09 ガテン系毛玉
目の前の壁を見上げる。
そう、壁だ。
ボクが土を固めて自作したものだ。
お城と言えば城壁。城壁と言えば頑丈さが最重要。
という訳で、まずはどれだけ硬い壁を作れるか試している。
土壁の製作自体は、『土木系魔術』の範囲らしい。
だけど壁を硬くさせたり、魔術に対する抵抗力を付けたりすると、『無属性魔術』スキルが鍛えられている。
そんな細かな区分はともかく、魔術の扱いにもかなり慣れてきたね。
『万能魔導』の助けもあると思う。
風の刃を飛ばしたり、土飛礫を放ったりする術式も瞬時に組めるようになった。
ついでに実験として、雷撃や凍結の術式も組んでみたよ。
魔眼でイメージは掴めていたから、割りと簡単だった。
でも実戦で使うには、もう一工夫が必要かな。
まだまだ魔眼の方が発動は早いし、威力も強い。
で、そういった攻撃魔術を次々と撃って、壁の強度を確かめている最中だ。
実験結果としては、ひとまず満足かな。
雷撃や凍結の魔術に対しても、特製土壁は何発かなら弾き返せる。
目一杯威力を高めた『衝撃の魔眼』に対しても、一発だけは耐えてみせた。
少しヒビは入ったけどね。
《行為経験値が一定に達しました。『衝撃の魔眼』スキルが上昇しました》
《条件が満たされました。『衝破の魔眼』スキルが解放されます》
そして魔眼もランクアップ。
『衝撃の魔眼』は魔力消費も少なくて使い易いから、かなり撃ちまくってたね。
今後の活躍にも期待だ。
だけどまあ、いまは壁の方に専念。
もっと分厚い壁を作るとか、二枚重ねとかにすれば、かなり堅牢な城壁を作れそうだよ。
ただし、作れるのは城壁だけかも知れない。
だってほら、壁を作るのと城を作るのは難易度がまるで違うから。
積み木みたいに簡単にいくとは思えないし。
個人でログハウスを作った人がいるとか、聞いたことはあるけど、それだって相当の手間が必要でしょ。
魔法でどこまで無茶が通るか、その点が問題だね。
まずは簡素な小屋から作っていこうと思う。
壁と天井があるだけの、本当に簡単なやつだね。
あ、だけど脱出路だけは念入りに作るつもり。
いざっていう時に飛び込んで逃げ出せる、地下通路を、ね。
それが完成したら、四方を頑丈な壁で囲っていく。
広い範囲を、城壁みたいに。
そうして壁の中で、じっくり作業をしようという計画だ。
いい加減、サバイバル生活から抜け出したいからね。
落ち着いて魔術の研究とか、能力の検証とか、編み物とかしたい。
そうして出来ることが増えれば、また安全の度合いも上がる。
食糧確保も、もう難しくないからね。
『栽培』があるから。
『生命干渉』のおかげで、色々と品種改良も進んでる。
まずはリンゴ。
元々は破魔効果が付いてる上に、酸っぱくて食べられた物じゃなかった。
だけど品種改良が進んで、美味しい上に、ほとんど魔力だけで栽培できる優良種になってくれた。
破魔リンゴと青森リンゴって呼んでる。
食べられない破魔リンゴの方も、魔獣除け効果があるっぽいから役に立つよ。
これだけでも空腹を満たすには充分だね。
でも、主食になるのはイモだね。
鑑定によると『グドラマゴラ』っていう、ちょっと危険な根っ子だ。
下手に引っこ抜くと叫ぶ。そして襲ってくる。
だけど美味しい。お芋だ。
量産を目指す理由には充分だね。
そのお芋の栽培にも目途がついた。
破片からも小さな芽が出てきてくれたし、かなり生命力の高い植物みたいだ。
植物というか、ほとんど魔獣、魔樹だよね。
だけど、いまのボクにとっては大した強さじゃない。
問題だったのは、育てられるかどうかだ。
リンゴみたいに、魔力を送り込めば一気に育つ、とはいかなかった。
下手に栄養を与えすぎると、土の中で破裂しちゃうんだよね。
だけど、時間を掛ければ育てられる。
いまはまだ、数日でジャガイモ一個分くらいにしかならないけどね。
その内に数を増やして、品種改良も進められるはず。
あとは、木苺もある。竹の栽培もなんとかなりそう。
近場に湖もあるんだし、定期的に魚竜でも狩れば食料には困らない。
骨も砕けば肥料になる?
あれって貝殻だっけ?
