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22 我こそはバロール家当主

 机に向かって本を読む。

 クイーンラウネの膝に抱えられて、一号さんによる通訳を聞きながら。

 ちょっとした争いはあったものの、拠点内は平穏そのものだ。

 アルラウネにラミア、メイド人形たちも仲良く過ごしてる。

 時折、牽制し合うような視線も交わしているけど。

 仲は良い、はず。

 例の”第一夫人役”の問題も解決したからね。

 こうして『共通言語』の勉強も出来てる。


《条件が満たされました。『共通言語』の閲覧許可を取得しました》


 お? おお!

 ついに出たよ、閲覧許可が!

 まだ簡単な言葉しか理解できないけど、第一段階はクリアだね。


 他人の教科書でも、読み進めていけば閲覧許可が貰えるのは知ってた。

 アルラウネやラミアが教えてくれたからね。

 疑ってた訳じゃないけど、これで証明されたし、一安心だね。


 早速、自分の教科書を出して開いてみる。

 アルラウネが手を叩いて喜んでくれた。

 一号さんもボクの頭を撫でて、誉めてくれてるみたいだ。

 なんだか子供に戻ったみたいで、こそばゆい。

 まあ、今くらいはいいか。


 これでボクが表に出る日も近づいてきたね。

 人間との接触があっても、すぐに生活に変化がある訳じゃない。

 ここを訪れた兵士たちにしても、街へ帰り着くのはまだ数日先になるはず。

 なんやかんやで、本格的な接触はもっと日数が掛かると思う。

 だから、その間に準備を進めておける。

 狩りには出難くなったけど、拠点内でもやることは山ほどあるからね。


 ボクの場合は、主に自分の強化になる。

 通訳のおかげで、『魔術知識』も読み進められるようになったのは大きいね。

 魔術の勉強が格段に捗るようになったよ。

 『上級土木系魔術』や『障壁魔術』、

 『闇術』の上位に当たる『深闇術』なんてスキルも解放された。


 面白そうなのは、『重力魔術』スキルの解放だね。

 まだ物の重さを感じ取るくらいしか出来ない。

 だけど使い慣れれば、かなり強力な武器にもなる予感がする。

 以前、土壁を吹っ飛ばしちゃったのも重力魔術に分類されるっぽいし。

 新しい魔眼にも応用できそうだよ。


 ちなみに、メイドさんの重さを量ろうとしたら抵抗(レジスト)された。

 マナー違反らしい。

 命令すれば教えてくれるだろうけど、そこまでするほどでもないよね。


 魔術といえば、『空間魔術』も覚えたいところ。

 こっちは少し苦戦してる。

 まあさすがに数日練習しただけで覚えられたら、この世界は魔術師だらけになってるはずだし。

 『万能魔導』を持っていても、それなりの努力は必要ってことだね。


 あとは、ポイントの使い処にも迷ってる。

 そこそこ溜まってきたし、強化してもいい頃合いだ。

 とりあえず、『活命の才』を”壱”から”弐”へ上げておいた。

 生命力系の才能は大切でしょ。

 最近は平穏だけど、この世界が危険なのは忘れちゃいけない。

 生き延びるための努力は欠かさずに、だね。


 で、残りのポイントは230。

 多くも少なくもない微妙な数字だね。

 『万魔撃』か『死滅の魔眼』を強化しておこうかとも思った。

 必殺技は大切だからね。

 だけど残念ながら、”条件を満たしていません”だった。

 どんな条件なのかは不明。

 まあ今でも頼れるスキルだし、不満を言うほどでもないかな。

 他にも鍛えておきたい技もあるし―――。


 そうして自己鍛錬や試行錯誤を繰り返す内に、十日ほどが過ぎた。

 街に潜入したメイド人形も帰ってきて―――、

 ほどなくして、数名の冒険者が拠点を訪れた。







 まだまだボクの出番じゃない。

 姿を見せない謎の主人でも許されるはず。

 計画を立てた時点では、そう考えていた。

 だけど世の中はそう甘くないらしい。


『こっちも子供の使いじゃないんでね。バロール様とやらが帰ってくるまで待たせてもらうよ』


 訪ねてきたのは、帝国冒険者ギルドからの使者だ。

 帝国に属してはいるものの、あくまで冒険者ギルドによる独自の接触だ。

 リーダーを務めているのは二十代くらいの女性で、リステラと名乗った。

 軽装で、細身で、ぱっと見は金クラスなんていう凄腕冒険者には見えない。

 だけど手甲や足甲は、複雑な魔術処理もされた上質な装備みたいだった。

 格闘家ってやつだね。

 ちょっと油断できないかも。


 一号さんの見立てでは、メイド人形が数人掛かりで抑えられるかどうか、くらいの戦闘力は持ってるみたいだった。

 警戒しながらも、十三号との会談の場を作ったんだけどね。

 納得してくれなかった。


『わたくしが代理では不満でしょうか?』

『いやいや、お嬢様に文句を付けるつもりはないさ。だけどこれも依頼なんだ。英雄クラスかも知れないバロール様を、直接に見て来いって言われてる』


 とりあえず城壁の外に出てもらった。

 だけど本当に居座るつもりらしい。

 さすがに何十日も放置しておけば帰るだろうけど、そこまで居留守を続けると不自然になる。


 どうしたものかね?

