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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第14章 池田屋事件
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生と死


「所サンを連れてきたぜよ!」


 龍馬が勢い良く襖を開ける。


「桜……」


 龍馬の背後に居た所は桜に駆け寄った。


「これは……酷い」


 所は即座に持参していた麻酔薬を滴下すると、土方に指示をした。


「貴方は桜を前から抱えていなさい! その間に処置を行う。治療中、桜に呼吸があるかだけ確認するように!」


 その言葉で土方は桜の前にまわり、前から抱きかかえる様な体勢をとった。


 所は桜の着物の背面を切り取ると、処置を始める。


 刀傷は右の肩甲骨の下から15センチ程度であったが、深さが深刻だった。


 出血量がそれを物語る。


 斬った浪士は文字通り、最期の力を振り絞ったのだろう。


 所は黙々と処置を進めた。





「これで……終わりだ」


 所が手を止める。


「桜は……助かるのか?」


 土方は所に尋ねた。


「処置は滞りなく済んだ。だが……出血量が多い事から今はまだ分からない。最悪、このまま……目覚めないかもしれん」


「……そうか。先生、わざわざ悪かったな」


 土方は桜を横にさせると、俯きながら呟いた。


「桜は私の大事な弟子だ。それに……彼女には恩がある。当然の事をしたまでだ」


「それにしても……先生。あんた、よく此処に来られたな」


「それは、わしの交渉力の賜物じゃき!」


 龍馬が胸を張る。


「確かにそれもあるな。それと、本音を言えば……桜を藩邸に連れて行きたいと、私も高杉クンも思っている。新選組など……女が生きて行くには危険が多すぎる」


 所は土方を見据えて言った。


「だが、何故それをしないか……わかるか?」


「…………」


 土方は無言で所を見上げた。


「それは、貴方が居るから……だ」


「俺……が居るからだと?」


「桜は貴方の側に居たいと強く願っている。私や高杉が彼女に何を与えても、彼女を幸せにする事は出来ないだろう。彼女の幸せは……ただ一つ、貴方の側に居る事なのだから」


 所は溜め息をつく。


「だから、もう自分を責めなくて良い。桜も貴方を助けられて……本望だろう」


「先生にも、才谷サンにも……借りができちまったな」


「気にする事はない。私にとっても、彼にとっても……桜は大切な存在だ。私たちはこれで失礼する」


 所はそう言うと、部屋を後にした。





 残された土方は、桜が目覚めるのを寝ずに待つ。



 このまま、本当に目覚めなかったら……



 悪い予感ばかりが頭を巡る。




「頼むから……目覚めてくれ」




 何人もの浪士を殺めておいて都合の良すぎる話だが、土方は必死で祈った。








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