25 新たなる目標
夜、銀子はすやすやと眠っている。
ボクを抱えたまま。
地球だったら、立派なバスケ選手になる将来が期待できるね。
このファンタジー世界だと……テイマーとかいるのかな。
どうやら使い魔ってシステムもあるっぽいし、魔獣と仲良くなるのも珍しくないのかも。
ともあれ、大人しく眠ってくれたので、ボクはまた思案に耽る。
お昼寝の後も、ちょこちょこと作業を行った。
例の男どもが着てた服を洗って、銀子用に仕立て直したり、雑巾を作ったりね。
ほら、針はいくらでもあるから。
糸の方も、ボクの毛で代用した。
まずは『頑強針』を地面へ向けていっぱい飛ばします。
すぐに『自己再生』で毛を生やし直します。
次に使うのは、『溶解針』と『粘着針』。
『九拾針』は基本的に、針の内部に特殊な液体が作られるみたいなんだよね。
その液体を組み合わせれば、一本ずつでは短い毛を繋ぎ合わせるのも可能だった。
さすがに試行錯誤は必要だったけどね。
完成した糸は少々太めだけど、ドレスに使うのでもない限りは問題ない。
むしろ、頑丈で使い勝手はよさそうだ。
試行錯誤のおかげで、あれこれとスキルが上がっだよ。
まずは『錬金術』、針仕事をしてたら『裁縫』スキルも鍛えられたみたいだ。
あらためてステータスを見てみようか。
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魔獣 オリジン・ユニーク・ベアルーダ LV:1 名前:なし
戦闘力:1920
社会生活力:-2650
カルマ:-3800
特性:
魔獣種 :『九拾針』『高速吸収』『変身』『浮遊』
魔導の才・極:『操作』『魔力大強化』『魔力集中』『破魔耐性』『懲罰』
『万魔撃』『加護』『無属性魔術』『錬金術』
英傑絶佳・従:『成長加速』
手芸の才・参:『器用』『栽培』『裁縫』
不動の心 :『極道』『我慢』『恐怖大耐性』『静寂』
生存の才・壱:『生命力大強化』『自己再生』『自動回復』『激痛耐性』
『猛毒耐性』『物理大耐性』『闇大耐性』
知謀の才・壱:『鑑定』『沈思速考』
戦闘の才・壱:『破戒撃』『回避』『強力撃』『威圧』
魂源の才 :『成長大加速』『支配無効』
魔眼の覇者 :『治癒の魔眼』『死毒の魔眼』『混沌の魔眼』『破滅の魔眼』
閲覧許可 :『魔術知識』『鑑定知識』
称号:
『使い魔候補』『仲間殺し』『悪逆』『魔獣殺し』『無謀』『罪人殺し』『戦士』
『悪業を積む者』『根源種』『善意』
カスタマイズポイント:400
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順調に成長してる、ってところかな。
でも相変わらず比較対象がいないから、数値も高いのか低いのか分からないね。
それでも今日は大きな成長があったと言える。
ポイントを使って取得した、『鑑定知識』。
これがなかなかに面白いものだったよ。
まずは『魔術知識』と同じように本を呼び出します。
次に、本を開いたまま『鑑定』を使います。
すると、真っ白だったページに映像と文字が記されていきます。
どうやら『鑑定』した結果を記録してくれるみたい。
映像付きっていうのは、なかなかに高性能だよね。
文字の方は、ボクの認識なのか、別の所から正しい知識を持ってきたのか不明。
だって読めないから。この点は相変わらずだね。
だけど、大きく役立ちそうな機能がある。
なんとこの本、鑑定結果を声付きで読み上げてくれます。
システムメッセージと同じ声だね。淡々とした女性っぽい声だった。
大したことないと思う?
いやいや、とっても有り難いよ。だって言語の勉強に役立ちそうだし。
『魔術知識』に書かれている文章とは違う。
『鑑定』した物について書かれるから、漠然とした意味は推測できる。
しかも音声付き。
外国映画で言葉を学ぶようなものじゃない?
