#163 1年前へのプロローグ! 南那奈、ガチャ大好きな廃課金者(ギャンブラー)
「栗林真樹奈。 十六夜明日菜。 朝倉來未。 ⋯⋯そしてウチの映子ちゃんか。 なかなかいいメンバーが集まってきたな木下!」
「そうですね、社長」
社長の思い付きの対抗心で始まったこのVチューバープロジェクトもだんだんとタレントが集まりつつあり、形がようやく見え始めたようだった。
でもまさか社長が職権乱用の親バカで娘の映子ちゃんをゴリ推すとは思いもしなかったが⋯⋯。
しかしその映子ちゃんは今や音楽の分野ではかなりのエキスパートで、そう悪い人選でもないと思えるのだった。
⋯⋯でも、あの小っちゃかった映子ちゃんを私がマネジメントするとは思いもしなかったなあ。
今やたいへんご立派に成長しているが⋯⋯。
「しかし⋯⋯こうなると物足りないな」
「物足りない? どういう事でしょう社長?」
なにやら突然言い始めた社長だった。
まあいつもの思い付きだと思い、嫌な予感しかしない私だった。
「なんて言うのかな? 優等生すぎるメンバーだと思うんだ」
「はあ⋯⋯」
優等生? このメンバーが?
私には問題児軍団にしか見えないんだけど⋯⋯社長の娘も含めて。
「ちょっとした起爆剤が欲しいと思う」
「起爆剤⋯⋯ですか?」
ちょっと意味がわからない私だった。
「アイドルグループなんかに1人くらいよく居るだろ? 毎回ツイッターで炎上するけど何故かファンからは愛されているようなタイプの子が」
「ああ、そういうタイプですか」
なんとなく私にもわかり始めた、このVチューバープロジェクトを意図的にプチ炎上できそうなタレントを社長は欲しているのだと。
「社長。 それは生贄的な、切り離し前提のブースターですか?」
「そこまでする気はない。 Vチューバープロジェクト自体にも大打撃を与えかねんからな。 軽く問題ある発言が多い、そして「コイツバカだよなー」くらいのファンからの上から目線を獲得したい」
「なるほど⋯⋯」
このファンからの目線の角度というのは重要だ。
見上げ続ける偶像もいいが、適度にバカに出来るアイドルもこの業界には多くいるからだ。
「木下。 集めた候補の中に率先してバカなことして、リスナーから「真似したくないけど応援してます」というようなタイプのニコチューバ―は居なかったか?」
「居ます! たしか⋯⋯」
私は資料を引っ張り出してそのニコチューバ―の経歴を社長に見せた。
「ほう⋯⋯スマホゲームの廃課金者か⋯⋯」
「いかがでしょう?」
「いいな面白そうだ。 将来的にスマホゲームの案件担当になってもらおう」
こうして今度のスカウトはやや毛色の異なるタイプの発掘になったのだ。
その廃課金ニコチューバーの名は南那奈という名前だった。
── ※ ── ※ ──
「は~い。 ナナちゃんの今日のおはガチャ配信、はっじめるよ~!」
私、南 那奈は大学を卒業したが就活してなかったフリーターである。
普段は日本橋のとあるメイド喫茶でバイトしているが⋯⋯趣味はこのスマホゲームだけなのだ。
「今日も辛くてめんどくさいデイリー回してかき集めた石でガチャ回すよー。 そして今日からなんとあの大人気キャラ『サイレント鈴鹿』ちゃんの水着が実装しました! やっと来た鈴鹿の水着が⋯⋯長かった待った甲斐があった! アタイは貧乳でも一向に構わん!」
【高速の機能美だぞw】
【よかったなナナさん鈴鹿推しで】
【今日もナナさんの爆死の時間だー】
「いやいや爆死しないよ今日は。 昨日天井を見たアタイだよ! 今日は爆死するわけないでしょうが?」
【なんの根拠もない根拠で草www】
「根拠ならあるさ! 確立ってのは収束するんだぜ、つまり昨日天井だったから今日はすぐに鈴鹿を引ける⋯⋯当然だろ?」
【当然じゃねーよ】
【やっぱりバカだバカが居るwww】
【でも応援するぜナナちゃんの爆死を!】
「おっしゃー! 見とけよ見とけよ、アタイの神引きを! ⋯⋯ポチっとな!」
そして配信中のスマホゲームの画面はガチャ演出画面になる。
銅・銅・銅・銅・銅・銅・銅・銅・銅・金!
おー、最低保証の見慣れた絵だった!
【今日も朝からグロ画像で苦しいwww】
【確率がなんだって?】
「へーきへーき! 最初の10連目ガチャをザイゲは遊ぶ、コレ世界の常識だし」
そして気楽に20連目ポチっとな!
銅・銅・銅・虹・銅・銅・銅・銅・銅・金!
「キタ──! どや見たか! ほらな見ただろ! 今日は引ける! そう決まってんだよなー。 皆さん、ありがとうございました。 ナナちゃんの次回作にご期待ください!」
[はりきっていこうよ!]
⋯⋯あれ流れ変わったな?
【www】
【すり抜けじゃねーかw】
【北島ブラックは先週天井したでしょ?】
「おら~!? 今来るんじゃねえよ! 先週6万つっこんだんだぞ、お前に!」
こうして今日も私もガチャは渋めだった⋯⋯。
そして180連目。
銅・虹・銅・金・銅・銅・銅・虹・銅・金!
