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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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13 公国制圧②


 『衝破の魔眼』発動。

 城の一角が派手に吹き飛ぶ。

 国境の公国軍を壊滅させた後、ボクたちはそのまま公都へと向かった。

 帝国軍とも会談したり、あれやこれやと後処理も行ったけど、まあ大したことじゃない。


 それよりも、さっさと戦争を終わらせる方が大切だ。

 ってことで、また首狩りです。

 王様の首寄こせー!、って勢いで首都のお城を襲撃します。


『それじゃ、突入』


「うぅ……これもまた、貴方を召喚した者としての責務ですわね。いいですわ。元より戦場に出ると、わたくしも覚悟を決めておりましたもの」


 一号さんに抱えられて、ロル子はぶつぶつと呟いていた。

 心なしか顔色も悪い。金髪縦ロールもいつもより元気がないように見える。


 魔境からずっと飛んできて、ちょっと無理のある強行軍だったかな。

 だけどもうすぐ終わる。

 国を取り戻せば、安心して休めもするでしょ。


 以前、巨大亀に襲われた街は、それなりに復興している様子だった。

 とりあえず瓦礫の片付けは終わって、建物の修繕は進んでいるみたいだ。

 だけど、建物だけとも言える。

 城下町に見える人影は、女性や老人、あるいは子供ばかりだ。


 誰も彼も項垂れている。血色が悪いのも一目で分かる。

 港町なのに、漁に出ている船もほとんどいない。

 戦争のために取り上げられたものが多すぎるんだろう。

 たとえ帝国を追い払ったとしても、その後は国として成り立つかどうかも怪しい。


 結局、東側諸国の支配下に組み込まれることになったはずだ。

 下手なプライドに拘って、大勢を苦しめただけ。

 素人のボクでも分かるのに、どうしてこんな選択をしたんだか。


 まあ、どうでもいいか。

 それよりも―――。


「お久しぶりですわ、陛下」


 ボクたちが突入したのは、城の中央奥にある一室だ。

 そこで会議が行われているのは、茶毛玉で偵察して把握していた。


 割れた天井から降り立って、ロル子が礼儀正しく挨拶をする。

 黒甲冑のボクと一号さんは、その背後に立って事態を見守る形だ。


「な、何者だ!?」


「王の御前であると知っての狼藉か!」


 部屋には天井の瓦礫が散乱して、中央にあった机が潰されている。

 下手したら何人か潰れていたかも。

 それでも構わなかったかなあ、とも思うけど。


 ここからはロル子の判断に任せる予定だ。

 部屋の一番奥には、身なりのいい中年の男が立っている。

 やや太り気味だけど、背は高くて全身の筋肉もついている。顔立ちもそこそこ威厳がある。王様って言われれば納得できなくもない。


 国王オスヴァルトス。

 正確には、もっと長ったらしい名前らしい。国王じゃなく公王なのかな?

