#116 消えないでヒーロー
「それではこれからも通わせていただきますね!」
そうご機嫌で店長に言うリネットだったが⋯⋯。
「あーこの店、来月には畳もうかと思ってるんだ」
店長の衝撃の告白だった。
「どっ、どうしてですか!」
リネットは大慌てだ、そりゃ憧れのヒーローの中の人と出会ったと思ったらすぐにお別れとか予想外すぎたんだろう。
「見ての通りさ」
そう静かに店長はこの店を見渡す。
「⋯⋯お客が居ないから?」
今この店には僕たちしか居なかった。
夏休みの昼間だというのに。
これも少子化の影響なのだろうか?
「もしかして売り上げヤバいのですか?」
「いや赤字はないよ。 発売日とかにはそれなりに客は来るからね、でも⋯⋯」
「普段はこうだと」
「⋯⋯これも時代かな?」
今の時代の子供たちは家に引きこもって遊んでいるのだろう。
僕なんかはこういう店によく入り浸っていたんだけどなあ⋯⋯。
「そんな冨士山様! 私が毎日買いに来ますから!」
「殿下それはちょっと⋯⋯」
さすがにセバスチャンも難色を示す。
「君のようなお嬢さんに心配してもらえるのは嬉しいが、そういうのは望んでいないんだ」
「う⋯⋯申し訳ありません」
「まあ夏休みいっぱいは営業するからさ」
「⋯⋯そうですか」
どうやらリネットも冷静になったようだった。
「しかし俺って海外だと有名なのかな? 昔から海外からのファンメールが多かったし?」
ヒーローの中の人の名前なんて日本人でもそれなりのマニアしか知らないだろう。
でも海外だとむしろそんなマニアしか居ないのかもしれない。
「へー、海外からもファンレターとかもらうんですね」
「ああそうだよ。 なかにはがんばって日本語で書こうとしてる子も居たりしてさ」
そう笑う店長だった。
「同じ子がさ⋯⋯どんどん字が上手くなっていくんだよ。 だからよく覚えている子もいるよ」
そう懐かしむ店長だった。
「⋯⋯ 『ますくらいだーさまぴーまんがきらいですやっつけて!』」
突然リネットが棒読みで変なことを言い出した!?
「⋯⋯ジョンかい? 君がジョン君なのかい!」
「はい⋯⋯。 私がジョンです!」
リネットが突然ジョンと名乗った。
「はははっ! まさか女の子だとは思わなかったな⋯⋯」
「その申し訳ありません。 当時の私はその⋯⋯女の子がヒーローにファンレターを送るのは変なのではないかと思ってて⋯⋯」
「そんな事気にしなくていいのに」
「そうですよね⋯⋯」
そうリネットと店長は笑いあっていた。
どうやらリネットは幼い時この店長にファンレターを送っていたようだった。
「ところでピーマンは食べれるようになったのかい?」
「もちろんです! ちゃんと冨士山様の言いつけ通りに克服しましたわ!」
どうやらヒーローとの約束を守ったリネットの子供時代だったようだ。
「⋯⋯⋯⋯殿下がジョンだと?」
僕のとなりでセバスチャンが呟いていた。
僕は何となくセバスチャンの本名が『ジョン』なのではないかと疑っている。
つまりセバスチャンがリネットの幼少からの世話役とかだったらそこからリネットが名前を拝借したんだろう。
まあたいして不自然でも何でもないな。
「最初にジョン君からお手紙が来たのは⋯⋯もう10年くらい前かな?」
「たしか私が5歳くらいだったから、そのくらい前ですね」
うーん、5歳ならピーマン嫌いでも仕方ないか⋯⋯。
「⋯⋯⋯⋯10年前か」
なにやらセバスチャンは真剣に悩んでいた。
なんでだろ?
