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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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19 魔王襲来②


 空に浮かんだまま、大貫さんは自分の頭に爪を立てる。

 ぐしゃぐしゃと、綺麗な銀髪を掻き乱す。

 抉れた地面と、その場に広がった鮮血を歯軋りしながら見つめていた。


 そこにはもう人型の欠片もない。

 すべて大貫さんの魔眼が潰してしまったから。


「ああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」


 絶叫。その顔は憤怒に歪んでいる。

 そして、くるりと振り向いた。

 血走った目が見据えるのは、距離を置いて空中にいたザイラスくんだ。


「よくも、よくもよくもぉぉぉ! 私に五十鈴くんを潰させたわねぇっ!! いくら偽者だからってぇぇぇぇ! 許されると思うなぁぁぁぁぁぁああああーーー!!


 再び、魔眼を発動。

 『重圧の魔眼』だ。重力崩壊を起こすほどではなくても、かなりの殺傷力がある。

 しかも随分と使い慣れているのか、一点集中された破壊力は凄まじい。

 そもそも魔眼の効果は、他の魔術と比べて抗い難くて―――、


 けれど、ザイラスくんは事前に備えをしていた。

 大貫さんが魔眼使いだと、情報も掴んでいる。

 魔眼に捉えられる直前で、ザイラスくんはひとつの術式を発動させた。


 単純な術式。だからこそ発動は早い。

 辺り一帯に、黒煙が張られる。


 魔眼には強力なものが多く、慣れれば瞬時に効果を得られる。

 だけど弱点だってある。

 そのひとつが、視線の通らない場所には効果を発揮できないことだ。

 だから、ザイラスくんは自分の姿を隠した。

 大貫さんの魔眼は、黒煙の一部を歪めただけに留まる。


「っ!? 隠れてんじゃないわよぉぉぉぉぉっ!!」


 また吠えた大貫さんは、腕を一振り。同時に魔術も使っている。

 衝撃波が放たれ、風の刃が舞って、黒煙を散らしていく。


 ザイラスくんも身を隠しながら、雷撃の術式で迎え撃っていた。

 けれどそれも散らされる。

 伊達に魔王を名乗っていない。その戦闘力は侮れない。

 このままだとザイラスくんが不利―――って、のんびり分析している場合でもなさそうだ。


 うん。ボクは無事です。

 ぐちゃぐちゃに潰されたのは、ボクの一部だけ。

 つまりは小毛玉を『変異』させていた。

 プランBは、分身作戦ってことだね。


 潰されて痛かったのは確かだけど、後に引きずるほどのダメージじゃない。

 ちなみに、小毛玉の『変異』する瞬間は、ザイラスくんたちには見せていない。

 分身を作る魔術っていうことで押し通した。


 予定では、その分身で安心させて、そのまま話を進めるつもりだった。

 だけど、あっさりと看破された。

 まさか、としか言いようがない。あるいは見事と誉めるべき?


 本物のボクを知っていれば、魔力反応なんかで多少の違和感は覚えられる。

 だけど外見は、本物とまったく変わらなかったはずだ。

 なのに大貫さんは一目で偽者だと見破った。

 理屈は分からないけど、凄いとしか言いようがない。


 あれ? でもこれって、もしかして……?

 ボク本体が出て行っても、偽者扱いされちゃうんじゃ?

 いまは毛玉形態で黒甲冑に収まってるけど、『変異』したらまた怒りを買っちゃう気がする。


 どうしよう? って、悩んでいる暇もないね。

 ザイラスくんは黒煙を張りつつ、辛うじて魔法戦で持ち堪えている。

 だけど接近戦に持ち込まれたら、一瞬で殺されかねない。


 小毛玉とはいえ、けっこう頑丈なはずなのに首を圧し折られたからね。

 素手でも、接近戦でも、大貫さんは強い。

 それに立ち向かうのかぁ……とりあえず動けなくするつもりだけど、ハードル高くない?

 いっそ『死獄の魔眼』で一網打尽にした方が―――。


「ね、ねえ、片桐くん? そろそろ援護しないと……」


 あ、はい。そうですね。

 マリナさんにも言われたし、覚悟を決めるとしよう。


 二人には、帝国でロル子がお世話になっていた。これからもそうだろう。

 見捨てるのは、さすがに楽しくない。

 ってことで、黒甲冑浮上。


「っ―――新手!? どっちにしろ敵ね!」


 大貫さんはすぐに気づいて振り返る。

 だけど不意打ちには充分だ。距離はあるけど、魔眼の射程には入っている。

 まずは、『静止の魔眼』発動。

 相手の時間だけを止め―――られない!?