 いっそ、全員が魔獣に喰われたってことにしても―――、


 そうするのもまた面倒になるか。

 ここも危険だと認識されて、人間との取引が停滞するのも避けたい。

 街にメイド人形を潜入させて、こっそり物を仕入れたりは出来る。

 だけど、それだと限界があるからね。

 例えばサンドワームを丸ごと売りつけるような、大きな取引は不可能だ。


 それに、潜入報告で分かったこともある。

 北の街でも牛や羊は飼われていなかった。

 まだまだ危険な土地だから、家畜を飼育する余裕はないそうだ。

 小規模な養鶏が限界らしい。

 卵だけでも手に入れたかったけど、軍に独占されていた。

 こうなったらラミアの卵で料理を―――なんて、そこまでボクは食欲に忠実じゃないよ。


 やっぱり取引を広げていくしかないね。

 人間の街が大きくなれば、それだけ手に入る物も増える。

 大陸には牛や羊もいるって話だったからね。


 そうなると、冒険者ギルドとの繋がりも馬鹿には出来ないかもね。

 挨拶くらいはしておいてもいいでしょ。

 ってことで、準備してもらおう。


『では、探索から戻ってきたところで彼女たちに会う、という筋書きでよろしいでしょうか?』


 うん。それでいこう。

 早速動くよ。

 一旦、地下通路から外に出る。装備も一緒に。


 そう、ボク専用の装備だ。

 黒塗りの全身甲冑。

 兜まで完全に頭を覆う形で、外からは顔も見えない。

 マントもセットだけど、背部の視界も確保できるようにそこだけ透かしも入れてある。


 こういう時のために、『錬金術』やメイド人形の技術で作っておいた。

 ボク自身は胸の部分に収まって、全身を魔力糸で操る。

 甲冑自体に術式が組み込んであって、鉄の塊なのに驚くほど軽い。


 一番の問題は、自然な動作をすることだった。

 人間みたいに振る舞おうとしても、傍目からだと、ぎこちなく見えたりもするんだよね。

 空洞部分に粘土を詰めたり、特訓したりして、なんとか緩やかな動作くらいは出来るようになった。

 戦闘みたいな激しい動きはまだ無理だ。

 でも今回は大丈夫でしょ。

 いける、はず。


『冒険者たちは、野営の準備に入りました。いまならば長話をしたいとも思わないはずです』


 ほら、一号さんも保証してくれてる。

 それじゃあ、行ってみようか。

 長槍を片手に、マントを翻す。

 堂々とした仕草を心掛けつつ、森の中から飛び立つ。


 すぐに城門と、その前で野営の準備をしている冒険者たちが見えてきた。

 向こうもボクに気づいたみたいだ。

 だけど最初にボクと接触するのは一号さんだ。

 城壁から空中を飛んできて、一言二言交わすフリをする。

 そうして大方の事情を把握した様子で、ボクは地上に降りた。


『アンタが、バロール様かい?』


 待ち構えていたリステラさんが近づいてきた。

 しかしこの人、経費削減のために解雇されそうな名前だね。

 美人さんだけど、目つきが鋭い。

 動作のひとつひとつも鋭利な感じがする。

 と、あんまり観察ばかりしてても仕方ないか。


『そうだ。メイドから話は聞いた。冒険者ギルドの使者だそうだな?』


 リステラさんが眉を揺らす。

 ボクは喋らず、空中に文字を描いて返したからね。

 まともな声は出せないから、これは仕方ない。

 一号さんがフォローしてくれるし。


『ご主人様は、少々事情があって声を失っておられます。ご理解を』

『ああ……そいつは難儀だね。でも言葉が通じるなら問題ないさ。ついでに言えば、強い奴ってのはそれだけで尊敬に値する』

『そうか』


 リステラさんは、じっとりと値踏みするような視線を向けてくる。

 でもボクは短い返答しかできない。

 まだ用意された定型分を使うのが、ボクの言語能力だと精一杯だからね。

 無愛想キャラってことで押し通すよ。


『冒険者用の建物を作りたいという話だったな?』

『ああ。最低でも、宿をひとつ。この辺りに土地を貸してもらいたいのさ』

『好きにするといい。可能な限りは安全を図るようにしてやる。”当面は”、対価も要求しない』


 所謂、ショバ代ってのを要求してもいいと思うんだけどね。

 真っ当な言葉にするなら税金?