「⋯⋯しかし、こうやって出会えたというのにすぐお別れなんて。 この店を続けるわけにはいかないのですか?」
それはリネットの我儘だった。
「うーん、売り上げ自体なら損さえしなければいいけど、こうも子供たちが来ないとやりがいが⋯⋯ね」
たしかに駄菓子屋のばあちゃんが生き生きしているのは子供のお客が居るからだろう。
そんな満足感が無いからこの店長はもう店を閉める気になったのだろう。
「では子供たちが集まればこの店は⋯⋯」
「まだ続けてもいいとは思うよ」
そう店長は答えた。
「この店に子供を集める方法か⋯⋯」
僕は考える。
「この中だとアリスケ君と紫音さんが一番子供目線じゃないかしら?」
そう留美さんが助言する。
「なるほど⋯⋯僕とシオンが来たくなるような店か?」
「駄菓子を売るとかは?」
「ふむ⋯⋯なるほど、そのくらいなら出来るな」
どうやら店長も乗り気になってきたようだった、元々子供好きみたいだし。
「でもそれだけで今まで来ない子供たちが急に来るようになるかな?」
「厳しいかも? そもそもここで駄菓子を売ってるのを知らないままじゃないかな?」
つまりお菓子は来た子供には好評でも子供を呼ぶ力にはならないと思う。
「なにかここに集まる意味でもあれば⋯⋯」
そう僕は考えるが⋯⋯答えが出ない。
しかし今まで黙っていた留美さんが話し始めた。
「店長さん、ここって通信設備ってありますか?」
「ん? インターネットならあるけど?」
「フリーWi-Fiとかは?」
「無いよ」
「どういう事、留美さん?」
そして留美さんの説明が始まる。
「えっと私って元々この近くのアパートに住んでたじゃない」
「そういやそうだったね」
留美さんのマンションは火事で取り壊しになったんだっけ、それで今では僕と一緒に住んでいる。
「それでね、私はお仕事でネットを使い始めた時にルーターのパスワードの設定をしてなかったのよ」
「それで?」
「そしたらマンションの裏に子供たちが集まってきて、みんなでゲームしてたのよ」
「なるほど⋯⋯Wi-Fi難民か!」
たとえば今僕とシオンがやっている『ハンティング・モンスターズ』ではネットを通して何処かの誰かと一緒に狩が出来るのだ。
そしてそういったゲームはたいていソロだと難しく、マルチだと楽ちんだったりする難易度だ。
そりゃ子供たちはマルチでプレイするに決まっている。
しかし自宅にWi-Fi設備が無い家庭も多いのだろう。
そういった家の子供たちは何処かのパスワード設定をしていないWi-Fiを求めてさ迷う、それがWi-Fi難民である。
「ふむ⋯⋯なるほどね」
「どうです? 店長さん?」
「そのくらいなら安上がりだな、後は椅子でも用意すればいいだけだし⋯⋯やってみるか」
どうやら店長さんにやる気が戻ったようだった。
「ナイスアイデアだね留美さん」
「そんなたまたまよ。 それに効果があるかはまだわからないし」
「たぶん行けると思う」
「どうして?」
「来週発売の『ロールプレイング・アドベンチャーワールド』には通信モードがあるから絶対来る!」
このゲームはネットを通して知らない人とも冒険可能なゲームなのだ。
「ぜったい忙しくなりますよ、店長さん!」
「そうか。 ならもう少しだけ頑張ってみるか」
こうして僕たちはゲームショップを後にしたのだった。
この留美さんのアイデアと僕の安請け合いがまさかあんな出来事になるとは、この時は予想すらしていなかった。
── ※ ── ※ ──
その日の夜、私は考えていた。
「まさかここでマスクライダー様に出会えるなんて⋯⋯」
しかしその私の恩人は消え去る寸前だった。
だがまだ間に合う。
アリス達の子供を集めるアイデアはユニークなものだった。
「私だったら補助金をバラまいてゲームを買わせる⋯⋯くらいしか思いつかなかったなあ⋯⋯」
なんて可愛くない発想なんだろう。
これでは愛されるヒーロー失格である。
「私⋯⋯日本に来て、みんなと出会えて本当に良かった」
きっと今までの私では出来ない事、思いつかないことを、これからも体験していくに違いない。
私は部屋の片隅にある引き出しから10年前の手紙を取り出す。
そう冨士山様からの返事の手紙で私の宝物だ。
[ジョン君、勇気を出してピーマンを食べよう! 君が良い子にしていたら必ず良い事があるよ!]
その文面からはこの人が本当に子供好きなのが伝わってくる。
「恩返しがしたいな、私⋯⋯」
そして思い出す私の原点を⋯⋯。
あれは10年前の出来事だった。
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