桜と島田
私は、何か妙案は無いかと頭を巡らせる。
一人であるならば、此処を抜け出す事は容易い。
しかし、島田サンという見張りを付けられてしまった。
私が此処を抜け出そうと画策したとしても、大柄な島田サンに簡単に担がれて終わるだろう。
ともなれば……
真っ向勝負しかない。
「島田サン……私の願いを聞いては頂けないでしょうか?」
私は、島田サンに話し掛けた。
「桜サン……申し訳ありませんが、私は副長より貴女を預かる身です。副長の元に行きたいのは分かりますが……私はそれを許すわけにはいきません」
思った通りの答えが返ってくる。
「私は土方サンの所に行きたいのではありません」
「では……願いとは何ですか?」
島田サンは困惑する。
「私は、友の最期を……見届けたいのです。以前、私が命を助けた者が居ります。その方は……今日、最期を迎えるのです」
「最……期?」
「私が救った命……ならば、最期を看取るのも私の役目。どうか……会わせて下さい! お願い……します」
私は涙を抑えきれず、泣きながら懇願した。
「桜……サン」
島田サンは、涙を流す私に言葉を詰まらせる。
「島田サンには悪い用にはしません。策ならあります」
「だが……しかし」
「まず、此処の者には私と島田サンは屯所に戻ると伝えて下さい」
「副長達が戻って来てしまうのでは?」
「それは心配に及びません。土方サン達は明日は、天王山に向かうはずです。屯所に戻るのは明後日以降となるでしょう」
「私は……どうすれ。」
島田サンは私に尋ねる。
「島田サンは……先に屯所に戻って下さい。私も、明日中には屯所に戻ります!」
私の言葉に島田サンはしばらく考えると尋ねた。
「桜サンは……何処に行くのですか?」
「鷹司……邸です」
「私も行きます。でなければ、許可できません!」
お互い歩みより、島田サンが鷹司邸まで付き添う形で話に決着がついた。
「急がなければならないのでしょう?」
島田サンはそう言うと、私を軽々と抱えた。
「し……島田サン!?」
「貴女が歩くより、こうした方が早い!」
宿を出ると、鷹司邸へと駆け出した。




