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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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21 助ける義理はないけれど


 エルフと獣人族が住む島。

 魔境からは西北の位置。海を挟んでいるけれど、大陸ほどは離れていない。

 少々の無理をすれば、小舟でも渡れるくらいの距離だ。


 上空から見ると楕円形の島だと分かる。

 外周のほとんどが切り立った崖に覆われていて、東側に小さな港がある。

 内側は鬱蒼とした森だ。空からだと人の姿を探すのも難しい。

 高性能茶毛玉を潜入させようとしても、すぐに見つかって撃ち落とされる。


 海と崖に守られているだけじゃない。

 どうやら魔術による監視網もあるらしい。

 面積としては小国程度でしかない孤島だ。

 だけど天然の城砦と呼ぶのに相応しく、魔族や帝国による侵攻を追い返したこともあるそうだ。


 それでも以前、ここから攫われたエルフっ子もいる。

 銀子だ。

 ボクと出会って、冒険者に拾われて、いまは故郷に帰ってるはずだけど―――。


 それを確認したい気持ちはあった。

 とはいえ、気軽に訪れられる場所でもない。

 メイドさんを派遣すれば接触くらいは出来たかも知れないけど、そこまでするほどのことでもない。


 ともかくも、ボクはそのエルフ島に向かっていた。

 竜軍団の一部が向かっていると聞いたから。

 その数は、およそ数千。

 獣人とエルフの戦力は詳しく知らないけど、少なくとも苦戦はすると思う。

 空飛ぶ竜相手だと、地形の有利もほとんど意味がないから。


 だからボクが助ける!、なんて理由じゃないよ。

 そういう正義の味方っぽいのは、勇者にでも任せておけばいい。

 もっともサガラくんも嫌がりそうだけどね。

 だけど面倒くさがりながらも、なんだかんだで助けに向かいそう。

 そこはボクと違う点だ。


 ボクはただ、竜軍団を片付けておきたいだけ。

 経験値としても美味しいし。

 あんなのが近くに住み着くのは気分が良くないし。


 大陸でもまだ暴れている竜の数は多いから、少し数を減らしても問題ない。

 そのついでに銀子の様子を見てもいいかなあ、と。

 そんなことを考えながら海を渡ってきた。

 もしも竜の群れが撃退されるなら、ボクは手出しせずに帰るつもりだった。

 遠くからエルフや獣人たちを応援して。

 余計な戦いに関わらずにいられるなら、ボクだってその方がいい。


 だけど、そうもいかないみたいだ。

 島の北側、森の広い範囲が炎に包まれている。

 空には千を越える竜が舞って、我が物顔で咆哮を轟かせている。

 その中心には、輝くように赤い大型の竜が悠然と浮かんでいた。







 許可無く島へ近づく者に対して、エルフたちは苛烈な攻撃を浴びせる。

 まずは海上にいる相手に、遠距離から魔術攻撃を降らせる。

 それを越えてくる者は少ない。

 船を着けられるのは島の東側の一部だけなので、迎撃設備も整えられている。


 もしも上陸してくる者がいても、その時は深い森が侵攻を阻む。

 身体能力に優れた獣人種が、エルフからの魔術援護も受けながら攻撃する。

 森の影を利用して、罠を仕掛けて、容赦無く敵を撹乱して殲滅する。

 そういった戦術で、エルフと獣人は自分達の領土を守ってきた。


 人間に対してはとても有効な戦術だった。

 だけど竜に対しては違う。

 あっという間に島の中心部まで攻め込まれてしまった。


 人が乗る船だったなら、多くても数十隻が押し寄せてくるくらいだ。

 魔術を得意とするエルフなら、余裕を持って数を減らしていける。

 けれど今回の敵は数千。

 軍船よりも頑丈な巨体が、空を駆けて押し寄せてくる。

 これに対抗するのは容易じゃない。


 もちろんエルフや獣人たちも迎え撃とうとした。

 帝国軍がやったように、空を覆うほどの大魔術をぶつけもした。

 けれど竜も油断無く学んだらしい。


 始めに突撃してきたのは、数百体の群れだ。

 空を覆った黒雲から雷撃の雨を浴びせられて、数十体の竜が落ちた。

 被害は、たったそれだけ。

 事前に何重もの障壁を張り、元より頑丈な体もあって、多くの竜が耐えてみせた。


 さらに後続の本隊も隠れていた。

 察知されない遥か上空から、一気に地上へと降下、千を越える竜が一斉にブレスを放った。


 島の地形が変わるほどの攻撃だ。

 迎撃に当たったエルフと獣人部隊は壊滅的な被害を受けた。

 そこからはもう一方的だった。


 元々、竜は自分より小さな獲物を狩ることにも慣れている。

 森に降りた竜たちは、潜んで反撃しようとしていた獣人部隊も、次々と発見して殲滅していった。

 対抗できるのは、高い戦闘力を持った一部の者だけだ。


 エルフたちも、万を越す人数を揃えていた。

