず⋯⋯この温い環境を改善する事にした。
ドイツで私が通っている大学は親の影響が強すぎる。
なので私は転校を⋯⋯できれば海外に留学したいと考えた。
そのきっかけになったのが天才ハッカーである『マスター・ラピスター』との出会いだった。
たしかに私はハッキングが専門ではないけど明確に私以上の天才に出会ったのは初めてだったのだ。
「どんな人なんだろ? ラピスターって?」
その謎の人物がブルースフィアという小さな島国の犯罪者だとはすぐにわかった。
そのついでにブルースフィアでは最先端AIの研究者を募集していると知った。
「よし行こう、ブルースフィアへ!」
思えばバカげた無謀な挑戦である。
しかしこんな話をあっさりと紹介してくれたのが姉だったのだ。
私は姉の紹介でそのブルースフィアのお姫様と出会った。
⋯⋯まさかアイの同僚がそのお姫様だったとは思わなかったけど。
しかし私はこの幸運をそのまま使うことにしたのだった。
結局のところ私という人間はただ家族に恵まれただけのなのだ。
だからこそここからは自分の力で歩いて行きたい。
こうして私は父と母を説得してブルースフィアへと旅立ったのだった!
「⋯⋯ここがブルースフィアなの?」
その島は私が思い描いたような国ではなかった。
なんかこうメルヘンチックなアトラクションのような国だったからだった。
まあ国がどんなところでも私には関係ない、私はここに勉強しに来たのだから。
大学の寮に入った私は新学期を待たずしてAIの研究室へと行った。
「来季より編入しますノア・アイノです! よろしくお願いします!」
ここにはもう両親は居ない、不作法でもかばってくれる親はいないのだ。
「⋯⋯ん? こんな時期に編入生? 珍しいな」
そこに居たのは黒髪で目立たないというか冴えない印象の男の人だった。
「先輩ですね、よろしくお願いしますね」
「ん⋯⋯よろしく」
⋯⋯コミュ障かな、この人?
まあドイツの大学でもこのタイプはそう珍しくなかったけど。
⋯⋯いや、客観的に見るとドイツ時代の私もたいがいこのタイプだったと思う。
他者との交流に無関心で好きな事だけしてればいいという環境だったからなあ私も。
「じゃあここ使っていいよ。 僕はどこでもいいから」
「あ、はい、どうも⋯⋯」
そういって自分のパソコンをあっさりと私に使わせる男だった。
⋯⋯てかこのパソコンどうなってるの?
画面は6個もあるしキーボードは3つもある。
「あの⋯⋯今日はその挨拶だけで⋯⋯」
「ん⋯⋯? そうなの?」
その人はぜんぜん私に興味なさそうにゲームを始めたのだった。
「あ⋯⋯それ、スーパーマリオン⋯⋯⋯⋯でもなんか違う?」
「ニコチューブで見てコピーしただけだからね、本物持ってないし」
⋯⋯何言ってるんだろう、この人?
つまりニコチューブで見たゲームをそのまま自分でプログラムしたという事なのだろうか?
「アリスの全クリ動画で見たから全ステージ完全再現はできてると思うんだけどなあ⋯⋯」
「アリスってVチューバーの?」
「そう、知ってるのアリスを?」
「ええまあ」
てかリアルで会った最近⋯⋯。
「ビックリだよねアリスって! キュートなレディなのにレトロゲーム上手でさ!」
「ええ⋯⋯そうね」
⋯⋯この人オタクかな?
⋯⋯⋯⋯かわいそうに、アリスが男だと知ったらどうなる事か。
「こんどアリスが家に遊びに来るんだよ! それでこのゲームを作ってたんだけどさあ!」
「アリスが遊びに来る?」
なんだろうこの人⋯⋯可哀想な妄想の住人なのだろうか?
「いやー、リネットの妹がアリスってのはラッキーだったね!」
「リネットってリネット姫のことですか?」
「そうだよ、僕の妹なんだリネットは⋯⋯乃愛さんも知ってるだろ?」
⋯⋯!? この人、私の事を知っているの?
「え⋯⋯? リネット姫が妹ってもしかして⋯⋯」
「そういや自己紹介がまだだったね。 僕はリネットの兄のレジェイド・ブルースフィアだ、よろしくね乃愛」
「⋯⋯お⋯⋯おお⋯⋯王子様!?」
「気にしなくていいよ、ここではただの学生だからさ僕も」
これが私とレイジェイド様との出会いでした。
でもレジェイド様は私みたいな子供が思い描くような王子様では無かったのです。
「ささっ! 乃愛! 一緒に遊ぼうかこのゲームを!」
「あ⋯⋯ハイ⋯⋯」
レジェイド・ブルースフィアはオタクだった。
それもとびきり天才の!
「あれ? ここに隠しブロックが無い」
「あちゃ~抜けがあったか⋯⋯修正しなきゃ」
「でもなんでコピーゲームの作成を? 普通に買えばいいのに?」
そしてアホだと思った。
スーパーマリオンなんて最新ゲーム機のアーカイブのダウンロードでいつでも遊べることを知らなかったのだから⋯⋯。
「え~! ファミステ・スイッチで遊べるのコレ!? ⋯⋯僕の1日かけた力作が~!」
1日で作ったのか、これを⋯⋯。
アホだけど天才。
それが私のレジェイド様の第一印象だった。
「でもいいのかな? 私なんかがレジェイド様とゲームで遊ぶなんて⋯⋯」
「いいのいいの! 『遊戯で友誼を結ぶ』それが王家の教えなんだから!」
ちょっと変わった人だけど⋯⋯私にとっては家族以外に初めて興味を持つ人間だったレジェイド様は⋯⋯。
こうして私のブルースフィアでの新生活が始まったのでした。
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