03 グロ中尉①
壁や床が脈打ってる。
明らかにこれ、生命的なものだよねえ。
でもゾンビ犬が襲ってきたことから察するに、アンデッド的なものなのかな?
どっちにしても、あんまり詳しく観察したいものじゃないね。
『鑑定』もしてみたけど、よく分からないし。
ともかくも精神的によくなさそうだ。
近づくだけでも、健康的にもよろしくなさそうだし。
汚染とかあるんじゃない?
病原菌とか撒き散らしてたら困るなあ。
ってことで、とりあえず消毒してみよう。
これまでの石壁と違って、壊せるかもって期待もあるし。
『万魔撃』、発動!
《行為経験値が一定に達しました。『魔力集束』スキルが上昇しました》
文字通りの肉壁が、魔力ビームで焼き払われる。
やった! これなら簡単に消し飛ばせる!
と、喜んだのは一瞬だった。
肉壁の下には、硬い石壁があった。
そう、二重になっていただけ。
石壁の方にも傷はつくけど、そっちはすぐに修復されてしまう。
どうあってもボクを脱出させたくないらしい。
いや、ダンジョンに意志があるとも思えないけどね。
ないよね?
ダンジョンマスターがいるとか。
じわじわとボクを追い詰めようとしてるとか。
もしもそうなら、『死滅の魔眼』を叩き込んでやるのも躊躇わないんだけど。
ともあれ、壁の破壊は無理だと分かった。
こうなると進むか退くか決めないといけない。
まあ、進むしかないかな。
このダンジョンは普通じゃない。
いや、そもそも普通のダンジョンなんて知らないけどね。
なんにしても不気味だ。
こんなのが地下にあるんじゃ落ち着けないよ。
ゾンビ犬の大量発生とか起こったら困るからね。
ほら、いまも肉壁のところから出てくるし。
毛針で迎撃。
『徹甲針』に『破砕針』、おまけで『焼夷針』も撃ち込む。
《行為経験値が一定に達しました。『八万針』スキルが上昇しました》
どうもゾンビ犬は”現れる”というより、”生み出される”とか”作られる”とかいった方が正しいみたいだ。
もしくは、”解放される”かな?
肉壁の一部が裂けて、ぐちゃっと出てくる。
敵に対する防衛機能みたいなものかな。
人間で言うなら白血球だっけ?
って、それだとボクが悪性のウイルスみたいだね。
イメージがよろしくない。
まあカルマはマイナスぶっち切りだけど、けっして悪じゃないよ。
ゾンビ犬なんて生み出してる方が悪じゃない?
生命への冒涜だし。
うん。『死滅の魔眼』のことは置いておこう。
あれはゾンビじゃないし。
死毒の塊にするだけだし。
それにほら、時間が経てば勝手にいなくなるからね。
環境に優しい兵器ってことで。
よし。ボクは悪くない。
ってことで、この悪い肉壁を排除していこう。
『焼夷針』を撃ったのは、それも狙ってのことだからね。
ダンジョン内で火は使いたくなかったけど、これが一番効率が良さそうだし。
もちろん酸欠で倒れるつもりはないよ。
魔術で風を起こして、煙なんかは通路の奥へ流れていくようにする。
炎を広げていく効果もある。
何処まで空気が続くか、不安は残るけどね。
でもかなり広いダンジョンなのは、これまでの探索で明らかだ。
しばらくは肉壁を焼き払いながら進んでも大丈夫なはず。
《行為経験値が一定に達しました。『魔力大強化』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『風雷系魔術』スキルが上昇しました》
風の魔術を維持しながら通路の奥を目指す。
何体かゾンビ犬も生み出されるけど、ほとんどはボクに近寄ってもこれない。
炎に巻かれて倒れていく。
残りも、『破砕針』で排除していく。
それでも慎重に進んで、焼け落ちた肉壁の破片に目を向けた。
毛針で突つく。
念入りに観察してみる。
ちょっと怖いけど、ゆっくりと『吸収』を発動。
ん……? おお、悪くない味だね。
柔らかな肉みたいな感覚が伝わってくる。
まあ実際に肉なんだけど、『吸収』で味わってるにしては珍しい感覚だ。
それに、壁の方はどうやらアンデッドじゃないみたいだね。
スケルトンの時に味わったスカスカの感じがしない。
生命力が詰まってるみたいだ。
毒とかの危険なものも混じってないっぽい?
じっくり焼いたのが良かったのかな。
ともかくも、これなら食料として申し分なさそうだ。
こうなると通路全体がお肉ってことだよね。
一面のステーキ。
お菓子のダンジョンならぬ、お肉のダンジョン。
食いしん坊が大挙して押し寄せて来そうだ。
見た目的に臓物だから、食欲をそそるかどうかは知らないけど。
ボクはそんなに食事に拘るタイプじゃないんだよね。
甘い物は好きだけど。
それでも飢えるのは勘弁して欲しいし、その問題が解決したのは嬉しいね。
ただ、やっぱり直接に食べないと空腹感は満たされない。
『吸収』するのとは違って、それはまた別の勇気が必要になるよ。
でも、食べておこうか。
ゾンビ犬くらいは脅威じゃないけど、何が起こるか分からないからね。
可能な限り、万全な状態は整えておこう。
ってことで、久しぶりのお肉に齧りつく。
ん……やっぱり毒とかは無さそうだね。
むしろ美味しい。
ちょっと脂身が多いけど、程好く口の中でとろけていくね。
前世でも食べたことがないくらい上質のお肉かも。
ゾンビを生むのに。
なんだろう、このアンバランスさは。
至高のゲテモノ料理だね。
《行為経験値が一定に達しました。『悪食』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『極道』スキルが上昇しました》
って、妙なスキルが上がってる?
んん? だけどやっぱり体に異変は無いよ。
ちょっと舌がピリッとするくらい。
スパイスが利いてるのかな~って程度だし、問題はまったく無い。
それに『極道』って、『懲罰』系への耐性スキルだったはずだよね。
ボクの弱点だし、そんな攻撃が混じってるなら気づくはず。
あ、でも、もしかして……、
『懲罰』じゃなくて、『獄門』系の影響を受けてる?
カルマに応じた攻撃って考えると、この二つは同じ枠組みなんだよね。
で、それに対するのが『極道』、『我道』系の耐性スキル、と。
なるほど。この予測が正しいなら納得できるね。
肉壁は、カルマがプラスの相手には毒になる。
だけどボクはマイナスに吹っ切れてるから美味しく食べられる、と。
よかった。
これまでの行為は無駄じゃなかったよ。
そうじゃなかったら空腹で倒れてたかも知れないし。
やっぱり日頃の行いって大切だよね。




