#194 少年時代の見果てぬ夢への旅
僕たちは今、成田空港へやって来ていた。
時間はまだ6時前の早朝である。
ここまではリネットの執事であるセバスチャンが運転する大きな車での移動で楽だったけど、これから僕は飛行機に乗るのか⋯⋯。
もちろん生まれて初めてである、飛行機に乗るのも海外旅行も。
しかもその行き先が『ブルースフィア島』だというのだから今日の僕は変なテンションマックスだったのだ!
「国際線へのお客様はこちらへ、パスポートのチェックをします」
そう案内の女性スタッフに僕たちは着いて行った。
「へへー! シオン見ろよ! これ僕のパスポートだぜ! 今から使うんだ! 沖縄じゃなくて海外だよ!」
「だねー! あっ君! パスポート! 私の初めての身分証!」
そんな僕らを姉はなんか冷めた目で見ていた。
「初めてではしゃぐのはわかるけど⋯⋯なにそのテンションは?」
ははは! 姉さんは朝に弱いからな! この寝坊助さんめ!
まあ手続き自体は楽なものである。
なにせほとんどセバスチャンがやってくれてる、さすが有能執事だ。
そう思っていた僕はふいにスタッフに呼び止められた。
「あの! お客様?」
「なんでしょうか?」
「こちらのお客様のパスポートに不備が⋯⋯ここ『男性』になってるのですが⋯⋯?」
この後、僕が男だと証明するのに10分ほど余計な時間を取られることになった⋯⋯おかげでアゲアゲだったテンションが一気に急降下するのだった⋯⋯。
「まったく見てわからないかな⋯⋯僕が男だって」
「あれだけ地声ではしゃいでたら、そりゃスタッフさんも疑うわよ」
そう姉が言う。
くそったれめ! しかしこの声でなければこの旅行自体行けなかった可能性が高いからな仕方ない。
そうグチグチしながら僕は予約していたファーストクラスの席へと座るのだった。
このファーストクラスでは周りの他人の目が無いので気兼ねなくしゃべれそうで安心する。
リネットに感謝だな、さすが王族パワー。
まあもっとも保安上の理由でファーストクラス以外乗れないリネットのオマケなのが真相だが。
「でもそんなにアリスケ君が外で声出してはしゃぐなんて珍しいわね」
「うん⋯⋯まあね」
僕の隣に座った留美さんがそんな事を聞いてきた。
「ここがファーストクラスか! 海外旅行は初めてじゃないけどファーストクラスは初めてだな! よーし! キャビア! キャビア持ってこーい!」
「真樹奈、注文は飛行機が飛んでからね」
そう姉と映子さんがくっついて前の席に座ってる。
「へっへー! あっ君ほどじゃないけど私も凄く楽しみなんだあ!」
もうひとつの隣の席にシオンが座った。
⋯⋯あれ? 左右を女の子に囲まれてちょっと緊張する。
そんな緊張をごまかすように僕は手荷物の中から1冊の本を取り出した。
「⋯⋯僕が楽しみな理由はコレなんだよ」
「なにその本は?」
「ドラゴンファンタジア・公式ガイドブック?」
僕はその表紙も擦り切れて、ややくたびれたボロボロの本を優しく開く。
そしてそのページを開いて留美さんとシオンに見せた。
── ドラゴンファンタジアはその世界観も大人気ですが、なにかモデルがあるのですか?
堀 悠人:じつはあります。 あれはまだドラファン1の制作が始まる直前で、まだどんな世界観にするか決まってなかった頃です。 その時に近所のデパートの福引で海外旅行が当たっちゃったんです! それでつい行ってしまって。
── 大丈夫だったんですか?
堀 悠人:ははは、後でめっちゃ怒られましたよ干田さんには。 でも締め切り前でなんか煮詰まってアイデアも浮かばなくてつい現実逃避でそのチケットを使ったんですよねー。
「あ~わかるな~そのきもち~」
近くを通りかかったオシロン先生がなんだかため息まじりで共感していた。
この人も現在絶賛締め切り前で、ネタ出しに旅行へ行く御身分なんだよなあ⋯⋯。
── それでどうなったんですか?
堀 悠人:行って良かったです。 そこはまさにドラファンの世界で、もう見た瞬間にここだ! と思いましたよ! もしあの旅行に行かなかったらドラファンは今とまったく違うゲームになってたでしょうね。
── そうですか、それでその旅行先ってどこだったんですか?