 どっちにしても、今回の戦争を起こした元凶の一人だ。


「……ヴィクティリーア、か?」


 オスヴァルトスが震える声で問い掛ける。

 対してロル子は、目礼して一歩進み出た。落ち着いた仕草だ。

 むしろ周囲の貴族たちの方が、ヴィクティリーアと聞いて慌てていた。


「なんと……帝国に人質として送ったあの娘か!?」


「“半身欠け”がどうしてこの場にいる!?」


「まさか、もう帝国軍が迫ってきているのか……?」


 “半身”というのは、使い魔のことらしい。

 公国の貴族は、使い魔を自分の半身と言うほど大事にする。

 この場にいる者たちも、それぞれの使い魔をいまも連れていた。


 部屋の端に犬や猫や、蝙蝠や蛇などが控えていた。

 まあ大事にすると言っても、古くさい習慣によるもので、使い魔の格によって見栄を張る意味が大きいらしい。

 召喚した責任を感じて魔境まで訪れたロル子とは、随分と意識が違う。


「どうやら敗報は、すでに届いているようですわね」


 貴族たちを見回しながら、ロル子は悠然とした笑みを浮かべる。

 こういうところは、本当に子供っぽくないね。

 もちろん、誉め言葉として。


「それにしても人質とは……わたくしは留学のつもりでしたのよ?」


 ロル子が皮肉げに言い返す。

 建て前としては、確かに留学ということになっていた。

 うっかり口を滑らせた貴族は、息を呑んで唇を引き結ぶ。

 うん。そのままずっと黙っていればいいと思う。


「まあ、どちらでも構いませんわ。わたくしが公国の貴族であるのは変わらぬ事実ですもの。ですから、いまも公国のために働く責務がありますの」


「……公国のために? 何をするために帰ってきたというのだ?」


 問い返したのはオスヴァルトスだ。

 その額には冷や汗が滲んでいる。もう答えを分かっているのかも知れない。


「陛下に、降伏を勧めに参りました」


 冷然と、ロル子は告げた。真っ直ぐにオスヴァルトスを見据える。

 背丈は黒甲冑の胸にも届かないのに、とても堂々としている。


 オスヴァルトスの方が気圧されたみたいに身を引いた。

 周囲も押し黙ったけれど、ややあって一人の貴族が声を上げた。


「こ、降伏などありえん!」


 声色だけで冷静でないのが分かる。

 だけど、それに乗っかる連中は多かった。


「そうだ! たかが一度、失敗しただけではないか!」


「帝国とて被害は受けたはずだ!」


「我らはまだ戦える! 兵を集めなおせば―――」


 次々と声が上がる。どれもこれも感情的なものばかりだ。

 それらを、ロル子は冷ややかに切り捨てた。


「馬鹿馬鹿しい」


 自身の金髪をさらりと指先で払うと、周囲へ鋭い眼差しを巡らせた。


「愚かすぎて聞くに堪えませんわ。まだ戦える? でしたら、いますぐ御自分で戦場へ向かえばよろしいのです。兵を集めなおす? 何処に兵が残っていると仰いますの? 城下に目を向ければ、誰も彼もが疲弊しきっているのがすぐに分かりますわ」


