10 ご主人様になろう
メイドさんの胸元へ、そっと毛先を伸ばす。
柔らかな肌と、そこにある小さな突起に触れた。
微かな吐息がメイドさんの口から漏れた。
無表情のままのメイドさんだけど、吐息には熱が混じっていた。
突起部分を押してみる。
また吐息が熱くなったみたいだった。
『そのまま、お願い致します』
メイドさんが求めてくる言葉に従って、ボクは注いでいく。
頬に紅い光が差す。
胸元にある赤い石から光が溢れて、メイドさんの顔も照らしていた。
『登録が完了しました。お毛玉様を、新たなご主人様として奉仕させていただきます』
メイドさんが一歩下がって、ボクへ向けて頭を下げる。
そう、ボクはメイドさんと戦うのを止めた。
それが一番安全な選択肢だったからね。
だって、ここはまだ地下ダンジョンの中だし。
出口だって見つけてないし。
下手をしたら、このまま生き埋めにされるからね。
けっこうな時間が経ってるし、いい加減、地上に出たい。
そのためには、このメイドさんに協力してもらうのが一番早いでしょ。
だけどまあ、やっぱり信用できるかどうか、っていう問題があるよね。
『たくさん注いでくださってので、戦闘も可能です。この世界の戦闘力で表しますと、およそ5000が限界でしょうか。その他、家事や魔術研究の手伝いなどの技能を備えております。どうぞ、御命令を』』
ああ、うん。注いだっていうのは魔力の話ね。
それはともかく、戦闘力5000か。
予想以上に強いね。
これはますます隙を見せられない。
だから、最初の命令で確かめさせてもらおう。
信用できるかどうか。
正しく命令を伝えるのも苦労しそうだけどね。
石棺が砕け散る。
中に収められていた、白骨化した遺体ごと。
それをやったのはメイドさんだ。
粉々になった骨と石の破片を、部屋の隅へと箒で片付けていく。
研究室の奥には霊廟があった。
あの幽霊たちの、元の肉体が安置されてたよ。
亡霊になってまで元の世界に帰りたがってたから、肉体の方も残してあるんじゃないか?、って思ったんだよね。
正解だった。
だから、メイドさんの忠誠心を試すのに有効活用させてもらった。
元主人の遺体を、無表情のまま処分していく。
ここまでしてもらったら、信用してもいいんじゃないかな。
『ご主人様、片付けが終わりました』
うん。ご苦労様。
それじゃぁ、次はどうしようか?
脱出して拠点へ戻る―――その前に、メイドさんを増やしておくのもいいね。
研究室には眠ったままの奉仕人形が、十体くらいいたし。
全員、もらっておこう。
部屋に戻りつつ、それを身振り毛振りで説明する。
メイドさんに協力して貰わないと、起こし方も分からないからね。
『彼女たちを起動するのですか? はい、可能です。むしろ感謝致します。主人を持たない奉仕人形は、遠からず自壊してしまいますから』
メイドさんは一礼して作業に向かう。
その表情も仕草も、相変わらずの淡々としたものだね。
でも心なしか嬉しそう―――って思うのは、楽観的にすぎるかな。
だけど悪い関係じゃないと思うんだよね。
奉仕人形は、活動するのに主人と魔力が必要。
ボクは、そのどっちも保障できる。
魔力不足で困ってる幽霊に仕えてるより、よっぽどマシなんじゃないかな。
まあ、人形だから不満なんて抱かないんだろうけど。
何にしても、良い拾い物だよね。
有能で、反乱の心配もなく、どんな命令にでも従ってくれる人形。
使う側からしたら夢みたいな存在だ。
おまけに、もしかしたら量産だって可能になる。
大切にしよう。
《特定行動により、称号『御主人様』を獲得しました》
《称号『御主人様』により、『威圧』スキルが上昇しました》
十三人の奉仕人形が並ぶ。
全員、ボクを主人として登録済みだ。
そして揃ってメイド服を着ている。
どうしてメイド服なんだとか、ちゃんと人数分の服があったんだとか、そもそも女性型ばかりなのはどうしてなのかとか、色々とツッコミ処はある。
ともあれ、壮観だね。
メイド喫茶だって開けそうだ。
いや、ボクにそんな趣味はないけどね。
だけど問題もある。
ボクに従ってくれるのはいいけど、それだけしっかりと命令を伝えないといけない。
身振り毛振りだと、やっぱり限界があるよ。
相手からの言葉は伝わるから、誤解は減らせる。
それでも改善策が必要だね。