堀 悠人:ブルースフィア島という大西洋の小さな島でした。
そして僕はその本を閉じた。
「そっか、それでアリスケ君はこの旅行が楽しみだったのね」
「よく覚えてたねあっ君。 私はそんなの全然覚えてないのに」
いやシオンの場合は記憶喪失なんじゃ?
「⋯⋯いや忘れてたよ、僕も」
「じゃあどうして?」
「コレさ」
今度は僕の仕事用の方のスマホを開いてツイッターのコメントを表示した。
[アリス:こんど旅行へ行きます! 場所はブルースフィア島だ!]
それに対するリスナーの反応の中に⋯⋯。
[よかったねアリス!]
[ホリー神が行った島じゃないかそこ!]
[おーついにドラファンの世界の聖地巡礼ですね!]
[たのしんでこいよアリス!]
「⋯⋯リスナーが教えてくれたんだ、このブルースフィア島がドラファンの聖地だったって」
「そっか⋯⋯」
「あっ君、普段からドラファンが好きだってリスナーに言ってたからなあ」
「それでこの父さんのこの本を借りて読み返して確認したんだ。 ⋯⋯本当だった。 それで思い出した、子供の頃はこの本を読んでこの島へ行ってみたいと思ってた事を⋯⋯」
「夢が叶ったのね」
「よかったね、あっ君」
「うん。 本当によかった、夢が叶って⋯⋯Vチューバーになって良かった」
直接的にはリネットに誘ってもらえたからなんだけど、そこに辿り着くために多くの人との縁が積み重なっていると僕は思った。
その時やっと最後にリネットが飛行機に乗ってきた。
「リネット! 誘ってくれてありがとう!」
「アリスが喜んでくれて良かったです! きっと国を作った私のご先祖様も喜んでますよ」
リネットのご先祖様が作り上げたブルースフィア島、そこへの思いを馳せながら飛行機が飛び立つのだった。
ちょっとここで今回の旅行の予定を説明する。
実はブルースフィア島は小さな島国なので日本と直通の国際線の飛行機が無いのだ。
それでいったんこの飛行機はイギリスへ行き、飛行機を乗り換えてからブルースフィア島へと向かう。
そのブルースフィア島の本島の方にも空港が無いらしい、島の美観を損なうからとかいう理由で。
本島のすぐ隣のさらに小さな離島に空港があるのだ。
そこから今度は船に乗り換えて上陸する⋯⋯それがブルースフィア島である。
⋯⋯というわけでイギリスに着くまでみんな寝てしまった。
まあ今朝は朝の4時起きだったし、姉なんかそうでなくても朝に弱いからな。
その姉は今グースカ寝ている、その隣で添い寝している映子さんは⋯⋯寝たフリだなありゃ。
別の席のリネットはアイマスクして速攻で寝てしまった、王族はこういう移動中に寝るのがたしなみらしい。
⋯⋯僕の左右の席からは静かな寝息が聞こえてくる、留美さんとシオンも寝たらしい。
起こすのも悪いなと思いながら僕も寝ようと思ったのだが⋯⋯なんか緊張して寝れないな。
旅行だけが理由じゃないな、傍でかわいい女の子が寝ていて、その寝息が聞こえるのがなんか⋯⋯こう⋯⋯すごく緊張するのだ。
留美さんの寝顔をちょっと見る⋯⋯すごく綺麗だな、こんな子と一緒に暮らしているなんて今でも信じられない。
シオンの方は⋯⋯すげーアホみたいな子供っぽい寝顔だな、しかし静かに呼吸するたびに上下する膨らみはちっとも子供じゃなかった。
⋯⋯やれやれ煩悩退散!
そう精神を集中して寝ようとすると⋯⋯。
カリカリカリカリカリ⋯⋯。
と謎の音が聞こえてくる?
⋯⋯なんだ?
見渡すとそこにはスケッチブックやタブレットを使って原稿の下書きしているオシロン先生が居た。
こうして黙って仕事中のオシロン先生は初めて見たのだが⋯⋯すごく真剣だった。
まっすぐに澄んだ瞳で、こういうのがプロの漫画家なのか?
「⋯⋯ねえちょっとそこのセバスチャン君さあ、壁を背にして目線そらしてくれないかな?」
「なんで俺が!」
「えーしてくれないの? この前はなんでも言う事きいてくれたのに~」
「うるさい黙れ! お前も寝てろ!」
「ちぇ~ケチ」
オシロン先生⋯⋯綺麗な目をしていても描いている漫画の内容は腐っているようだった。
やがて僕も目を閉じて⋯⋯寝てしまった。
僕の夢の旅はこうして始まるのだった。
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