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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第15章 蛤御門の変
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久坂玄瑞と鷹司邸


長州勢は幕府軍の前に次々に倒れて行き、久坂らは帝に謁見するどころか、御所にさえ近付けずに居た。


「もはや……これまで……か」


 万策尽きたかと思われたその時


「鷹司邸だ! あそこならば、裏から御所へ入る事ができる。帝に謁見できるよう交渉しよう」


 久坂はそう思い付き、寺島忠三郎や入江九一らと共に鷹司邸へと向かった。





 鷹司邸に着くと、鷹司父子はこれから帝の元へ向かうと言う。


「我等も……是非ともご一緒させて下さい! かくなる上は、帝に謁見し直接、昨年の政変での我が藩主の汚名を晴らすより他はありません」


 久坂は鷹司父子に懇願した。


「ならん、ならん! お主らは自分が何をしたか解っておらぬのか? お主らの行為こそが、自らの主君の名を汚したのだ! 長州はもはや朝敵。即刻立ち去るが良い!!」


 その言葉に、久坂らは肩を落とす。



 厳しい戦況と、あてにしていた策が崩れた事。



 それらは、久坂らの士気を喪失させるには十分すぎた。





「私は……何て愚かなのだろう」


 久坂は唇を噛み締めた。



 桜の話を聞いて居ながら……



 守ろうとしていた藩主の名を、更に汚してしまったのだ。



 全てを悟った時には、もう既に遅すぎた。




「私達には……もう戻る場所は無い」




 久坂の言葉に、寺島は小さく頷いた。




「入江……お前は此処を去れ。必ず生き延びて……藩主に全てを伝えて欲しい」




 久坂は、なかば無理矢理に入江を館から立ち去らせると、最後の時を惜しむかの様に中島に話し掛けた。




「中島……お前は天女に会った事があるか?」



「いや……無いが」



「私はあるんだよ。以前、とある娘に命を助けられてね……その愛らしさは、まさに天女の様だった。最期に会いたいと願う相手が……妻ではなく、その娘だなんて……笑えるだろう?」



「久坂、お前も悪い男だな」



 久坂と中島は顔を見合わせて笑った。




「さて、そろそろ……だな」




「ああ。先の世の礎となると信じて……逝こうか」




 二人は、刀を握りしめた。












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