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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第15章 蛤御門の変
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争いが争いを呼ぶ


 気付けば月日は流れ、7月も中頃となった。


 この時代での7月とは、現代でいう8月だ。


 うだるような暑さの中、隊士たちは京の治安平定の為、日々奔走していた。


 エアコンも無いこの時代の暑さは、現代人である私にとっては強敵である。


 この時代の人間はエアコンの素晴らしさを知らないとはいえ、この暑さの中においてもだらける事は無く、私からすれば尊敬に値した。





「嬢ちゃん居るか~?」


 原田サンが医務室を訪れる。


「原田サンでしたか。怪我……ですか?」


「いやいや、違うさ。近藤サンに、幹部は集まるようにって声を掛けられたから呼びに来たんだよ」


「そうでしたか。すぐに向かいます」


 簡単に整理をすると、原田サンと共に広間に向かった。





 広間に入ると、近藤サンと幹部たち……それと、見知らぬ少年が近藤サンの隣に座っていた。


 歳は16か17程だろうか?


「あの方はどなたですか?」


 私は原田サンにこっそり尋ねる。


「俺にも分んねぇなぁ」


 原田サンと私は首をかしげた。


「皆、集まったな。今日集めたのは他でもない。先日、松代藩の佐久間象山殿が殺害されたのは皆も聞き及んでいるな? 会津藩士の山本殿からの紹介で、佐久間殿のご子息である彼を新選組の食客として迎え入れる次第となった」


「松代藩、佐久間象山が遺児……恪次郎と申します。以後お見知りおき、宜しくお願い致します」


 恪次郎という少年は、丁寧な挨拶をすると深々と頭を下げた。


 その後、近藤サンは副長や副長助勤である私たちを恪次郎クンに紹介した。



「佐久間殿を打った不逞浪士は未だ分かってはいない。恪次郎殿には痛わしい限りではあるが、皆も出来る限り恪次郎殿を気に掛けてやって欲しい」



 近藤サンは目を潤ませながら、力強く言った。


 恪次郎クンは象山の敵を打ちたいと、新選組の入隊を強く希望したそうだ。


 恪次郎クンを新選組に入隊させるよう口添えした山本という人物。



 名を覚馬と言い、かの有名な新島八重の兄だというのだから驚きだ。



 あの大河ドラマ、面白かったなぁ。最後まで見られなかったけど……。



 などと、私はぼんやりと考えていた。



「皆からは何かあるか?」



 近藤サンは私達を見渡す。



「はいっ!」



 私は手を挙げた。



「ん? 桜サンが意見を出すとは珍しいな。何だい?」


「佐久間象山サンを斬った人……まだ分かって居ないんですか?」


「今のところ手掛かりはなくてな……その様だな」



 近藤サンは溜め息をつく。



「河上……彦斎。肥後の、河上彦斎です!」


「先読み……か。それにしても、何故佐久間殿を狙ったのか分かるかい?」



 私は少し考えると、口を開く。



「すみません……そこまでは私には分かりません。ですが、斬った者が河上彦斎という事は確かです」


「そうか……有益な情報に感謝する。それでは皆も隊務に戻ってくれ。それから、総司! お前は今日から恪次郎殿の稽古を付けてやるように頼む」


「わかりましたっ!」



 近藤サンの言葉に、総司サンは目を輝かせながら答えた。






 医務室に戻った私達はふと考える。



 何か大切な事を忘れている気がする……



 佐久間象山が河上彦斎に斬られた。



 その息子が新選組の食客として迎え入れられた。



 次に起こる事は何?



 おもむろに歴史小説を手に取る。



 池田屋事件の先のページをめくり、ハッとする。



 忘れていた事を思い出したのだ。




 大事件のうちの一つを……











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