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毛玉転生 ~ユニークモンスターには敵ばかり~ Reboot  作者: すてるすねこ
第4章 大陸動乱編&魔境争乱編
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幕間 とある教師が黒甲冑と出会った日

リハビリ回。

もう一話を挟んで、続編を開始します。


 この世に奇跡はひとつしか存在しない。

 そう考えていました。昨日までは。


 ひとつめの奇跡は、もちろん幼い少女の存在です。

 世界の何処にでも溢れていて、それでいてひとつひとつが掛け替えのないもの。

 正しく、奇跡と呼ぶのに相応しい。

 元気に走り回る幼女、物憂げに遠くを見つめる幼女、

 うたた寝をする幼女、無防備な幼女、睨んでくれる幼女―――、

 語り尽くせないほどですね。


 そんな幼女たちも傷つけた、あの亀に似た魔獣を、私はけっして許さないと誓いました。

 なんとしても討伐せねば。

 この街にいる幼女だけでも守らねばと、そう思って残っていたのです。


 もちろん自分の無力さは理解しています。

 なにせ、あの亀の魔獣には、ほとんどの魔術が通用しなかったのですから。

 唯一通用するのは、万能属性を持った魔術のみ。

 私も使えなくはないですが、万能属性の術式は消耗が激しい。

 三発も撃てば魔力が枯渇します。

 精々、傷を与えて、そこを剣士に狙ってもらうのが限界でした。


 まったくもって厄介な魔獣です。魔術師の天敵と言ってもいい。

 清廉潔白を説く聖職者よりも厄介ですね。

 無垢なのは幼女だけで充分だというのに、連中は綺麗事ばかり言いますから。


 と、話が逸れましたね。

 ともかくも、そんな魔獣が突然に海から現れたのです。

 公国首都はたちまち大混乱に陥りました。

 無論、国軍も討伐に乗り出しましたが、呆気なく敗退。

 なにせ公国軍は、魔術師部隊の戦力に頼りがちでしたからね。

 ただでさえ巨体で手強い魔獣に対して、相性も最悪。

 そうでなくとも、他国に比べて弱兵ではないかと思えます。


 恥ずかしながら、我が公国は蝙蝠国家などと呼ばれていますからね。

 鳥に対しては鳥の仲間だと言い、牙持つ獣に対しても牙を持つ仲間だと言い、どちらにも良い顔をする蝙蝠。

 それと同じように帝国の庇護を受けつつ、東側の国々にも頭を下げて、どうにか国を保っています。

 昔はそうではなかったようですが。


 現在では王族も貴族も、国民に対してばかり威張り散らしていますからね。

 それでいて、実力の無い者ばかりが要職に就く。

 そんな軍では、勝ち目など無かったのです。


 私も半ば諦めていました。

 それでも残ったのは、いざとなれば逃げられる算段があったから。

 幸い、私の使い魔であるグリフォンは空を飛べますから。

 幼女の何名かを連れて逃げるつもりでした。

 本当にもう最後だと思ったら、そうするつもりでした、が―――、


 ふたつめの奇跡が助けに来てくれたのです。

 それは、恐ろしく禍々しいほどの姿をした奇跡でした。


 万能属性の、とてつもなく強力な魔術を放つ。

 しかも何発も。おまけに甲冑に魔術具として仕込んでいる。

 並の兵士では傷すら付けられない魔獣を、あっさりと両断する。

 城よりも巨大な魔獣すら、容易く仕留めてみせる。


 自分の正気を疑ってしまうほどの光景でした。

 しかし現実だと信じたい。

 何故なら、その奇跡のおかげで私たちは助かったのですから。

 そして、なにより、可憐な幼女と出会えたのですから。


 完璧な無表情。

 乱れひとつない服装。

 冷たいほどに凛とした佇まい。

 それでいて忠実なメイドの如く兄に尽くそうとする幼女。実に素晴らしい。

 眼帯は少々異質ですが、怪我を負ってはいないようですし、装飾品として見れば可愛らしくもあります。


 バロールと名乗った彼の力は、正直、恐ろしい。

 ですが、幼女を大切にする方に悪い人間はいませんからね。

 この出会いには感謝するべきでしょう。







 街はほぼ壊滅状態。城も内部までボロボロ。

 とても客人をもてなせる状態ではありません。

 貴族の常識からすれば、とても恥ずかしくてお見せできない状態です。


 ましてや相手は、国の危機を救ってくれた英雄。

 本来ならば、国賓として大歓迎するべきところでしょう。

 しかし虚勢を張っても仕方ありません。

 無礼を詫びつつ、どうにか形を保っていた応接室へバロール殿を招きました。


『城だというのに、随分と寂しげだな』