 ここらの開発をしたのはボクだし、それくらいの権利はあるでしょ。

 だけどいまは人を集め易い環境作りが大切だから。

 優遇措置ってやつだね。


『バアル・バロールの名に於いて約束しよう。子細はシェリーに任せる』


 格好つけた台詞っぽいけど、声が出せないからいまひとつ締まらない。

 代わりに、マントをたなびかせておく。

 そうしてボクは城門へ向かう。


 問題なく立ち去れると思った。

 だけど―――背後で、リステラさんが拳を握り込んだ。

 殴り掛かってくる。


 え、ちょっ、どういうつもり!?

 いま殴られたら頭部が弾け跳んじゃう―――って、考えてる場合じゃない。

 『衝破の魔眼』、発動!

 複眼で、咄嗟に発動させたものだから、威力は高くない。

 それでも足止めくらいの効果はあった。


 というか、リステラさんが咄嗟に飛び退いたね。

 魔眼効果が発揮される直前に。

 空気だけが弾け飛んで、リステラさんは少し離れた場所で足を止めた。

 ボクもゆっくりと振り向いて対峙する。

 『威圧』を放って、長槍を握り込んだ。

 でも、戦いにはならずに済みそうだった。


『どういったおつもりでしょう?』


 一号さんが、盾になる形でボクの前に立つ。

 リステラさんはまだ警戒した表情をしながらも、軽く手を振ってみせた。


『いや、すまない。英雄クラスの力を見てみたくなってな。あたしの悪い癖ってやつさ。大目に見てくれないか?』

『随分と無礼な癖ですね……それで、ご感想は?』

『本気での戦いになったら、すぐさま命乞いさせてもらうよ』


 どうやら威圧効果はあったみたいだ。

 ボクは一号さんの肩を叩いて、宥める仕草をする。

 そうして、あらためて城門へ向かった。

 ちょっとしたトラブルはあったけど上手くいった。

 あとは、ボクが姿を見せなくても大丈夫―――そう安堵した瞬間だった。


『ご主人様、周辺警戒に当たっていた四号より、緊急の報告です』


 え? 緊急?

 いったい何事? なんだかとっても嫌な予感がするんですが?


『南方より、巨大な火の鳥が接近中です』


 はあぁ!? なにそれ!?

 サンダーバードの親戚!?

 今度はファイヤーバード!?

 もう焦んがり焼かれる未来しか想像できないんですが!



-------------------------------

魔眼 ジ・ワン   LV:13 名前:κτμ


戦闘力:9150

社会生活力:-2920

カルマ:-7250

特性:

 魔眼種   :『八万針』『完全吸収』『変身』『空中機動』

 万能魔導  :『支配』『魔力大強化』『魔力集束』『破魔耐性』『懲罰』

        『万魔撃』『加護』『無属性魔術』『錬金術』『生命干渉』

        『上級土木系魔術』『障壁魔術』『深闇術』『連続魔』

        『魔術開発』『精密魔導』『全属性耐性』『重力魔術』

 英傑絶佳・従:『成長加速』

 手芸の才・極:『精巧』『栽培』『裁縫』『細工』『建築』

 不動の心  :『極道』『不屈』『精神無効』『恒心』

 活命の才・弐:『生命力大強化』『頑健』『自己再生』『自動回復』『悪食』

        『激痛耐性』『死毒耐性』『下位物理無効』『闇大耐性』

        『立体機動』『打撃大耐性』『衝撃大耐性』

 知謀の才・弐:『鑑定』『精密記憶』『高速演算』『罠師』『多重思考』

 闘争の才・弐:『破戒撃』『回避』『剛力撃』『高速撃』『天撃』『獄門』

 魂源の才  :『成長大加速』『支配無効』『状態異常大耐性』

 共感の才・壱:『精霊感知』『五感制御』『精霊の加護』『自動感知』

 覇者の才・弐:『一騎当千』『威圧』『不変』『法則改変』

 隠者の才・壱:『隠密』『無音』

 魔眼覇王  :『大治の魔眼』『死滅の魔眼』『災禍の魔眼』『衝破の魔眼』

        『闇裂の魔眼』『凍晶の魔眼』『轟雷の魔眼』『破滅の魔眼』

 閲覧許可  :『魔術知識』『鑑定知識』『共通言語』

称号:

『使い魔候補』『仲間殺し』『極悪』『魔獣の殲滅者』『蛮勇』『罪人殺し』

『悪業を積み重ねる者』『根源種』『善意』『エルフの友』『熟練戦士』

『エルフの恩人』『魔術開拓者』『植物の友』『職人見習い』『魔獣の友』

『人殺し』『君主』


カスタマイズポイント:230

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