03 ガシャーン! ガシャーン!
重々しい衝撃とともに、金属甲冑が倒れ込む。
傍目には、まるで糸が切れた人形みたいに見えただろう。
というか、実際に魔力糸は切れちゃったんだよね。
その衝撃で甲冑はバラバラになって中から毛玉が―――なんてことはない。
そこらへんはすでに対策済みなのですよ。
内部で留め金を掛けて、ちょっとやそっとじゃ外れない構造になってる。
それでも、この状況は大変によろしくない。
「ふ……ははっ、まさかと思ったが本当に効くとはな。魔獣を従えるような奴は罪も深いということか!」
細目職員が勝ち誇ったみたいに笑い声を上げる。
失敬だなあ。
そりゃあカルマはマイナスぶっちぎりだけど、ボクは犯罪者とは違う。
システム的に妙な方向へ突き進んでるだけで、罪深いって意味じゃないはず。
でもまあ、『懲罰』が弱点っていうのは間違ってないんだよね。
『極道』とかでも抵抗しきれないくらいに効果覿面だし。
しばらく動けそうにない。
おまけに、甲冑を着た状態で倒れ込んじゃったのもマズイ。
各パーツは外れてはいないんだけど……捻じ曲がっちゃってる。
関節部が、有り得ない方向に。
肘とか膝とか、人間だったら確実に折れてるよね、ってくらいに変な角度がついちゃってるよ。
細目職員は慌ててるからか、ボクの異常さに気づいてない。
でも冒険者の中には怪訝な顔をしてる人もいる。
これは、うん、一気に危機的状況に追い込まれちゃったね。
ただ、いますぐ命の危機ってワケじゃないんだけど。
「お、おい、おまえたち、今の内にコイツを縛り上げて―――」
その声を遮ったのは一号さんだ。
細目職員との間合いを一瞬で詰めて、メイドパンチからの足払い。
床に倒れた相手を、そのまま魔術の縄で拘束した。
メイドさんズはカルマどころか、ステータスも無いみたいだからね。
必然、『懲罰』も効かない。
万が一の護衛役として連れてきてよかったよ。
この場の冒険者くらいなら、一号さん一人でも制圧できそうだし。
それに、ボクもすぐに動けるようになった。さすがに『懲罰』にも慣れてきたってことだね。
「な、なんだよ、コイツは……」
冒険者の誰かが怯えたような声を漏らした。
普通に立ち上がったつもりだったんだけどね。
関節部が変な方向に曲がってたから、奇妙に見えたのかも知れない。
ギギ、とか金属が擦れる音も聞こえちゃったし。
はぁ。仕方ないね。
ここまで怪しまれちゃったんじゃ仕方ない。
なるべく穏便にして、良い関係にしておきたかったのに。
ボクが積極的に人付き合いをしようなんて間違ってたのかも。
でも、努力はしたんだ。
苦手なことを頑張ったんだから、誉められてもいいくらいじゃない?
ラノベ主人公だったら、「よく頑張ったね」って頭を撫でてくれるはず。
って、それだとボクがヒロイン側になっちゃうけどね。
と、余計なこと考えてる場合じゃないか。
のんびりして逃がすワケにはいかない。
そう。一人も逃がせない。
『ご主人様?』
カシャン、と肩部装甲を開く。
折角だから、『万魔撃・模式』の試し撃ちに付き合ってもらおう。
口封じ完了。
これでボクが魔獣だって知ってる人間はいなくなった。
一安心、とはいかないのがもどかしいところだね。
むしろ、ここからの方が面倒くさいかも。
帝国とか冒険者ギルドとか、あれこれと文句言ってくるだろうし。
どう説明したものやら。
それに、ある意味では初めての人殺し体験とも言える。
これまでも、人攫いとか魔獣攫いとか、大勢をブチ殺してきた。
だけど今回は少しだけ意味合いが違う。
そう、口封じだ。
細目職員や密偵さんはともかく、他の冒険者は巻き込まれただけ。
何の非も無かったと言える。
だから、ボクもあまり気分はよろしくない。
今更って気もするんだけどね。善人ぶるつもりもないし。
街との取引とかがあって、社会性を思い出したのかも。
精神衛生のためにも言い訳が必要だね。
人殺しの言い訳なんて、見苦しいことこの上ないんだけど―――、
だけどまあ、ここは魔境だし。安全が保障された現代社会じゃないし。
生き残るためには許される手段でしょ。
アレだ、緊急避難ってやつだよ。
ボクの正体がバレると、人間から敵視されて命の危険もある。
だから口封じするしかなかった。
嫌だったんだけどねー。自分の命が懸かってたんだから仕方ないねー。
うん。正当化完了。
まあ、やっちゃったことをあれこれ考えても無駄だよね。
『今後の人間への対応は、如何いたしましょう?』
そう、大切なのはそこだね。
建設中だったギルド支部は、人も物も綺麗さっぱり焼却しちゃった。
だけど、北にある街には説明の使者くらいは送った方がいいかも知れない。
そんな訳で、屋敷に戻って作戦会議中。
部屋のソファでゴロゴロしながら、一号さんと話し合ってるだけなんだけど。
『全滅の、報告だけしよう。向こうが悪い。ボクが殺した。詳細は伏せる。聞かれても答えない。無視。そんな感じで』
『承知致しました。ですが、そうなると敵対する可能性が高いと思われます』
『向かうのは、メイドさん三名で、大丈夫?』
最近はボクもかなり言葉を覚えてきた。
身振り毛振りより随分とマシになったね。
