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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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09 金髪縦ロールはくじけない


 港街からボクのいる本拠までは、一本道で繋がっている。

 ボクだけならいつでも空を飛べるから、道なんて必要なかった。

 だけどいつか使うかも知れないし、ちょうどいい機会なので整備しておいた。

 その道を馬車が進んでくる。帝国からの使節団だ。


「シェリー殿と同じ馬車に乗れるだけで、私の心は喜びに打ち震え……」


「そういえば、本拠の方へお招きしたのはルイトボルトさんだけでしたわね」


「え、ええ……あの時に同行した者たちは、いまは帝都におりますし」


 さらりと褐色騎士さんは無視されている。ルイトボルトさんから哀れみの眼差しが注がれた。


 しかしこの人、まったく諦める気配がない。

 兄として、どう対処しよう?

 妹が欲しかったら俺を倒してみろ!、とか言うべきなのかな。

 他への対処を考えるのに手一杯で、彼のことは頭から抜け落ちてたよ。

 まあ、なるようになるか。


 勇者組二人は、別の馬車に乗っている。

 未だにこの二人の目的は見えない。

 ボクが転生者かどうか確かめるなら、他の人に頼んでもいいように思える。

 身内だけにしたら重要な秘密でも漏らさないかと思ったけど、当たり障りのない会話しかしていなかった。


 あとは縦ロール幼女か。

 ルイトボルトさんが臨時の保護者なので、十三号の馬車に同乗している。

 だけどあまり話に入ってくる様子もなくて、しきりに外を窺っていた。


「森ばかりでしょう? 何か気になるものでもございましたか?」


「あ、いえ……魔境と聞いていたもので、失礼ですが、もっと魔獣が多いのかと」


「この辺りは兄が目を光らせておりますから安全です。ですが、他の地域は皆様が想像されるような状態で、正しく魔境と言っても過言ではありません」


 だから迂闊に出歩くな、と十三号が釘を刺す。

 脅す必要はないと思うけど、下手な行動をされて騒ぎになっても困るし。


「ベアルーダ種と言いましたか。確かに珍しい魔獣ではあるようですが、この魔境で探すのは困難でしょう」


「ですが、バロール様の城で見たと、ルイトボルト様が……」


 十三号は黙って首を振る。

 そうそう。返答に困った時は曖昧に誤魔化す作戦でいこう。

 上手く勘違いしてくれる時もあるし。


「シェリー様のお気遣いはありがたく存じます。ですが、わたくしは命を賭してでもあの子を探し出さねばならないのです」


「何故、そこまでなさるのですか?」


 十三号の問いに、今度は縦ロール幼女の方が微笑で答えをはぐらかす。

 むぅ。やっぱりこの子、随分と大人びている。

 命を賭してとか、そこらの子供が口にする言葉じゃないしねえ。

 そう言った時の目も、完全に本気のそれだったし。


 ほんと、どうしよう。

 今更使い魔になるつもりはないけど、下手な誤魔化しをするのも楽しくなさそうだ。







 屋敷のエントランスホールで使節団を出迎える。

 帝国貴族の作法も急いで勉強したので、それなりに形にはなっていたはずだ。

 まあ、相変わらず言葉は魔力文字で伝えるしかないけど。


『帝国からのお客人を歓迎する。私がこの島の主、バロールだ』


 その魔力文字や、黒甲冑姿の所為でもないだろう。

 勇者組の二人が、ボクを見て明らかに顔色を変えていた。

 警戒を深めたような表情だ。

 良い印象、って風ではなかった。


 もしかしたら、ボクの戦闘力やカルマを感じ取ったのかも知れない。

 神官とかになると、そういうのに敏感な可能性はあるのかな。

 そこらへんの知識も仕入れておけばよかった。

 だけど一番はっきりと表情を変えたのは、縦ロール幼女だった。


『どうかしたか?』


「……貴方は……あ、いえ……」


 瞬きを繰り返して、随分と戸惑っている。

 その理由は、なんとなく察せられた。


「バロール様、是非とも二人きりで話し合いたいことがあります」


『分かった。大まかな事情はシェリーから聞いている』


 ルイトボルトさんたちが目を見張っている。

 子供との話を優先するなんて、ちょっと有り得ないことなんだろうね。


 でも構わない。

 こっちを先に決着させた方が、後の事柄もすんなりと片付きそうだし。

 ボクがこの世界に来た時からの因縁でもある。

 そろそろ真剣に向き合ってみよう。







 応接室で、ロル子と向き合う。

 うん。いつまでも金髪縦ロール幼女って呼ぶのも面倒なので略してみた。

 酷い呼び名だとか、本名どこいったとか、そういうツッコミは受け付けない。


 まあ、さすがに本人に伝えるつもりはない。

 頭の中で呼ぶだけなら構わないでしょ。


『話というのは、使い魔についてか?』


 ソファに腰掛けて、いきなり本題に入る。

