13 お風呂でサービスシーンがあるとは限らない
散々に蹴散らされて、数を減らされて、ようやくキノコたちも敗北を悟ったらしい。
辛うじて残っていた百体ほどが背を向けて逃げていく。
キノコだから、どっちが背中なのか分かり難いけどね。
ともかくも撤退していくよ。
うんうん。森へおかえり―――なんて言うとでも思ったか!
一匹たりとも逃がさないよ。
こういうホラー系のは、逃がすと増えて再襲撃とかしてくるからね。
二作目三作目が作られないように、きっちり仕留めておこう。
一号さんから四号さん、やっておしまいなさい。
とか言う前に、もう追撃掛けてるね。
そういえば四号さんは殲滅宣言してたっけ。
『魔力感知』で、メイド人形の魔力残量もだいたいは把握できる。
消耗はしてるけど、任せて大丈夫そうだね。
ボクの方は『焼夷針』をばら撒いておこう。
まだ倒れて蠢いてるキノコは残ってるからね。
《行為経験値が一定に達しました。『自己再生』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『強力撃』スキルが上昇しました》
《条件が満たされました。『剛力撃』スキルが解放されます》
ほんと、しぶとい。
毛針が足りなくなるくらいだよ。
すぐに『自己再生』で生えてくるからいいけどね。
念入りに焼いて、飛び散った胞子とかの片付けにも数日は必要かな。
そこらへんも後で考えよう。
さて、そろそろ帰ろうか。
いきなり物騒な事態になっちゃったけど、久しぶりの我が家だ。
お風呂に入りたい。
甘い物も食べたい。
それで、ぐっすりと眠らせてもらおう。
ぷかぷかと。お風呂に浮かぶ。
ふわふわと揺れている湯気を眺める。
ほっこりと体中が温まってくる。
あぁ~……、
これぞ極楽ってやつだね。変な声が出ちゃうよ。
一週間ぶりくらいだっけ?
冒険者の追撃に三日くらいで、迷宮探索を合わせても、もう少し短いかな。
だけど感覚としては、本当に久しぶりだね。
お風呂って、こんなに贅沢なものだったんだ。
『ご主人様、お湯加減は如何でしょう?』
最高。グッド。文句なし。
濡れた毛先で花丸を描いちゃおう。
って、見えないか。
一号さんは脱衣所にいるからね。
ちなみに木の引き戸で仕切ってある。
古い日本家屋みたいな雰囲気が、ちょっとだけ醸し出されてるよ。
お風呂場自体は石造りなんだけど、木造にするのもいいかもね。
余裕があったら挑戦してみようかな。
と、今は考えなくていいか。
のんびりしよう。
戦いの連続だったからねえ。
一時くらいは休まないと、心も体も保たないよ。
『失礼いたします』
んん? 一号さんがそっと戸を開けた。
覗き!?、と人間だった頃なら焦るところだよね。
だけどいまのボクは毛玉だし。
普段から全裸だし。
あ、でもなんかちょっと恥ずかしいね。
お風呂場だからかな。
『よろしければ、お背中をお流し……いえ、毛繕い?、全身の洗浄でしょうか? それをお手伝いさせていただきますが?』
一応、この体も背中はあるんだよ?
背中というか、後頭部?
ともかくも、そういった背後はある。
だけど洗うって言っても、石鹸もシャンプーもないからねえ。
『自己再生』でも汚れは落ちちゃうし。
あ、でもアルラウネやラミアはどうしてるんだろ?
いつも髪とかツヤツヤでふわふわだね。
何かの洗料とか使ってるのかな?
それも機会があったら調べてみよう。
清潔さは保てても、シャンプーで洗うとか、爽快感が違ってくるからね。
で、メイドさんのお風呂サービス?
そっちは却下で。
後退&待機のサインを送る。
一号さんは静かに頭を下げて出て行ってくれた。
まあ、男の子なら憧れるシチュエーションかも知れないね。
だけどボクは、お風呂は一人で入りたい派だから。
銭湯とか温泉って、ちょっと苦手なんだよね。
周りからジロジロ見られたこともあったし。
いまは、ゆっくりとお湯を満喫したい。
湯船に浮かんで、たまに回転して、泳いで。
このお風呂、人間だった時の感覚で作ったから、けっこう広いんだよね。
よかったら、後でメイド人形たちにも入ってもらおう。
さすがに全員一度には入れないけどね。
交代で、適当になんとかしてくれるでしょ。
さて、そろそろ上がって―――。
『では、ご主人様。こちらへどうぞ』
一号さんの膝に乗って、体を拭いてもらう。
もう一人、十三号もいて、魔術で温風を吹きつけてくれる。
お風呂上がりのペットみたいな気分だね。
だけどこれは悪くない。
柔らかい指で全身を撫で回されて、マッサージを受けてる気分だ。
あ、そこそこ。
もうちょっと強くてもいいかも。
あぁ~~……また変な声が漏れそう。
目蓋も重くなってきた。
すこし、眠ってもいいかな。
もう危ないこともないでしょ。
何かあっても、メイド人形やアルラウネたちがいる。
すぐに起こしてくれるはず。
ちょっと行儀が悪いけど、このまま膝枕で休ませてもらおう。
翌朝―――じゃなくて、翌々朝だった。
時計もカレンダーもないけど、一号さんが教えてくれたよ。
起きた途端にね。
膝枕で寝ちゃったボクを寝室まで運んで、そのままずっと付き添ってくれてたらしい。
どうやらボクは、自覚してた以上に疲れてたみたいだ。
あのダンジョンでは、ロクに休めなかったからね。
『わたくしどもは、数百時間は連続稼動が可能ですので』
ほんと、良い拾い物だったよ。
彼女たちを創ってくれただけでも、あの幽霊には感謝したい。
消滅させちゃったけどね。
さて、起きたらお腹が空いた。
だけどもう心配は要らない。
メイド人形が、しっかりと朝食も用意してくれてた。
果物を中心に、野菜を使ったサラダもある。
またアルラウネが頑張ってくれたのかな。
あとで、お礼を言っておこう。
でも気になるのは、サラダにキノコが混じってることだね。
これ、大丈夫なの?