ともあれ森もあるし、壁を盾にしつつ遠距離魔眼で魔獣も狩れる。
うん。完璧だね。
この拠点が完成すれば、ようやく平穏な暮らしが叶う。
引き篭もり生活だって出来そうだ。
コーラはないけど、頑張ればポテチくらいは作れそうだし。
食っちゃ寝万歳も夢じゃないよ。
また放浪するにしても、帰ってくる場所があれば安心だからね。
ってことで、張り切って作業を進めよう。
まずは、小屋だね。
頑丈な土台から作っていく。基礎工事は大事だからね。
柱をしっかりと地中深くまで張って、床も厚めの三重構造にする。
問題は、壁とか天井の設置なんだよね。
パーツは作れても、それの移動をどうするか?
生憎、この毛玉体の身体能力は高くない。むしろ貧弱だ。
魔法方面に極フリしちゃってるからねえ。
重い壁を持ち上げて運ぶなんて出来ないよ。
そもそも進化して足は無くなったし、最初から手はついてない。
『支配』の魔力糸に頼れば、かなり重い物まで動かせる。
だけど、この特製壁は重過ぎて、さすがに大変なんだよね。
これから高い壁を作るのも考えると、何かしらの手段を得ておいた方がいい。
そこで思いついたのが、ボクが自然と使っている『空中機動』だ。
この効果を運びたい物に付与できないかな、と考えたワケですよ。
ボク自身がそうだけど、浮かんでいる間はかなり軽くなるからね。
重い壁でも、浮かせてしまえば楽に運べるはず。
という訳で、試してみる。
まずは自分の内で発動してる、『空中機動』の魔力回路へ意識を傾ける。
複雑な魔術式が描かれてるね。
それをしっかりと認識して、覚えながら、壁に対して描いていく。
んん、意外と難しいね。魔力が乱れる。
『万能魔導』のおかげか、なんとなく魔術式の意味を理解できるようにもなってきた。
例えるなら、未知の言語だったのが、英語に見えるようになった程度だね。
それでも書き写すくらいは簡単かと思ったんだけど―――、
《行為経験値が一定に達しました。『精密魔力操作』スキルが上昇しました》
《条件が満たされました。『精密魔導』スキルが解放されます》
システムメッセージが流れた瞬間だ。
ふと、気が逸れた。
途端に魔術式が歪んで、弾ける。
何度か経験したことがあるよ。魔術暴走だ。
マズイ―――と思った直後、土壁が凄い勢いで吹っ飛んだ。
まるでロケットみたいに。斜め上方へ向けて高々と。
うわぁい。
これはこれで成功じゃないかな?
だって、すっごい飛んだよ。
湖の向こう岸まで届きそうな勢いで……あ、落ちた。土煙が上がってる。
《行為経験値が一定に達しました。『無属性魔術』スキルが上昇しました》
上手く利用できれば、強力な武器になるんじゃない?
ほら、カタパルトみたいに。
重い土壁を飛ばせるくらいだからね。
土塊とか岩とか、ガンガン飛ばして遠距離から一方的に攻撃できる。
これは早急に研究を進めるとしよう。
『魔術開拓者』としての腕が鳴るね。
でもまあ、まずは安定して浮かばせることからだ。
また土壁を作って、と。
今度こそ浮遊を成功させ……あ、マズぶっ―――!?
《行為経験値が一定に達しました。『加護』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『打撃大耐性』スキルが大幅に上昇しました》
痛いよ! 一瞬、意識を失いそうになったし!
『下位物理無効』も仕事してないし!
それにしても……うん。これはやっぱり凄い武器になる。
身を以って体験したよ。潰されるかとも思った。
考えてみたら、なにもいきなり重い物で試さなくてもいいんだよね。
まずは柔らかい土団子でも作って、それで実験を重ねよう。
安全第一。
魔術研究は面白いけど、マッドになるつもりはないからね。
そうして拠点を作り始めて三日―――。
家の外枠が完成した。
土台の上に壁を立てただけの簡単なものだけどね。
それでも全体の大きさはけっこうなものだよ。
家というか、二階建ての屋敷と言っていいくらいの広さはある。
内部も大雑把に仕切りを立てて、もしも襲撃された時は、すぐに脱出できるようにしておいた。
地下通路も、枝分かれする形で三本用意してある。
気配を殺して進めば、巨大魚竜からでも逃げられるはずだ。
警戒しすぎ、とはボクも少し思うけどね。
でも油断して食べられちゃうよりはずっといいよ。
さて、それじゃあ次はいよいよ天井の設置に―――と思った時だ。
何かが近づいてくる。
まだ匂いも音も感じられないけど、結界に反応があった。
そう、闇結界の応用で、風の結界を張ってあるんだ。
早期警戒は防衛の基本だからね。
大きく動くものがあれば、ボクには感知できる。
で、近づいてくるのは……集団みたいだね。
上空に浮かび上がって確かめてみる、と、
森の中を、十数名のアルラウネたちがこちらへと向かってきていた。
今夜はここまでです。




