13 援軍
降伏勧告っぽい交渉から、五日が過ぎた。
また情勢が変わった。
予想の範囲内とも言えるんだけど、これはちょっと驚きでもあるね。
来ちゃいましたよ。
海を渡って、帝国軍の援軍が。
どうやら海の魔獣とやらを倒して、そのまま船団を進ませてきたらしい。
大きな軍艦が八隻。
それに乗ってた兵士たちは一万近く。
水軍なので軽装の兵士が多いけど、魔術師を集めた部隊もある。
よく知らないけど、大砲の代わりに魔術で攻撃したりするのかな?
船から降りる様子だけでも、よく統率されてるのが分かる。
一人一人はともかく、集団としては強そう。
しかも船に繋ぐ形で、大型の竜の死体を三つも持ってきた。
細長い、水竜だね。
サンドワームほど大きくはないけど、船くらいは叩き潰せそう。
ボクは街から離れた上空で観察をしてる。
メイドさんの魔術で姿を隠してるんだけど―――、
うん。正直、帝国軍を見直した。
大陸随一の戦力って、看板倒れじゃないね。
魔獣が絶滅寸前まで追い込まれるのも当然なのかも。
なんとなくだけど、あの水竜、戦闘力五千は越えてる気がする。
それを、大した損害もなく倒しきったみたいだ。
しかも、海っていう魔獣側に有利な戦場で。
人類を無礼るなぁっ!、とか言われても納得しちゃいそう。
『あの援軍は、帝国の地方領主が派遣したもののようです』
ボクの隣に浮かんだ一号さんが報告してくれる。
潜入メイドさんは一旦引き上げさせるべきだね。
あれだけ戦力が増えると、もしも見つかった時に危険な事態になるかも。
情報は欲しいけど、ここは安全第一で。
『航路の安全を図るよりも、この島の探索を進めるのが主目的のようです。どうやら、以前に贈った品が随分と魅力的だったようで』
『以前の、品?』
『はい。グドラマゴラの根や、魔獣の糸で織った布などですね』
そういえば見本品みたいな形で少し贈ったんだっけ。
そこに、価値が見出された。
で、張り切って援軍を送ってきた、と。
ボクの責任じゃん!
だけどその援軍領主さんも、頑張る方向性を間違ってるよ。
兵士よりも、美味しいものとか送ってきてくれれば、こっちだって張り切って取引するのに。
『敵戦力は測り切れない部分もあります。如何致しましょう?』
当初は二千から三千くらいを想定してたからね。
そこに百名くらいの冒険者が加わる程度。
でも、一気に数倍まで増えた。
まともに戦うなら、こちらも態勢を見直すところだけど―――、
『問題ない。敵になるなら、殲滅』
生憎、まともじゃない戦い方をする予定だからね。
むしろ船を運んできてくれたのは好都合だ。
お帰りいただくついでに、何隻が貰っちゃおう。
『それと、クイーンの方々から、参戦したいとの意見が上がっています』
『? 戦いたい? どういうこと?』
『ご主人様のみを矢面に立たせるのは心苦しい、ということです。わたくしどもとしましても、可能であるならば、戦場でも役立ちたいと判断します』
ん~……そういうのは要らないなあ。
いま拠点から出せる戦力って、精々百名くらいでしょ。
人間側は一万を越えるみたいだし、数で対抗してもどうにもならない。
焼け石に水だよね。
それよりも、万が一に備えて拠点を守っててくれた方がいいよ。
元々、ボクは集団行動とか苦手だし。
戦場での部隊指揮なんて知らないし。
学校での集団下校とかも、意味が分からず一人で帰っちゃってたからね。
あとで怒られたっけ。
『無用。ボクだけで戦う』
『……ではせめて、わたくしどもだけでも後方に控えさせてくださいませ』
それくらいならいいかな。
『威圧』と『波動』が届かない範囲にいてくれれば、こっちも遠慮なく全力が出せる。
『懲罰』で動けなくなったりしたら、回収してもらうつもりだけど―――、
たぶん、大丈夫。
久しぶりに『一騎当千』も活躍してくれるんじゃないかな。
さて、さらに五日が過ぎた。
どうやら帝国軍は出て行ってくれないらしい。
島の主として追い出すしかない!、とは残念ながらいかないんだよね。
だってほら、この土地はオレの物って、一方的な宣言でしかないからね。
そんなのを本気で実行するほど、ボクは外道じゃないよ。
向こうだって、それなりに苦労して街を築いたワケだし。
もうちょっと正当な理由が欲しい。
ボクの精神衛生のためにも。今後のためにも。
で、その理由だけど、向こうから作ってくれるみたいだ。
街の門から大勢の兵士が出て整列してる。
その陣頭に立ってるのは、十日前に会った帝国総督さん。
隣には援軍でやってきた騎士もいる。
えっと、調査によると、バルタザールさんとかいったっけ?