 けれど最初の接触で半数以上が燃やされて、潰されて、狩られていった。

 残った者の中で、まともに竜と戦えるのは数百名といったところだ。

 この時点で、戦力差は十対一以上になっていた。


「くっ……守りに回った結果がこれか……」


 長い白髭を掻き毟るようにしながら、エルフの長老が悔しげに呟いた。

 細身だけど長身で、しっかりと背筋を伸ばしている男だ。顔には深い皺が見て取れるけれど、握った杖からは魔力が滲み出ている。

 その気になれば、まだ熟達の魔術師として戦場にも立てるだろう。


 いまは島の中心にある居住区で、戦いの行方を見守っていた。

 苦戦、というほぼ確実な敗戦の様子は、すでに伝わってきている。


 もう一人、エルフ長老の横にいる老婆も、この島の終わりを悟っていた。


「今更言っても仕方ないが、あたしらで異界門を攻めるべきだったねえ」


 太い尻尾と、頭の上に生えた耳は、長い黄金色の毛に覆われている。

 狐の色が強く混じった獣人種だ。

 こちらは背筋を丸めているが、森を焼く炎を見つめる眼差しは鋭かった。


「せめて門を封印に留めておけば、竜どもの足を止められただろうに」

「ふん。外へ出るのを嫌った儂らの責だと言うのか?」

「それこそ今更だね。そんなアンタたちと、ずっと一緒に暮らしてきたんだ。帝国と上手く共闘できなかったのは、あたしらの責でもあるさね」


 ともあれ、と老婆は話を打ち切る。


「こうなっては逃げるしかないさね。せめて子供たちだけでも……」

「そうじゃな。急がせるとしよう」


 森に囲まれた里には、子供をはじめ、戦えない者たちが残っていた。

 さほど数は多くない。

 けれど僅かでも生き残れば、エルフにも獣人にも希望は繋がる。


 里の近くには、海岸まで繋がる洞窟が用意してあった。

 避難する者はすでに集まっている。エルフと獣人と合わせて数百名ほどだ。

 長老が手早く事情を説明すると、混乱もなく、揃って避難を始めた。


 ほどなくして、里の外れにある、草木に隠された洞窟の入り口へと到着した。

 そうして子供たちから順々に洞窟へ入っていく。

 誰も彼も表情を曇らせている。

 まだ幼い子供でさえ、沈んだ空気を察して押し黙っていた。


「……長老、やはり私も残ります」


 一人のエルフ少女が、決意とともに口を開いた。

 けれどすぐに長老は首を振る。


「ならん。だいたい、其方が残ったところで何ができる?」

「時間稼ぎくらいはできます! 私だって―――」


 エルフ少女の言葉を、激しく響いてきた咆哮が打ち消した。

 幾名かの子供が悲鳴を上げる。


 長老が顔を上げると、その視線の先には一体の竜がいた。

 竜の鋭い眼光は、明らかに地上の無力な獲物たちを捉えていた。

 赤々とした炎が竜の咽喉奥に宿る。


「やらせないさね!」


 狐老婆が地を蹴った。空中でも跳躍して、一気に竜の眼前へと迫る。

 気炎を吐いた老婆は、驚愕する竜の鼻先に拳を叩き込んだ。

 竜の悲鳴が響き渡る。


「さっさと行きな! あいつらは一匹じゃないんだよ!」

「心配は無用じゃよ。儂らも、後で必ず追いつく」


 長老は言いながら、握った杖の先から雷撃を放った。

 上空に新たに現れた竜を、青白い光が貫く。


「くっ……」


 エルフ少女は悔しげに唇を噛みながら、子供たちの誘導へと向かった。

 洞窟の入り口は狭く、一度入ってしまえば竜にも追われないだろう。


 けれどその分、避難には時間が掛かっていた。

 まだ大勢の子供たちが残っている。

 そして、襲ってくる竜は数を増やしていく。

 長老と狐老婆も奮戦するが、数体を相手取るだけで精一杯だった。


 吐き出された火炎に障壁を揺らされて、長老が冷や汗を流す。

 竜の牙が迫り、それを受け止めた老婆が歯噛みする。


「おじいちゃん、おばあちゃん―――!」


 洞窟前にいる子供の誰かが声を上げた。

 まだ幼い女の子の声だ。

 顔をくしゃくしゃに歪めて、目にいっぱいの涙を溜めている。

 けれどそんな声も押し潰すように、竜は暴力的な雄叫びを上げて―――、


 次の瞬間、体を貫かれ、倒れ伏したのは竜の方だった。


「え……?」


 唖然とした声は、誰が漏らしたものなのかは分からない。

 けれどその場の全員が、信じ難い光景を目撃した。


 空を覆っていた竜が次々と落ちる。

 地上にいた竜も同じく。

 体の中心部を貫かれて。あるいは、首や翼などを刎ね飛ばされて。


 小さな影がいくつか舞っていて、あっという間に十数体の竜を屠っていった。

 その丸い小さな影は何なのか―――、

 誰かが、正解を呟いた。


「……毛玉?」


 はい。毛玉です。

 聞き覚えのある、幼い子供の、銀子の声も上がった。


「けーちゃん!」


 はい。けーちゃんです。

 κτμです。

 その名前は、なるべく忘れていたかったんだけどねえ。



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