17 単眼仲間……?
死毒との戦いは丸一日くらい続いた。
いやぁ、自分で使える毒ながら、本当に恐ろしいね。
でも生死の境を彷徨ったおかげか、得るものも大きかった。
《行為経験値が一定に達しました。『自然治癒』スキルが上昇しました》
《条件が満たされました。『自動回復』スキルが解放されます》
《行為経験値が一定に達しました。『瞑想』スキルが上昇しました》
《条件が満たされました。スキル『瞑想』と『高速思考』が統合され、スキル『沈思速考』が解放されます》
スキル統合。
そういうのもあるのか。
『沈思速考』って名前からすると、気持ちを落ち着けて、速く考えるのをサポートしてくれるのかな。
ん~……あ、魔力回復が早まってる?
これまでも『瞑想』してると、魔力は幾分か早目に回復してた。
自分の内側から魔力が湧き出るようなイメージを作ってたんだけど……、
それを自然に行えるようになったみたいだね。
もっと落ち着いて心を沈めれば、さらに回復速度は上がる、と。
うん。これは嬉しいスキルだ。
我ながら器用な真似ができるようになったものだね。
さて。毒もほとんど抜けた。
あとは完全な回復を待って、今度こそ拠点作りに挑戦しよう。
《行為経験値が一定に達しました。『自己再生』スキルが上昇しました》
ウツボカズラに溶かされた足も、ようやく再生が終わった。
でも今日は動くのは危険だね。日も暮れかけてる。
だけど丸一日も食事をしていないので、お腹が空いてる。
何か食べたい。でも草木くらいしかないんだよね。
死毒まみれのミミズは危険だし。
あ、でも成長途中だったウツボカズラがあるか。
毒針で倒したけど、魔眼ほど強い毒じゃない。
それに、ボク自身の体で作った毒だから、耐性もあるんじゃないかな?
ってことで、試食。
うん……悪くないね。そこらへんの野草よりも油が乗ってる感じ。
ちゃんと成長させてから食べた方がよかったかも。
まあ、仕方ないね。安全とは言い難かったから。
残った分だけでも、『吸収』も使って全部お腹に納めておこう。
それじゃあ、完全に日が暮れる前に簡易拠点も作ろうか。
魔力にはけっこう余裕が出てきてる。
草やツタを編むくらいなら、いくらでも出来るね。
だけどやっぱり、それくらいじゃ拠点の防御として心許ないんだよねえ。
これまでは無事に過ごせたけど、寝ている時に襲われたら本当に危ないよ。
地面の下からミミズが、「こんにちは、死ね」って来るかも知れないからねえ。
どうしたものかね?
木柵とか作りたいけど、そんなのは魔力全快でも難しい。
そもそも使える木材と言えば、細い枝くらいだ。
毛針だと、”切る”とか”加工”とかが出来ない。
スキルを取るか、『土木系魔術』で試行錯誤するか、どっちにしても魔力不足だ。
とりあえず、今日のところは木の上で休もうか。
怪鳥の襲撃は怖いけど、枝を組んで隠れておけば大丈夫かな。
あと、念の為に周囲にいくつか落とし穴も掘っておこう。
適当な木を選んでよじ登る。寝床を作っていく。
まだ陽が暮れたばかりだけど月が昇っていた。
……やっぱり異世界なんだよね。
青白い月と、赤い月がある。
なかなかに綺麗な光景だね。
本当に幻想的で、ゆっくりと鑑賞できないのが惜しくなってくるよ。
ぐっすりと眠って、陽が昇るよりも早くに目が覚めた。
意識はすっきりしている。
早目に寝たおかげか、それとも睡眠耐性のおかげかな。
ともあれ、今日からあらためて活動開始だ。
目指せ、拠点作成。
と、その前に周囲の安全を確認しておこうか。
ミミズに囲まれている、なんて状況だったら困るからね。
一応、『危機感知』なんてスキルもあったけど、安心には程遠いね。
むしろ『五感強化』の方が頼れるかも。
贅沢を言うなら、レーダーみたいなスキルも欲しいところだね。
人間の感覚だったら無理だと思うところだけどね。
仮にも体は魔獣なんだから、素早く敵の接近に気づけてもいいとは思う。
もしくは、そういった魔法でも見つけられると楽になるね。
《行為経験値が一定に達しました。『待機』スキルが上昇しました》
《条件が満たされました。『静寂』スキルが解放されます》
んん? またなんかスキル解放だ。
待機から静寂か。
じっとして静かにするのが得意になるスキルってことかな?
