#114 大冒険の予約に
「はい、ありがとうございました!」
そう言ってシオンが見送ったのは最後の業者だった。
たった今シオンの自室にベッドが運び込まれたことで、ようやくすべての家具類が到着したのだった。
しかも重たい家具は業者が中まで入って置いてくれたので助かった。
でも業者の人達驚いていたな。
そりゃここにこんな白髪や銀髪の美少女が居るなんて普通思わないし。
しかしシオンやリネットの非日常的な髪の色と比べると留美さんの黒髪は一見ふつうかもしれない。
でも黒髪ストレートからしか得られない栄養だってあるのだ。
そんなくだらないことを僕が考えていると⋯⋯。
「これで家具が揃ったね」
そうシオンが満足そうだった。
「意外と物が増えたなシオン?」
僕にとっては意外だった。
シオンの前のマンションではほとんど家具もインテリアも無かったのにこの変化は。
「私さ、真樹奈ねぇにちょっと憧れているんだよね」
「え? アレに?」
僕は驚く、あの姉に?
「あっ君は弟だし気がつかないのかな? あの人の温かさにさ」
「いや⋯⋯知ってるけどさあ⋯⋯」
「あそこは君たちヴィアラッテアのVチューバーの溜まり場だから、私もここをポラリスの秘密基地にするんだ!」
そうシオンは夢を語った。
「秘密基地、いいですね! じゃあ私が遊びに来てもいいんですか?」
「いーよ、姫ちゃん!」
姫ちゃん⋯⋯とりあえずシオンは人をあだ名で呼ぶのが好きらしいな。
「これは強敵ね、アリスケ君」
「そうだね、留美さん」
そしてシオンが不敵に笑う。
「くくく⋯⋯まあここから君たちを見下ろしてやるさ、まるでゴミのようにな! はっはっはっ!」
このシオンの部屋は僕たちよりも高層階にある。
「ムヌカ大佐ゴッコじゃねえか!」
「懐かしいわねラビュタ」
そんなふうに僕と留美さんは反応した。
しかしリネットは⋯⋯。
「私は最上階ですが?」
うーん、このロイヤル無自覚マウント姫め⋯⋯。
そんなくだらない言い争いを僕たちは楽しんでいたのだった。
そして話題がシオンの私物の少なさになった。
「こうやって見るとシオンって元々持ってたものって少なかったんだな」
「私が目覚めた時には全部なくなってたからね。 その後は小さいマンションで一人暮らしだし、あんまり物を増やす習慣が無かっただけ」
そっか、シオンは両親の形見とか全部ないんだ。
まあシオンはその辺の記憶があんまり無いからちょうど良かったのかもな。
「霧島さん、こんど一緒に服でも買いに行きましょう」
「服か⋯⋯着るのめんどくさいのは嫌だな、ジャージで良くない?」
「霧島さん⋯⋯ちゃんと着飾ったらすごくいいのに」
「そうですね、こんど一緒にデパートへ行きましょう!」
女の子たちはこういう話題好きだな。
「オシャレとかめんどい! 外着ならともかくこの部屋ではジャージかワイシャツで十分!」
「そういうとこ残念だよなあシオンは」
「なにあっ君? 私の気合の入ったオシャレコーデ見たいの?」
「⋯⋯笑ってもいいなら」
「だよねー、私には似合わないよねー!」
「いや似合うとは思うよ、たんに今までとのギャップで笑えるだけで?」
「⋯⋯ふーん」
シオンは何やら考え始めた。
あ⋯⋯これはよくない顔だ。
「るーちゃん! その『霧島さん』禁止なら一緒に服を買いに行く! それであっ君の腹筋破壊する!」
「『霧島さん』禁止って?」
「なんかよそよそしくてヤダから」
「じゃあなんて呼べば? いちおう先輩だし⋯⋯」
シオンの方が僕と留美さんの1っこ年上なんだよなあ⋯⋯背は低いけど。
「しーちゃんで!」
「⋯⋯じゃあ紫音さんで」
「⋯⋯ちっ」
よくわからないが仲良くなる事はいい事だ。
「私も、しーちゃんとお呼びした方が?」
⋯⋯リネットは真面目だなあ。
「いや姫ちゃんからは『紫音様』と呼ばれたい」
「ああ、わかるなあ⋯⋯リネットの声で『様』って呼ばれるのはなんかいいよな」
「でしょ! さすがあっ君は話がわかる!」