思念通話の修得は優先事項にしておこう。
あと、其々を区別するのに名前も無いと不便だ。
適当な名前を付けても認めてくれそうだけど、そもそも伝える手段がない。
ボクはまともな声が出せないからね。
意図じゃなく、単語を伝えるって難易度が高いんだよ。
なので、応急処置として―――。
『では、わたくしが一号ということでよろしいですね? 順に、二号から十三号となります。ご主人様、あらためて従属を誓わせていただきます』
そういうことになった。
ちなみに、最初に出会ったメイドさんが一号。
この一号さんから八号さんまでは、見た目はやや年上だね。
二十歳くらいに見える。淑女型だね。
スタイルも、年齢相応って感じで、大きくて揺れてる。
一名ほど例外さんもいるけど。
九号から十二号さんは、少女型ってところかな。
十三号だけが幼女型になってる。
其々に顔は違うし、体型も微妙に異なるけど、揃ってクールビューティだね。
無表情は崩れない。
それでも、身体能力や特技なんかも違ってるみたいだ。
そこらへんも覚えておいた方がよさそうだね。
さて、ひとまず状況は落ち着いたかな。
ダンジョンは制覇した。
メイドさんが増えた。
次はやっぱり、地上への脱出だね。
『はい。この施設を……保全する、ということでしょうか? 了承しました。
深層の隔壁を閉鎖、待機状態へと移行させます。我々は、ご主人様に同行してもよろしいのでしょうか? はい。護衛も務めさせて……不要、ですか? 自分の身を守るのを優先、でしょうか? 理解致しました』
一号さんを介して、他のメイド人形にも指示を伝える。
そうしてボクたちは部屋を出た。
壁に隠されていた通路を、一号さんに案内されて進む。
エレベーターみたいなものもあった。
十三人+一毛玉も乗ると、ぎゅうぎゅうだね。
危うく潰されるかと思った。
頭上に浮かんでればよかった、と気づいたのは上昇が終わってからだ。
だけどまあ、これでメイド人形が敵意を持ってないのは確信できたよ。
ボクをタコ殴りにして潰すには絶好の機会だった。
なのに、撫でられただけだから。
一号さんの胸に抱えられたまま、また石壁に囲まれた通路を進む。
今度はそう長い通路じゃなかった。
空気が変わったのが分かった。
ほどなくして、光が差し込んでくる。
こうしてボクは、久しぶりに地上へと戻ってきた。
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魔眼 ジ・ワン LV:9 名前:κτμ
戦闘力:8360
社会生活力:-3240
カルマ:-7650
特性:
魔獣種 :『八万針』『完全吸収』『変身』『空中機動』
万能魔導 :『支配』『魔力大強化』『魔力集束』『破魔耐性』『懲罰』
『万魔撃』『加護』『無属性魔術』『錬金術』『生命干渉』
『土木系魔術』『闇術』『連続魔』『魔術開発』『精密魔導』
『全属性耐性』
英傑絶佳・従:『成長加速』
手芸の才・極:『精巧』『栽培』『裁縫』『細工』『建築』
不動の心 :『極道』『不屈』『精神無効』『恒心』
活命の才・壱:『生命力大強化』『頑健』『自己再生』『自動回復』『悪食』
『激痛耐性』『死毒耐性』『下位物理無効』『闇大耐性』
『立体機動』『打撃大耐性』『衝撃大耐性』
知謀の才・弐:『鑑定』『記憶』『高速演算』『罠師』『多重思考』
闘争の才・弐:『破戒撃』『回避』『強力撃』『高速撃』『天撃』『獄門』
魂源の才 :『成長大加速』『支配無効』『状態異常大耐性』
共感の才・壱:『精霊感知』『五感制御』『精霊の加護』『自動感知』
覇者の才・壱:『一騎当千』『威圧』『不変』『法則改変』
隠者の才・壱:『隠密』『無音』
魔眼覇王 :『大治の魔眼』『死滅の魔眼』『災禍の魔眼』『衝破の魔眼』
『闇裂の魔眼』『凍晶の魔眼』『轟雷の魔眼』『破滅の魔眼』
閲覧許可 :『魔術知識』『鑑定知識』
称号:
『使い魔候補』『仲間殺し』『極悪』『魔獣の殲滅者』『蛮勇』『罪人殺し』
『悪業を積み重ねる者』『根源種』『善意』『エルフの友』『熟練戦士』
『エルフの恩人』『魔術開拓者』『植物の友』『職人見習い』『魔獣の友』
『人殺し』『御主人様』
カスタマイズポイント:390
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