遺品
鷹司邸を去った後、私は桂サンを探す為に走った。
桂サンは何処にいるのだろう?
因州藩邸か、幾松サンの所か……
何処に向かえば良いのか分からなかったが、とにかく鷹司邸の前の通りを走った。
しばらく走ると、鷹司邸の方から砲撃の音が聞こえて来た。
「あぁ……終わったんだ」
急激に脱力した私は、思わずその場に座り込んだ。
久坂サンは……苦しまずに逝けただろうか。
遺品となってしまった懐刀を握り絞める。
「桜……サン?」
その声に顔を上げる。
「桂……サン?」
探していた人物が目の前に居る。
桂サンは私の手を取り立たせた。
「桂サン……久坂サンは……逝ってしまいましたよ。生き永らえて欲しいと……折角、先の事を教えた……のに」
「そう……か」
「久坂サンから……遺品を預かりました」
私がそう言うと、桂サンは此処では危険だからと言い、裏路地の茶屋に入った。
「鷹司邸の方から砲撃の音が聞こえてきたので、慌てて向かってみれば……そうか、久坂は逝ってしまったのか」
桂サンは悔しそうに呟いた。
「久坂サンから桂サンにって……それと、謝っておいてくれ……って言ってました」
私は、遺髪を差し出した。
「久坂を……この遺髪を、届けてくれて……ありがとう」
桂サンの笑顔に、私は溢れる涙を抑えられなくなっていた。
「私……こうなると分かっていたのに……何も出来ませんでした。中途半端に歴史を変え……傲っていたのかもしれません。私のせいで久坂サンは……」
桂サンは私の頭を撫でると、口を開く。
「貴女のせいではない。こうなる事を知った上で、久坂がそれを選択したのだ。久坂も最期に貴女に会えて……幸せだった事だろう」
「桂……サン」
「その懐刀……久坂の為にも、肌身離さず持っていてはくれまいか? そして……時折、あやつの事を思い出してやってくれ」
「はい……私、久坂サンの事を忘れません! 久坂サンや桂サン達に出逢えて……本当に良かった」
私はひとしきり泣くと、少しずつ落ち着きを取り戻す。
「さて……と。貴女もそろそろ戻った方が良い。次はいつ逢えるか分からないが……それまで、どうか達者に暮らせ」
「桂サンも……どうか、ご無事で」
私と桂サンは茶屋を出る。
進んだ道は違えど、お互いの無事を祈る気持ちは同じだった。
変えてしまった歴史
と
変えられなかった歴史
今日の出来事を胸に、この動乱の世を精一杯生きようと強く心に誓った。
そう
久坂サンの分まで……




