幕間 勇者の帰還
おひさしぶりです。
待っていてくださった読者の方々には、お礼を。
まずは前回までのおさらいも兼ねて、いつものように幕間です。
頭が痛い。ガンガンする。ぼんやりとして考えがまとまらない。
思考に靄がかかっている、ってやつだな。
あんまり頭の良くない俺だけど、それくらいの言い回しは知ってる。
べつに勉強だって嫌いじゃなかったからな。
学校だってそれなりに楽しんで……ああ、思い出してきた。
もう十年以上も前なのに、思い出すのが“それ”ってのは皮肉なもんだな。
まあ、あんな壮絶な死に方をしたんだから無理もないのか。
教室にタンクローリーが突っ込んでくるなんて、なかなか味わえない体験だ。
それからの新しい人生も壮絶だった。
いきなり両親を殺されたし。クソ豚みたいな野郎にケツ穴狙われたし。
血生臭い記憶ばっかりだ。
剣や魔法が飛び交って。手足が吹っ飛んだり。丸焦げにされかけたり。
勇者なんてロクなもんじゃない。
そりゃあ戦闘力は高い。俺だって無双状態で調子に乗ったことはある。
だけどなんだよ、『外来襲撃』って。
異世界からまったく未知の連中が攻めてくるとか、明らかに反則だろ。
これまでよくこの世界が無事だったと思う。
それだけ『勇者』ってシステムが役立ってもいたんだろうな。
外来襲撃が始まると同時に、俺の戦闘力もとんでもなく跳ね上がった。
『世界守之剣』と『世界守之鎧』。それが発動したってアナウンスもあったな。
単純に戦闘力だけ見れば三倍、総合的にはそれ以上だった気がする。
疲れもまったく感じなくなったからな。
それがなかったら、あの真っ黒い巨大龍には勝てなかっただろう。
我ながら、よくもあんな化け物じみた戦いをできたと思う。
聞いた話だと、あの巨大龍は隕石をブレスで撃ち落としたらしかった。
そんなブレスを、俺は剣で両断した。
思い出しても有り得ねえ。今更ながら、手が震えてくる。
おまけに、紙一重の勝利だった。
あの時、龍が隙を見せなければ―――ともかくも勝ったのは間違いない。
その後に治療を受けたのも覚えてる。
だけど、そこまでだな。ずっと眠ってたのか?
力が落ちてる感じがするから、『外来襲撃』は終わったみたいだが―――。
「……俺は、どれだけ眠ってた?」
豪華なベッドから身を起こして、薄暗い部屋を見回す。
部屋には面倒を見てくれていたらしい侍女が数名。それと、見知った顔が三つ。
まず苦笑しながら答えたのは委員長、ザイラス。
「まずは、おはようじゃないか? 外来襲撃が片付いて何ヶ月も経ってるよ」
余裕ぶった態度は相変わらずだ。でもしっかりと疑問も解消してくれる。
何ヶ月も経ってるってのは驚きだが、とりあえず心配は必要なさそうだな。
「もっと驚け、って言いたいところだな。こっちは大変だったんだぜ」
「そうだよ! 魔族は攻めてくるし、東も全部敵になっちゃうし、おまけに魔境で……ふふん、凄いことがあったんだよ? 聞きたい? 聞きたいよね?」
俵山、もといラファエドも落ち着いてる。すっかり騎士らしくなったな。
マリナはウゼえ。ってか、酒臭えな。飲んでるのか。
一応は聖職者なのに昼間っから……じゃなくて、夜なのか。部屋には薄明かりがついてるし、窓に目を向けると暗闇だ。
「ほらぁ、聞かせてくださいって言いなよぉ。すっごく喜ぶ話なんだからぁ」
「テメエからは聞かねえ。委員長、説明してくれ」
絡んでくるマリナを押し退ける。
こいつ、ホントに酒癖悪いな。これで聖女とか呼ばれてるんだから、やっぱり世の中ってのは理不尽だ。派手に吐いてた姿を信者にも見せてやりたくなる。
だけどまあ、治療術の腕は確かなんだよな。
ぶった切られた腕とかも治してくれたし……なのに、何ヶ月も寝てた?
