#165 1年前へのプロローグ! 相川映子、トクベツになりたい社長令嬢(エトワール)
私、相川 映子は何不自由のない社長令嬢だった。
望めばなんでも与えられて、わがまま放題の日々だった。
しかし⋯⋯そんな世界は嘘だと知ってしまう。
結局すごいのはお父様であって私じゃない。
私自身にはなんの価値もないただの女の子なんだって次第に理解していった。
私に近づく人たちは皆私をただの社長令嬢として扱い、社長に対してゴマをするのが目的なんだと理解したのだった。
私にもなにか『トクベツ』が欲しい⋯⋯。
それが私のささやかな願望だった。
子供の頃の私を両親はよくヨーロッパへと連れまわしてくれた。
そんな中で父は様々な芸術というものを私に見せてくれた。
とくに私が気に行ったのは音楽の分野だった。
そして父は様々な音楽のコンサートへと私を連れて行ってくれるようになった。
そこで出会ったのが木下宇佐子さんだった。
彼女は魔法使いだった。
彼女が弾くとまるでピアノに命が吹き込まれたように素晴らしい音色を奏でるのだ。
それができる宇佐子さんは私の憧れで私もああなりたいと強く思ったのだった。
やがて私は宇佐子さんの後を追うようにヨーロッパで音楽を学ぶ道に進んだ。
自分には何でもできる、今まではやる気になるモノが無かっただけなんだと⋯⋯。
そう無邪気に信じていた子供の頃の私だった。
やがて私は現実を突きつけられるようになってきた。
自分には超一流になれる素質が無いという現実に⋯⋯。
それでもあきらめきれずに色んなことに挑戦してみた。
なんども使う楽器を変えてみた。
しかし私にとっての宇佐子さんのピアノのようなめぐり合いは無かったのだ。
どんな楽器でも学べば短期間で上手くなる才能。
でもけして一流には成れない程度の才能。
器用貧乏⋯⋯それが私に配られたカードだった。
もちろんそんな私の才能をうらやむ人も居るだろうけど⋯⋯私が欲しかったのはそんな才能じゃなかった。
音楽を愛する才能はあった。
でも音楽に愛される才能は無かった。
それが相川映子という女の子だったのだ。
ヨーロッパでの音楽活動に見切りをつけて最後の高校生活は日本ですごした。
しかしなにか、心から燃えるような情熱を持つナニカに巡り会う事も無く、ただぼんやりと卒業してしまったのだった。
そして大学へは進学しなかった。
とても打ちのめされた出来事があったからだ。
あの宇佐子さんが私の父の会社で働くようになっていた。
とても素晴らしい音楽家としてプロのピアニストになっていると思ったら、何故かマネージャーになっていたのだった。
「あの宇佐子さんでもプロの音楽家に成れないのか⋯⋯」
才能の残酷さを思い知った。
そして身の程知らずだった私自身にも。
気がつくと私は自堕落でなんにもやる気のおきないニートとして日々自宅で過ごしていたのだった。
だがある日の事、珍しく父が自宅で仕事の事を話していた。
「Vチューバー?」
「ああ、映子知っているのか?」
「うん、まあ⋯⋯」
いや大したことは知らなかった、でも何となく知ったかぶってしまったのだった。
「そうか、お父さん今度会社でVチューバーのプロジェクトを進めるんだ。 映子にも意見を聞くかもな!」
「⋯⋯そうね」
やばい⋯⋯。
そう思った私はその日からVチューバーの研究を始めるのだった。
そして調べたVチューバーには不思議な特徴があったのだ。
ものすごい天才がやってるような専門家チャンネルは、たいした再生数が無かったり。
漢字も読めないようなアホの子が笑い者になっているチャンネルの登録者数が10万人くらい居たりした。
「Vチューバーには完璧な才能が要らない?」
私はその事を父に話してみた。
「そうか、映子も気づいたか。 そう、ウチでは『親しみのある人材』を集めるつもりなんだ」
すごいな父さん! 私なんかが気がつくような事を、もうとっくに知っていたのだ!
「さすがお父さん! ⋯⋯私もやってみようかなVチューバー。 私でも出来そうだし!」
思わず口が滑ったとしか言いようがない失言だった⋯⋯。
そんな気は今まで一切なかったのに、ついそんな心にもない事を言ってしまったのだった。
「そうか! じゃあ映子ちゃんも参加してみるか!」
「え? いや⋯⋯その⋯⋯いまのは⋯⋯」
父からすれば私が何かをやる気になるのが嬉しかったんだろう。
⋯⋯社長という職権を乱用するくらいに。
そして私は、今のは冗談だったとは言い出せないまま⋯⋯Vチューバーデビューが決まってしまったのだった。
⋯⋯私が悪いんだけど、どうしてこうなった。
こうしてVチューバーに成ることになった私は、あの宇佐子さんと再会したのだった。
「あなたが社長の娘だとしても一切特別扱いはしません! いいですね」
「うん、宇佐子さん」
思いっきり睨まれた!?
