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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第15章 蛤御門の変
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禁門の変


 7月19日


 長州の尊攘過激派の者達が、御所に向け出兵したとの情報が入る。


 新選組は既に九条河原に宿陣しており、そこから御所へ直行する形となった。


 長州勢は約2~3千。


 対する幕府軍は会津や薩摩を中心に、総勢2~3万。


 圧倒的に長州勢が不利である事は明確であった。


 久坂サンは朝廷から退去命令を受け取っており、それに従おうとした。


 しかし


 来島らは、それを断固拒否する。


 それにより、久坂サンも同調せざるを得ず……かような戦いへと発展してしまう。



 この禁門の変



 激戦化したのが蛤御門であった事から



 蛤御門の変



 とも呼ばれている。






「今日の戦いは、お前は連れては行けねぇ。すまんが、此処に残ってくれ」


 土方サンは私に言った。


「私も行きます!」


 私は、土方サンの申し出を拒否した。


「今日、俺たちが向かうのは戦場だ! 遊びじゃねぇんだよ!!」


 土方サンは苛立ちを見せ、声を荒げる。


「ですがっ!!」


「剣術の使えねぇ者は足手まといだ!! 毎日稽古を積んでいるとはいえ……お前の剣術など使い物になりゃしねぇんだよ。てめぇの身を守る事すらできやしねぇ……そんな奴を戦場には連れては行けねぇよ」


 私の言葉を遮るかのように、土方サンは言った。


 その言葉に何も言い返す事はできず、私はただただ俯いた。



 禁門の変



 私は、ただ久坂サンの事が気掛かりだった。


 あの日、私は久坂サンに今日の事を、確かに伝えた。


 晋作や桂サンと同様、久坂サンも元々は穏健派である為、大丈夫だろう……とは思うが、史実では何故かこの戦いに参加している。



 そして



 自刃……という末路を辿っている。


 私と所サンとで助けたその命


 出来る事ならば、生き長らえさせたい……






 そんな私の願いとは裏腹にその思いは叶わず、無情にも私は置き去りにされてしまう。


「良いか? 絶対に勝手な行動はとるんじゃねぇぞ!! ……おい。島田、お前は桜の見張りをしろ! こいつが此処を離れようとした時は……力づくでも良い、阻止しろ!!」


 土方サンは島田サンに、私の見張りを命じた。


「悪く思わないで下さいね……土方クンは貴女を守ろうと必死なのですよ。此度の戦いは、幕府軍が有利とはいえ……池田屋のようにはいきません。戦場では、常に命の危険が伴うのです」


 納得のいかない表情をしている私に、山南サンは静かに諭した。



「どうか……お気を付けて」



 私は、そう告げるのが精一杯だった。






 島田サンと取り残された私は、気が抜けたようでその場にぺたりと座り込む。


「だ……大丈夫ですか!?」


 島田サンが慌てて私に駆け寄る。


「副長の事……心配かと思いますが、必ず無事に戻って来ます! 今は副長達を信じて……待ちましょう」


 久坂サンの事を気に掛けていた私には、島田サンのその言葉は響いてはいなかった。




 私が男だったなら……





 私に剣術の才があったのなら……





 置き去りにされる事も無く、戦場を駆ける事ができたのだろうか?




 今日の戦に久坂サンが出陣しているかは、分からない。




 だが、何故か嫌な予感がする。




 歴史を知っているのに……




 私にはどうする事も出来ないのだろうか?




 最後に会ったあの日に見せた、久坂サンの笑顔が頭から離れない。

 



 久坂サン……どうか、生き抜いて。




 私は、心の中でそう呟いた。





 何度も、何度も……









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