17 邪龍軍団vs帝国軍vs毛玉④
異界門から新たに現れたのは数千体の竜だった。
勢いよく飛び出し、上空に広がる。
荒々しく自己主張するように咆哮を響かせた。
『あれは……ミグマースの一族か! 何故、こちらへやって来る!?』
黒龍の念話が聞こえた。
どうやら混乱していて、周囲に声を撒き散らしているのも気づかないみたいだ。
『ミグマース、どういうつもりだ!?』
黒龍が睨む先には、銀色に輝く巨大な龍がいた。
大きさだけなら黒龍の方が上でも、銀龍には四枚の翼があって、鋭い迫力がある。
見たところ、戦闘力はだいたい同じくらいかな。
厄介だね。撤退する?
いや、ここは出鼻を挫くチャンスだと思おう。
どうやら完全に黒龍の仲間って感じじゃないけど、ボクにとって敵なのは同じだ。
まとめて片付けさせてもらうよ。
銀龍は黒龍を見下ろしながら、口の端を吊り上げた。
念話は聞こえないけど、なにやら得意気な様子だ。
『見張りを……同胞に牙を剥いたというのか! この慮外者が! 余計な混乱を招いている場合では……っ、まさか、こいつらが門を襲ったのに乗じて!?』
あ、なんか勘違いしてるっぽい。
遣り取りの様子から察するに、銀龍は強引に異界門を抜けてきたらしい。
邪龍軍団が置いてあった見張りを無視して。あるいは、叩き潰して?
どっちにしても、”向こう側”の異界門でも混乱はあったんだろうね。
その際に、ボクたちが魔法装置を送り込んだ―――そう勘違いしたみたいだ。
実際は向こうの事情なんて知らなかったけど、
『ええ。おかげで、実に簡単に入り込むことが出来ました』
一号さん、ナイス。
黒龍はもう疑う心の余裕もないらしく、愕然として目を見開いた。
まあ、あんまり騙す意味もなかったけどね。
もう充分に準備の時間は取れた。
援軍ごと殲滅する、そのための準備時間だ。
この魔眼は、少し特別な効果が入ったおかげか、即座には発動できない。
即死効果だけなら瞬時に発揮できるんだけどね。
いやまあ、”だけ”って言うほど優しい効果じゃないのは理解してる。
だけど即死以上に極悪な効果だから、この魔眼は。
それじゃあ、銀龍と黒龍が言い争っている内に―――、
『ぐっ……まだだ! まだ、我は、諦める訳にはいかぬ……!』
―――『死獄の魔眼』、発動!
ボクが魔眼を解き放つのと、黒龍が懸命に大地を蹴るのは、ほぼ同時だった。
溜め込んでおいた魔力が一気に流れ出す。
異界門の正面、魔眼が睨んだ先へと。
そして、大地に真っ赤な紋様が浮かび上がった。
まるで瞳を象ったような、だけど細かな式が入り組んだ複雑な魔法陣だ。
それは、死を刻み込むもの。
現実世界に地獄を創り出すもの。
巨大な魔法陣は、その外円上に黒い半透明の幕を張った。
異界門も、銀龍や配下の竜たちも、すべてが包み込まれる。
あとはもう、何者も抗えない。
死が訪れる。
魔法陣から照らし出される赤黒い光に触れただけで、無数の竜が堕ちた。
銀龍は苦しげに咆哮を上げたけれど、その声も死んで消えた。
次の瞬間には、銀龍の瞳からも光が失せ、死に染まっていた。
そして生命の無い異界門までも、さらさらと細かな粒子になって消えていく。
なにもかもが死んで終わる。
生き物としての形はなにも残らない。
だけど地獄は、その場に留まり続ける。
《外来種の討伐により、経験値に特別加算があります》
《総合経験値が一定に達しました。魔眼、バアル・ゼムがLV18からLV32になりました》
《各種能力値ボーナスを取得しました》
《カスタマイズポイントを取得しました》
《行為経験値が一定に達しました。『死獄の魔眼』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『法則無視』スキルが上昇しました》
《特定行動により、称号『扉の破壊者』を獲得しました》
静かになった。風に揺れる草の擦れ合う音が聞こえる。
ひとまず戦いは終わった、と考えていいんだろう。
システムさんも、それを認めてくれた。
《異界からの扉が破壊されました》
《外来襲撃に対する警戒を、一段階引き下げます》
《世界の危機は継続中と判断。緊急守護システムの稼動は現状を維持》
《引き続き、皆様の生存に期待します》
とりあえず、これでもう竜軍団が増えることはない。
ボクが見つめる先には、『死獄の魔眼』が創り出した赤黒い空間がある。
草原なのに、そこだけまるで異界だ。
地面の魔法陣は禍々しく脈打っている。
細かな理屈は分からない。だけどどうやら、その魔法陣は長く残るらしい。
そこに入っただけで死を齎す極悪な魔法陣だ。
赤黒い空間の中から、無数の魂が苦しみ続ける声が漏れてきている気もする。
ボクだって触れたら危ない。
だから、ちょっと勿体無かったかなぁ、とも思う。
もしも異界門だけ残しておけば、全自動竜殺装置が出来上がっていた。
異界からやって来た竜が即座に殺される。
ボクには経験値がいっぱい。
そんな可能性もあったんだよねえ。
だけどまあ、いまは外来襲撃を抑えられただけで良しとしよう。
黒龍は逃がしちゃったけど。
魔眼が発動する直前で、異界門へ飛び込んでいったんだよね。
瀕死の重傷だったはずだけど、元の世界で復活できるのかな?