「ええ、まあ……そこらへんの事情もお話しますよ」


 バロール殿が喋れないというのは驚きました。

 そして魔力で素早く文字を描いてみせることにも。

 悠然と椅子に腰掛けたまま輝く文字を綴ってみせる。実に卓越した技術です。

 海の魔獣を屠った際にも凄まじい魔術を使っていましたし、魔術談議をすれば非常に有益な話を聞けるでしょう。


 いったい彼は何者なのか? とても気になるところです。

 ですが、詮索は避けておきましょう。

 いまはこちらの事情を語るのが先ですね。

 込み入った事情を抱えていますから。国家の恥となる部分もありますが、今更取り繕う場合でもありません。


 今度という今度は、私も愛想が尽きました。

 なにせ、王が民を見捨てて逃げ出したのですから。

 王や貴族は国民を守るために存在する。民は忠誠を尽くす。

 それが最低限の約束事であるはずなのに。


 私に置き換えれば、幼女を見捨てて逃げ出した、といったところですか。

 そんな私には何の価値も無い。クズだと言えるでしょう。


 まあ、クズで無能な王にも建て前はあったみたいですがね。

 隣国に助けを求めに行く、と言っていました。

 魔獣は人類共通の敵。故に、非常時には国家の枠組みを越えて事に当たる。

 それは正論で、各国家間で協力するための条約も存在します。おかげで外来襲撃の際などは一応の共闘ができています。


 ですが、今回は期待できません。

 完全に王族が逃げるための言い訳です。

 それと、帝国から離反して東側につくためでしょう。

 第四王子だけを帝国へと脱出させたのは、まだ従っていると見せかけるため。哀れな王子は援軍を求める使者を任されたと喜んでいましたが。

 実際は帝国への恭順を示すだけの生贄。時間稼ぎの道具。


 そうして時間を稼いだ後に、東側の軍勢を引き連れて戻ってくるという計画のようです。国民を救うためというのが大義名分ですが、実際には、帝国へ攻め込むための橋頭堡とするために。

 戦争を起こせば、また民が困窮するというのに。


 しかも、狙うのは外来襲撃が過ぎてからでしょうね。

 それまでの間、この地は魔獣の脅威に晒されたまま。

 正しく、この世の地獄になっていたでしょう。

 バロール殿が来てくれなければ。


『何故、私にそんな話をした?』


 一通りの話をしたところで、バロール殿が疑問を投げてきました。

 当然ですね。国家の醜聞かつ機密を、仮にもその国の貴族が漏らしたのですから。ですが、私にとってはもう大したことではありません。


「秘密を守るほどの忠誠心も残っていないということですよ。それよりは、貴方には正確に状況を伝えて、誠実に話をしたい」

『国を救えと言われても、困るぞ?』

「いえいえ。もう充分に救っていただきました」


 ただひとつ、確かめておきたいことがあるのです。

 あくまで個人的なことですが。


「貴方が連れている毛玉のような魔獣についてお訊ねしたいのです。私の教え子と、少々縁のある魔獣にも似ているので……」


 どうやら使い魔ではないようですが、どうやって従えているのか?

 そこの辺りも知りたかったのですが―――、


「我がバロール家の秘術です」


 ふむ。秘術では仕方ありませんね。

 シェリー殿が可愛らしい声で答えてくれただけでも満足です。


 しかしバロール殿は、時折、会話を(シェリー)殿に任せる癖があるようですね。やはり喋れないというのは不便なのでしょうか? 自在に魔力を操っているようですが―――と、思考が逸れましたね。私の悪い癖です。


 ともかくも、知りたいのは”あの使い魔”へと繋がる手掛かり。

 同種の魔獣を従えている彼なら、何かしらの助言でも貰えるかと思ったのですが、安直すぎましたかね?


『その彼女、ヴィクティリーア、令嬢は、いま何処に?』

「……無事ではあると思うのですが……」


 この公国では、使い魔は貴族の証も同様。

 それを召喚直後に行方不明としてしまった彼女を、私は庇いきれませんでした。


「家の命令で、帝国へと赴いています。表向きの理由は留学ですが、実質的には人質ですね。公国は帝国への恭順を示し、彼女の生家である侯爵家は公国への忠義を示す、そのための人身御供とされたのです」


 もはや彼女は、この公国での地位を得ることはないでしょう。

 貴族の不名誉は、いつまでも付いて回りますからね。

 帝国で実力を示せば、あるいは道を拓けるかも知れませんが―――。


 そういった事情をすべて聞いた後、バロール殿は椅子を軋ませながら腕組みをしました。言葉は発せず、兜の奥にある表情も窺えませんが、どうやら真剣に思案している様子です。

 幼女の不遇は見過ごせない、とでも考えてくれているのでしょうか?