 ロル子の方も、すぐに話を切り出したい様子だった。


「はい……少々、突拍子もないことを申し上げますが……」


『俺から、使い魔の気配を感じるか?』


「っ……!」


 息を呑んだ表情は、肯定したのと同じだ。

 やっぱり『使い魔候補』っていうだけあって、繋がりがあるみたいだね。

 ロル子がこの島に着いてから、魔力の糸みたいなものをボクも感じていた。


「やはり、そうなのですか? バロール様は、実は魔獣で、いまは人の姿になっている……? いえ、その甲冑は姿を隠すもので、魔獣のまま……?」


『落ち着いて考えてみろ。そんなことが有り得ると思うのか?』


「わたくしも非常識な考えだとは思いますわ。ですが、魔術刻印の反応が……」


『魔術的なものだ。誤魔化しようはある』


 ボクが当然のように告げると、ロル子ははっと目を見開く。

 よし。思いつきだったけど通用した。

 魔獣が器用に言葉を操るっていうよりも、こっちの方が受け入れ易いでしょ。

 ってことで、しばらくはこの方向で押し通してみよう。


『しかし安心して構わない。その使い魔は、こちらの庇護下にある』


「では、やはりこの島に……会わせていただくことは叶うのでしょうか?」


『会って、どうするつもりだ?』


 強引に、正式な使い魔とするつもりでは―――、

 その点を、ボクは最も危惧している。


 主人と使い魔がどういった関係になるのか、詳しくは知らない。

 もしかしたらだけど、絶対服従なんてことになったら困る。

 まあ、ロル子なら酷い扱いはしてこないだろう。

 そうなった場合にも抜け出せる自信はある。


 むしろ、ロル子の方が頭を抱えるんじゃないかな?

 だってほら、ボクって色々とやらかしちゃってるし。

 帝国軍を蹴散らしたり、公国の王子を泣かせたり、死獄結界を張ったり―――、

 どれも真っ当な事情があってのことだけどね。


 それでも子供が抱え込むには難しい問題もあるんじゃないかなあ、と。

 だけど、どうやらボクの杞憂だったみたいだ。


「どうするかは、あの子次第ですわ」


 透きとおった声で、ロル子はきっぱりと宣言した。

 話をしている内に戸惑いも過ぎたらしい。

 ボクを見つめる瞳には、大人びた鋭い輝きが戻っていた。


「わたくしを主人と認めてくれれば嬉しいですけど、それもあの子の意思次第です。行方不明にしてしまうような、情けない主人ですから……」


 それに、とロル子は目を細める。

 くるくると指先で髪を弄るのは、気分が沈んだ時の癖らしい。

 微笑んではいたけれど、どことなく儚げな表情だった。


「魔獣についても知識不足でしたわ。この城砦には、人の街のように魔獣が暮らしていて……あの子にとっても安全な場所なのでしょう。驚いたのは確かですけれど、保護していただいたバロール様には、心から感謝しております」


 綺麗な髪を揺らして、静かに頭を下げる。

 ボクが想像していたよりも、ずっと真剣に心配してくれていたと伝わってきた。


 ……こういうの、苦手なんだけどなあ。


「これでわたくしも、心置きなく戦場へ向かえますわ」


 今度はボクが驚かされる番だった。

 戦場って、どういうこと?

 儚い微笑どころか、悲壮感たっぷりの表情に見えてきたんですが?


『戦場、とは?』


「帝国の状況はご存知でしょう? 各国が次々と領土を奪おうとして……その中にはわたくしの祖国である、リュンフリート公国もあるのです」


 だから公国のために戦う、って感じじゃないね。

 むしろ逆か。いまは帝国に居るワケだし。


「これまで公国は、帝国から様々な恩恵を受けて参りました。その恩を忘れ、相手が弱ったからと剣を向けるなど許されません。不義は正さねばならないのです」


『だからといって、戦場に立つ必要はないのでは?』


「いいえ、貴族とは先頭に立って剣を振るう者です。わたくしには、その誇りがあるのですわ」


 ……なんか、本当に凄いね。

 子供なのに覚悟している。その意志が凄い。

 どれだけ不利な戦場に立たされても、彼女なら一歩も退かないと思える。


「ですので、あらためてお願い致しします。あの子に会わせてくださいませ。これから共に歩むにせよ、別れるにせよ、直接に意思を確かめたいのです。それが、ひとつの魂を召喚した者として最低限の務めですから」


 ああもう。まったく。本当に真っ直ぐな子だ。

 良い家に生まれたんだから、もっといい加減な生き方だって出来るはずなのに。

 ボクのことだって忘れてくれても良かったんだよ。

 召喚されたのだって、なんとも思っていないんだし。


 だけど、まあ―――こういうのも嫌いじゃない。


『分かった。会うよ』


 魔力文字で告げて―――パカリ、と。

 黒甲冑を開くと、ボクはその姿を晒した。


「は……?」


 ああ。やっぱり驚いてる。


『ひさしぶり』


 毛先を丸めて振ってみる。愛想よく、気さくな感じで。

 ロル子はぱくぱくと口を上下させて、面白い顔を見せてくれた。



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