25 毛玉vs炎鳥③
機会は二回あった。
帝国の探索隊隊長さんとの会談と、メイド人形による街への潜入。
そこで得られた情報のおかげで、島の地理もある程度は把握できた。
湖から見て、西側が最も近かった。
だからボクはそっちへ向けて逃げてたんだよ。
最初は少し南へ逸れたけど、すぐに回り込む形を取ったからね。
そうして目指したのは、海。
大量の水がある場所。
湖を使わなかったのは、被害を考えたのと、ファイヤーバード相手だと湖ごと蒸発させられてもおかしくなかったから。
だけど、さすがに海なら大丈夫でしょ。
無限と言えるくらいの水が広がってる。
炎に対して水を使うのは定石。王道。
属性の弱点を突くってやつだね。
さあて、ここから反撃開始とさせてもらうよ。
《行為経験値が一定に達しました。『水冷系魔術』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『連続魔』スキルが上昇しました》
大量の海水を利用して、次々と水の槍を作り出す。
『魔術知識』に載ってた魔術だ。
だけど、そこへ応用も加えてある。
大型にして、さらに回転も加えることで、貫通力を増して射出する。
同時に、『凍晶の魔眼』を発動。
氷になった槍がファイヤーバードへ襲い掛かる。
ファイヤーバードも、全身から炎を噴き上げた。
炎弾も飛ばしてくる。
手数は向こうの方が上だね。
ファイヤーバードに辿り着く前に、次々と氷の槍は溶かされて、落とされていく。
だけど、貫通力はこっちが上だ。何発かは撃ち込めた。
氷柱が巨体を叩く。
突き刺さるまではいかないか。
それでもファイヤーバードは嫌がるみたいに鳴き声を上げた。
まだまだ。海水も魔力もたっぷり残ってるよ。
最近はメイド人形への供給やら、お城の建築やら、特訓やらで魔力を使いまくってたからね。
おかげで、魔力量に関しては一段と鍛えられた。
ファイヤーバードとどっちが上かは分からないけど、根競べなら―――!
《行為経験値が一定に達しました。『炎熱耐性』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『全属性耐性』スキルが上昇しました》
なんか、マズイ。
ファイヤーバードを覆ってる炎が発光し始めた。
いや、元から光ってはいるんだけど、さらに強烈に輝いてきてる。
熱量も上がって、氷槍がまったく届かなくなった。
ボクはすぐさま攻撃から防御へ切り替える。
急いで高度を下げつつ、自分自身を大量の水で囲う。
さらにその水を凍りつかせていく。
自分で氷の中に埋まる形だ。
そのままファイヤーバードから距離を取りたかったけど―――、
辺り一帯が、白一色に染め上げられた。
《行為経験値が一定に達しました。『炎熱耐性』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『障壁魔術』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『連続魔』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『加護』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『凍晶の魔眼』スキルが上昇しました》
溶ける。溶ける! 溶けちゃうって!
どれだけ氷を作り出しても間に合わない。
まるで太陽が落ちてきたみたいだ。
《行為経験値が一定に達しました。『激痛耐性』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『全属性耐性』スキルが上昇しました》
溜まらず、海に飛び込む。
それでも熱が伝わってくるよ。
っていうか、海面まで蒸発して水位が下がってるんじゃない?
もしも空中に留まっていたら、ボクもきっと蒸発させられてた。
一瞬早く海に潜ったけど、周りはほとんど熱湯になってる。
茹で毛玉にされちゃう!
『凍晶の魔眼』で対抗するけど、正しく焼け石に水だね。
こうなるともう熱源から離れるしかない。
あとは、かみさまにお祈りする。
って、この世界に神はいないんだっけ?
それでも、ほんのちょっぴり幸運が味方してくれたみたいだ。
ファイヤーバードの発光が治まる。
熱も段々と下がっていく。
さすがに、あの高熱を長時間は維持できないみたいだね。
だけどボクのダメージも深刻だ。
全身がズキズキと痛む。
なんか体が硬くなった気がするんだけど、本当に茹でられたんじゃない?
どうしよう?
『大治の魔眼』を使ってもいいけど、ボクの位置がバレる気がする。
このまま潜って逃げた方が―――いや、『危機感知』に反応。
まさか!?
潜った状態だから、海の上は確認できない。
だけど、その光の正体は分かった。
爆裂ブレスだ。極太の熱線が降ってきた。
《行為経験値が一定に達しました。『全属性耐性』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『衝撃耐性』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『障壁魔術』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『衝破の魔眼』スキルが上昇しました》
海が爆発する。
有り得ない表現だけど、正しくそれだ。
ボクは潜っていたおかげで、爆心地が遠かったのは幸運だった。
ファイヤーバードも適当に狙いをつけて撃ってきたんだろうね。
でも、衝撃が凄まじい。
障壁を張っても気休めくらいにしかならない。
魔眼で衝撃を相殺しようとしたけど、あっさり押し切られた。
全身が捻じ切られるんじゃないかって勢いで、水流が迫ってくる。
意識が飛びそうになったけど我慢だ。
『自己再生』も使って、なんとかダメージを抑え込む。
《行為経験値が一定に達しました。『不屈』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『自己再生』スキルが上昇しました》
水流の勢いに押されるまま、今度は海上に投げ出される。
大きく息を吐く。
だけど安心なんて出来るはずない。
ファイヤーバードと目が合った。
向こうも目蓋を揺らしたところをみると、少し驚いたみたいだね。
きっと今のブレスでトドメを刺したと思ったんでしょ。
潜ったままでいられれば、そのまま逃げ延びられたかも知れない。
だけど見つかっちゃった。
幸運ばかりじゃないってことだね。
しかもこれは、これまでの幸運が台無しになるくらいの、とびっきりの不運だ。
ファイヤーバードが大きく息を吸い込む。
今度こそ、爆裂ブレスでトドメを刺すつもりだ。
逃げるしかない。
ボクはまだ飛べる。
だけど、あの爆裂範囲から逃れるのは無理だろうね。
今度こそ終わったかも―――、
思わず目を閉じかけたところで、轟音が響き渡った。
爆裂ブレスの音じゃない。
重量のある塊が叩きつけられた音だ。
水面と、ファイヤーバードに。
大きな岩塊をぶつけられたファイヤーバードは、ブレスを吐く直前で大きく体を揺らした。
『―――着弾を確認』
ボクの頭に声が届く。
思念通話だ。
そして、この声は一号さん?
っていうか、他に思念通話を使ってくる人なんていない。
『続けて第二射を行います。ご主人様、可能な限り距離を取ってくださいませ』
なにがなんだか分からない。
でも、頼もしい援軍が到着したのは間違いなさそうだった。