 魔眼の撃ち損ない、なんてこともない。

 だけど大貫さんの周囲に、透明な壁が何枚も浮かび上がった。

 魔術的な障壁だ。予め、術式が起動してあったみたいだ。


 感じられる魔力量からして、相当に強力な防御術式なのが分かる。

 しかもボクの『障壁』スキルみたいに単純な技じゃない。

 時間停止対策とでも言うような、複雑な術式なのも見て取れた。


 そういえば、ボクが戦った相手でここまで複雑な技能を使ったのは初めてだ。

 魔獣とか竜とか、力押しで来る相手ばかりだったから。

 人間とも初対戦って訳じゃない。

 でも複雑な技術を絡めた戦い方というのは、ボクの知らない分野だ。


 しかも相手は、魔王なんていう豪華な肩書きまで持っている。

 これは思った以上に真剣な戦いになるかも。

 捕まえる、っていう選択肢を捨てるべきかも知れない。


 ともかくも、いまの段階だと『静止の魔眼』は通用しそうにない。

 だけど、完全に無駄っていう訳でもなかった。


「魔眼……それも、時間系!? ナメるんじゃないわよ!」


 吠えながらも、大貫さんは顔を歪める。

 防御に意識を向けさせて、動きを止めることには成功した。

 短い時間だけど、小毛玉を展開させるには充分。


 そう、ボクの武器はなにも魔眼ばかりじゃない。

 囲んで毛針を撃ち込む。『徹甲針』と『抗魔針』、その他諸々だ。

 四方八方から迫る毛針に、大貫さんも危機感を覚えたみたいだった。


 忌々しげに舌打ちをする。障壁を維持しながら、空中を高速で駆ける。

 魔術で光弾をいくつも放ちながら、毛針を迎撃していく。

 何本かは、その細い身体に刺さった。

 けれど威力が削がれたものが多い。決定打には程遠い。


 大貫さんが包囲を抜ける―――その直前に、ボクは甲冑の両肩部を開いた。

 カシャリ、と小気味よい音が響く。

 『万魔撃・模式』、発動。


 避けられるタイミングじゃない。障壁だって貫けるはず。

 ある程度のダメージを与えてから拘束する―――それが、ボクの狙いだった。


 でもやっぱり甘かったみたいだ。

 大貫さんの赤々とした瞳が狂暴な光を放つ。

 ボクが放った魔力ビームが、ぐにゃりと捻じ曲げられた。

 『重圧の魔眼』で、空間自体が歪められた。

 その効果は、魔術や、魔力そのものにも及ぶ。だから受け流される。


 驚いている暇はない。ボクはまた小毛玉で追撃を掛けようとした。

 だけど同時に、大貫さんも動いている。

 というか、増えた。え? 

 うわ、分身か。一瞬、何が起こったか分からなかったよ。


 ボクの小毛玉分身とは違って、魔術で幻影を作っただけみたいだ。

 つまりは実体が無い。

 しっかりと観察して、魔力や生命反応を探れば見分けはつく。


 それにボクの知覚は、『明鏡止水』のおかげでかなり加速している。

 たとえ銃弾だって見て避けられるくらいだ。

 ちょっと驚かされたはした。でも、それだけだ。

 すぐに本体の位置を―――って、背後!?


 振り向く。黒甲冑の手でハルバードを振るう。

 でも残念ながら、ボクのこの戦士風の姿は見掛け倒しだ。

 力任せに武器は振るえるけど、技なんてまったく覚えていない。


 そして大貫さんは、もう手の届く距離にいた。


「私と、五十鈴くんのぉぉぉぉぉ、邪魔をするなぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ハルバードが空を切って、大貫さんの叫びが響いた。

 拳が叩き込まれる。

 メキャリ、と嫌な音を立てて黒甲冑がひしゃげた。


 まるでボクの弱点を見抜いているんじゃないか、って思うほどだ。

 大貫さんの拳は、黒甲冑の胸部にめり込んでいた。

 ボクは咄嗟に目蓋を閉じる。一瞬でも遅れたら、目を潰されていた。


 伝わってきた衝撃に、意識が飛びそうになる。

 体の方は実際に、黒甲冑と一緒に殴り飛ばされていた。

 そして弾ける。

 鎧の各部位が、魔力による制御を僅かな時間だけど失ってしまったから。


「え……?」


 唖然とした声は、大貫さんと、少し離れたところにいるザイラスくんのも混じっていた。


 鎧が弾けて、バラバラになった。それはつまり―――、

 中身である、ボクの毛玉体が曝け出された。



明日明後日も更新します。

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