「映子さん、あなたとは古い知り合いですがここでは公私混同はやめてください。 あと私を宇佐子とは呼ばないように!」
「⋯⋯はい、木下さん」
なんか悲しくなった。
久しぶりに再会した宇佐子おねえちゃんは、なんかいつもピリピリしているし私には怖いし。
まあその原因は、父からの無茶ぶりな仕事のせいだとすぐにわかったんだけどね⋯⋯。
この時点で私は本気でVチューバーになる気はまったく無く、その代わりにメンバーの内側からそれとなくこのプロジェクトを観察して、なにかしら父や宇佐子さんに報告して成功に導く⋯⋯そんなスパイ活動をするつもりだったのだ。
そしてメンバーは私を含めた6人で研修を始める事になった。
一番目立ってて頑張る子は深山揚羽さんだった。
この子はものすごい背が低い子でビックリした、小学生の子役タレントかと思ったくらいだ。
むしろそっちの方が需要ある適正なんじゃないかと思ったくらいだ。
逆にものすごく引っ込み思案で心配になるのが朝倉來未ちゃんだった。
この子はちゃんと見た目通りの中学生で安心した。
ギターが得意というか、それ以外の特技が無いと言い切ったこの子はどうしてVチューバーになろうと思ったのか?
普通にミュージシャンになればいいのに?
「あの⋯⋯あなたが映子さんですか?」
「ええ、そうだけど?」
「ふあぁ~! 会いたかったです! 楽器の天才だって聞きました! いつか私とセッションしてくださいね!」
「⋯⋯ええ、いつか⋯⋯ね」
あの⋯⋯私、エレキギターはやった事ないんだけど?
いやキーボードとかなら出来るか⋯⋯。
しかしこの來未ちゃんを見て気づいたことがある。
⋯⋯この眩しい期待に満ちた目を向けられるのって辛いって事を。
私も宇佐子さんにそういう目を向けるのはもう止めよう⋯⋯。
3人目は十六夜明日菜さん、この人はなんとプログラマーだそうだ。
⋯⋯プログラマー? なんで? Vチューバーをなんだと思ってるのお父さんは?
しかしプログラマーとしては天才でもVチューバーとしては完全に素人だった。
逆にVチューバーとしては天性の芸人の素質のある人、それが南那奈さんだった。
声が大きく周りを明るくする才能がある人だと思った。
みんな一癖も二癖もある個性的なメンバーだった。
そんな中にどう見てもただの一般人にしか見えない人が居た。
それが栗林真樹奈さんである。
本当にただの素人だと丸わかりなのにマイクの前でも自然体で物怖じしない不思議な人だった。
こうして私はこの人達にまじって研修を受けるのだった。
しかし研修内容のボイストレーニングなどはすでに私にとっては履修済みな項目が多く、次第に私も指導員側になってみんなを指導するようになっていった。
「すごいね映子さん! 何でもできて」
「⋯⋯ありがと、栗林さん」
一番物覚えの悪いのはこの栗林さんだった。
よく居残りしてそれで私が練習の面倒を見ることが増えてきた。
「栗林さんはそんなにVチューバーになりたいの?」
「いや別に? でもこうやってなにかに挑戦するのって楽しいし!」
楽しい? 挑戦する事が?
私は結果ばかり求めてきた、一流になって活躍する自分しか想像してこなかった。
だから不貞腐れた⋯⋯。
もしも私がこの栗林さんのように頑張る事そのものを楽しむ事をしていれば、何かが変わっていたのだろうか?
このなにも持たないと思っていた栗林真樹奈という人に『人の心を開かせるなにか』という言葉に出来ないような才能があるって次第に気づき始めた私だった。
だって栗林さんに一番惹かれていったのが私だったんだから!
「私の名前は相川映子よろしくね」
「私は栗林真樹奈。 真樹奈でいいよ映子!」
今でこそVチューバー界の人たらしで浮気者と呼ばれるVチューバー・マロンだったが。
最初に友達になったのは私⋯⋯Vチューバー・エイミィだった。
これだけは譲れない、私だけのトクベツ⋯⋯。
「ん⋯⋯相川? あれ? 社長とおんなじ名前?」
「⋯⋯⋯⋯映子ちゃん、ぴーんち!」
やがて私が社長令嬢だとみんなにバレてしまうのだが⋯⋯。
お父さん私ね⋯⋯。
トクベツな仲間ができたんだよ!
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