日に焼けた、若い騎士だ。
港町を持つ領主に仕える、将来有望な若手騎士らしい。
この島から貿易を始めるとなると、その領地が関わってくるはず。
だとすると、なるべく無傷で帰してあげた方がいいとは思う。
まあ、相手の態度次第だよね。
「これより我らは、南へと進軍する!」
一万の軍勢を鼓舞するように、総督さんが声を張り上げる。
出陣前の演説ってやつだね。
よし。これで攻撃されるのは決定みたいだ。
追い出す大義名分ゲットだね。
「敵は、魔獣を従え、帝国の権威を侵そうとする愚劣な男だ! 魔眼を持ち、強力な魔術も操るそうだが、恐れることはない。敵の数は百にも満たず、なによりも我らは帝国軍である! 敗北はない!」
兵士たちも歓声で応える。かなり盛り上がってるね。
それにしても、愚劣とか、酷い言われようだ。
そりゃあ挑発した自覚はあるけど、そこまで嫌わなくてもいいのに。
これは追い返した後も、貿易開始までは一苦労しそうだね。
まあ、安全確保が優先だから構わないんだけど。
『そろそろ、行ってくる』
背後に控えていたメイドさんたちへ振り返る。
姿を隠す魔術も解いてもらった。
『もしもの時は、みんなで逃げて』
『そのようなことはないと信じております。ですが、ご武運をお祈り致します』
『うん。パインサラダでも作って、待ってて』
小首を傾げるメイドさんに手を振って、黒甲冑が飛び立つ。
向かう先には帝国軍一万。
その正面に、百メートルほどの距離を置いて降り立った。
当然、気づかれる。
「き、貴様は……バロール!」
『約束の十日が過ぎた。だが、出て行くつもりはないようだな』
総督さんの顔には、驚きと怯えも混じってた。
さっきまで威勢がいいこと言ってたのに。
ともあれ、ここは脚本通りに続けさせてもらうよ。
『ここより先は、我が領土となる。他者が拓いた領土を暴力で奪い取るのが、帝国の流儀なのか?』
「だ、黙れ! 先に剣を向けてきたのは貴様ではないか!」
『私は争いは好まぬ。だが、侵略者に対して容赦するほど優しくもない』
手にした大剣を地面に立てて、真っ直ぐに背筋を伸ばす。
って言っても、鎧の中は毛玉なんだけどね。
相手からは、それなりに威圧感があるように見えるはず。
さらに空中へ大きく文字を描く。
敵全軍から見えるように。
『我が魔眼は、万の軍勢も焼き尽くす。臆さぬならば掛かって来い』
いきなり現れた黒甲冑に、帝国軍も動揺してた。
だけど、そう長い時間じゃない。
総督さんも後退しつつ、大声で指示を出す。
「進軍する手間が省けたというものだ。弓箭兵、撃て! 射殺してやれ!」
一旦指示が出ると、兵士たちの行動は素早い。
動揺もすぐに治まった。
前衛の兵士は盾を構えて、後方の兵士は弓を構え、放つ。
無数の矢がボクに向かってきて―――、
そうして、戦端が開かれた。




