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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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02 バロール流交渉術


 床には、縛り上げられた女性冒険者が転がっている。

 猿轡を嵌められ、魔力も吸い取られた状態にされている。捕らえた際に行った身体検査では、奥歯に仕込まれた毒も見つかっていた。


 城壁を越えて忍び込もうとしたそうだ。

 ボクは甲冑を着込んで、用意された椅子の上で踏ん反り返りながら、その人を見下ろしている。


『敢えて作っておいた見張りの隙に引っ掛かってくれました』


 数日前から、城壁の外をうろちょろしてたのもこの人らしい。

 見事に罠に掛かってくれた、という訳だ。でも―――、


『冒険者?』


 この侵入者さん、見覚えがある。

 冒険者のために食事の支度などをしてた女給仕さんだ。

 いまの服装も、そこらの酒場の店員みたいにしか見えない。


『冒険者ギルドの関係者ですので、そう呼称しました。ですが、隠密や諜報活動に従事する者、と言った方が正解でしょうか』


 ん~……? 元冒険者で、ギルド所属の諜報員とか?

 もしくは、そういった仕事が専門でギルドに雇われた?

 ともかくも、只の給仕さんじゃないのは確かだ。

 こっちを睨んでくる目も鋭い。

 「くっ、殺せ!」とか言いそうだ。

 いや、それだと女騎士だからちょっと違うかな。


『彼女が持ち込んだ武器は個人戦用の物ばかりで、後続の部隊なども確認されておりません。あくまでこの拠点の調査目的だったようですが……如何いたしましょう?』


 ボクたちを害するつもりはなかったってことかな?

 でも、諜報活動も敵対行為のひとつではあるよね。

 あるいは暗殺者だったって可能性もあるのかな。

 んん~……いまひとつ判断がつきかねる。

 どうする?、って聞かれてもねえ。


 殺しちゃうのが一番簡単なんだろうね。

 『吸収』を使えば跡形も残さず、完全に消せる。

 きっと後腐れも無いだろうね。

 だけど折角だし、色々と情報を聞きだした方がいいのかな。


『尋問できる?』

『可能ですが、口は堅いと思われます』


 確かに。スパイとか忍者とか、簡単には口を割りそうにない。

 だからといって拷問とかも、あんまり見たいものじゃないね。

 そんなことしてる暇があるなら、美味しい料理の研究でもしたい。

 簡単に話を聞きだす方法があれば……ああ、あるんじゃない?