 子供の言葉に、大人の貴族たちがぐうの音も出ない。

 全員、頭ではもう勝ち目がないのは分かっているんだろう。


 だけど降伏したところで、彼らは命の保障すらない。

 感情としても帝国憎しで、どうにもならないところまで追い込まれている。

 だから、暴挙にも出ちゃうよね。


「だ、黙れ! 子供になにが分かる!」


 一人の貴族が動いた。

 手を振って、その指先に魔力の輝きを灯す。


 その時点で、ボクが対処すれば毛針の百本くらいは撃ち込めた。

 だけど手出しはしない。

 今回は最低限の護衛のみに留めると、ロル子と約束していた。


「“半身欠け”が偉そうに語るな! こうなったら貴様を人質に―――」


 蛇型の使い魔が、ロル子に襲い掛かる。

 なかなかに素早い。寝惚けたアルラウネくらいだったら掴まえられそうだ。

 だけどその牙は、ロル子の障壁に弾かれた。


「先程から、半身半身と喧しいですわね」


 障壁を張ると同時に、ロル子は別の術式も組んでいる。

 細い指先から雷撃が放たれて、蛇型使い魔の主を貫いた。


「わたくしに言わせれば、使い魔に頼ってようやく一人前の方が恥ずかしいことですわ。それこそ一人立ちできない子供ということですもの」


 雷撃に貫かれた貴族は、そのまま倒れて全身を痙攣させる。

 放っておいたら死にそうだ。

 だけど周りの貴族たちは、呆気に取られて助けようともしない。

 ロル子も、もうそちらを気に留めていなかった。


「大人だと言うなら、実力を示したら如何ですの? まとめてお相手いたしますわ」


 挑発というより、宣戦布告だ。

 貴族連中からすれば訳の分からない状況だろう。


 彼らの頭の中では、帝国は“外来襲撃”で弱っているはずだった。

 だから今回の戦争は、確実に勝てると思えていた。

 けれど蓋を開けてみれば、あっさりと敗退。軍は壊滅。立てなおす余裕もない。

 焦ったところに、王城への乱入者だ。

 その乱入者は、人質として切り捨てたはずの自国貴族ときている。


 状況を把握するだけでも精一杯なんだろうね。

 だから、目の前の単純な事実に意識が向く。

 子供から馬鹿にされた、という事実に。


「ふ、ふざけるな! 子供になにが出来るというのだ!」


「帝国の後ろ盾があるからと偉そうに!」


「もう我慢ならん! 魔術師としての格の違いを思い知らせて―――」


 一人の貴族が怒りを爆発させると、次々と他の者も続いた。

 光弾や炎弾、氷の槍、風の刃なんかがまとめてロル子に襲い掛かる。


 多少は魔術師として才能があっても、子供なんてひとたまりもない。

 そんな集中攻撃だ。

 でも、ロル子は涼しい顔をしていた。


「単純な術式ばかり。芸がありませんわね」


 対魔法障壁が、すべての攻撃を受け止めていた。

 伊達に『英傑絶佳』の才能を持っていない。

 しかもロル子は、帝国に送られてからも腐らずに研鑽を続けていたそうだ。

 さらに、特製の戦装束にはいくつも魔石が仕込んである。

 その魔石を介して、ボクが溜め込んだ魔力を存分に使えるようにもなっていた。


 もちろん、大人の熟練魔術師に劣る部分もあるだろう。

 だけど攻撃が来ると分かっていて、防御に専念すれば、身を守るのは簡単だった。


「わたくしは帝国で、騎士の方々からも戦い方を学びましたわ」


 障壁を維持しながら、ロル子は杖を構えた。

 軽くて硬いだけの、ただの木の杖だ。

 貴族連中の攻撃が途切れると、ロル子は勢いよく床を蹴った。


 一気に相手の懐へ飛び込む。

 まとめて撃ち込まれた魔法が、ちょうど目眩ましになったというのもあった。

 なにより、魔術師同士での接近戦を、相手はまったく考えていなかった。


 ロル子は大きく杖を振り下ろして、まず一人目の頭をカチ割る。

 続いて、二人、三人と。瞬く間に戦闘不能にしていく。

 そこからはもう一方的だった。

 障壁を張って身を守ろうとする貴族もいたけれど、あっさりと打ち砕かれる。

 咄嗟に杖を掴み止めようとした相手は、その腕と顎を粉砕された。


 ロル子が振るう杖の先には、抗魔術式が一点集中で発動されていた。

 まさに魔術師殺しと言えるような戦い方だ。


 公国貴族は魔術に傾倒しすぎていて、剣を扱える者は少ない。

 この場でも、ロル子に対抗できる者はいなかった。

 そうしてほとんどの者が、頭を割られ、悶絶し、倒れ伏して―――、


「ま、待て、ヴィクティリーアよ! 話し合おうではないか」


 残ったのは、国王オスヴァルトスのみとなった。


「話し合う? それは、帝国への降伏を認めると受け取ってよろしいですわね?」


「う、うむ、そうだな。そう受け取られても仕方ないと思うが……」


 オスヴァルトスはじりじりと後ずさりする。

 ちらり、とボクと一号さんの方も窺った。

 そして、オスヴァルトスの足下で一匹の使い魔が動いた。

 大きなトカゲに蝙蝠みたいな羽根の生えた魔獣だ。


「儂はまだ死ぬわけにはいかぬ。だから……喰らうがよい!」


 トカゲ魔獣の眼が光る。魔眼だ。

 赤黒く禍々しい光が、部屋全体を包み込むように広がった。


「くははははっ、油断したな! この『石化の魔眼』を喰らっては一溜まりも……」


 まあ単純に耐えることも出来ただろうけどね。

 でも石化の発動直前に、こっちの『静止の魔眼』を使わせてもらった。

 ボクたち以外の時間を止めて、位置を入れ替えた。

 つまり―――、


「……哀れですわね」


「なっ……何故、無事でいられる!? それに、儂の使い魔が目の前に……っ!」


 オスヴァルトスが蒼褪めた顔をする。

 手足の端、体のあちこちが石化していた。

 自分の使い魔の魔眼だからって、その効果はもう打ち消せない。

 ボクの魔眼もそうだった。

 『死毒の魔眼』とか、取り扱い超注意だったからよく覚えてる。


 全身が石化するほどじゃないけど、オスヴァルトスはもう満足に動けない。

 治療術は有効だろうけど、そんな暇は与えないよ。


「助かりましたわ。わたくし一人では危ないところでした」


『構わない。一応、使い魔候補だし。それよりも、この人たちはどうする?』


「そうですわね……やはり、帝国へ引き渡しますわ」


 杖の先をオスヴァルトスへ向ける。

 軽く肩をすくめたロル子は、その額をそっと突いた。

 オスヴァルトスは小さな悲鳴を上げて倒れ込む。

 石化した腕の一本が割れたけれど、命には別状なさそうだった。


「この方が、仮にも王だったと思うと悲しくなりますわね」


 ひとつ溜め息を吐くと、ロル子は背筋を伸ばして室内を見渡す。

 もう逆らおうとする者は一人もいなかった。



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