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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第16章 江戸へ
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出立


 翌朝



 私と土方サンと平助クンは屯所を出立し、近藤サン達より先に江戸へと向かった。


 平助クンは近藤サンらより先に江戸へ着き、すべき事があるそうで、出たのは私達と同時だったが、気付けばどんどん先へと急いでいた。



 普通の男性であれば京から江戸まで半月程度であろうが、私が行くとあってその倍の一月は掛かるであろうと計算していた。


 永倉サンと代わると土方サンは言っていたが、近藤サンの護衛も兼ねた人数配置であった為、結局のところ他の誰かと代わる事はなく、私達が追加されただけであった。



 江戸までの道のり、宿場街を経由して行くのだが、私の生まれ故郷も昔は宿場街として栄えていた場所だったので、そこを通る事も楽しみの一つだった。




 8月6日に屯所を出立。



 様々な宿を経由し、私の生まれ故郷をも通過しつつ、



 9月6日には、私達は江戸へと到着する。





「近藤サン達より早く着いちまったか?とりあえず……石田村に向かうぞ」


「石田村って、日……野ですか?」


「多摩郡石田村と言やぁ、俺の生まれ故郷だ。お前の故郷よりかは栄えているぞ?」


 土方サンは意地悪く言った。


「私の生まれ故郷だって……ですねぇ。私の時代には少しは栄えていますよ! そりゃあ東京、いえ江戸とは比較にもなりませんけどね」


 私は必死に反論する。


「悪ぃ、悪ぃ」


 土方サンはそう呟くと、私達は日野へと歩みを進めた。






「さて、着いた。まずは此処に寄らねぇとな」



 土方サンに連れられた場所。



 そうそれは……



 日野宿本陣



 いや



 佐藤彦五郎邸



 であった。


「こ……これは」


 現代で何度か日野に訪れた事のある私は、思わず息を飲む。


 日野宿本陣として現代にまで現存している史跡が、目の前に完全な形で佇んでいたからだ。



 もちろん。



 現代では無くなってしまっていた門もまだある。




「おい、どうした? でけぇから緊張してんのか?」



 土方サンは心配そうな表情で尋ねた。



「いえ……大丈夫です」



 立ち尽くす私の手をとると、土方サンは門の中に入って行った。








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