『なら、ラミアクイーンに。魅了で』


 ボクの『災禍の魔眼』でも、魅了効果は発揮できる。

 でも意識せずに使うと、混乱とか病魔効果まで一緒になっちゃうんだよね。

 最近は使い分けも上手くなってきたつもりだけど、失敗するのも怖い。

 下手したらパンデミックだからね。


 その点、ラミアなら魅了専門だ。

 とりわけクイーンはいつの間にか進化してたし、魅了能力も上がってる。

 諜報員だから、その手の対策はしてそうだけど、試してみてもいいでしょ。


『承知致しました。確かに、彼女ならば適任ですね』


 夜中の呼び出しで、ちょっと申し訳ないとも思ったんだけどね。

 でもラミアクイーンはすぐに来てくれた。

 何故か、枕を持って。

 興奮したみたいに鼻息を荒くして。

 事情を聞いたラミアクイーンは、がっくりと項垂れてた。







 拘束された女密偵さんを脇に抱えて、建設中のギルド支部へ向かう。

 背後にはメイドさんも従ってくれてる。

 絵面的には、悪い騎士が村娘を攫っていくみたいに見えるかも。

 実際は村娘役の方が悪いんだけどね。

 いまもこっちを睨み上げてきてるし。


 この密偵さん、昨夜はラミアクイーンに『魅了』されて、へろへろになってたんだけどね。

 良い子は見ちゃいけません、的な感じになって色々と喋ってくれた。

 それでも事情を知らない相手からすれば、不審に思われる絵面だね。

 ボクたちが近づくと、冒険者たちも揃って驚いた顔をした。


 半分ほど完成したギルド支部に集まって、冒険者たちがテーブルを囲んでいた。

 ちょうど朝食時だったんだけど、スープを吹き出してる人もいた。

 細目職員は顔色を蒼ざめさせた。

 やっぱり黒幕はこの人みたいだね。

 まあ、密偵さんが喋ってくれたから分かってはいたんだけど。


「ば、バロール様、これはいったい、どういうことですか?」


 どうやら知らぬ存ぜぬで恍けるつもりらしい。

 密偵さんが口を割るとは思ってないのかね。


『彼女はすべて話してくれました』


 ボクが目配せすると、一号さんが前に出る。

 こういう交渉事は、やっぱりちゃんと声に出して言った方がいいからね。

 冒険者たちに聞かせる意味もある。


 ファイヤーバードとの交渉では”やらかして”くれた一号さんだけど、今回は大丈夫なはず。

 ちゃんと事前に打ち合わせもしてきたからね。


『貴方の指示で、当方の屋敷へ忍び込もうとした、と』


 一号さんの言葉に合わせて、密偵さんを放り投げる。

 床に転がった密偵さんは苦しそうな呻き声を上げた。


 主謀者は細目職員。これは間違いない。

 どうやらボクの情報を集めて、帝国総督との繋がりを太くしたかったらしい。

 ギルドとしての行動ではなく、本人の暴走、といったところかな。

 女密偵さんは不法侵入しただけ、とも言えるんだけどね。

 そう考えると、ボクの方が少しやり過ぎな気もする。


 でもしっかり釘を刺しておかないと、同じようなことを企まれると面倒だ。

 なので、まずは少し強い態度で当たる。

 その上で、今度から気をつければいいよー、っていう寛大な態度を見せる。

 相手の反省を促しつつ、こちらへの感謝を誘う寸法だ。


 名付けて、雨降って地固まる作戦。

 うん。完璧だね。

 そういう訳で、一号さん、穏便にやっておしまいなさい。


『本来ならば、敵対行為と看做すところです。ですが、そちらが不手際を認め、二度と繰り返さないと誓うのでしたら―――』

「テメエ、ふざけんなよ!」


 一号さんの声を遮ったのは、さっきまで呆然としてた冒険者だ。

 テーブルに拳を叩きつけて、怒鳴りつけてくる。


「ソフィアちゃんに何しやがった!?」

「そうだ! 俺たちのソフィアちゃんを泣かすなんざ許せねえ!」

「貴族だろうが何だろうが、黙ってる俺たちじゃねえぞ!」


 え? あれ? なにこの展開?

 ソフィアちゃんって、転がってる女密偵さんのことだよね?

 ああ。でもそうか。

 何も知らない冒険者たちにとっては、ギルド付きの給仕なんだ。


「ソフィアちゃんはなあ……病気の家族を養うために、わざわざこんな危ない仕事をしてるんだぞ」

「なのに、俺たちにはいつも元気な笑顔を見せてくれて……」

「それを手篭めにしようなんざ、人のすることじゃねえ!」

「そうだ! テメエには人の心ってものが無いのか!?」


 いや、そんなこと言われても困る。

 心はともかく、ボクって魔獣で魔眼だからね。

 それに病気の家族とか、あからさまに嘘っぽい。昨夜の尋問でも、天涯孤独とか言ってた気がする。どうでもいい情報だから忘れたけど。


 ともあれ、どうしよう?

 もしかして、作戦失敗? ここからなんとか軌道修正できないかな?


『……ご主人様、まとめて片付けますか?』


 どうするか、じゃなくて、片付けますか、と聞いてくるのが一号さんだ。

 やっぱり、そこはかとなくアグレッシブだよね。

 四号さんなんかだと、もう手が出てるかも。


 冒険者は十数名。手強い相手がいないのは確認できてる。

 だからこそ、こっちは穏便に済ますつもりだったんだよね。

 釘を刺せれば充分だったんだけど―――なんて考えが甘かったのかも知れない。

 冒険者たちへ注意を向けた所為で、細目職員から目を逸らしてしまった。


「ッ……!?」


 視界の端で、細目職員が小さな石を放り投げるのが見えた。

 以前にも見た覚えがある。

 なんで? どうして、そんな物を使ってくる?

 ボクの弱点を知ってるはずもないのに?


 それは独特の刻印がある、『懲罰』効果を込めた魔石だ。

 そう理解すると同時に、辺りに光が降り注いだ。


 ボクの全身に痛みが走る。痺れも。

 魔力も掻き乱されて、浮かんでいることもできなくなる。

 甲冑を操ってる魔力糸も切れて―――ガシャン、と。


 派手な音を立てて、ボクは床に突っ伏した。



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