サバイバル生活だと、少しは役に立ちそうだね。
変に音を立てて、厄介な魔獣とか引き寄せたくないから。
さて、周囲の安全確認よし。
お腹も空いてるし、今度こそ食料確保を優先だね。
川の位置は覚えてるから、ひとまず水場の確保はできてる。
この体だと水は必要なさそうだけど、いざって時に使える可能性もあるからね。
ともあれ、食料を探そう。
最低限数日分の食料は確保しておきたい。
数日分がどれくらい必要なのかも分からないけど、まあ適当に。
この毛玉体だと、食事の量は少なくて済むからねえ。
なにせ、体自体が小さいし。
だけど『吸収』を使うと、体の大きさ以上の獲物も食べ尽くせるんだよね。
そこらへんも謎だ。
っていうか、この世界自体が謎だらけだね。
まあ、いまは有りのままを受け入れるしかないかなあ。
余裕があったら、この世界の一般常識とかも知りたいよ。
《『常識』は閲覧許可を取得可能です》
《カスタマイズポイントが足りません》
あるの!? 投げ捨てるモノじゃないんだ!
しかし常識が買えるって、すごいな、異世界。
そういえば『魔術知識』とか『共通言語』とかもあるんだし、驚くほど不思議ではない、かな?
また本みたいな形で読めるんだろうか。
そういえば、地球では愛だって買えるって話があった。
コンビニで売ってるんだっけ?
まあいいや。どっちの世界もすごいってことで。
それよりも、そろそろ出掛けよう。
森の中をひょいひょいと進む。
基本的には木の上を移動。
普通に歩くよりも速度は落ちるんだけど、遠くまで見渡せるので幾分か安全だ。
《行為経験値が一定に達しました。『登攀』スキルが上昇しました》
木登りにも慣れてきたね。
最初は八本足ってどうなのかとも思ってたけど、本能なのか、自在に操れる。
単純な運動能力なら、もう人間だった頃より上なんじゃないかな?
体育の成績は下から数えた方が早かったからねえ。
でもいまのサバイバル生活だと、積極的に体を鍛えておくべきだよね。
『俊敏』とかは特性に表記されなくても役立ちそうだ。積極的に上げておきたい。
いざという時の戦略的撤退のためにもね。
あと、腕立て伏せとかしたら腕力アップ系のスキルも上がるのかな?
まあ足しか無いのに、どうやって腕立て伏せするのって話なんだけど。
《行為経験値が一定に達しました。『剛力』スキルが上昇しました》
えっちらおっちら、石を担いで歩いてみた。
スキルアップ!、と喜んでばかりもいられないね。
お腹空いてるのに、なんでさらに疲れるようなことしてるんだろ。
思いついたから、つい、ね。
でもこういう鍛錬は、もっと余裕がある時にしよう。
ってことで、石を捨てる。
ズゥン、と。
え? 石を捨てた音じゃないよ?
森が揺れた。
っていうのはちょっと大袈裟だけど、とにかく震動が伝わってきた。
重い物を落としたような。
しかも一回じゃない。断続的に、音と震動が響いてくる。
なんかマズイ。
危機感知に頼らなくても分かるよ。
木陰に隠れながら、近づいてくる大きな音の正体へと目を向ける。
ほどなくして、ソイツは現れた。
背丈は周りにある樹木とほとんど同じくらい、五メートルほどもある。
人型。緑色の皮膚に覆われた全身は、石よりも硬そうな筋肉の塊。
木をそのまま持ってきたような棍棒を片手で持っている。
単眼の巨人だ。
サイクロプスってやつだね。特殊部隊や大量破壊兵器じゃない方の。
とりあえずは一体だけか。
ミミズみたいに群れてたら、こうして観察するのも怖かったかもね。
でも人型で、一応は武器を持つ知能はあるんだよね。
もしかしたら、仲間を連れてきて集落を作るくらいの知恵もある?
そうなったら厄介だね。
まあ、そうなったらボクが拠点を移せばいいんだけど……と、足を止めたね。
巨人は、きょろきょろと周囲を見回す。
何かを探してる?
まあいいや。ああいう危ない奴には近づかないのが一番だよね。
静かに離れよう―――、
そうボクが足を動かした瞬間、巨人が棍棒を振り上げた。