「あーはいはい。 すり抜けすり抜け」
【やる気出せw】
【もうすぐ天井じゃないか!】
「これもう消費者庁案件だろ? やはりガチャは悪い文明⋯⋯規制すべきだ」
⋯⋯しかし!
[この夏も私が一番です!]
「キタ──! 鈴鹿キタ──!」
さらに!
[この夏も私が一番です!]
「2枚抜きキタ──! やっとエンジンかかって来たぜ!」
【もう180連目なんだよなあwww】
【スロースタートで大草原やwww】
こうして最後の天井でも鈴鹿を選んで、なんと今回は2天井で水着鈴鹿を完凸出来ました!
「いやーありがとう! ザイゲは神ってわかんだよね! 一生ついて行きますぜ!」
【手の平大回転で草w】
【いつもの】
こうして私はいつものように大満足のガチャ配信を終えたのだった。
「いやーけっこうスパチャも貰えたし⋯⋯またコレで来週もガチャが引けるな」
なんという永久機関! これぞ現代の錬金術だよ!
そうやってゲームをしていたらメールが来た。
「⋯⋯ん、なんだ? バイトのヘルプかな?」
しかし見慣れない宛名からだった。
「⋯⋯ヴィアラッテア? 木下? Vチューバー? ナニコレ」
とりあえずアタイはそのメールをざ~とナナメ読みする。
「⋯⋯縦書きも隠されてないし、本物かコレ?」
だとするとこの内容はアタイへの企業Vチューバーのスカウトという事になる。
「まじかー。 とりあえず返信しとくか⋯⋯」
このアタイの汚くて狭いワンルームマンションに客など呼べないので、この木下という担当者にはアタイがバイトしている店に来てくれるように連絡しておいた。
「⋯⋯これでOK! さあ最高のおもてなしをやるぜー!」
そしてバイトの日。
そしてスカウトの人が来る日。
アタイのバイト先のメイド喫茶に来たのは女だった。
「ヴィアラッテアから来ました。 担当の木下と申します」
「⋯⋯女性の方でしたか」
Vチューバーとか言ってもアイドルだし、スカウトに来るのは鼻の下伸ばしたおっさんだと思っていたよアタイは⋯⋯。
「南さんはここにお勤めに?」
「ええまあ」
今のアタイはここの制服であるメイド服姿だ。
アタイはけっこう身長高めなので普段は『執事服姿』で主に女性客を担当しているのだが⋯⋯今回は色仕掛けと思い、このミニスカメイド服で迎え撃ったわけだ。
「⋯⋯裏目ったな。 今から執事に着替えてきましょうか?」
「いえ、貴方の服装は面接とは関係ないので。 このまま話を進めましょうか」
こうして淡々と木下さんはスカウトの内容を語っていく。
それをアタイは真面目に聞く。
なぜかって? 決まっているだろ、アタイみたいな人生破綻者がまともな就職できるチャンスは無いからだ。
「──将来的には南さんにはスマホゲームの宣伝案件を中心に活動していただくかと」
「⋯⋯つまり、会社の金でガチャが引き放題!?」
「まだ手探りな状況で確かなことは言えませんが⋯⋯ある程度、節度ある投資までなら会社負担だと思いますよ」
つまり会社の金でガチャを引く、それを見たリスナーがスパチャ投げる、ゲームの宣伝ができてザイゲも大喜びでボーナスドン!
「なんだこの圧倒的永久機関⋯⋯やったね」
アタイは即決でこの木下さんの持ってきた契約書にサインをしようとした。
しかしこの木下さんがそれを⋯⋯。
「サインする前にこれは独り言ですが⋯⋯」
「なに?」
「会社では貴方にピエロとしての立ち回りを期待されています」
ちょっと真顔になった。
ようするにアレか? 騒ぎを起こして箱全体の知名度を上げる役目か⋯⋯。
「ふーん、ピエロね。 で⋯⋯やりすぎたらあっさり切られるわけだ、アタイは」
「南さんにとっては重大な一生の選択です。 よく考えてからサインを──」
しかしアタイはあっさりとその契約書にサインした。
「ピエロ上等! 宴会では真っ先に一気飲みして吐くバカ、それがアタイだ! そんなバカが居ないと盛り上がらないでしょ、木下さん?」
「まあそういう事です。 しかし会社も決してわざわざ切り捨てたいとは思ってませんので、一緒に境界線を探っていきましょう」
「いいね木下さん。 あんたは信用できそうだ」
そんなアタイの事を申し訳なさそうに木下さんは見ていたのだった。
べつにそんな事ぜんぜん気にしなくていいのにな~。
こんな楽しそうな悪魔の罠を持ってきてくれた優しい魔女に、アタイは感謝するのだった。
── ※ ── ※ ──
南さんのスカウトが終わり⋯⋯東京への帰路。
私はこれで良かったのか自問する。
「⋯⋯社長の考えは妥当。 戦略も許容範囲。 ⋯⋯でも」
1人1人、私がスカウトした人達を思い出す。
栗林真樹奈、十六夜明日菜、朝倉來未、そして南那奈。
皆、私を信じてついて来てくれた子たちだ⋯⋯。
「辞めさせるもんか、誰一人。 ⋯⋯私が守ってみせる」
社長には恩がある。
しかしこの時初めて私は⋯⋯密かに社長への反意を胸に秘めていたのだった。
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