 やはり彼は信頼できる紳士のようですね。


『連絡は、可能か?』

「彼女とですか? 少々時間は掛かりますが、手紙は届けられます」

『なら、伝言を。その使い魔とは、時が来れば再会できる、と』


 どういう意味でしょう?

 バロール殿は、やはりあの毛玉の魔獣について何か知っている?

 もっと詳しく話を―――、


 と思ったところで、なにやら大きな足音が近づいてきました。

 この騒々しさは、あの騎士団長ですか。


「―――あの無礼者はここかぁっ!?」


 やかましいですね。

 貴方は無能者でしょう、とはさすがに言えませんか。


 荒々しくドアを開けて入ってきたのは、なんとかという騎士団長です。

 ええ。名前は忘れました。

 悪い人間ではないのですが、迷惑な方です。

 先程の戦いでも勝手に兵士たちをまとめて出撃した挙句、余計な犠牲を出してくれやがりました。


「やはりここにいたか、黒甲冑! 相変わらずの禍々しい姿……む? コルラート殿も一緒とは、いったい何をしておる!?」


 唾を飛ばさないでください。

 幼女のものなら唾でも体液でも大歓迎ですが、中年男のそれは汚らしいだけです。


「今後のことを話し合っていただけですよ」

「ぬ? 今後だと……そうだ! 某も今後のことを尋ねたかったのだ!」


 無礼にもバロール殿を指差す騎士団長。

 はあ。本当に悪い人間ではないんですがね。

 一応は、民を守ろうと頑張ってもくれましたし。

 ただ、欲望に素直というか、出世に目が眩みまくっているというか……。


「貴様、いつまで居座るつもりだ!?」


 バロール殿は腕を組んで黙しておられます。

 突然の言い掛かりにも近い声に対しても、平然とした様子。さすがです。


「言っておくが、貴様のような素性も知れぬ者が王との謁見など叶わぬぞ!

ましてや、此度の勝利はすべて自分の手柄などと、大それた報告など許されぬ! 正しい報告は、この某が責任を持って行ってやろう!」


 自分の手柄を山ほど脚色して報告するのでしょうね。

 まったく。なにが正しい報告なのやら。

 バロール殿も呆れきったようで項垂れて……一瞬、糸が切れた人形のようになりましたね。まあ、それくらい呆れ果てたのでしょう。


『明日には帰る』

「な、なに? 本当か!?」


 騎士団長、せめて嬉しそうな顔を隠したらどうでしょう。

 バロール殿もやれやれと頭を振っておられるではないですか。


『ただし、欲しい物がある』

「む……何だ? 恩賞か? 貴様、やはり王に余計なことを言おうと……」

『山羊や牛、家畜を譲ってほしい。可能なら、他にも栽培可能な食料を』

「……は? 牛だと? そんなものでいいのか?」

『村を拓いている。少々、理由があってな』


 ふむ。意外な提案ですね。

 ですが恩人の頼みです。可能な限りは応えたい。

 騎士団長も乗り気のようですし。


「そうかそうか。家畜で満足か。うむ、実に殊勝なことだ。よかろう。某が用意してやろう。コルラート殿、それくらいの余裕はあるな?」

「ええ。近隣との連絡も取れるでしょうし、食料配布も足りるでしょう。山羊も牛も、街を探せば何頭かは見つかるかと」

「では、決まりだな。はっはっは、黒甲冑殿は実に気前の良い御仁だ」


 とりあえず、ここは話をまとめるのが最優先ですね。

 邪魔な騎士団長に出て行ってもらってから、あらためてバロール殿と話をするとしましょう。

 可能なら、幼い妹殿とも親密にお話をしたいところです。


 む、その妹殿が、騎士団長へ冷ややかな眼差しを送っておられますね。

 ほとんど表情は変わりませんが、私には分かります。

 あれは蔑みの眼差しです。

 実によい。叶うなら、私にも向けてもらいたい―――、


「……なにか?」

「いえ。世の不条理に嘆きを覚えただけです」


 英雄に満足なもてなしを行えないこと。

 私に、幼女からのご褒美が与えられないこと。

 まったくもって、この世界は不条理に溢れています。



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