11 会議、二回目
新しい報告があった。
人間との関係が、なかなかに深刻なものになってきてる。
脅威、というほどでもないんだけど。
そこで、ふと思いついた。
会議をしよう。
以前にも、メイドさんとクイーンたちを集めて行った。
部族長会議?
ん~……分かり易いけど、もうちょっと格好良い名前が欲しい。
クイーンズ会議?
いや、それだとボクが含まれないことになっちゃう。
毛玉会議?
自己主張が激しすぎるね。何の会議だかも分からないし。
まあ、名前なんかで悩んでても仕方ない。
ともかくもメンバーを集めてもらった。
今回はスキュラも加わって、クイーンが三名。
あと、赤鳥も参加したいってうるさいから、籠に入れたまま連れてきた。
みんなには無視していいって言ってあるけどね。
そこにメイド一号さんが加わって、例によって司会をしてもらう。
『では、第二回、バロール家筆頭会議を始めます』
名前が勝手に決まってる!?
って、一号さんが決めたの? いつの間に?
いやまあ、名前なんてどうでもいいとは思ったけど……。
だけどバロール家って、それ人間相手に用意した偽名なんですが?
しかも、元の由来も考えると、けっこう恥ずかしい名前だよ。
いいのかな?
いっそ、このまま正式なものとして名乗っちゃう?
一体感が生まれていいのかも知れないけど―――。
『ご主人様、どうかされましたか?』
『なんでもない。続けて』
思わず椅子の上で跳ねちゃったけど、平静を装う。
ここは家長として、どっしりと構えておくべきだよね。
そう、ボクは君主だ。魔眼覇皇だ。
種族も魔眼皇種になった。
どんな種族やねん!、って思わないでもなかったけど。
まあ、あれだよ、ペンギンだって皇帝になれるくらいだし。
魔眼に”皇”が付いてもおかしくないよね。
『―――以上が、先日まで人間との接触によって起こった出来事となります』
ボクが考え事をしてる間に、一号さんが説明をしてくれてた。
情報の共有は大切だからね。
とりわけスキュラは、これまでの事情をまったく知らなかった訳だし。
『そして先日、新たな情報を入手しました。大陸からの航路が、海の魔獣によって封鎖され、補給が途絶えたそうです』
まだ確定情報じゃない。
実際に、その航路の様子を確かめたりはしてないからね。
だけどそれなりの地位にいる騎士が話しているのを、潜入したメイドさんが聞いてきた。
かなり信頼できる情報ってことだ。
北の街への補給は、二本のルートを設定していたらしい。
ゼルバルド帝国の港町と、リュンフリート公国首都にある港。
この二ヶ所から、それぞれ補給船が往復していた。
念入りな態勢だって言えるね。
だけど、その両方とも魔獣に襲われた。
幾度も船は行き来していて、航路の安全は実証されていたのに。
突然、魔獣が現れるようになったって話だ。
二~三隻で補給船団を組んでたそうだけど、一隻は魔獣に沈められて、残りもボロボロになって帰還したらしい。
水竜だとか、大型の蛸だとか、魔獣の正体に関する情報は不確かだった。
ともかくも、これから先、街の人たちが困った事態に陥る可能性は高い。
補給が途絶える。
つまりは、ご飯が届かなくなるってことだからね。
それにしても物騒な話だ。
突然、魔獣に襲われるとか、やっぱり大陸でもよくある話なのかな?
スキュラも水竜に追われたって話だったけど、まさか、今回の話もボクが暴れた影響なんてことは―――ないと思いたい。
偶然でしょ、偶然。
地理的には随分と離れてるし。
魔獣が気まぐれに移動することだってあるし。
なんでもかんでも自分が関係してると思うのは、自意識過剰だよね。
それに、少なくともボクが望んだ結果じゃないよ。
追い詰められた人間がどう動くか、予測も難しいからね。
『先にもお話した通り、我々と人間の関係は険悪と言えます。ですので、食料不足に陥った彼らが、こちらへ侵攻してくる可能性は捨てきれません』
うん。ボクが懸念してるのもそこだ。
食い物寄こせー!、って攻めてくることだね。
その時はガトリング『万魔撃』をお見舞いしてあげるつもりだけど。
『そういった事態を避けるために、こちらから先に攻め込むのを―――』
『ちょっと待ったぁ!』
椅子から跳び上がって、皆に見えるようにデカデカと文字を描く。
一号さんが首を傾げてこちらを見つめてくる。
無表情だけど、やっぱり思考は過激だよね。
『なにか問題がございましたか?』
『ある! なんで、いきなり、戦争仕掛ける流れになってる!?』
『選択肢のひとつとして提示させていただきましたが、それが最適であるとも判断いたしました。対象の戦力は、これまでの調査ですでに判明しています。順当に戦えば、我々が敗北する可能性は極めて低いかと』
そりゃあまあ、ボクだって敗北するつもりはない。
先に仕掛けた方がリスクも少ないだろうね。
下手に待ちを選んで、予想外の策を打たれたら苦戦するかも知れない。
人間の怖さは、その知恵だろうから。
あれ? そうすると、一号さんの過激な提案も正しいって言える?
いやいや、根本的な部分でズレてるんだ。
そもそも争わないで済む可能性だってあるんだから。
『無論、ご主人様に戦っていただくのが前提となりますが』
『それは構わない。けど、もっと穏当な案で』
『穏当と仰られますと……威圧し、降伏を迫るといったところでしょうか? 確かにそちらの方が、接収できる物資は増えると予測されます』
それもいいかなあ、と思っちゃう。
ボクも随分と毒されてきてるね。
だけどこの魔境だと、弱肉強食が基本だし、メイドさんくらい強気でいってもいいのかもね。
ちなみに、他の面々の意見は―――、
アルラウネとラミアは、襲われたら戦う派。
スキュラは他の意見に従う派だった。
たぶん、スキュラはまだ新参者ってことで遠慮もあるんだろうね。
とどのつまり、アレかな。
またボクが意見を押し通しちゃってもいいのかな?
『人間との取引は、得るものが、大きい。なるべく、成功させたい』
大切なのは、根本の方針を定めておくこと。
ボクの意志を固める。しっかりと伝える。
そうすれば、みんなも後に従ってくれる。
『でも、邪魔になるなら排除する』
最初はただ、隣で暮らしてても構わないくらいの気持ちだった。
最低限の警戒は、アルラウネやラミアに対してもなかなか解けなかった。
だけどもう、一緒にいるのが当り前みたいになってる。
家族、っていうのは少し違うけど―――。
『このお城の安全は、絶対。それを人間にも知らしめる』
ここは居心地がいい。
ボクのお城だ。
だから、その範囲を、もう少し広げてもいいのかもね。
バロール家筆頭会議から数日。
ボクは久しぶりに黒甲冑に身を包んだ。
怒らせると怖い紳士、バロールさんが城から出立する。
念の為に、メイドさん一号~三号を従えて。
向かうのは北、人間の街だ。
そこにいる帝国総督さんとやらに話をするために。
話、って言えるんだろうね。
たとえ喧嘩を売るような内容だったとしても。