「私にはさっぱり⋯⋯」
「まあ私もしーちゃんよりは紫音様の方が呼びやすいので、いいですけど。 でもアリスは妹だし『アリス様』呼びはちょっと⋯⋯」
僕達はこういう無駄話を繰り返して親睦を深めていくのだった。
そして僕はシオンに聞いた。
「なあシオンって、ゲームをパッケージ買いしてないの?」
これは引っ越し作業を手伝った時からの僕の疑問だった。
シオンはそれはもうゲームのヘビーユーザーである。
ならそのコレクションは相当な量だと思っていたら、意外と少なかったのだ。
「ああその事か。 私が復活後、本格的にゲームをし始めた時から時代はもうファミステ5だったからね。 ダウンロード購入がすっかり慣れただけさ」
「そうなんだ。 僕はやっぱりパッケージを並べてコレクション物欲が満たされたい派だな」
「私はダウンロード派かな? あんまりゲームを買わないし」
まあ留美さんはライトユーザーだしね。
「私は⋯⋯ゲーム機を持ってません」
「⋯⋯え?」
リネットの衝撃発言だった。
「そういやブルーベルって、今までゲームの配信はしてなかったような?」
そうシオンは思い出すように言う。
「じゃあリネットは姉さんとゲーム対決するまで、ゲームした事が無かったの?」
それはあんまりなハンデだったと思う。
「いえ、ゲームしたこと自体はありますよ。 二番目の兄がいろいろ持っていたのでよく一緒に遊びました」
「王族でもゲームするのね⋯⋯」
僕も留美さんの意見に同感だった。
「ちなみにリネットはどんなゲームをしたの?」
「マリオンやドラファンですね」
「王道だな」
「なんだクソゲーじゃないのか」
「たぶん検閲的なものがあったんじゃないのかしら?」
僕らは好き勝手な感想を言う。
「なのでこれからはもっといろんなゲームで皆さんとも遊べたらいいですね!」
ドラファンの主人公はかなりの確率で王族だからな。
王族が率先して正義の戦いに赴くというところはリネットに影響したのかもしれん。
しかし僕は気づいてしまった。
「⋯⋯あれ? もしかしてリネットって今⋯⋯ゲーム機持ってないのマズいんじゃ?」
「なにか不都合でも?」
おーまいがっ!
「いま気づいて良かったかも」
「だね、あっ君⋯⋯」
「どういうことですか?」
これは僕たちVチューバーの今後のスケジュールにも関わる事だった。
「来週だけど『ロールプレイング・アドベンチャーワールド』の製品版が発売される」
「それってアリスたちが遊んでいた、あのゲームの!」
「そう。 だからリネットが僕たちと遊びたいなら、それを買うしかない」
「買います! 今すぐ買います!」
「いやまだ発売前だから⋯⋯でもゲーム機本体はもう買っといた方がいいかも?」
「そうだね、もうすぐしたら品薄になるかもだし」
「あとソフトはまだギリギリ予約が間に合うかもしれないし⋯⋯」
発売まで1週間を切っているので無理かもしれないが。
「ダウンロード版で良くない?」
「僕はカートリッジ版を予約してある」
「なら私もアリスとお揃いがいいです!」
「じゃあ私も予約しようかなあ⋯⋯」
どうやらダウンロード派はシオンだけのようだ。
これでパッケージ派は3人! 勝ったな!
「く⋯⋯なんかのけ者みたいでヤダ! 私も予約しに行く!」
「じゃあ早い方がいいな」
こうして僕たちは急遽ゲームソフトの予約をしに行くというミッションが始まったのだった。
「じゃあ案内するよ、実は最近この辺に穴場のゲームショップを見つけてね!」
「⋯⋯ソコってもしかして?」
どうやら留美さんは知っているらしい。
まあ学校帰りに見つけるのは当然な場所なんだけどな。
「ではセバスチャンに車を出させましょう!」
車で行くほどの距離じゃないけど、まあリネットの護衛もあるししかたない。
こうして僕たちはセバスチャンの到着を待ってゲームショップに行くことになるのだった。
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