21 第一回人間対策会議
城壁の外から笑い声が響いてくる。
提供したサンドワームステーキは、兵士たちには概ね好評みたいだ。
豪勢かどうかはともかく、量だけはたっぷりある夕食を楽しんでくれている。
ボクも食べてみたけど、あのお肉は美味しいからね。
脂が乗ってて、柔らかくて、ほんのりと甘味もある。
この場だと、調味料不足なのが難点かな。
でも、胡椒みたいな物は栽培してる。
以前に、探索に出たラミアが見つけてくれた。
『生命干渉』での品種改良をして、アルラウネの謎栽培技術で増やしてる。
そのうち、余所に売るほど収獲できるかもね。
兵士たちへ食事を振る舞ったのは、後の商売も考えてのこと。
人間の街がどれだけ栄えてるのかは知らない。
でも、ここよりは物があると思う。
やっぱり自給自足は限界があるだろうから、取引に頼る準備もしておかないといけないでしょ。
今回は、その宣伝みたいなものだ。
ただ、そうなるとまた新しい問題も出てきそうだけど―――。
『三号より―――お肉が足りません。追加支援を要請します』
『六号より―――私の胸に触れてこようとする兵士がおりました。腕を圧し折ったことを報告します』
『七号より―――口説かれました。よって、舌を焼いておきました』
『四号より―――下品な冗談を垂れ流す兵士がおります。粉砕許可を』
うん。四号さんはちょっと自重しようか。
他のは、治療できる範囲ならいいんじゃない?
隊長さんに怒られてる兵士もいるし。
メイド人形に給仕役をさせたのは、サービス過剰だったかな。
材料を渡して、調理法を教えるだけで良かったかも。
それでも喜んでもらえたはず。
兵士たちも野営には慣れてるみたいだけど、質素な保存食が続いてるって話だったからね。
交渉も上手くいった。
この島に関する情報も、あれこれと聞き出せたよ。
島の北にある大陸の情報も色々と。
あんまり常識的すぎる情報を聞き出すと怪しまれるから、大雑把なものになったけど、充分に大きな収獲と言える。
隊長さんは、明日には街に戻るそうだ。
その街の総督とやらに報告して、今後の方針を決めるらしい。
ただ、個人的には友好関係を築くのに努力すると約束してくれた。
どうなるかね?
帝国軍の総督さんとやらが、話の通じる人だといいんだけど。
上手くすれば、この拠点にも人が集まることになる。
冒険者や商人だって来るはずだ。
島の探索を目的としてる帝国にしても、前進拠点が得られるんだから悪い話ではないと思うんだよね。
でも下手をしたら、「攻め滅ぼして拠点を奪え」なんて事態になるかも知れない。
いずれにしても、結果待ちだね。
とはいえ、ただ待ってるつもりもないんだけど。
『ご主人様、五号と十号の出発準備が整いました』
よし。夜の闇に紛れて出撃させちゃおう。
べつに何かを襲う訳じゃないよ。
北の街へ潜入して、調査を行ってもらおうっていうだけ。
これから取引とかしようにも、物の価格とか、まったく知らない状態だと困るからね。
他にも、手に入れたい情報は山ほどある。
可能なら、魔獣素材を幾らか売ってきてもらう予定だ。
ボク自身も、いつか街を訪ねてみたい。
その時は潜入なんて言わず、堂々と見て回りたいね。
翌朝、街へ戻る兵士たちを見送ってから、ボクは屋敷の書斎へ足を運んだ。
足なんて無いけど、それはまあ置いといて。
屋敷の家具も、次第に充実してきてる。
まだ装飾品は少ないけど、机や椅子は揃ってきたね。
メイド人形が中心になって作業を進めてるけど、アルラウネも布製品を作るのは得意だ。
絨毯はまだだけど、服とかテーブルクロスとかは数が増えてきてる。
書斎にも大きな机が置かれて、それっぽい雰囲気が漂ってるよ。
本棚は空っぽだけど、いまは目を瞑っておこう。
あとは、ソファも作りたいね。
