#175 夏のコミュニティ・マーケット その2『留美編』「夏コミでドキドキデート!?」
私とアリスケ君のバイトは、だいたいお昼ごろに終わった。
⋯⋯とにかく疲れたし暑かった、という感想しかない。
なんかもっとこう⋯⋯楽しんで同じバイト仲間という連帯感を味わえるかもと思ったのだが⋯⋯なんか感じたのは同じ戦場で戦う者同士の戦友的な絆しかなかった。
「お疲れ様。 アリスケ君、留美さん、それと揚羽さんも」
「おつかれ⋯⋯」
「さまでした」
「⋯⋯です」
バイトの終了を木下さんが宣言してやっと解放された私達だった。
とはいえまだお昼の1時ごろ⋯⋯夏コミはまだまだ続いているのだ。
「⋯⋯どうするアリスケ君?」
「うーん、このまま帰るのももったいないかな? 夏コミなんてめったに来ないし」
ということで私達はこのあとしばらく夏コミ見物をする事にしたのだ。
「⋯⋯私は帰るわ。 明日も仕事あるし」
「そうですか、お疲れ様です揚羽さん」
こうして揚羽さんだけが先に帰ることになった。
⋯⋯内心ちょっとだけ嬉しかったりする。
「それじゃあ揚羽さん、ご苦労様でした」
「ん⋯⋯じゃあね。 はあ~、まったく若いっていいわね」
そうボヤきながら帰っていく、私よりもはるかに身長の低い子供みたいな外見の揚羽さんだった。
それを見送り私たちは⋯⋯。
「じゃあ留美さん、どうする? 同人誌でも買うの?」
「うーん、同人誌はあんまり興味無いしコスプレでも見に行かない?」
「そうだね」
こうして私達はコスプレ広場へと見物に向かうのだった。
するとまあ私たちVチューバーのコスプレをしているレイヤーさんも多かった。
「僕たちのコスプレしている人⋯⋯けっこういるね」
「ほんとね」
これは驚きでもあり、やっぱり嬉しい事だった。
私たちの活動がこうやってファンのみんなの表現になる⋯⋯私の中での夏コミというものに対する気持ちが大きく変わる。
「あ! 見て留美さん、あそこ!」
そこにはアリスとルーミアのコスプレをした女の子たちが居た。
「わー、ホントだ。 ⋯⋯⋯⋯!?」
それは衝撃的な光景だった。
「すいませーん、レイヤーさん! こっちに目線もらえますか?」
「レイヤーさん! 別のポーズお願いします!」
そんなカメラを持ったファンの要望に応えるレイヤーさん達。
だけど次第にその要求はエスカレートしていた。
「アリスとルーミアで『両手をつなぎあってるポーズ』お願いしますね!」
「なんかこう『ご主人様と使い魔』みたいな感じで!」
「『ラブラブにハグ』して!」
⋯⋯したことないよ、私達は!
⋯⋯⋯⋯したいと思ったことはあるけど。
「あはは⋯⋯留美さん、しかたないよね。 まあファン達の妄想だし⋯⋯」
「うん、そうね! これはファン達の妄想だから仕方ないわね!」
⋯⋯なんかへんな気分になったので私達はその場をコソコソと離れるのだった。
すると、ものすごく大きなカメラオタクの輪があった。
当然その中心にはコスプレイヤーさんが居るに違いない。
「すごい輪だな。 いったいどんなコスプレなんだろう?」
「⋯⋯ちょっと見てみましょう」
そう言って私達はそのカメラの輪の中心を見に行ってみた。
⋯⋯するとそこには!?
「きゃー! アーニャ様~、こっち向いて!」
「ジョン・スミスもポーズください!」
そうやってカメラオタクに囲まれていたのはなんとリネットとセバスチャンさんだった!?
「⋯⋯なんでリネットがここに?」
「たぶん夏コミ見物に来たんだろうな⋯⋯リネット、アニメ好きだし」
まあこのアリスケ君の想像通りだと思う。
しかしリネットにとって誤算だったのは自身の見事な銀髪だったのだ。
しかも傅く金髪のセバスチャンさんとの組み合わせが、それをコスプレだと周囲に誤解を与えたのだろう。
「あれって今やってるアニメのヒロインのアーニャのコスプレに間違われたんだな⋯⋯」
「たぶんそうね」
アリスケ君の言ってるアニメ『お隣の国からやって来たアーニャさんはコードネーム【天使様】のエージェントでした、日本国民ダメ人間化計画を僕から始めるつもりみたいです!』は今期絶賛放送中である。
銀髪のエージェントのアーニャさん、コードネーム・エンジェル。
そのサポートをする金髪の万能執事、ジョン・スミス。
そのコスプレに見えたのだろう。
しばらく私達はそのカメラ撮影を見物していたが⋯⋯。
「これ⋯⋯助けに行ったほうがいいのかな?」
「そうね⋯⋯リネット達、逃げられなくなってるし⋯⋯」
一応カメラの輪の周りには黒服サングラスの本物のエージェントが控えている。
たぶんリネットの護衛だろう⋯⋯この暑い中ご苦労様です。
そして私達もそのエージェント達も手を出せずに居ると、突然カメラの輪が真っ二つに割れたのだった!