俺自身も回復力には自信があったんだけどな。それもまた何かの事情があるのか。
「何処から話すかな……とりあえず、呪いに掛かってた自覚はあるかい?」
「呪い? それで目が覚めなかったってのか?」
「ああ。だけどもう解決した。呪いは解けて、術を施した本人も改心……って言っていいのかはともかく、無害になってる」
委員長は苦笑しながら話し始める。
外来襲撃がおおかた片付いて、直後に魔族が宣戦布告してきたのは、まあ予測できたことだ。帝国も警戒はしていた。
だが、俺が呪術で昏倒したままになるってのは完全に予想外だった。
魔族は好戦的な奴が多いって話もあったからな。
そういう搦め手には警戒が薄くなっても仕方ないんだろう。
おまけに、何百人も生贄にするような大掛かりな術式だったらしい。
それだけ念入りに呪われた、って考えると気持ち悪いな。
「宣戦布告は、新魔王になった大貫さんがしてきた。呪いの主謀者も彼女だ」
「……やっぱ本気だったんだな。たった一人を探すために、世界征服にまで乗り出すってのはとんでもねえな」
大貫藍。いまはアデーレだったか。
一度だけ会ったが、あの狂気じみた目には怖気を覚えた。
いや、狂気そのものだったのか。
たとえ世界を敵にしてでも前世からの想い人を探し出す、なんて言うとロマンティックにも聞こえるんだが、そんな甘いものじゃなかった。
身を以って味わわされたって訳だ。甘いのは俺の方だった。
会った時に斬り捨てておけば、こいつらに余計な苦労もさせなかったのに。
「ともあれ、帝国は東西から攻められて危ないところだった。詳しい戦いについては、ラファエドの方から聞いてくれ」
「話し出すとキリがねえぞ。何処の戦場もメチャクチャ大変だったからな」
西からは魔族。東からは教会勢力を中心とした国家連合。
大陸のほとんどを敵に回した状況となれば、強兵を誇る帝国でも苦しい。
しかも最大戦力の勇者様は眠ってた、って正に滅亡一直線だな。
肝心な時に俺はなにやってんだか。
この国にはそれなりに恩があるってのに。情けねえ。
マリナが酔っ払いになってるのも、そういうストレスがあったからだろう。
「……こうして落ち着いてるところを見ると、形勢は変わったんだよな?」
「そうよ~、公国が堕ちて形勢逆転~。すごい援軍が現れたの~。んっふっふ、一人で国を落とせちゃう援軍だよ。毛玉で、黒甲冑で、カッコ可愛いの~」
この酔っ払いをなんとかしろ。
ってか、毛玉ってなんだよ? 援軍の黒甲冑? やっぱ転生者か?
公国って言うと、ヴィクティリーア嬢ちゃん絡みなのか?
あの金髪縦ロールは、色んな意味で凄かったからな。
「魔境の話は覚えてるかな? バロールって人を転生者じゃないかって疑ったことがあっただろ?」
「ああ。遠いからって後回しになってたな。当たりだったのか?」
「大当たりだったよ。かなり特殊なケースだったけど」
マリナを押さえながら、委員長がまた話を続ける。
そこからは驚かされてばかりだった。
探していた“片桐五十鈴”が見つかって、
多くの魔獣を従える魔境の主を名乗っていて、
あっという間に公国軍を蹴散らし、そのまま公国を制圧して、
おまけに正体は魔獣だった? 毛玉で使い魔候補?
しかも魔王を一目で篭絡した?
「…………訳が分かんねえ」
「まあね。自分も随分と混乱させられたよ」
魔法があって、竜が大群で押し寄せてくる世界だ。並大抵のことじゃ驚かないと思っていた。だけどまだまだ、俺の認識は甘かったらしい。
まあ細かい状況はどうあれ、悪くないってのは委員長の顔から窺える。
「それで……星神教の奴らはどうしてる?」
「慌ててるんじゃない? シュリオン聖教国はまだ健在だけどね」
ほっと安堵する。無事なら、それでいい。
そうでないと、この手で叩き潰してやることが出来なくなるから。
帝国に協力すると決めた時も、それだけは条件として譲らなかった。
聖教国は潰す。この俺の手で、直接に。
両親を殺された恨み、なんてのは拘るほどのものじゃない。
でも報いは受けさせなきゃいけねえ。
何も知らない人間を利用して、道具のように扱って、下卑た笑いを浮かべる――、
ああいう連中は、許しちゃいけねえんだ。
「とりあえず体の調子を確かめたい。ラファエド、付き合ってくれ」
「おいおい、いきなりかよ。いま夜中なんだぜ?」
「そうよぉ~、サガラくんは熱血すぎぃ。ずっと眠ってたんだから、まずは祝勝会でしょ? あ、祝賀会? どっちでもいいかぁ、お腹空いてない? お酒はいっぱいあるし、オツマミもあるよ。ほら、片桐くんところのクッキーだよ~」
「なんでツマミにクッキー……まあ、言われてみれば腹も減ってるな」
酒臭い顔を押し返しながら、ともかくもベッドから立ち上がる。
身体を伸ばしたり、捻ったりしてみるが、どうにも鈍ってやがるみたいだ。
やっぱ先に食事か? ずっと眠ってたなら風呂の方が―――、
なんて思ってた時だ。まったく予想もしていなかった声が頭に響いた。
《異界門の封印が破られました。外来襲撃が再開されます》
…………ちょっと待て。
システムの声だよな? ってことは、間違いなく事実なんだが―――。
いったい、何が起こってやがる!?
犯人は毛玉だろうって?
決めつけはいけませんよー(棒
ところで、今回の更新は20回ほどを予定しております。
完結まで連日更新です。