「ご主人様、周辺にも敵がいないことを確認致しました」
『ん。お疲れ様』
補佐役をしてくれた一号さんが飛行しながら近寄ってくる。
安全宣言がされたことで、ボクもほっと息を吐く。
「これが、例の魔眼による効果ですか。凄まじいですね」
『危ないから、近づいちゃダメだよ』
「はい。重々承知しております」
軽い遣り取りをしてから、ボクは地上に降りた。
死獄結界の近く、目立つ場所に土を固めた高い壁を作る。
一号さんは首を傾げていたけれど、ボクは構わずに作業を続けた。
ここはもう危険な場所だからね。
見たら誰も近づこうとはしないだろうけど、念の為に注意を促しておこう。
そのために、立入禁止の旨を書いた看板を立てておく。
なるべく派手な物にして、真っ先に目に触れるように。
竜軍団はともかく、無関係な人まで死んじゃったら嬉しくないからね。
これでよし、と。
『ところで、邪龍と勇者はどうなったの?』
「勇者が勝利しました。辛うじて、ですが。残った竜たちは散り散りに敗走しております」
そっか、とボクは頷く。
あとで録画映像を見せてもらおう。
大きな戦いが終わった、って実感が沸くかも知れない。
『少し、大陸観光でもしながら帰ろうか』
「ご主人様の仰せのままに」
頭を下げた一号さんに頷いて、ボクはまた空へと舞い上がる。
しばらく飛んで、ちらりと振り返った。
禍々しく赤黒い空間を眺める。
同時に、戦闘の後に確認したステータスをもう一度見つめた。
気になったのはカルマの値だ。
『死獄の魔眼』を放った直後に、ごっそりと変化したのが分かった。
まさか、一発で”これ”とはねえ。
全力で撃ったのがマズかったのかな。
この数値からすると、ボクが把握している以上に危険な魔眼なのかも知れない。
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魔眼 バアル・ゼム LV:32 名前:κτμ
戦闘力:87800
社会生活力:-9840
カルマ:-27490
特性:
魔眼皇種 :『神魔針』『絶対吸収』『変異』『空中機動』
万能魔導 :『支配・絶』『懲罰』『魔力超強化』『魔力集束』
『万魔撃』『破魔耐性』『加護』『無属性魔術』『錬金術』
『上級土木系魔術』『生命干渉』『障壁魔術』『深闇術』
『創造魔導』『精密魔導』『全属性大耐性』『重力魔術』
『連続魔』『炎熱無効』『時空干渉』
英傑絶佳・従:『成長加速』
英雄の才・弐:『魅惑』『逆鱗』
手芸の才・極:『精巧』『栽培』『裁縫』『細工』『建築』
不動の心 :『唯我独尊』『不死』『精神無効』『明鏡止水』
活命の才・弐:『生命力大強化』『不壊』『自己再生』『自動回復』『悪食』
『痛覚制御』『毒無効』『上位物理無効』『闇大耐性』
『立体機動』『打撃大耐性』『衝撃大耐性』
知謀の才・弐:『解析』『精密記憶』『高速演算』『罠師』『多重思考』
闘争の才・弐:『破戒撃』『超速』『剛力撃』『疾風撃』『天撃』『獄門』
魂源の才 :『成長大加速』『支配無効』『状態異常大耐性』
共感の才・壱:『精霊感知』『五感制御』『精霊の加護』『自動感知』
覇者の才・弐:『一騎当千』『威圧』『不変』『法則無視』『即死無効』
隠者の才・弐:『隠密』『無音』『暗殺』
魔眼覇皇 :『再生の魔眼』『死獄の魔眼』『災禍の魔眼』『衝破の魔眼』
『闇裂の魔眼』『凍晶の魔眼』『轟雷の魔眼』『重壊の魔眼』
『静止の魔眼』『破滅の魔眼』『波動』
閲覧許可 :『魔術知識』『鑑定知識』『共通言語』
称号:
『使い魔候補』『仲間殺し』『極悪』『魔獣の殲滅者』『蛮勇』『罪人殺し』
『悪業を極めし者』『根源種』『善意』『エルフの友』『熟練戦士』
『エルフの恩人』『魔術開拓者』『植物の友』『職人見習い』『魔獣の友』
『人殺し』『君主』『不死鳥殺し』『英雄』『竜の殲滅者』『大量殺戮者』
『扉の破壊者』
カスタマイズポイント:320
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