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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第15章 蛤御門の変
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遺品


 鷹司邸を去った後、私は桂サンを探す為に走った。



 桂サンは何処にいるのだろう?



 因州藩邸か、幾松サンの所か……


 

 何処に向かえば良いのか分からなかったが、とにかく鷹司邸の前の通りを走った。



 しばらく走ると、鷹司邸の方から砲撃の音が聞こえて来た。



「あぁ……終わったんだ」



 急激に脱力した私は、思わずその場に座り込んだ。



 久坂サンは……苦しまずに逝けただろうか。



 遺品となってしまった懐刀を握り絞める。




「桜……サン?」



 その声に顔を上げる。



「桂……サン?」



 探していた人物が目の前に居る。



 桂サンは私の手を取り立たせた。



「桂サン……久坂サンは……逝ってしまいましたよ。生き永らえて欲しいと……折角、先の事を教えた……のに」


「そう……か」


「久坂サンから……遺品を預かりました」



 私がそう言うと、桂サンは此処では危険だからと言い、裏路地の茶屋に入った。





「鷹司邸の方から砲撃の音が聞こえてきたので、慌てて向かってみれば……そうか、久坂は逝ってしまったのか」


 桂サンは悔しそうに呟いた。


「久坂サンから桂サンにって……それと、謝っておいてくれ……って言ってました」


 私は、遺髪を差し出した。




「久坂を……この遺髪を、届けてくれて……ありがとう」




 桂サンの笑顔に、私は溢れる涙を抑えられなくなっていた。



「私……こうなると分かっていたのに……何も出来ませんでした。中途半端に歴史を変え……傲っていたのかもしれません。私のせいで久坂サンは……」


 桂サンは私の頭を撫でると、口を開く。


「貴女のせいではない。こうなる事を知った上で、久坂がそれを選択したのだ。久坂も最期に貴女に会えて……幸せだった事だろう」


「桂……サン」


「その懐刀……久坂の為にも、肌身離さず持っていてはくれまいか? そして……時折、あやつの事を思い出してやってくれ」


「はい……私、久坂サンの事を忘れません! 久坂サンや桂サン達に出逢えて……本当に良かった」


 私はひとしきり泣くと、少しずつ落ち着きを取り戻す。


「さて……と。貴女もそろそろ戻った方が良い。次はいつ逢えるか分からないが……それまで、どうか達者に暮らせ」


「桂サンも……どうか、ご無事で」


 私と桂サンは茶屋を出る。


 進んだ道は違えど、お互いの無事を祈る気持ちは同じだった。





 変えてしまった歴史


     と


 変えられなかった歴史




 今日の出来事を胸に、この動乱の世を精一杯生きようと強く心に誓った。



 

 そう




 久坂サンの分まで……
















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