毒とか入ってないよね?
食堂に揃っていたメイド人形たちを見ると、なにやら九号さんが頷いていた。
ぐっと拳も握ってみせる。
無表情のはずなのに、心なしか得意気な顔に見えるね。
だけど何を言いたいのか分からないよ。
まあ、キノコは、食べてみたら普通に美味しかった。
やっぱりバター醤油が欲しくなる。
もしくは和風ドレッシングとか。
食事メニューの充実も、今後の課題だね。
メイド人形も食事は摂るみたいだし、改善案にも期待しよう。
そうして食事を済ませたボクは屋敷を出た。
久しぶりの拠点だ。
見回りもしたい。
アルラウネやラミアにも、帰ってきてから満足に挨拶もしてなかったし。
でも、なんか想像外の事態になってた。
屋敷を出た途端に、大きな声が上がった。
すぐにアルラウネやラミアたちが揃って駆けつけてくる。
何事? えっと、悪い雰囲気じゃないのは分かるんだけど。
一号さん、通訳をお願い。
『皆様が、ご主人様の帰還を喜ばれておられます』
ああ、そういうことか。
冒険者たちの襲撃は、かなりの危機だったからね。
一応、ボクが助けた形になってたし。
喜ばれるのも無理はないか。
とりあえず、歓声に応えておこう。
毛先を丸めて振ってみる。
さらに喧しくなった。
クイーンが揃って出てきて、恭しく頭を下げてくるし。
幼ラウネも出てきた。
なにこれ? 花輪? くれるの?
まあ、とりあえず頭にでも乗せておこうか。
《特定行動により、称号『君主』を獲得しました》
《『御主人様』は『君主』へと書き換えられます》
《称号効果により、『覇者の才・壱』が『覇者の才・弐』へと強化されました》
また歓声が大きくなる。
はあ。ボクはべつに王様になりたい訳じゃないのに。
騒々しいのは苦手だし。
一人で行動してる方が性に合ってるし。
だけど、まあ―――、
こういう雰囲気も悪くはないのかなあ。
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魔眼 ジ・ワン LV:10 名前:κτμ
戦闘力:8480
社会生活力:-3020
カルマ:-7480
特性:
魔獣種 :『八万針』『完全吸収』『変身』『空中機動』
万能魔導 :『支配』『魔力大強化』『魔力集束』『破魔耐性』『懲罰』
『万魔撃』『加護』『無属性魔術』『錬金術』『生命干渉』
『土木系魔術』『闇術』『連続魔』『魔術開発』『精密魔導』
『全属性耐性』
英傑絶佳・従:『成長加速』
手芸の才・極:『精巧』『栽培』『裁縫』『細工』『建築』
不動の心 :『極道』『不屈』『精神無効』『恒心』
活命の才・壱:『生命力大強化』『頑健』『自己再生』『自動回復』『悪食』
『激痛耐性』『死毒耐性』『下位物理無効』『闇大耐性』
『立体機動』『打撃大耐性』『衝撃大耐性』
知謀の才・弐:『鑑定』『記憶』『高速演算』『罠師』『多重思考』
闘争の才・弐:『破戒撃』『回避』『剛力撃』『高速撃』『天撃』『獄門』
魂源の才 :『成長大加速』『支配無効』『状態異常大耐性』
共感の才・壱:『精霊感知』『五感制御』『精霊の加護』『自動感知』
覇者の才・弐:『一騎当千』『威圧』『不変』『法則改変』
隠者の才・壱:『隠密』『無音』
魔眼覇王 :『大治の魔眼』『死滅の魔眼』『災禍の魔眼』『衝破の魔眼』
『闇裂の魔眼』『凍晶の魔眼』『轟雷の魔眼』『破滅の魔眼』
閲覧許可 :『魔術知識』『鑑定知識』
称号:
『使い魔候補』『仲間殺し』『極悪』『魔獣の殲滅者』『蛮勇』『罪人殺し』
『悪業を積み重ねる者』『根源種』『善意』『エルフの友』『熟練戦士』
『エルフの恩人』『魔術開拓者』『植物の友』『職人見習い』『魔獣の友』
『人殺し』『君主』
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