まるでモーゼの海割りのように⋯⋯。
その割れた人の間を堂々と歩いてリネット達に近づくのは⋯⋯なんとメイドさんだった!?
「あれはアーニャさんをダメ人間にするべく日本が送り込んだカウンターエージェントのメイド少女『雪さん』じゃないか!」
「いえ違うわ、アリスケくん! ⋯⋯あれは遊美さんよ!」
そう、それは映子さんの実家の自称素敵なメイドさんの遊美さんだった。
そして貫禄すら感じるメイドの遊美さんのエスコートでリネット達は救出されたのだった。
「どうする? 話しかける?」
「⋯⋯今近づくと騒ぎに巻き込まれそうだし、やめとかない⋯⋯かな」
本心は、このアリスケ君との二人っきりをもう少しだけ味わいたかったからなんだけど。
「まあそれもそうだね。 いこうか瑠美さん」
「⋯⋯うん」
なんかすごく嬉しかった!
まあアリスケ君も人から注目されたくないからなのは、わかってるんだけどさ。
⋯⋯それでも私を選んでくれたみたいで。
そしてその場をコソコソ離れる私たちだった。
「⋯⋯ちょっとトイレ寄っていいかな?」
「そうね⋯⋯」
実は私もちょっと行きたかった。
そして分かれてそれぞれトイレの列に並ぶが⋯⋯やはり男性トイレの方が回転率が高いので先にアリスケ君が消えていった。
「⋯⋯このままだとけっこうアリスケ君を待たせるかも?」
しかし昔の歌謡曲の世界みたいに「待った? アリスケ君」なんてやるのもいいかも!
⋯⋯いや、トイレから出てきてそれはちょっとどうなんだろう?
そんなくだらない妄想をしていたら──。
ドンッ!?
後ろから来た人にぶつかった!
どうやら前を見ずに歩いていた人だったようだ。
「大丈夫ですか? ⋯⋯⋯⋯って、あれ!? 智香?」
「留美! なんでこんなところに!」
なんとぶつかった相手は私のクラスメートの智香だった。
少し前にバスケの助っ人で親しくなった友人である。
私は動揺しつつも落ちて散らばった同人誌を集めるのを手伝った。
⋯⋯見られてないよね? アリスケ君と一緒のところを?
そう考えながらふと手にした同人誌を見ると⋯⋯。
「『ルーミアちゃんはボクの夜のご主人様です♡』⋯⋯⋯⋯ナニコレ」
バッとその同人誌をひったくる智香だった。
「こ⋯⋯これは私のじゃなくて! そう! 由愛と華恋の荷物持ちで来ただけで! さよなら!」
そう言い残して走り去るのだった。
「⋯⋯なんだったのかしら?」
智香と由愛と華恋は同じバスケ部の部員である。
いちおう短い時間だったが私も同じ戦友だった関係だ。
あの後、全国へ行ったバスケ部は1回戦で敗退したらしいのでまあ今日は休暇だったのだろう。
その休暇に夏コミに来るのか、あの子たちは?
⋯⋯よくよく考えると由愛と華恋はオタクだった。
その友人の智香もいろいろ布教されていたからまあ不自然ではないか。
「⋯⋯それにしても、こんなところで会うなんてすごい偶然」
その後、私はトイレから出て待っていたアリスケ君と合流し帰宅しようと思ったのだが⋯⋯。
「せっかくだからオシロン先生のところへご挨拶へ行かない?」
「そうね」
そうやって偶然向かった同人誌コーナーでさっきの智香の落としたのと同じ本を見つけてしまった。
⋯⋯どうしよう?
「あ! オシロン先生!」
「アリスケ君、来てくれたんだ!」
一瞬⋯⋯アリスケ君の目が離れた、わずかなスキに私はつい──!
「これ下さい」
「500円です」
さっと買った同人誌をカバンにしまいこむ私だった。
帰宅後、その同人誌を読んだ私は⋯⋯。
⋯⋯新しい世界への扉を開いたのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
続きを読みたいという方はブックマークの登録を、
面白いと思って頂けたなら、↓の☆を1~5つけてください。
あなたの応援を、よろしくお願いします!