まだ少し拙い言葉遣いになるけど、意思疎通が楽になったのは嬉しい。
『街の戦力も大方は把握できております。三名であれば、争いとなっても脱出は確実に可能でしょう』
使者と言っても、今回は、殺しちゃったよ報告になるからね。
大人数に剣を向けられるかも知れない。
でも大丈夫そうなので、突撃サインを出しておく。
任せて、結果待ちだね。
その間に、ボクはボクで出来ることを片付けておこう。
備え有れば憂い無しって諺もあるからね。
『戦争の準備ですか?』
『違う。防衛の準備。とりあえず、この拠点を守る。その強化』
どうもメイドさん翻訳は、一段過激になる傾向にあるね。
結果的には正解になるかも知れないけど、まだ人間と積極的に争う段階じゃない。
あくまで目的は防衛。
のんびり過ごせる生活を守るのが大事。
そのために拠点防衛力の強化を進めていこうと思う。
これまでも武装の強化や魔術研究なんかは進めてきたけど、それをより進める感じかね。
まずは早期警戒のための見張り塔の設置。
ギルド支部を建てるために作ったやつを、拠点を囲う形でも置いていこう。
侵入者を自動で発見してくれる魔法装置は便利だし。
魔力供給は、警備役のラミアにやってもらえばいい。
周辺の巡回はこれまでも行ってたから、その際に見張り塔も回ってもらえば、労力はさして変わらないからね。
望めるなら、また外部に頑丈な城壁を築いて二重の防御にしたい。
でもさすがに、そこまでの余裕は無いね。大工事になっちゃう。
いっそ、この島から完全に人間を追い出せば楽になるのかな。
だけど、そこまでするのは非道な気がする。
『人間と、本格的に戦って、勝てると思う?』
『……不明です。敵戦力の情報が不足しております』
まあ、そうなるよね。
ボク自身、けっこうな戦闘力を得た自覚はある。
弱点になる『懲罰』対策も徐々に進めてる。
だけどこの世界のことは、まだ狭い範囲しか知らないからねえ。
あんまり調子に乗ると、手痛いしっぺ返しを喰らいかねない。
「人間と戦うのかニャ? なら、あたしがまとめて燃やしてやるニャ!」
元ファイヤーバードが籠の中でなにか言ってる。
以前の姿で言ってくれたら、どうぞどうぞってお願いしたくもなったかも。
でもいまは小さな赤鳥なので、まったく頼りになりそうもない。
「雷鳥のヤツも呼ぶといいニャ。アイツ、あたしよりずっと過激だからニャぁ」
そういえば、サンダーバードも怖いんだよね。
いつひょっこり会うか分からない。
その時のためにも、やっぱりボク自身をもっと鍛えておきたい。
片付けておきたい魔獣もいるし、ちょうどいいかもね。
いまは遠くまで探索に行くのは得策じゃないけど、手近なら構わないでしょ。
『明日、時間あるかな』
メイドさんも誘っておこう。
お弁当とか、他にもあれこれと用意してもらえるだろうし。
いや、お弁当は現地調達でいいか。
『湖まで、ピクニックに行かない?』
もちろん遊びに行くんじゃないよ。
だけどまあ、ちょっとだけ気分転換。
たまには焼き魚とか食べてもいいと思うんだ。
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魔眼 ジ・ワン LV:17 名前:κτμ
戦闘力:9480
社会生活力:-2780
カルマ:-7860
特性:
魔眼種 :『八万針』『完全吸収』『変身』『空中機動』
万能魔導 :『支配』『魔力大強化』『魔力集束』『破魔耐性』『懲罰』
『万魔撃』『加護』『無属性魔術』『錬金術』『生命干渉』
『上級土木系魔術』『障壁魔術』『深闇術』『連続魔』
『魔術開発』『精密魔導』『全属性耐性』『重力魔術』
『炎熱無効』
英傑絶佳・従:『成長加速』
手芸の才・極:『精巧』『栽培』『裁縫』『細工』『建築』
不動の心 :『極道』『不屈』『精神無効』『恒心』
活命の才・弐:『生命力大強化』『頑健』『自己再生』『自動回復』『悪食』
『激痛耐性』『死毒耐性』『下位物理無効』『闇大耐性』
『立体機動』『打撃大耐性』『衝撃大耐性』
知謀の才・弐:『鑑定』『精密記憶』『高速演算』『罠師』『多重思考』
闘争の才・弐:『破戒撃』『回避』『剛力撃』『疾風撃』『天撃』『獄門』
魂源の才 :『成長大加速』『支配無効』『状態異常大耐性』
共感の才・壱:『精霊感知』『五感制御』『精霊の加護』『自動感知』
覇者の才・弐:『一騎当千』『威圧』『不変』『法則改変』『即死無効』
隠者の才・壱:『隠密』『無音』
魔眼覇王 :『大治の魔眼』『死滅の魔眼』『災禍の魔眼』『衝破の魔眼』
『闇裂の魔眼』『凍晶の魔眼』『轟雷の魔眼』『破滅の魔眼』
閲覧許可 :『魔術知識』『鑑定知識』『共通言語』
称号:
『使い魔候補』『仲間殺し』『極悪』『魔獣の殲滅者』『蛮勇』『罪人殺し』
『悪業を積み重ねる者』『根源種』『善意』『エルフの友』『熟練戦士』
『エルフの恩人』『魔術開拓者』『植物の友』『職人見習い』『魔獣の友』
『人殺し』『君主』『不死鳥殺し』
カスタマイズポイント:270
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