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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第16章 江戸へ
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報奨金


 幕府からの恩賞を、会津候より下賜されたその夜。


 土方サンはその使い途に頭を悩ませていた。


 今後の為に貯蓄すべきだと言う山南サン。


 士気を高める為に報酬として分配すべきだと考える土方サン。


 その額600両。


 現代の金額に換算すると、だいたい1両が4万円位なので……


 2400万円程である。



 



「なぁ……お前はどう思う?」


 土方サンは、隣で医学書を読む私にふと尋ねた。


「何がですか?」


 私は書物を閉じ、顔を上げる。


「恩賞の使い途……だよ。山南サンの言う通り、貯蓄すべきだと思うか?」


「貯蓄……も堅実ですが、私は土方サンの案に賛成ですよ?」

 

「そうか。だが、何故そう思う?」


 土方サンは、興味深そうに言う。


「私の時代にもあるんですよ。ボーナスが」


「ぼう……なす?」

 

「私の時代では、お勤めをしている人は毎月給金が出るのですが……それとは別に年二回位、その人の能力や年齢に応じて賞与が与えられるんですよ。これがボーナスです!」


 私の言葉に、土方サンは目を輝かせる。


「それだ! 俺が言いてぇ事はそれなんだよ。働きに応じて報酬も変われば、隊士たちの士気も上がるだろ? そうとなりゃ、早速分配を考えなきゃなぁ」


「一つだけ、宜しいですか?」

 

「何だ?」


「池田屋の際、全員が出動でしたが……屯所に残り門番をしていた隊士も隊務の内だと思います。その方にも多少は与えた方が良いかと」


 私は、紙に筆を走らせる土方サンに意見した。


「そうか……お前がそう言うなら、そうすっか」


「それと……私は要りません」


私の言葉に、土方サンは思わず振り返る。

 

「何故だ?」


「大金を頂いても、使い途が無いからですよ」


 ここに来てから、毎月十分すぎる程の給金を頂いている。


 家賃や食費が掛かる訳ではない。


 着物等の装飾品代も、土方サンに出して頂いてばかりいる。


 お金を遣う……と言っても、遣い途が無く貯まる一方であった。


「そんな事は無いだろう? お前も女なんだ。着物や簪や……欲しい物は星の数程あるだろうが?」


「着物や装飾品は、いつも土方サンが買って下さるじゃないですか。」


「あんなモンじゃ足らねぇだろ?」


「十分すぎる程ですよ」


 土方サンは溜め息を一つついた。


「お前は……不思議な女だな」


「ふ、不思議!?」


「普通の女なら、色々な物をねだるが……お前は一度としてねぇもんな? 欲が無い奴だ」


「それは……今の暮らしに満足しているからですよ。元々、私の時代で暮らして居た時も暮らしは質素でしたからね」


「そんなモンなのかねぇ?」


 土方サンは首をかしげて言った。


「それならば……金以外で何か無いのか? 例えば、そうだなぁ……何処か行きたい所がある、だとか」


 土方サンの問いに私はしばらく考え、答えた。


「江戸……江戸へ行きたいです!!」


「江戸だぁ? 一体、何故だ?」


「一つは、土方サンの故郷が見たいから! 二つ目は、種痘所……いえ、和泉橋医学所に行きたいからです!!」


 土方サンはフッと笑うと、私に言った。


「お前は本当に面白ぇなぁ? 着飾るより医術か……お前らしいっちゃ、お前らしいがな。よし! その願い……叶えてやるか」


「ほ……本当ですか!? ありがとうございます!!」


 私は土方サンにお礼を言った。


「実はな……隊士募集等の用事で、近藤サンらが近々江戸へ行く予定だったんだよ。俺は屯所に残る予定だったがな……お前が行くなら、永倉あたりと代わって俺が行くとするか」


「でも……江戸ってかなり遠いですよね? 皆さんと同じに歩けるかが不安です」


「そこで、だ。女のお前じゃ俺らの倍はかかる……ならば、俺らは先に出るんだよ。そうすりゃ問題ねぇさ!旅気分でゆっくり行きゃあ良い」


 土方サンはそう言うと、心配そうな表情をしている私の頭を撫でた。






 翌日


 皆に報奨金が渡された。


 近藤サンの30両……つまり約120万円を筆頭にして、15両~20両で割り当てられた。


 ちなみに土方サンは23両、約92万円だそうだ。


 かなりの高給取りだ、などとしみじみ思う。


 報奨金を受け取ると、島原や祗園へと足を運ぶ者が多く、この夜は屯所内は静かなものであった。






「あ! ちょっと待て……例の話だが、近藤サンから許可が下りた。明日、早速屯所を発とうと思う。それで良いか?」


 土方サンは私を呼び止めると、そう告げた。


「はいっ!」


 明るく答えると、私は自室に戻り支度を整える。





 江戸時代に来たからには、江戸を見ておきたい。




 という、邪な気持ちも多少はあったが……一番の目的は医学所であった。



 種痘



 出来る事ならば、私も受けたい。



 そして



 この時代の医師達の手を借りて、ワクチンを作りたい。




 私は、期待に胸を膨らませていた。










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