難易度はもう一段くらい上がるとは思うけど、そこは量でカバーできる。
何かしらの作業の傍らで『鑑定』しつつ、声を聞き続けてるだけでも効果ありそうだよね。
新しい映像や文字が記されるたびに、少しの魔力が消費される。
だけどボクにとっては問題ない。自然回復で相殺できるくらいの少量だ。
少なくとも、これまでお先真っ暗だった言葉の問題に、僅かな光が差してきたよ。
その後押しの意味もあって、『知謀の才』を強化しようかとも思った。
ポイントに少し余裕が出てきたからね。
ただ、この”才能”部分にも謎がある。
ポイントだけでしか伸ばせないのか? 自力で鍛えられるのか?
前世の常識からすれば、幼い内は才能だって伸びそうだよね。
でも、生まれつき変わらないって考えにも頷ける。
この世界のシステム次第だと思うけど、そこらへんも確かめたい。
なので、しばらくポイント使うのは自重で。
いまを生き残るのが大切で、そんな余裕がない気もするけどね。
急いで力をつけるべきだとも思える。
だけど後を考えるなら間違った選択でもないはず。
まあ、正解は結果次第だよね。
《行為経験値が一定に達しました。『沈思速考』スキルが上昇しました》
あと、進化後に気になってるスキルがある。
『破滅の魔眼』だ。
これまでで一番危なそうな名前だよね。
まだ試していない。
何が起こるか不安だからね。
その内、機会があれば調べておきたいけど―――。
まあ、ボク自身のことはいいや。
これからも成長を目指していく、ってことで。
問題は、銀子だよね。
このまま森でのサバイバル生活を続けるのは難しい。
そう遠くない内に限界が訪れると思う。
食料だけの問題じゃない。
こんな人外魔鏡みたいな森の中じゃ、いつ危険な魔物に襲われるか分からない。
ボクが守りきれる自信はないしね。
銀子は頭のいい子だけど、とても戦いなんて出来ない。
ウサギにだって怯えてた。
魔術は得意みたいだから、いざとなったら抵抗くらいはするだろうけど―――。
「uμы……kwΠnξι……」
ん? 銀子が寝言を呟いただけだね。
ボクに頬擦りして、幸せそうな顔をして眠ってる。
あーあー、涎も垂らしちゃって。
夕食に食べたウサギがそんなに美味しかったのかな?
塩味しか利かせてなかったんだけどね。
残念ながら、『醤油針』とか『味噌針』とかはなかったから。
そっと涎を拭いてから、毛布を掛けなおして頭を撫でてやる。
銀子はまた静かに寝息を立て始めた。
はぁ……やっぱり、人里を目指すのが一番だよね。
あの人攫いどもも、何処かにある街を目指していたんだと思う。
銀子を売りさばくためにね。
この島か大陸か分からない森の外に、ともかくも人が住む場所がある。
それは確定としていいだろう。
うん。少し整理してみようか。
まず海を渡ってきたボクは、北から南へ向かってきたみたいだった。
太陽の位置に頼った推測だけどね。
異世界だと太陽の動きも違うのかも知れないけど、ひとまずの方向認識として使わせてもらおう。
で、ボクは北側から陸地に入った。
少し南へ進んだ森の中が、いま居る場所だね。
人攫いどもは、西から来て東へ向かってるみたいだった。
素直に考えるなら、東に街があるってことだよね。
でもそこはエルフの売買が行われるような場所だから、近づくのは危険か。
となると、連中が来た方向かな。
西へ行けばエルフの里がある?
ん~……そちらを目指すにしても、距離が分からないと不安だね。
だけどあの三人は、そんなに強い人間でもなかった。
慎重に進めば、ボクと銀子で逆戻りルートを行けるかな。
旅ってことになるね。
そうなると、まずは荷物を運ぶ手段を考えないといけない。
ボクにはこれといって必要な物はない。
でも銀子が使う毛布や食器、替えの服も一着くらいは持っていきたいね。
連中が持ってた鞄にまとめて積めれば、『操作』で運べるかな。
重い物を扱うと魔力消費も大きくなる。
いまのところ、人間二人分くらいなら自然回復量と釣り合うね。
旅の途中で食料を確保できれば……なんとか、いける?
拠点を築いて守りを固めるにしても限界があるからね。
森でのサバイバルより、早目に人里へ向かった方がいいに決まってる。
よし。結論は出た。
明日には出発しよう。