誰かを呼んでも、質素な椅子しかないのは雰囲気がよろしくない。
いやまあ、この状況はもっと別の問題な気もするけど。
『では、会議を始めてよろしいでしょうか?』
頷くボクは、大きな机の上に浮かんでいる。
司会進行役の一号さんは立ったまま。
アルラウネとラミアの両クイーンが、椅子に腰を下ろしている。
ちょっと座り難そうだね。
うん。なんだろ、この混沌とした風景は。
魔眼と人形と魔獣が揃って会議をしてる。
シュールだ。
傍目から見たら、百鬼夜行でも始まりそうだよね。
『すでにご存知の通り、我々は人間と接触しました。これに関しまして―――』
議題は、これからの具体策だね。
人間との接触をどこまで受け入れられるか。
やっぱりラミアは警戒が強いみたいだった。
アルラウネは大らかな性格だから、警戒しながらも成り行き任せって感じだ。
メイド人形は、自分たちの意見を持たない。
まあ結局、ボクが好き勝手にしていいんだろうね。
当面は、城壁を挟んでの交流になると思う。
さらに外側にも第二城壁を造る予定だから、そっちに人間が受け入れる形だ。
だけど優先順位としては、ボクが安心できる生活が第一だね。
つまりは、魔獣側に傾くと思う。
魔獣なんか排除してやるーって人間が出てきたら、即座に魔眼を撃ち込もう。
そういう荒事の準備も必要かな。
拠点の主は人間ってことになってるから、しばらくは大丈夫だと思うけどね。
ま、適当でいいでしょ。
面倒になったら逃げられるし。
地下通路の建設も、しっかりと進めてるからね。
そんな感じで、みんなも納得してくれたみたいだった。
『では、本日の最重要議題に移ります』
ん? 最重要?
人間との接触よりも大事な議題ってあったっけ?
聞いてないんだけど?
『この地の統治者として、”バロール家”という設定を作りました。人間に対する偽装ですが、それ故に万全を期すべきと判断します。ご主人様が表に出る際の準備も進めておりますが……』
心なしか、一号さんの眼差しが鋭くなった気がした。
あれ? 両クイーンの雰囲気も変わってる?
真剣な表情で、お互いに牽制してるような?
『ご主人様の、”妻”の役を誰が務めるのか決まっておりません』
「Λδ! Σχ、ωnστν!」
「Ωει、ωnδ¨ζνυsγΘρξ!」
クイーン両名が揃って声を上げる。
ああ、これは言葉が通じなくても分かる。
自分がやりたい、って言ってるんだね。
気持ちは分からなくもない。
十三号に、妹っていう大事な役を任せちゃったからね。
そうでなくとも、最近はメイド人形に頼る部分が多い。
以前から拠点にいるアルラウネやラミアからしてみたら、自分たちも役に立っておきたいんじゃない?
そんなの気にしなくていいのにねえ。
『ご主人様、ひとつ意見を申し上げてもよろしいでしょうか?』
ん? 一号さんから?
珍しいね。いいよー、聞かせてもらおう。
『わたくしは、すでにメイド長として知られておりますが……メイドが妻になるというのも、設定としてはアリだと判断致します』
あ、はい。
一号さんも、意外と目立ちたがり?
まあ感情は無いって話だから、合理的な判断なんだろうけど。
それよりも―――、
「Ωυ! ωΘλ、δχmτκνs¨οζ!」
「Юл¨、ΓκυΦΠγμ!」
通訳してくれないと、クイーンたちが何言ってるのか分からないよ。
えっと、ボクを撫でてる場合なのかな?
『率直に申し上げまして―――彼女たちを妻とするのは、人間との関係上、問題が生じるかと。ですので、わたくしを選ばれるのが最善だと判断いたします』
って、完全に通訳を放棄してるね。
クイーンが揃って一号さんを睨んでくる。
剣呑だねえ。
ん~……まあ、放置で。面倒だし。
ボクはちょっと出掛けてくるから、好きなだけ議論してもらおう。




